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ナレッジ
未来のビジネスを見つけるブランド戦略手法
FA Innovative Senses 第5回
いますぐ取り入れられるブランディングメソッド
はじめに
「ブランド戦略」や「ブランディング」という言葉から連想されるイメージとして、商品のポジショニングと差別化のためのロゴデザイン・ネーミング開発など、企業そのものや自社製品のブランド価値を高めるための手法を思い浮かばれる方が多いと思います。これらはアウターブランディングと言われるもので、対外的に自社および自社製品を訴求するブランディング手法です。しかし近年、先の読めない国際情勢、地球環境の悪化、世界規模の感染症の流行による価値観・行動の変容など、私たちを取り巻くビジネス環境の変化が絶え間なく起こり続けているなかで、社外だけでなく社内に対してもブランドを訴求させる動き(インナーブランディング)が活発化してきています。ひとりひとりが、企業のミッション(存在価値)を理解し、日々の活動に落とし込むことで、社員のモチベーションが上がっていき、結果的にいい製品やサービスを生み出す原動力となるためです。また、社員が同じミッションを理解・共有することで、外的環境に変化が起きても、一丸となって危機や変化を乗り越える力となります。今の時代の「ブランド戦略」は、アウターブランディングだけではなく、インナーブランディングと両輪で取り組み、包括的に企業の「ブランド戦略」をおこなっていくことが主流になってきています。
本記事では、2020年にデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(DTFA)にグループ入りし現在はDTFAのブランディングアドバイザリー/ CIA部門の一員となった株式会社シー・アイ・エー(以下、CIA)が実際に支援し、不透明な時代に「ブランド戦略」によって新しい未来を切り開いていったアウターブランディングおよびインナーブランディング、さらに現状から大きく飛躍したいときに有効な「クリエイティブワークショップ」の3つの事例を紹介します。
事業多角化の際のブランドポートフォリオ戦略
まずはアウターブランディングの事例として、事業多角化の支援事例を紹介します。会社の安定成長のために、事業の多角化を検討している企業は多いと思います。その際、ただ複数の事業を組み合わせるだけでなく、各セクターで競争力のある事業ブランドを開発することが、ポートフォリオ戦略を活かす鍵となってきます。ブランディングによってそれぞれの事業が自立したブランド価値を作り上げることで、そのうちの1つの事業ブランド価値が毀損した場合においても、企業全体としては影響を受けにくい強いポートフォリオにすることが可能です。
CIAで支援した国内大手企業では、事業多角化としてエンタメ事業(カラオケ)への進出を模索していました。調査の結果では、当時のカラオケにマイナスイメージがあることが判明し、既存ブランドを使用することは、ブランドを毀損する可能性がありました。そのリスクを回避するため、新しいコンセプト・サービス・インテリアを開発し、全く違うブランドとすることで、後発ながら業界のリーディングブランドとなり、会社の柱の一つとなる事業にまで成長しました。ビジネス面でのシナジーに加え、新規参入した場合に、市場や事業ポートフォリオにブランドが与える影響をきちんと検討したことが成功要因の大きな一つとなりました。
企業の統合・分離時におけるインナーブランディングの有効性
インナーブランディングとは、ブランド開発の手法を使い、パーパスやブランド理念を社内に浸透させる活動です。企業の存在意義への理解と共感を促進し、組織に対するエンゲージメントとオーナーシップ(じぶんごと化)を高めることで、行動変容を促します。組織文化を変革・醸成する方法論で、①社員や従業員のモチベーションの低下②パーパスや理念が腹落ちできていない③自立して考え、行動できる文化ができていない時などに有効です。
CIAでは、インフラ業界大手2社が経営統合される際に、統合前より新体制における理念策定の段階から支援しました。クライアントは、統合が決定したものの、双方が理解し合い、同じ目的を持って合意形成していけるか不安を感じていました。そこで、まずは2社の現場社員を巻き込み、お互いの歴史や文化を理解し、新会社のあるべき姿を模索するワークショップを開催しました。またトップマネジメントにヒアリングをおこない、統合後のイメージを言語化しました。次に社員による統合後のコミュニケーション方針を定めるワークショップを実施し、最後は新会社としての理念やコーポレートロゴマークの開発支援をしました。2社の独自性と共通性を理解するプロセスを経ることで、多くの共感を得ることができ、統合へ向けた土台作りをすることができました。
新規事業の入り口となる、クリエイティブワークショップ
新規事業や商品開発、長期的な未来予測を求められるプロジェクトでは、本質的な「問い」と「解」が重要です。CIAが、「クリエイティブ・ワークショップ」を用いて突破口を生み出すことで、飲料メーカー様を支援した事例を紹介します。
ワークショップの目的は、全く新しい製品・サービスのコンセプト探索でした。先行してコンセプトを検討していたメーカー内部のチームは専門性が高く、それぞれが深い知見を持ったメンバーが集まっていました。ただ、それぞれが近しい専門領域で尖りすぎた故に既知的なバイアスに縛られてしまい、斬新なアイディアが出てこないことに課題感がありました。
そんな課題を解決するため、異なる視点を持つクリエイター集団とのセッションを設定し、新製品のコンセプトを考えるクリエイティブ・ワークショップをおこないました。ワークショップでは、参加メンバーの「美味体験」を軸に体験の根っこにある価値を探索。抽出されたアイデアをもとにコンセプトストーリー化を実施しました。既存の枠を超えた気づきと共に新規ビジネスを考える際の指標を策定サポートできたプロジェクトとなりました。
おわりに
ブランディングは既存のイメージを刷新したり、新しい事業を作っていくときに特に相性が良く、また社員のモチベーションが下がっているとき、現状から飛躍した思考が必要な時なども、ブランディングの手法を用いることでテコ入れを図ることができます。経営に幅広くブランディングの視点を取り入れることは、先の見えない時代に企業を成長させる大きな力となるでしょう。
ブランド強化施策のプロセスでは、さまざまなワークショップ活動とクリエイティブの力を組み合わせて行います。これらの手法は、組織活動における様々な局面で、適切に用いることで、現状を打破する有効な手段となります。先の見えない時代に企業を成長させるために、幅広くブランド戦略の視点を取り入れてみるのはいかがでしょうか。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ブランディングアドバイザリー
江島 成佳
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。