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使用権資産の公正価値評価

IFRS第16号に基づき計上される使用権資産の公正価値評価について解説します。

使用権資産の公正価値評価は、主に事後測定の局面(投資不動産に該当する場合、減損検討を行う場合)で論点となることが多いですが、当該算定アプローチについては、不動産の時価評価に関する知見に加え、国際会計基準等の理解も必要となります。本記事においては、各種基準を参照しながら、使用権資産の公正価値評価について解説します。

使用権資産の定義と公正価値評価が必要となる局面

使用権資産とは、「借手が原資産をリース期間にわたり使用する権利を表す資産」であり、IFRSリース基準(IFRS第16号)により、貸借対照表への計上(リース負債との両建て計上)が求められているものです。

IFRSリース基準や使用権資産の当初測定等に係る詳細については、当社グループにて作成しております「リース IFRS第16号ガイド」を参照ください。

当該公正価値評価は、主に事後測定の以下のケースにおいて検討することが必要となると考えられます。

  • 使用権資産がIAS第40号(投資不動産)に該当している場合(転貸を行っている場合)
  • 使用権資産の減損を検討する場合

 

IAS第40号(投資不動産)に該当する場合における使用権資産の公正価値評価

借手がIAS第40号「投資不動産」の公正価値モデルを投資不動産に適用する場合には、借手はその公正価値モデルをIAS第40号の投資不動産の定義を満たす使用権資産にも適用することが要求されています 〔IFRS第16号34項〕。具体的には、賃借している物件を転貸(サブリース)している場合に該当致します。
[IFRS16.34] If a lessee applies the fair value model in IAS 40 Investment Property to its investment property, the lessee shall also apply that fair value model to right-of-use assets that meet the definition of investment property in IAS 40.

IAS第40号50(d)によると、使用権資産の公正価値は、リース契約の公正価値にリース負債の帳簿価額を加算した金額として算定されることになります。
[IAS 40.50 (d)] The fair value of investment property held by a lessee as a right-of-use asset reflects expected cash flows (including variable lease payments that are expected to become payable). Accordingly, if a valuation obtained for a property is net of all payments expected to be made, it will be necessary to add back any recognized lease liability, to arrive at the carrying amount of the investment property using the fair value model.

また、IAS第40号40に基づけば、当該査定は、現行賃貸借契約から生じる収益と市場参加者が現在のマーケットを勘案して行う想定(リースの継続期間、割引率等)を反映したものとなる点に注意が必要となります。
[IAS 40.40] When measuring the fair value of investment property in accordance with IFRS 13, an entity shall ensure that the fair value reflects, among other things, rental income from current leases and other assumptions that market participants would use when pricing investment property under current market conditions.

 

IAS第40号(投資不動産)に該当する場合における使用権資産の公正価値評価(留意事項)

使用権資産の公正価値評価においては、資産・負債のダブルカウントがなされないように留意しなければならず、IAS40.50(a)(b)(c)において具体的に例示列挙されています。

(a) エレベーターまたは空調等の設備
エレベーターや空調等の建物と不可分の設備については、財務諸表上は個別の勘定科目として計上されていないことが多いため、一般的には建物と一体として公正価値評価がなされることとなります。したがって、当該設備が個別に計上されているような場合においては、当該部分は、使用権資産の公正価値評価の対象からは除外しなければなりません。
[IAS 40.50 (a)] Equipment such as lifts or air‑conditioning is often an integral part of a building and is generally included in the fair value of the investment property, rather than recognised separately as property, plant and equipment.

(b) 家具等を含むリース契約
家具付きで賃貸するオフィス等の場合、約定賃料には当該家具等に係るリース料も含まれていると考えられるため、当該家具等も使用権資産の公正価値評価の対象に含まれることとなります。ただし、上記(a)同様に、当該部分が個別に別途計上されているような場合には、使用権資産の公正価値評価の対象からは除外しなければなりません。
[IAS 40.50 (b)]  If an office is leased on a furnished basis, the fair value of the office generally includes the fair value of the furniture, because the rental income relates to the furnished office. When furniture is included in the fair value of investment property, an entity does not recognise that furniture as a separate asset.

(c) オペレーティングリース時の前受賃料または未収賃料
財務諸表上、賃貸借契約に係る前受賃料収益または未収賃料収益を計上している場合、当該収益は、投資不動産とは別の資産または負債として認識されていることとなるため、使用権資産の公正価値評価の対象からは除外しなければなりません。[IAS 40.50 (c)] The fair value of investment property excludes prepaid or accrued operating lease income, because the entity recognises it as a separate liability or asset.

 

減損を検討する場合における使用権資産の公正価値評価

使用権資産は減損会計の対象となるため、借手は、IAS第36号「資産の減損」を適用して、使用権資産が減損しているかどうかを判定し、識別された減損損失を会計処理しなければならないとされています。
[IFRS 16.33] A lessee shall apply IAS 36 Impairment of Assets to determine whether the right-of-use asset is impaired and to account for any impairment loss identified.

この際、使用価値の算定と合わせて、上記のIAS第40号(投資不動産)に該当する場合の査定プロセスを参考に、公正価値評価を検討するケースもあるため、評価人には減損会計に関する知識・経験に加え、国際会計基準に関連する理解が必要となります。

また、IAS第40号(投資不動産)に該当する場合における使用権資産の公正価値評価においても同様ですが、算定に当たっては、企業結合会計のPPA(Purchase Price Allocation)における契約関連資産に係る算定ステップが参考となるため、当該実務に関する知見も必要となるものと考えられます。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 成田 正憲
シニアアナリスト 遠藤 友輔 

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