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医療系データを活用したアナリティクス的アプローチ

FA Innovative Senses 第10回

近年、各医療機関における電子化推進により、患者毎の医療行為の記録や診断結果等のデータの利活用が活発に行われている。このデータ利活用には、医療現場における一次利用だけでなく、多数の病院・医師によって生成されたデータを集約し、統計的に解析して活用する二次利用の側面でも積極的に推進されている。さらに、厚生労働省によるNDBオープンデータに代表されるように、各医療機関で蓄積されているデータを横断的に集約し、ビックデータとして利活用できるような取り組みも進んでいる。今回はRWD(リアルワールドデータ:医療現場等で発生する患者情報を収集し、それらを構造化して蓄積させたデジタルデータ)に着目して、それを活用したアナリティクス的アプローチについて、事例と活用例を紹介する。

 

RWDにおけるアナリティクス的アプローチの概要

まずはRWD活用について分析手法の概要と想定される活用例を紹介する。RWDの活用にあたっては下図のように、①利用データの整備・クレンジング、②データ分析、③利用の3つのフェーズがある。

最初の①利用データの整備・クレンジングでは、想定する分析内容に合わせて、医療機関に電子的に蓄積されている問診表、患者属性、診断情報等のデータの整備を行う。主訴所見データについては診察時に文章で入力されていることが多いため、キーワード検索やテキストマイニングによるクレンジングで診断病名や主訴内容等の情報をピックアップする必要がある。また、それぞれのデータは共通の患者ID等で紐づけを行い、横断的な分析が可能なデータ形式に整備する。最後に補足的な情報として、人口統計データや薬価データ等の外部データについても追加すると、マクロ的な観点を切り口にした分析の実行が可能になる。

次の②データ分析は、①のフェーズにて整備したデータを用いてアウトプットを作成するフェーズである。分析内容は頻度分析、パターン・順序分析の2つ観点に分けることができ、薬剤の処方実態やエリアごとの特性、ペイシェントジャーニー等を明らかにすることを目的としてアウトプットの作成を進める。ここの分析の詳細については次節にて紹介をする。

最後の③利用では、作成したアウトプットを現場での意思決定や将来の事業計画策定に役立てるフェーズである。下図では例として製薬企業の場合を記載しているが、データ分析の結果を活用することで治験施設の特定・臨床研究・安全性調査等の研究開発業務に役立てる他、処方実態の分析結果を基にしたマーケティング活動の立案を行うことも可能になる。

このようにRWDの活用にあたっては、頻度分析、パターン・順序分析の2つの観点でアウトプットを作成することで、現場の様々な場面での意思決定に役立てることが可能になる。次節ではそのデータ分析の詳細なアウトプットイメージについて説明をする。

 

RWD活用におけるアウトプットイメージ:製薬企業におけるマーケティング活動の場合

ここではRWD分析における具体的なアウトプットイメージについて述べる。またアウトプットがどのように現場の課題を解決するかについて、ここでは製薬企業のマーケティング担当者の視点に着目して記載する。

まず①頻度分析については、症例別の処方薬材の頻度解析や、疾患患者数の地域毎の偏りの傾向分析が例として挙げられる。この分析を行う際には、データベース等に蓄積された主訴所見情報、診断・検査結果情報、処方薬情報、地域情報等をSQL等によってクロス集計を行う。また、クロス集計によって洗い出した傾向が、過去の傾向と比べてどのように時系列変化していったのかについても、直近のトレンドを知るうえでの重要な情報となる。この分析を行うことによって、例えば競合製品に対する自社製品のマーケットシェア状況の把握や、分析によって明らかにした地域特性を基にしたエリアマーケティングの実施が可能になる。

②パターン・順序分析では、患者が発症してから治療までの一定の期間における検査タイミングや薬剤処方順序の傾向を洗い出すペイシェントジャーニー分析や、薬剤の切り替えタイミングや併用薬のパターンを明らかにする薬剤処方実態・併用薬分析が挙げられる。ペイシェントジャーニー分析の場合、病名の確定診断が行われるまでの経過日数や薬剤処方開始等の特定イベントのタイミングを明らかにするコンバージョン分析、検査実施履歴・検査結果と処方薬の組み合わせを明らかにするアソシエーション分析を行うことが多い。薬剤処方実態・併用薬分析の場合、併用して処方される傾向の高いパターンをアソシエーション分析によって特定することによって、「薬剤○○が処方された患者は薬剤△△も処方される確率が高い」等といった特徴的なルールを把握することが可能になる。これらの分析によって、患者の診断フローと合わせた自社製品マーケティングにおけるボトルネックの特定や、薬剤切り替え理由等を基にした自社製品利用における離反要因の特定が可能になる。

 

おわりに

本稿では、RWDを活用したアナリティクス的アプローチの概要と、そのアウトプットの具体的な活用方法について製薬企業のマーケティング活動に着目して解説をした。先述のように頻度分析やパターン・順序分析により、疾患患者数の地域毎の偏りや、処方される薬剤の組み合わせ、患者の治療過程の傾向等を把握することが可能となる。これらのアプローチは、製薬企業におけるマーケティング活動や、医療現場の判断材料、患者への適切な情報提供、そして最終的にはより良い医療サービスの提供に寄与する。データの解析と活用は、医療現場における重要な課題であり、今後ますますその必要性が増していくと考えられる。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
Digital
シニアコンサルタント 堀川 峻洋

(2024.6.20)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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