固定資産(不動産)の減損会計における処分費用見込額について ブックマークが追加されました
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固定資産(不動産)の減損会計における処分費用見込額について
固定資産の減損会計において、処分費用見込額の算定に当たって留意すべきポイント
減損会計において正味売却価額を算定する際には、当該資産の評価額と処分費用見込額の算定を行うこととなりますが、処分費用見込額については不動産鑑定評価書では言及されません。したがって、評価書の利用者自身で算定する必要がありますが、当該費用の算定には不動産実務の知見が必要であり、また対象不動産の所在する国によって項目や税率等が異なることがあるため、本記事において留意点を解説します。
不動産鑑定評価と正味売却価額の関係
- 固定資産の減損会計における減損の測定フェーズにおいて、不動産の正味売却価額を算定する際には、不動産鑑定評価書を用いることが多いですが、正味売却価額は以下のように定義されている点に留意が必要です。
正味売却価額:資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される金額 - すなわち、正味売却価額を算定するためには処分費用見込額を控除する必要があるわけですが、以下のとおり不動産鑑定評価書で示される評価額は、処分費用見込額を控除する前のものとなるため、評価書の利用者の方で、処分費用見込額について見積もったうえで、財務諸表に反映することが必要となります。
【財務諸表のための価格調査に関する実務指針(日本不動産鑑定士協会連合会)】
不動産鑑定士が算定する価額は、処分費用見込額を減額する前の「時価」であり、「正味売却価額」は原則的時価算定又はみなし時価算定で求めることができないことを説明する。したがって、実務上は依頼者が価格調査による「時価」から「処分費用見込額」を控除して「正味売却価額」を算定することとなる。
固定資産の減損会計における処分費用見込額(国内)
- 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」によると、処分費用見込額は、「企業が、類似の資産に関する過去の実績や処分を行う業者からの情報などを参考に、現在価値として見積る」とされています。
- 一般的に我が国においては、不動産を売却する時の処分費用のなかで、仲介手数料が多くの割合を占めていると考えられます。
- その他、登録免許税・印紙税、司法書士への報酬も該当すると考えられますので、金額的重要性等を勘案しながら、処分費用見込額を算定することとなります。
- また、不動産鑑定評価において考慮外とされることが多い項目(土壌汚染対策費用や吹付アスベストの対策工事費等)についても、実態に合わせて検討する必要があります。
- 一方、海外においては制度や商習慣の相違等により該当費目が異なることが多いため、注意が必要となります。
固定資産の減損会計における処分費用見込額(海外)
- 以下では、日本との相違の観点から、一般的に金額が高額となる仲介手数料と土地増値税を一例として見てみたいと思います。
【仲介手数料】
日本においては、買主・売主ともに双方が売買価格の3%程度の料率を負担することが多いのですが、当該料率や売買当事者のどちらが負担するのかは各国の制度や商習慣によって異なります。例えばアメリカでは売主が買主側の仲介手数料を負担することが通常であるため、仲介手数料としては6%程度が標準的な料率となってきます。また、中国(香港)では売主が1%程度を負担、台湾では売主が4%程度・買主が2%程度をそれぞれ負担する慣行があります。このように、標準的な料率は国・地域で異なりますので、対象不動産の所在に応じた見積りが重要となります。
【土地増値税】
中国や台湾においては、不動産の売却時にかかる税金として、日本の譲渡所得税に相当する税金とは別に土地の増値額(譲渡収入額-譲渡原価額)に基づく土地増値税の支払いが必要となります。以下の通り、段階税率が適用されますが、比較的大きな金額になる場合もあるので、注意が必要となるケースもあります。減損会計は資産グループにて計算が行われることが多いので、土地としては価格が上昇しているような場合でも、処分費用見込み額を考慮した不動産価格を資産グループの一項目として査定しておくことが求められることもあります。
また、各国の制度は適宜改正されるものであるため、直近の制度内容を把握・反映する必要があります。
- その他、エスクローフィーやタイトル保険等、日本においてはあまり馴染みがない標準実務が存在する国もありますが、金額的重要性等を勘案のうえ、必要に応じて検討することが有用です。
まとめ
- 以上のとおり、固定資産の減損会計における正味売却価額の測定時に不動産鑑定評価書を用いる場合には、処分費用見込額は不動産鑑定評価とは別途で勘案する必要があること、および対象不動産が所在する国によって当該費用見込額はその構成が異なる可能性があることに留意しなければなりません。
- 特に税金関係のコストについては当該国における税務の専門知識も必要となるため、各国で異なる傾向のある仲介手数料と合わせて、専門家の意見を聴取することが望ましいと考えられます。
- デロイト トーマツでは、世界各国に会計・税務・不動産等の専門家を有しており、トータルでの適切なアドバイスが可能となっておりますので、不明点等がある場合等にはぜひご相談頂ければと思います。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 成田 正憲
ヴァイスプレジデント 大関 仁
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。