調査レポート

1day3000第8弾に関するSROI分析(抄訳版)

ウォーキングイベント「1day3000」をきっかけに歩くことを通じて生み出される社会的インパクト分析レポート

「歩く」という行為は、様々な社会的価値があると考えられており、個別の事例評価は行われているものの、包括的にその効果を分析した事例は少ない。本レポートでは、ウォーキングイベントを通じて課題解決に取り組む1day3000第8弾の社会的インパクトを社会的投資収益率(“Social Return on Investment”以下、「SROI」という)のフレームワークを利用して可視化・定量化した。

「歩く」ことの社会的価値を可視化する意義

歩くことは人間の基本動作である一方、運動不足解消や気分転換をもたらす運動であることから、健康経営を重視する企業にとって、従業員の習慣化を促進することが一つの目標となっていた。しかし2020年、新型コロナウイルス感染拡大によりテレワークが普及したことで通勤という運動の機会が減少したことを踏まえ、コロナ禍での運動増進施策として、アプリ等を活用したウォーキングイベントが注目されるようになった。

上記を踏まえ、2020年4月に ONE COMPATHは「1日3,000歩」という小さな目標を設定し、歩くことのきっかけを提供することを狙いとして、1day 3000第1弾を開催した。実施後のアンケートを通じて歩くことが運動機会の創出に加え、健康意識向上やコミュニケーション活性化にも効果的であることが明らかになり、ウォーキングイベントが無形の価値を提供していることが明らかになった。その他、近距離移動を歩行に変更することによりCO2排出量削減等の環境への影響も期待される。

健康経営を支えるウォーキングイベントの価値の可視化は、企業が従業員へ投資し、プレゼンティーズム予防の潜在的価値を可視化することにも繋がる。また、個人にとっても自分の一歩がチャリティのように広く社会に受益されると理解することは、単に未病の予防という以上に歩くことへのモチベーションを引き出す効果が期待される。このように、歩くことの価値を認識し、賛同する企業や個人が増えることで、様々な主体が歩くことに取り組み、より大きな社会的価値を社会に提供する一助とすることが本分析の意義である。

SROI(社会的投資収益率)分析とは

SROI分析とは、ステークホルダー参加型の評価手法であり、事業実施により生じる社会的・経済的・環境的変化を、市場価値に当てはめて変化の価値を定量的に可視化するものである。分析結果は、ステークホルダーへの事業成果の説明や、リソース配分や事業内容の見直し、外部からの寄付や投資の要請のための活動効果のアピールとして使用するなど、幅広い目的に利用することができ、これまで政策評価や非営利事業におけるプログラム評価として開発や実践が進んできた。

SROI分析結果サマリー

1day3000を通じて生み出された社会的インパクトは下記の通り分析された。

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分析された主な社会的インパクトと、SROIの結果は下記の通り。
 

イベントで創出された社会的インパクト例:医療費の削減

参加者の総歩数から医療費削減効果を換算した結果、社会的インパクトは約4,000万円と分析された。計算方法は以下の通り。

参加者の総歩数5,035,382,761歩 × 1歩当たりの医療費削減効果0.0121円 × 寄与率・反事実

今回の分析額は1day3000第8弾の参加者がイベントの10日間に生み出した効果となるが、歩くことが習慣になり同じ参加者が1年間継続した場合、その価値は21億円になり、さらに日本国民1億人が参加した場合、効果は4.3兆円になる。

イベントで創出された社会的インパクト例:CO2排出量

参加者の総歩数からCO2削減効果を換算した結果、社会的インパクトは約40万円と分析された。

計算方法は以下の通り。

参加者の総歩数5,035,382,761歩 × 1歩当たりのCO2削減効果0.000128円 × 寄与率・反事実
 

イベント期間中のモチベーション維持

イベント期間中、医療費削減効果は自治体の事業資金として活用される想定の下、累積歩数に応じて公園に遊具が設置される様子を、CO2削減効果は公園に木が植えられる様子をイラスト化し、イベント期間中に渡り公開した。このイラストを見た66.8%の参加者が歩くモチベーションにつながったと回答しており、インパクトを可視化することは行動変容にも繋がることが分かる。なおSROIの算出に当たっては、イベント開催による行動変容の効果をとらえるため、イベントを通じてあるくモチベーションが上がった参加者の歩数のみを採用した。
 

1day3000第8弾のSROI

前述の前提を基に分析した結果、1day3000第8弾のSROIは8.4倍と分析された。SROIの倍率は1を超えると、投入した費用以上にインパクトが創出されていることが示され、その倍率が高いほど、効率的に社会的インパクトが創出されていることを示している。なお今回は、歩くことにより機会逸失となる事象は発生しないことから、本イベントに係る機会損失費用は考慮していない。

 

評価対象とした1day3000は既に2020年4月以降8回にわたり開催されていることから、効果を実感している企業参加者が継続的に参加しているため、実際にイベント開催にかけた費用に対して大きなインパクトを創出することが可能となっていること、また既存の個人ユーザーによるイベント参加への流入が一定程度あったこと等が要因と考えられる。

※外部メディア媒体においても紹介されました。

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