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監査上の主要な検討事項に関する分析〜ソフトウェア業界〜
月刊誌『会計情報』2020年7月号
業種別KAM事例分析シリーズ(1)
公認会計士 島本 雅史
2019年2月27日、日本公認会計士協会 監査基準委員会は、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(以下、「監基報701」)を公表した。
監査上の主要な検討事項(Key audit matters。以下「KAM」)の報告の目的は、実施された監査に関する透明性を高めることにより、監査報告書の情報伝達手段としての価値を向上させることにある(監基報701.2項)。
監基報701は2021年3月31日以後終了する事業年度 ※に係る監査から適用される。そのため、本邦における開示事例は少ないものの、諸外国ではすでにKAMの開示が行われている国もある。
そこで業種別KAM事例分析シリーズとして、業界ごとのKAMの事例について分析を行う。第1回は英国におけるソフトウェア業界の事例を分析する。
1.英国ソフトウェア会社におけるKAM事例
英国ソフトウェア会社5社をサンプルした。各社の記載項目は以下の通りである。
No | 項目 | A社 | B社 | C社 | D社 | E社 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 収益認識 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
2 | 買収に伴う会計処理(無形資産の識別等) | 〇 | ||||
3 | のれんの評価 | 〇 | 〇 | |||
4 | 無形資産の評価 | 〇 | 〇 | |||
5 | グループ内貸付の回収可能性 | 〇 | ||||
6 | 子会社株式の評価 | 〇 | 〇 | |||
7 | 複雑な税務判断 | 〇 | ||||
8 | 税引前利益より前の例外項目の表示 | 〇 | ||||
9 | EU離脱に伴う不確実性の影響 | 〇 |
(会社略称は以下の通り。括弧書きは監査報告書日。)
A社:AVEVA Group plc(2019年5月29日)、C社:Computacenter PLC(2019年3月11日)、M社:MICRO FOCUS INTERNATIONAL PLC(2020年2月3日)、S1社:Sage Group PLC(2019年11月19日)、S2社:Sophos Group PLC(2019年5月15日)
2.KAM記載項目の特徴
上記サンプルの結果、以下の特徴が見受けられた。
① 「収益認識」は全ての会社で記載されている(No1)
② 「買収に伴う無形資産の識別・評価、及びのれんの評価」の記載も多い(No2〜4)
③ 「各社特有の状況に応じた項目」が記載されている(No5〜9)
3.ソフトウェア業界とKAMの記載項目に関する考察
上述の特徴について、ソフトウェア業界の特徴と併せて考察する。
① 収益認識
2018年1月1日以後開始する事業年度から、IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」の適用が始まり、IFRS15号に関連し、さまざまなリスクの角度から記載が行われていた。これは、ソフトウェア業界におけるIFRS15号の影響の大きさが反映されていたと考えられる。
本邦でも、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)が適用される。「収益認識に関する会計基準」はKAM適用の翌年度からの適用であるが、KAMの記載候補となりうる領域と考えられ、各社に応じたリスクの把握と、監査上の対応を検討する必要があると考えられる。
② 買収に伴う無形資産の識別・評価、及びのれんの評価
ソフトウェア業界で買収が生じた場合、買収時の取得価額の配分の会計処理として、のれんのほか、被買収企業が保有するソフトウェア、顧客関連資産等、新たな無形資産が識別されうる。そのため、買収に伴う無形資産の識別・評価やのれんの評価がKAMの記載候補になると考えられる。
③ 各社特有の状況に応じた項目
収益認識や買収に伴う会計処理など、ソフトウェア業界に多い論点のほか、各社の状況に応じた事項も記載されている。中にはEU離脱に伴う影響など、経済動向として不確実な状況をKAMに記載しているケースも見受けられた。
なお、本稿執筆段階で、新型コロナウィルスが世界中で猛威を奮っており、その鎮静化を願ってやまないところであるが、各社の事業及び財務諸表項目に与える影響の重要度によっては、新型コロナウィルスに起因する特定の事項がKAMの記載候補になることも考えられる。
以上
※ ただし、2020年3月31日(米国証券取引委員会に登録している会社においては2019年12月31日)以後終了する事業年度に係る監査から早期適用可能。
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。