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伴走型支援サービスにおけるリサーチ業務の在り方
デロイト トーマツ人材機構シリーズ 第6回
前回の第5回までに当社が取り組む「伴走型支援サービス」についてその意義、本質および事例についてご紹介させていただきました。今回、この伴走型支援サービスにおいて地域企業からの多様な経営人材ニーズへの対応させていただく際の、特にサーチ型での「候補者人材のリサーチ業務」について実務面から整理します。
I.はじめに
各人材紹介会社により案件推進体制は異なるが、当社では各案件の総責任者、専任担当コンサルタントおよびリサーチ担当から構成されるチーム体制を敷いている。コンサルタントと共にリサーチ担当にも案件ごとに固有な要素を勘案した対応が求められ、実案件での経験を蓄積することおよび継続した学習が必要となる。以下において「リサーチ業務の流れ」および「事例」について紹介したい。
II.リサーチ業務の流れ
通常、リサーチ担当は専任担当コンサルタントが全体プロセスを主導する流れの中において、特に1)求人企業(クライアント企業)および人材ニーズ理解、2)仮説構築、3)リサーチ戦略実行、4)スカウト支援に関与する。
1) 求人企業および人材ニーズ理解:
コンサルタントがクライアントからヒアリングした企業概要・人材要件についてチーム内における情報共有・検討を通じ理解を深める。場合によりクライアントミーティングへの同席、クライアント企業が属する産業・製品市場等について資料調査等を行う。
2) 仮説構築:
上記で認識理解したした人材ニーズに関する人材要件について仮説を構築する。(ペルソナ設定)経験業界・業種、職種、対象業界、企業規模、ポジション、年齢・年収帯・現住所等の要件項目設定を行う。当初段階においては人材像を単視眼的に限定することなく、仮説を複数準備することも重要となる。
3) リサーチ戦略実行:
仮説に合致する潜在候補者を探索する際の、各要件項目の優先順位検討、候補者母集団(自社人材データベース、民間人材データベースおよび各種ネットワーク等)選定、案件難易度に応じたリスト作成等までのスケジュール案を作成しチーム内にて共有の後、実際に探索を行う。
4) スカウト支援:
探索した潜在候補者に対して案件状況を検討のうえ、タイミングを逸することなく案件の打診を実施。案件への関心・興味をいただいた潜在候補者とコンサルタントとの面談について日時調整、場所・手段のアレンジを行う。
時間の経過とともにクライアントの人材ニーズが変化していくケース、スカウトを実施しても反応が良好でないケース等、様々なケースが発生する。そのためチーム内で常に状況共有を行い仮説の修正を繰り返しながら臨機応変に対応していく必要がある。なお、リサーチ担当としてクライアントと共有する人材要件とは必ずしも合致しないものの、この候補者であればクライアントのニーズに応えながらご活躍いただけるのではないかと思える人材を発掘するケースもあり、その場合はコンサルタントにその理由を含めて提案を行うこともある。
III.リサーチ業務が奏功したと考えられる事例
事例1:地方有力医療法人における海外事業責任者ポジションのリサーチ
求人企業・人材ニーズ理解:
地域医療を担い、かつ国内でも有数の専門性の高い医療を提供するクライアントとの複数回の協議を経て、アジア圏を中心とする海外からの患者受け入れ構想を牽引することが出来る人材を外部から採用することとなった。その際、やはり有資格者で構成される医療従事者との協働の必要性から、経営企画・事業開発領域のみならず医療法人での活動経験も必要とされる非常に難易度の高い案件となった。
仮説構築・リサーチ戦略実行・スカウト支援:
当該ポジションには1)医療機関経験者をベースにしながら、2)事業開発面については、アジア圏からの医療ツーリズム関連の事業化経験者が望まれた。その際、潜在的患者層には高所得者層・資産家等が多く含まれることから、高級商材関連事業の経験者、プライベートバンキング経験者、商社における関連事業経験者等も提案可能と判断され、1)と2)の掛け合わせを意識したサーチを開始。要件に合致すると考えられる数名の候補者をスカウトのうえ、推薦。
選考過程・リサーチ担当者所感:
初回リストアップ時に、大手商社にて医療機関での活動経験および海外での関連事業における豊富なご経験をお持ちのX氏を探索。その時点で必要要件を完全に充足していると見受けられたが、現職では重責を担われており条件面は交渉必至と思われた。しかし先ず1番目にアプローチさせて頂いたところ「本案件の様な打診をずっと待っていました。」とのお返事を頂戴することが出来た。最終的に厳格な選考過程を経てこの方が入社されることとなった。本件ではクライアントが特に重視する「医療機関経験」および「海外事業開発経験」という2点にフォーカスし、完全にこの2点を充足する候補者の探索に努めた。特に後者部分を充足する候補者を多様な業界からリサーチした事が奏功したと感じている。
事例2:地方中小企業における総務経理責任者候補ポジションのリサーチ
求人企業・人材ニーズ理解:
現職担当者の定年退職による後任探索のご依頼。クライアント側事情により待遇や勤務地などの諸条件に制限が複数存在する案件であり、当該諸条件についても途中、変更がなされる難しい案件であった。
仮説構築・リサーチ戦略実行・スカウト支援:
先ず、勤務地については通勤可能な範囲を特定し、その中で条件に合致しうる候補者を広くリサーチしていたところ、社会保険労務士事務所に勤務するY氏が目に留まった。ただし、ご経歴等から誠実・堅実な人物であることがうかがえたものの、経理のご経験が少なく、この点はネックだと思われた。その際、候補者は産業カウンセラー資格保有者であり、過去案件で同様な資格保有者に共通して誠実に周囲の状況を傾聴し、状況改善に努めるタイプの方々が多く存在した事から、ご経歴と当該資格保有の2者の掛け合わせがあれば、今回のポジションに求められる人材要件を具備しうると判断され、スカウトをしたところ本件に関心を頂戴することができた。
以後選考過程・リサーチ担当者所感:
Y氏は事前面談、応募、選考と進み、最終的にご入社が決定した。課題と思われた経理実務面での経験については、ご本人と会社側で入社後に関連資格の取得を目標設定とすることで合意し、この目標もご本人の努力にて達成され、入社後のご活躍の様子を時折お聞きしている。リサーチ担当として、求職者の転職の変遷や職務経歴の記述内容から働き方の志向(特定の資格取得者の傾向等を含む)を類推してアプローチをした結果、ご本人の状況や志向とマッチし、成約に至ったものと感じている。
IV.まとめ
リサーチ担当として機械的な検索をするだけでは精度・質の高いリサーチにならないことはいうまでもない。リサーチ担当によるスカウト対象となる潜在的候補者形成に錯誤があれば、本来クライアントが必要とする潜在的候補者へと到達するまでに無用な時間を費消することにも繋がるため、リサーチ担当の責務の大きさを感じるところである。過去の案件対応での経験知見も含めてあらゆる要素を総動員しながらの対応が求められる。既にリサーチプロセスにはAI等の導入も進展しており、今後も新たな情報技術等の導入は進むものと考えられる。今後、人材紹介業務における各種進化にも対応しながら、必要とされるリサーチ担当で在り続けるために努力を続けなければならないと考えている。
サーチ型人材紹介:企業から受けた求人に対してその人材要件を充足しうる人材を探索し、紹介するのがサーチ型である。登録型の探索の対象は登録者のみとなるが、サーチ型では現在転職を必ずしも希望していない方まで含めて、人材紹介会社の情報・人的ネットワークを最大限利用して人材探索を行う。そのため「エグゼクティブサーチ」、「スカウト」型とも呼ばれる。経営層や管理層クラスもしくは各分野の専門家採用に適する手法とされている。
執筆者
デロイト トーマツ人材機構株式会社
シニアアソシエイト 本間貴子
地域企業における経営人材ニーズに対する伴走型支援サービス提供にリサーチャーとして従事。国内有力劇団の代表秘書、大手人材紹介会社および政府系人材紹介会社である日本人材機構を経て当社入社。
約20年に亘り、人材関連業界にて人材リサーチ、キャリアアドバイザーおよびキャリアカウンセラーを含む幅広い業務を経験。地域企業に対するアッパーミドルからハイクラス人材紹介案件に係るリサーチ経験を多く有する。
キャリアコンサルタント(国家資格)
(2021.6.10)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。