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アフリカの成長を支援するTICADと回廊開発アプローチ2.0について
Financial Advisory Topics 第14回
本稿では、これまでのアフリカ開発をテーマとする国際会議TICADの取り組みおよび回廊開発の現状を要約するとともに、TICAD8を実施するに先立ってJICAからの委託で当社等の共同企業体が実施した「アフリカ地域回廊開発に関する情報収集・確認調査」で提案を行った、新たな”回廊開発アプローチ2.0”の概要を紹介します。
I. はじめに
アフリカは、生産年齢人口の増加に加え、豊富な天然資源を有することなどから、”最後のフロンティア”と呼ばれ、高い経済成長が期待されている。一方、成長を軌道に乗せるには、社会・経済が健全に機能する環境を整備することが必要である。日本政府は、アフリカの“ダイナミックな成長”を支援し、日本もともに成長していくことを目指し、1993年以来、アフリカ開発をテーマとする国際会議Tokyo International Conference on African Development (TICAD)を開催しており、2022年8月には第8回会合(TICAD8)がチュニジアの首都チュニスで開かれた。
TICADでは、アフリカの成長に向けた方針や支援策について、官民の主体により多様な協議が行われてきた。なかでも、2013年のTICAD5で提唱された、国境の枠を越えた社会・経済の一体的な発展を目指す「回廊開発」については、JICAによるこれまでの各種支援の結果、アフリカ全体にその概念が浸透してきている。
当社(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)は、これまでの数次にわたるTICADの開催に際して、独立行政法人国際協力機構(JICA)をはじめとする日本の公的機関からの受託調査を通じて、様々な情報の収集、分析、および提言を行ってきた。本稿では、これまでのTICADの取り組みおよび回廊開発の現状を要約するとともに、TICAD8を実施するに先立ってJICAからの委託で当社等の共同企業体が実施した「アフリカ地域回廊開発に関する情報収集・確認調査」で提案を行った、新たな”回廊開発アプローチ2.0”の概要を紹介する。
II. TICAD8の成果
TICADは1993年の第1回以来、数年に一度開催されてきた。貧困の撲滅や地域格差解消、平和と安定、人材育成など様々なテーマについて協議を行い、支援や連携方策の方向性を確認するとともに、民間企業のビジネス機会の創出の場としても活用されるなど、日本の対アフリカ外交、経済交流上、重要なイベントとなっている。
特に、TICAD8では、日本とアフリカ諸国政府に加え、アフリカ連合(AU)、各国際機関、日本・アフリカ諸国の民間企業・市民団体が参加した。日本は、アフリカと「共に成長するパートナー」であるとともに、「成長と分配の好循環」を通じ、アフリカが目指す強靭なアフリカを実現させると表明した。また、「人への投資」「成長の質」を重視し、2022年からの3年間で官民総額300億ドル規模の資金を投入し、グリーン関連投資(「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」を立ち上げ官民総額40億ドルの投資)、100億円超のスタートアップ向け投資ファンドの立ち上げ、生活向上施策向けのアフリカ開発銀行との協調融資(最大50億ドル)、産業・保険・医療・行政等の各分野での人材育成等を支援するとした。
最終成果として採択された「チュニス宣言」では、今後の日本とアフリカの関係、ポスト・コロナのアフリカの持続的な成長に向け、「経済」、「社会」、「平和と安定」の各分野の方針が示された。なかでも経済に関しては、スタートアップ中心の社会課題解決型ビジネス、技術移転、産業人材育成をはじめとする民間投資の促進、公正で透明な国際決済システムの強化、国際ルール・スタンダードを遵守した開発金融の確保、グリーン経済の促進、食料安全保障の強化、質の高いインフラ投資、連結性とアフリカ大陸自由貿易の促進などが謳われた。
並行して、JICA、JETRO、国連開発計画(UNDP)、 国際連合工業開発機関(UNIDO)による、日本企業のアフリカビジネス支援を目的とした連携覚書が締結されたほか、日本企業とアフリカの各国政府、民間企業との間で産業発展やビジネス展開に関する覚書が多数締結されるなど、アフリカでの経済活動への関心の高さが現れた形となった。
III. 回廊開発支援の取り組み
回廊開発は、アフリカの発展を支援するうえで、我が国が提唱する重要な概念である。2013年に開催されたTICAD5において、日本政府はアフリカの経済成長と企業のアフリカ開発への参画を支援するべく、回廊開発の戦略的マスタープランの策定支援を表明した。JICAは同表明に基づき、物流インフラ整備と併せた産業ポテンシャルの向上、域内市場規模拡大、社会セクターの改革を図る回廊開発の思想に基づくマスタープランの策定、優先プロジェクトの提案・実施支援を行ってきた。
これまでに、東アフリカ北部回廊(ケニア、ウガンダ、関連国としてルワンダ)、ナカラ回廊(モザンビーク、関連国としてマラウイ 、ザンビア)、西アフリカ成長リング(コートジボワール、ガーナ、トーゴ、ブルキナファソ)を3重点回廊として、各種支援を実施した結果、物流の時間やコストの削減といった直接的な効果から、一部回廊では新たな産業拠点形成といった二次的な効果も発現し始めている。回廊開発の取り組みが、最終的には均衡ある回廊の発展につながるものと期待される。
IV. 「回廊開発アプローチ2.0の提案」
一方、日本政府が回廊開発を提唱して10年近く経過し、アフリカの社会・経済を取り巻く環境も大きく変化した。AUの長期的なアフリカ開発ビジョンである「アジェンダ2063」の浸透、SDGsなど持続可能な社会・経済の実現への機運の高まり、スタートアップなど民間セクターの存在感の高まりなどが挙げられる。
なかでも、ICTの進化・普及はアフリカの人々の暮らしや経済に既に大きな影響を与えており、回廊開発へのインパクトも大きい。このため、JICAからの委託により、当社など共同調査チームは、アフリカ回廊開発のインパクト調査結果およびアフリカを取り巻く外部環境の変化を考慮した”回廊開発アプローチ2.0”の提案を行った。
同提案では、従来の回廊アプローチ同様、「回廊インフラ整備計画」を基点に「産業開発戦略」「社会セクター開発戦略」を並行して促進しつつ、新たな視点として、計画・戦略の促進を後押しする手段としてのICTの利活用に関する3段階の目標「ICT・新技術の活用」「域内での互換性・標準整備」「統一プラットフォーム(OS)の構築」を提案した。
ここでは、これまで部分的に実施されてきた回廊インフラのスマート化に関し、域内での相互利用・標準化を進め、利便性・効率性を改善するとともに、将来的には回廊ベースでの統一プラットフォームを構築し、情報・データの利活用が可能になり、回廊の社会・経済環境の改善に向けた動きが活発化することを期待している。
V. おわりに
回廊開発アプローチの究極の目標は、回廊全体の均衡ある発展である。新たな”回廊アプローチ2.0”案では、ICTの活用を謳っているが、ここで重要なのは、AUやアフリカ地域経済共同体はもとより、スタートアップを含む民間企業、女性など様々な主体を巻き込みながら、誰もが、どこでも、開発の恩恵を享受できる社会・経済を形成することである。このことにより、重点3回廊の発展ストーリーがアフリカの他の回廊開発のモデルケースとなるのである。
“回廊アプローチ2.0”案を実践するためには、通信インフラの地域格差など多くの課題はあるものの、回廊内のあらゆる資源を活用したソリューションが提案・実行され、経済的に自立した回廊を実現できる可能性は十分にある。日本の官民を挙げたスマート化に向けた協力・支援が、今後のアフリカおよびパートナーとしての日本の発展を目指す上で重要なカギになると考える。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ・公共セクターアドバイザリー
マネージング ディレクター 佐々木 仁
シニアヴァイスプレジデント 高橋 秀文
シニアアナリスト 野上 政春
(2022.10.12)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。