ナレッジ

論文情報を活用した共同研究、M&A・アライアンス候補探索 ~論文情報を活用し、特定技術テーマの最新の研究動向を把握し、M&A、アライアンスに有用なベンチャー、研究機関を特定する

Financial Advisory Topics 第9回

特許情報を活用したIPランドスケープ分析が一般的となってきているが、特許情報では出願から公開までに期間があり、その期間の最新の技術動向が把握できない場合がある。そのため、公開までの期間が短い論文を活用し、最新の技術の研究動向、プレイヤーを把握することにより、M&A、アライアンスに有用なプレイヤー(ベンチャー、研究機関等)を特定することができる。

I. 論文情報と特許情報との違い

論文と特許とは技術情報の開示という意味では共通するものの、多くの相違点がある。その相違点を把握したうえで、目的にあわせ論文分析を実施するか、特許分析を実施するかを検討することが必要であると考えられる。

まず、図1に示すように論文と特許の特性を比較する。

論文は研究機関、大学により主に発表されており、近年ではテック系ベンチャーにより自社技術力を示す目的で発表されるケースもみられる。一方特許は、企業による出願が多く、研究機関、大学による出願は少ない。

また、論文は目的が研究成果の早期公開であり、公開時期も早く、内容も詳細が記載されている。論文が公表される過程において、一般的には査読があり、技術的に有用なものが選定されていることも特徴である。これに対し、特許は目的が自社技術、事業の保護である。そのため、保護したい範囲を明確にし、事業戦略上あえて技術の詳細を記載しないことがある。さらに、特許制度により出願から公開までが原則1年半あり、技術情報が公にされるのに時間がかかる。また、特許出願には形式的な要件はあるが、どのような技術であっても公開される。

以上のような論文と特許との相違点から、論文を分析するメリットは早期に詳細に研究機関、大学、ベンチャーの最新の研究内容が把握できる点にあると考えられる。※当然ながら、特許も企業の事業戦略、R&D戦略の紐解きに有用な情報である。

【図1】論文と特許の比較 
※クリックまたはタップして拡大表示できます

II. 論文情報の分析方法ー中心性

論文情報の分析において論文の引用、被引用関係から特定技術の中で特に注目されている研究機関等(研究機関、大学、企業を含む。以下同様)を特定する中心性分析を利用することができる。ここで中心性とは、各ノードがネットワーク内でどれだけ中心にあるかを示す指標である。論文に対する中心性分析では、論文の引用、被引用関係のネットワークを対象とし各論文がノードとなり、どの論文がどの程度中心にあるかを計ることが可能である。中心性が高い論文は引用、被引用関係で中心となっているものであり、他研究機関等から注目されかつ影響力が大きい論文であると考えられる。図2に示すように中心性の分析手法として主に3つの分析手法がある。その中でもPageRankを活用して中心性分析をし、特定技術に影響力のある研究機関を特定する方法について以下に説明する。

【図2】 中心性分析の種類
※クリックまたはタップして拡大表示できます

III. 論文情報から有望な研究機関を探索する分析アプローチ

STEP1では、調査を実施したい技術の特定を行い、その技術に関する論文およびそれらの論文を引用・被引用する論文で母集団を形成する。この段階では原理・論理、用途、計算モデル等々多種多様な論文が含まれており、より詳細に技術を深堀するためにスコープを絞る必要がある。

STEP2では、特定技術の論文を中心として各論文を特徴づけるキーワードの抽出を行う。そのキーワードを整理し、分析するスコープを絞っていく。例えば、技術×課題での絞り込み等が考えられる。

STEP3では、絞り込んだ論文と、その論文を引用・被引用する論文とから前述の中心性の分析を行う。次に、研究機関等ごとに論文の中心性の値を集計し、中心性の高い、すなわち当該技術の中で影響力がある研究機関等を特定する。

STEP4では、中心性の上位である研究機関等での当該技術の取組みを調査する。観点としては、現在どのような研究プロジェクトが進んでいるか、企業・大学間での共同研究事例があるか等があげられる。

【図3】論文情報から有望な研究機関を探索する分析アプローチ
※クリックまたはタップして拡大表示できます

また論文の分析における途中の結果として、STEP3では図4に示すように中心性上位の大学、研究機関、企業がリスト化される。

【図4】中心性分析結果例(イメージ)
※クリックまたはタップして拡大表示できます

中心性上位の研究機関に対しSTEP4の調査をすることで、複数の大学で設立した研究機関での当該技術の研究、当該技術に関するベンチャーと大学との共同研究、大学が設立している研究開発支援プロジェクト等を発見することができる。

IV. 分析から見える示唆、結果の活用方法

以上、論文情報から有力な研究機関等を特定する手法について説明した。これらの調査結果を用いて、共同研究やM&A・アライアンスを実施する候補として研究機関、大学、ベンチャーのロングリスト・ショートリストを作成することができる。この後のプロセスとしては、自社の技術開発の方向性、共同研究・アライアンスのメリット等を勘案し、大学・研究機関への共同研究の提案、デューデリジェンスを実施したうえでのベンチャーとのアライアンス締結等のプロセスを実施していくことが考えられる。

また、上記に詳述してはいないが論文分析により、研究トレンドの把握や自社における新規研究テーマの探索も可能である。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
知的財産アドバイザリー
シニアアナリスト 久保村 賢司

監修

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社

知的財産アドバイザリー
パートナー 國光 健一

(2022.5.13)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

シリーズ記事一覧

 

記事、サービスに関するお問合せ

>> 問い合わせはこちら(オンラインフォーム)から

※ 担当者よりメールにて順次回答致しますので、お待ち頂けますようお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?