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生成AI時代に求められるコンサルスキル
Financial Advisory Topics 第35回 生成AIとコンサルスキルのシナジー効果
生成AI時代におけるコンサルスキルの重要性
生成AIの登場によってコンサルスキルの重要性が以前よりも増加してきている。本稿では、その理由や生成AI時代におけるコンサルスキルの活用方法について、3つの観点から解説する。なお、コンサルスキルはコンサルタントの専売特許ではなく、正しい方法論とトレーニングを身に付ければ、誰にでも身に着けることができる。コンサルスキルの重要性を理解し、自社における問題や課題を適切に認識し、コンサルスキルを活かしながら企業の成長に繋げることができる。
① 生成AIによる打ち手の広がりでコンサルスキル(課題解決力)がより重要となる
重要性が増している背景として、1つ目は生成AIの登場によってコンサルスキル(課題解決力)が活かせる局面が増えていることが挙げられる。これまで解決できなかった企業の課題に対して、生成AIを活用することでより高い生産性、かつ低コスト・短期間で実行に移せるようなものが多く出てきている。また、これまで技術的に対応できなかったものが生成AIで対応可能になっているものもある。
この環境変化がどのようにコンサルスキルと結びつくのか。コンサルスキルは多様なスキルを構成要素としているが、批判を恐れずに大胆に要約すると「コンサルスキル≒課題解決力」と考えられる。ビジネスパーソンが業務を行ううえでは常に課題がつきまとうものである。この課題解決力と生成AIを組み合わせることで企業としての生産性の向上に繋がる。従前から課題解決力は重要ではあったが、打ち手の広がりに加えて、生成AIを活用することが目的になって上手く活用できていないような事例(How思考に陥っている事例)も出てきており、課題解決力を活用することが求められる。
【図表】コンサルスキルと生成AIを組み合わせシナジーのイメージ
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
―課題解決にはアイデア創造力も重要である
課題解決力を構成する要素の一つとして、アイデア創造力がある。アイデア創造には、色々な方法論があるものの、本稿ではSCAMPERというフレームワークを取りあげたい。SCAMPERとは、Substitute(代替)、Combine(結合)、Adapt(適応)、Modify(変更)、Put to another use(他の用途に転用)、Eliminate(削除)、Reverse(逆転)という観点で既存の商品やサービスに新たな視点を加えることでアイデアを考える手法である。
このアイデア創造には生成AIを活用することができる。生成AIでのアイデア検討は質も一定程度保たれており、何より凄いのが数秒で数十~数百個のアイデアのたたき台を作ることができる点である。生成AIのアイデアをたたき台にすることで、人間はより思考に時間を使えることになり、自分の見えていなかったアイデアから新たな閃きがでることもある。
コンサルスキルの一部であるフレームワークの活用有無で生成AIの回答の質が変わるかどうか試してみたい。活用無しの場合でも一定のアイデアを出せてはいるが、フレームワークを用いると違った観点からの示唆出しをしてくれている点が良いと考えられる。コンサルタントはフレームワークをどのように活用するか基礎知識として身に着けているものであり、この知識も生成AI時代に活用できるものである。
【図表】新製品検討(フレームワークなし)
出所:ChatGPT-4o
【図表】新製品検討(フレームワークあり)
出所:ChatGPT-4o
② 生成AIと思考スキルの組み合わせで生産性を向上
コンサルスキルが重要な理由の2つ目の理由として、生成AIとコンサルスキルの思考スキルを組み合わせることで生産性の向上に繋がるという点が挙げられる。生成AIに対しての評価で「回答結果の質がイマイチ」という声が少なくない。それは、なぜかというのを紐解くと、適切な作業指示(プロンプト)が出せていないことが根本にある。プロンプトが上手く出せないというのは、プロンプトエンジニアリングへの理解不足もあるが、思考系スキルを活用できていないことも理由である。
たとえば、論点思考、仮説思考、ストーリーテリング、というコンサルタントであれば基本的に有している思考スキルがあるが、人間が考えた思考をプロンプトの中に入れ込んであげることで、生成AIが回答を作成する際のサポートを行うことができる。知的生産性は質と量の両方が重要であり、コンサルスキルを組み合わせることで質の向上に繋がり、知的生産性の向上に繋がることになる。
【図表】生成AIとコンサルスキルの組み合わせで生産性向上
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
――仮説思考のケース(生成AIによる回答結果の考察)
回答の質を決めるのは、仮説が9割、プロンプトエンジニアリングが1割といっても過言ではない。仮説思考とは、限られた情報の中から確からしい仮の結論を出していく思考のことである。調査をして答えを出していくのではなく、仮説思考は仮説を考えて、その仮説を検証しながら修正を行っているアプローチをとる。仮説思考がないと通常は調査の過程で膨大な量の調べものをすることになるため、仮説思考である程度のストーリーラインを構築して、そのストーリ―が成り立つのかという観点で調査を行って効率的に検討を進めるというものである。
図表で仮説思考の流れについて記載を行っているが、例えば「国内の百貨店市場は成長市場なのか?」という検討すべき論点があったとする。通常、コンサルタントは仮説思考を用いながら調査を行うが、例えば、仮説として「日本の可処分所得は減少し、物価の上昇が消費行動を抑制しているから、小売市場全体が停滞してそうだ」、「最近、eコマース市場が伸びているから、百貨店を使う人が減っていそう」、「日本は少子高齢化で人口がインバウンド需要も停滞している」というような仮説を出しつつ、仮の結論を出しつつ、仮説が正しいかどうか検証をしていくという流れである。なお、インバウンド需要は執筆時点では改善しているが、後続で仮説思考を用いた生成AIの活用で間違いを訂正できるのかどうか実験するために、あえて誤っていることが分かっている仮説を含めている。
【図表】仮説思考の流れ
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
前述の仮説思考の例示で用いた「国内の百貨店市場は成長市場なのか?」というお題で仮説思考による生成AIの改善について考察する。まずは、Zero-shotプロンプトで「国内の百貨店市場は成長市場なのか?」と入力して回答を生成してみる。結果としては、「国内の百貨店市場は成長市場とは言い難く、競争が激化している中で、各社は生き残りのための戦略を模索しています。」という形で結果の方向性自体には違和感は特段ない。
一方、百貨店市場についての質問に対して、EC市場の市場規模を回答として生成しているのは違和感ではある。追加でプロンプトを入力して、百貨店の市場規模について確認すれば改善される点ではあるが、初回の回答の中に百貨店の市場規模を入れてほしいところである。
【図表】Zero-shotでの回答結果
出所:ChatGPT-4o
次に、仮説思考を織り込んだプロンプトで回答結果を生成してみる。結論は国内の百貨店市場は全体的に厳しいという形でZero-shotのものと大きな相違はないが、都市部の富裕層やインバウンド需要、百貨店のデジタルの取り組みが市場の一部を支えているという補足的な情報も得られている。
また、仮説としてインバウンド需要が停滞しているという形でコロナ禍では該当する内容であっても2023年時点では間違った内容である。回答結果では、インバウンド需要が市場を支えているという形で適切な形で仮説を訂正している。また、きちんと外部ソースのリンクも貼られているため、どの情報を用いて生成AIが回答しているのか確認することもできる。
プロンプトを打ち込むのに数分程度を要したが、#命令、#条件は別の作業でも使いまわせることから、2回目以降は実質的に#入力文、#参考情報を書き換えるだけで済むため、1-2分の作業で初期的な調査結果を得ることができる。この作業を人間が行った場合、早い方であれば10-15分ぐらい、遅い方だと1時間以上の作業時間を必要とするのではないだろうか。もちろん生成AIの生成した回答が正しいとは限らないため、チェックが必要となるが、初期的なたたき台というレベルであれば、十分なのではないだろうか。
【図表】仮説思考を織り込んだ回答結果
出所:ChatGPT-4o
③ デリバリースキルと生成AIのシナジー効果
3つめの観点として、生成AIの活用にはデリバリースキルが必要となる点である。コンサルタントは業務提供(デリバリー)と称することがあるが、そのデリバリーに必要なスキルをデリバリースキルとして定義をしている。スキルセットとしては多岐にわたるが、生成AI時代には特にPMOスキル、調査(設計)スキル、インタビュースキル、資料レビュー/構造化スキルである。生成AIのみでは対応が難しいものでコンサルスキルを組み合わせると生産性が向上するものである。当然のことながら、デリバリースキルは生成AIが台頭する前から重要ではあったが、検討のたたき台を生成AIが作ってくれる時代になると、生成AIが対応できない部分のスキルの重要性が増すという形になる。
なお、コンサルスキルは多岐にわたり、主要なものでも20~30個ほどあるが、生成AI時代には主に9つのコンサルスキルが重要であると考えられる。本稿では、主に仮説思考の部分しか触れなかったが、今後別の機会で残りの部分は説明を行いたい。
【図表】生成AI時代に求められる9つのコンサルスキル
出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
最後に:コンサルスキルは専売特許ではない
冒頭にも記載した通り、コンサルスキルはコンサルタントの専売特許ではない。事業会社においてもコンサルスキルを有している方々も存在し、企業によってはトレーニングも実施を行っている。また、思考力やハードスキルについても動画サイトやWebサイトにおいて無償で解説がされており、やる気と正しい方法論さえ理解をすればコンサルタントでなくても、昔に比べると比較的容易にコンサルスキルを身に着けることができる環境になってきている。魚の釣り方を覚えれば、一生食べていけるという考え方があるが、コンサルスキルも覚えると色々な局面で活用できるが、コンサルスキルはコンサルタントの専売特許ではなく、正しい方法論とトレーニングを身に付ければ、誰にでも身に着けることができる。コンサルスキルの重要性を理解して頂き、自社における問題や課題を適切に認識し、コンサルスキルを活かしながら企業の成長に繋げて頂き、それが日本企業の競争力の源泉になることを願っている。
※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
監修
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ストラテジー統括
パートナー 戸田 崇生
執筆
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ストラテジー
シニアマネジャー 中山 博喜
(2024.7.10)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
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