ナレッジ

製造業における監査上の主要な検討事項(KAM)の事例分析

月刊誌『会計情報』2021年12月号

マニュファクチャリング事業ユニットインダストリーナレッジチーム 公認会計士 棟近貴幸

はじめに

本誌2021年9月号(Vol. 541)にて、2021年3月期決算企業のうち、日経225銘柄企業186社を対象に、監査上の主要な検討事項(KAM)の全体的な傾向を解説したが、今回は、2021年3月期決算企業の製造業に焦点に当てて、KAMの傾向を解説する。

なお、本解説では実際の事例を取り上げて解説しているが、全事例から客観的な基準等を用いて選定しているわけではなく、あくまでも筆者独自の視点で選定している点に予めご留意いただきたい。

705KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

1.製造業におけるKAMの傾向

(1)分析対象の属性

国内における製造業は広範囲にわたるため、今回の分析は、2021年3月期決算の会社のうち、EDINETによる業種区分が化学、機械、金属製品、精密機器、非鉄金属、輸送用機器の東証一部342社を対象とした。

(図表1)連結財務諸表作成会社か否か

 

会社数

連結財務諸表作成会社

333

連結財務諸表を作成していない会社

9

342

 

(図表2)会計基準

会計基準

会社数

日本基準

299

IFRS基準

41

SEC基準

2

342

 

(2)KAMの個数

(図表3)KAMの個数分布

KAMの個数

連結(社)

構成比

個別(社)

構成比

0

-

-

13

3.8%

1

224

67.3%

271

79.2%

2

89

26.7%

50

14.6%

3

17

5.1%

8

2.3%

4

2

0.6%

-

-

5

1

0.3%

-

-

333

100.0%

342

100.0%

1社あたりの平均

1.40個

 

1.15個

 

 

KAMの個数は、(図表3)の通り、連結では、1個が224社の67.3%、2個が89社の26.7%で、合わせて90%超を占めた。個別では、1個が271社、2個が50社となり、連結よりもKAMの個数は少ない傾向となった。なお、個別でKAMが0個となったのは純粋持株会社を中心に13社であった。

 

(3)KAMの項目

(図表4)項目別順位(連結)

項目

個数

固定資産の評価

147

収益認識

84

繰延税金資産の評価

59

のれん・無形資産の評価

53

棚卸資産の評価

37

引当金の見積り

30

その他

56

合計

466

 

(図表5)項目別順位(個別)

項目

個数

固定資産の評価

86

関係会社投融資の評価

84

収益認識

74

繰延税金資産の評価

56

棚卸資産の評価

36

引当金の見積り

22

その他

37

合計

395

 

連結は、(図表4)の通り、固定資産の評価が147個と最も多く、収益認識、繰延税金資産の評価、のれん・無形資産の評価と続いた。製造業の特徴として、国内や海外の拠点に多額の設備投資を行い、固定資産の重要性が高いということと、固定資産の評価には見積りの不確実性や経営者の判断が含まれることから、KAMとして選択されている事例が多い。また、他の業種と比べて棚卸資産の割合が高めとなるため、完成品の販売価格の変動リスクや滞留リスクなども踏まえて、棚卸資産の評価をKAMとする事例も多い。

個別は、(図表5)の通り、連結と同様に、固定資産の評価が86個と最も多く、関係会社投融資の評価、収益認識、繰延税金資産の評価が続く。固定資産の評価は連結と比べて半分ほどになるため、連結のKAMの半分程度は子会社等を表しているものと推察される。また、子会社の固定資産の評価やのれん・無形資産の評価を連結のKAMとしている場合、関係会社投融資の評価を個別のKAMとしている事例も多い。

 

2.事例紹介

(1)固定資産の評価

連結、個別ともに固定資産の評価をKAMとしている事例が最も多く、のれん・無形資産の評価も連結で上位にランクされた。実際に減損損失を計上している事例だけでなく、会計上の見積りを伴う領域であることや減損の兆候を識別したことにより、見積りの不確実性が高く、経営者の判断による影響を受けやすいとして、KAMとして挙げている事例もある。

財務諸表の注記事項への参照については、多くの事例では重要な会計上の見積りの注記を参照していたが、それ以外では損益計算書注記の減損損失に係る注記を参照する事例や貸借対照表残高のみを記載する事例も見受けられた。

監査上の対応として、減損の兆候をKAMとしている事例では、グルーピングと会社の管理資料との整合、集計されるデータの正確性、事業計画との整合性や仮定の合理性、過年度業績の推移分析などが記載されていた。減損の認識要否や測定をKAMとしている事例では、減損の兆候の記載に加えて、将来の成長率に関する外部データとの整合性、不確実性に関する経営者への質問、不動産の鑑定評価や割引率の評価のための内部専門家の利用などが記載されていた。また、新型コロナウイルス感染症の影響がどのように織り込まれているか確かめるために、経営者への質問や外部公表の指標と比較している事例も見受けられた。

① サンデンホールディングス株式会社(日本基準、あずさ)

新型コロナウイルス感染症の拡大による自動車需要の減少等の影響により、八斗島事業所の減損損失を計上しているが、その固定資産の回収可能価額の見積りの合理性をKAMにしている事例である。監査上の対応として、資産グループの機械装置、土地、建物の鑑定評価に係る手続などが記載されている。なお、サンデンホールディングス株式会社(以下SDHD)の連結のKAMは、この他に「自動車機器事業の欧州製造子会社における固定資産の回収可能価額の見積りの合理性」がある。

自動車機器事業の八斗島事業所における固定資産の回収可能価額の見積りの合理性

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

SDHDの当連結会計年度の連結損益計算書において、減損損失19,272百万円が計上されている。注記事項(連結損益計算書関係)注7.減損損失に記載されているとおり、当該減損損失のうち9,979百万円は、自動車機器事業の国内製造拠点である八斗島事業所において計上された減損損失である。八斗島事業所では、連結子会社であるサンデン・オートモーティブコンポーネント株式会社(以下「SDAC」という。)及びサンデン・オートモーティブクライメイトシステム株式会社(以下「SDAS」という。)が、それぞれ自動車空調用のコンプレッサー及びエアコンシステムの製造・販売を行っている。

固定資産に減損の兆候が認められる場合には、減損損失の認識の要否を判定する必要がある。判定の結果、減損損失の認識が必要となった場合、固定資産の帳簿価額は回収可能価額まで減額され、当該帳簿価額の減少額は減損損失として認識される。

SDAC及びSDASにおいては、新型コロナウイルス感染症の拡大による自動車需要の減少等の影響により、営業活動から生ずる損益が継続してマイナスとなっていることから、各社の固定資産並びにSDHDが保有する八斗島事業所
の土地及び建物を加えたより大きな単位(以下「八斗島事業所グループ」という。)について、減損の兆候が認められている。このため、当連結会計年度末において、減損損失の認識の要否の判定が行われているが、当該判定の結果、SDAC及びSDAS各社の固定資産並びに八斗島事業所グループの全てについて、割引前将来キャッシュ・フローの総額が資産の帳簿価額を下回ったことから、正味売却価額によって算定された回収可能価額と帳簿価額との差額が減損損失として計上されている。

八斗島事業所グループの正味売却価額は、主にSDAC及びSDASが保有する機械装置並びにSDHDが保有する土地及び建物の鑑定評価額を基礎として見積もられているが、鑑定評価に当たって採用する評価手法及びインプットデータの選択には高度な専門知識が必要となる。特に、インプットデータとして信頼性の高い中古機械装置の市場価額が利用されるか否かは、正味売却価額の見積りに重要な影響を及ぼす。

以上から、当監査法人は、自動車機器事業の八斗島事業所における固定資産の回収可能価額の見積りの合理性が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。

当監査法人は、自動車機器事業の八斗島事業所における固定資産の回収可能価額の見積りの合理性を評価するため、主に以下の監査手続を実施した。

(1)内部統制の評価
SDHDの決算・財務報告プロセスにおける固定資産の回収可能価額の見積りに関連する内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した。

(2)八斗島事業所グループの正味売却価額の見積りの合理性の評価
SDAC及びSDASが保有する機械装置の鑑定評価額の見積りの合理性を評価するため、以下を含む手続を実施した。

● 当該鑑定評価を実施した専門家に対して経営者から提供されたデータに含まれる、評価対象となる機械装置のメーカー、型式及び年式に関する情報と、当該装置の取得時の取引証憑に記載された情報との一致を確かめた。
● 当監査法人が属する国内ネットワークファームの動産評価の専門家を利用して、次の手続を実施した。
・経営者が利用した専門家が採用した鑑定評価手法についての、動産鑑定評価人が遵守すべきガイドライン及び会計基準の定めに照らした適切性の評価
・当該鑑定評価に利用された中古機械装置の市場価額と、当該動産評価の専門家が独自に入手したデータとの比較

また、SDHDが保有する土地及び建物の鑑定評価額の見積りの合理性を評価するため、以下を含む手続を実施した。

● 経営者が利用した専門家による鑑定評価額を、過年度における他の専門家による同一物件の鑑定評価結果及び固定資産税評価額と比較した。
● 当監査法人の不動産評価の専門家を利用して、次の手続を実施した。
・ 経営者が利用した専門家が採用した鑑定評価手法についての、不動産鑑定評価基準に照らした適切性の評価
・ 鑑定評価に利用された不動産取引事例や再調達原価等のインプットデータについての、当該不動産評価の専門家が独自に入手したデータとの比較

(出所 サンデンホールディングス株式会社 有価証券報告書-第95期)

② 日本ゼオン株式会社(日本基準、新日本)

エラストマー素材事業における一般工業品用途向けの需要の減少を背景として、減損の兆候の判定に、経営者の主観的な判断が伴うとしてKAMとしている事例になる。業績が上期は落ち込み、下期は持ち直している中で、経営環境の著しい悪化にあたるかどうかの判定などに対しての監査上の対応が記載されている。

日本ゼオン株式会社のエラストマー素材事業の有形固定資産の減損の兆候の有無の判定

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

日本ゼオン株式会社及び連結子会社は、2021年3月31日現在、連結貸借対照表上、有形固定資産を 117,579百万円計上しており、総資産の26%を占めている。このうち、日本ゼオン株式会社の有形固定資産は99,035百万円である。

日本ゼオン株式会社は、有形固定資産について、工場別及び事業別に資産のグルーピングを行った上で、各資産又は資産グループについて、減損の兆候の有無の判定を行っている。このうち、エラストマー素材事業を構成する合成ゴム関連では、主要市場である自動車産業向けをはじめとして一般工業品用途向けの需要の減少により、当連結会計年度の上期の業績が落ち込んだ。当連結会計年度の下期の関連市場における需要は回復傾向にあるものの、当連結会計年度の売上高及び営業利益は前連結会計年度に比べ下回っている。

減損の兆候には、継続的な営業赤字、使用範囲又は方法の変化、経営環境の著しい悪化及び市場価格の著しい下落が含まれる。このうち、経営環境の著しい悪化の有無の判定においては、経営環境の悪化の程度や今後の関連市場における需要の回復傾向等に関する経営者の主観的な判断を伴う。

以上より、当監査法人は、日本ゼオン株式会社の合成ゴム関連を含むエラストマー素材事業の有形固定資産の減損の兆候の有無の判定を監査上の主要な検討事項と判断した。

当監査法人は、日本ゼオン株式会社の合成ゴム関連を含むエラストマー素材事業の有形固定資産の減損の兆候の有無の判定について、主として以下の監査手続を実施した。

・有形固定資産の減損の兆候の有無の判定に係る内部統制を理解し、その整備及び運用状況を評価した。
・経営環境の著しい悪化の有無の判定において、合成ゴム関連の経営環境の悪化の程度や今後の関連市場における需要の回復傾向等を検討するために、製商品の需要、主要原材料価格の市況及び生産設備の稼働状況について経営者等への質問を行うとともに、市場予測及び利用可能な外部データとの比較を行った。
・当連結会計年度の下期以降の合成ゴム関連の業績の回復傾向を検討するために、日本ゼオン株式会社の売上高及び営業利益について、当事業年度の上期と下期の実績の比較及び当事業年度の実績と翌事業年度の予算を比較するとともに、関連する常務会議事録等の閲覧及び関連する事業部への質問を行った。
・日本ゼオン株式会社の翌事業年度の予算の検討にあたり、常務会によって承認された予算との整合性を検討するとともに、過年度における予算と実績を比較した。

(出所 日本ゼオン株式会社 有価証券報告書-第96期))

(2)のれん・無形資産の評価、関係会社投融資の評価

連結でのれん・無形資産の評価をKAMとした事例49社(53個)のうち、個別でのれんに関連する関係会社投融資の評価としている事例は27社あり、連結ののれんと個別の関係会社投融資の評価のKAMの関連性が高いことが示された。

財務諸表の注記事項への参照については、IFRS基準は非金融資産の減損などの注記、日本基準は重要な会計上の見積りの注記を参照している事例が目立った。

① 住友重機械工業株式会社(日本基準、あずさ)

連結ののれんをKAMとした事例になり、対象となる関係会社2社ともに減損の兆候が認められ、減損損失の認識の要否を判定しているが、割引前将来キャッシュ・フローを算定する上で、今後の市場動向やマーケットシェアの見込み等の計画が長期にわたるため、不確実性を伴い、経営者による判断が見積りに重要な影響を及ぼすとしている。

Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.の支配を獲得した際に生じたのれんの減損損失の認識の要否に関する判断の妥当性

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

注記事項「(重要な会計上の見積り)1 のれんの評価」に記載のとおり、住友重機械工業株式会社の当連結会計年度末の連結貸借対照表において、のれん29,364百万円が計上されており、このうちSumitomo SHI FW Energie B.V.の支配を獲得した際に生じたのれんの残高は10,670百万円、Lafert S.p.A.の支配を獲得した際に生じたのれんの残高は10,369百万円である。

注記事項「(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)4会計方針に関する事項(7)のれんの償却方法及び償却期間」に記載のとおり、のれんは20年以内のその効力の及ぶ期間にわたって均等償却されるが、減損の兆候があると認められる場合には、のれんが帰属する事業単位ごとに減損損失の認識の要否を判定する。その判定は、当該事業単位ごとに割引前将来キャッシュ・フローの総額と事業に関連する資産グループの帳簿価額にのれんの帳簿価額を加えた合計額とを比較することによって行い、減損損失の認識が必要と判定された場合、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、帳簿価額の減少額は減損損失として認識される。

当連結会計年度において、Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.は、のれんの償却費計上後の営業損益が継続的にマイナスとなっていることから減損の兆候が認められ、減損損失の認識の要否の判定が行われているが、いずれの事業においても見積られた割引前将来キャッシュ・フローの総額がのれんを含む資産グループの帳簿価額を上回ったことから、減損損失の認識は不要と判断されている。当該判定に用いられた割引前将来キャッシュ・フローは、経営者が作成した事業計画を基礎として見積られるが、Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.については発電用ボイラ市場の、Lafert S.p.A.については産業用モータ市場の今後の動向やマーケットシェアの見込み等の計画が長期間の予測に基づくため、高い不確実性を伴い、これらの経営者による判断が割引前将来キャッシュ・フローの見積りに重要な影響を及ぼす。

以上から、当監査法人は、Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.の支配を獲得した際に生じたのれんの減損損失の認識の要否に関する判断の妥当性が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。

当監査法人は、Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.の支配を獲得した際に生じたのれんの減損損失の認識の要否に関する判断の妥当性を検証するため、主に以下の監査手続を実施した。

(1)内部統制の評価
のれんの減損損失の認識の要否に関連する内部統制の整備・運用状況の有効性を評価した。その際は、事業計画及び事業計画に基づき作成される割引前将来キャッシュ・フローの見積りの合理性の評価及び承認体制に関する統制に特に焦点を当てた。

(2)割引前将来キャッシュ・フローの見積りの合理性の評価
割引前将来キャッシュ・フローの見積り並びにその基礎となるSumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.の事業計画の作成に当たって採用された主要な仮定の合理性を評価するため、それらの根拠について経営者及び関連事業部の責任者に対して質問を実施し、取締役会への報告資料を閲覧するとともに、主に以下の手続を実施した。

● 主要な仮定として経営者が採用した発電用ボイラ市場及び産業用モータ市場の動向について、外部専門機関が公表している市場予測データと比較検討した。
● マーケットシェアの見込みについて、経営者及び関連事業部の責任者に対する質問により予測の内容を把握し、事業計画への反映状況を確認するとともに、過去の実績と比較することでその合理性を評価した。
● 計画上の利益と実績損益との差異の原因の分析により、過年度における損益計画の見積りの精度を評価した。
● 主要な仮定の合理性についての評価結果を踏まえて、事業計画に一定の不確実性を織り込んだ場合の、減損損失の認識の要否の判定に与える影響について検討した。

 

同社の個別における関係会社株式の評価をKAMとした事例となり、超過収益力についての評価の合理性の検討については、連結で記載されているのれんの減損損失の認識の要否の検討を参照している。

Sumitomo SHI FW Energie B.V.の株式及びLafert S.p.A.の株式の減損処理の要否の判断の妥当性

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

注記事項「(重要な会計上の見積り)1 関係会社株式の評価」に記載のとおり、住友重機械工業株式会社の当事業年度末の貸借対照表において、関係会社株式171,677百万円が計上されている。このうちSumitomo SHI FW Energie B.V.の株式の帳簿価額は23,444百万円、Lafert S.p.A.の株式の帳簿価額は25,035百万円である。

非上場の子会社に対する投資等、時価を把握することが極めて困難と認められる株式については、取得原価をもって貸借対照表価額とするが、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により、実質価額が著しく低下したときには、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合を除いて、相当の減額を行い評価損を認識することが必要となる。

Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.に対する投資の評価に当たっては、両社の超過収益力を反映した株式の実質価額を算定し、減損処理の要否を検討しており、いずれも株式の実質価額の著しい低下は見られないことから、評価損は計上されていない。当該超過収益力を反映した株式の実質価額の評価については、連結貸借対照表に計上されているのれんの減損損失の認識の要否の検討が行われているのと同様、経営者の見積りに高い不確実性が認められる。

以上から、当監査法人はSumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.の株式の減損処理の要否の判断の妥当性が、当事業年度の財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。

当監査法人は、Sumitomo SHI FW Energie B.V.の株式及びLafert S.p.A.の株式の減損処理の要否の判断の妥当性を検証するため、主に以下の監査手続を実施した。

(1)内部統制の評価
Sumitomo SHI FW Energie B.V.の株式及びLafert S.p.A.の株式の減損処理の要否に関連する内部統制の整備・運用状況の有効性を評価した。

(2)超過収益力についての評価の合理性の検討
Sumitomo SHI FW Energie B.V.の株式及びLafert S.p.A.の株式の帳簿価額に含まれる超過収益力は、連結貸借対照表上、のれん及びその他の無形固定資産として計上されている。当監査法人は、連結財務諸表に係る監査報告書における監査上の主要な検討事項「Sumitomo SHI FW Energie B.V.及びLafert S.p.A.の支配を獲得した際に生じたのれんの減損損失の認識の要否に関する判断の妥当性」に記載の監査上の対応を主に実施した。

(出所 住友重機械工業株式会社 有価証券報告書-第125期)

(3)収益認識

収益認識をKAMとした会社は86社で、連結、個別ともに収益認識としている事例は69社、連結のKAMと同一内容であるため、個別の記載を省略している事例は55社あった。収益認識のKAMのうち、41社が工事進行基準の適用によるもの、次いで27社が売上高の期間帰属であった。その他、収益認識基準の早期適用による適切性や広範囲にITに依存していることなどをKAMとしている事例がある。

財務諸表の注記事項への参照については、工事進行基準の適用による売上の場合、重要な会計上の見積りの注記、売上の期間帰属の場合、セグメント情報もしくは損益計算書を参照している事例が多かった。

KAMを決定した理由として、工事進行基準の適用による売上の場合、工事原価総額には一定の仮定と判断があり、不確実性を伴うことを理由としている事例が多かった。また、売上高の期間帰属の場合、公共事業向けなど期末日付近に売上が集中する特性、外部倉庫や仕入先からの出荷情報を適時に反映できないリスク、業績達成へのプレッシャーなどを理由とする事例が見受けられた。

監査上の対応としては、販売プロセスがJ-SOXの対象のため、内部統制の評価はほとんどの事例で記載があった。実証手続は、工事進行基準の適用による売上の場合、工事原価総額の見積りの根拠となる資料との照合、関係者への質問、工事原価総額の見直しの要否の検討、事後的に見積りと確定後の原価を比較することによる見積精度の検討などの事例があった。また、売上高の期間帰属としている場合、残高確認の実施、サンプリング抽出による証憑との突合、期末月付近の分析、期末日後の返品状況の検討などの事例があった。

① 株式会社名村造船所(日本基準、トーマツ)

工事進行基準を適用した売上高の工事進捗度及び工事損失引当金の見積りをKAMとしており、いずれも工事原価総額の見積りが経営者の判断を伴う重要な仮定により影響を受け、不確実性を伴うことを理由としている。特に加工費は将来の原価低減施策の効果等に依存するため、重要な仮定に基づくとしている。

工事進行基準を適用した売上高の工事の進捗度の見積り、工事損失引当金の見積り

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項4.(5)に記載されているとおり、会社は新造船セグメントの新造船建造契約について、工事進行基準を適用して収益を計上している。2021年3月期の連結損益計算書上、新造船セグメントにおける工事進行基準を適用した売上高は74,665百万円であり、連結売上高の75.9%を占めている。

また、2021年3月期末の連結貸借対照表上、工事損失引当金を10,550百万円計上している。

工事進行基準は、進捗部分について成果の確実性が認められる工事契約に適用される。

工事進行基準を適用した売上高は、受注総額に工事進捗度を乗じて算定される。重要な会計上の見積りに関する注記(1)に記載のとおり、工事進捗度は、当連結会計年度末までに発生した実績原価を見積工事原価総額で除して算定される。また、重要な会計上の見積りに関する注記(2)に記載のとおり、工事損失引当金は、見積工事原価総額が受注金額を超える金額の内、未発生原価に対応する金額として算定される。よって、工事進行基準を適用した売上高及び工事損失引当金の両勘定科目ともに見積工事原価総額がその計上額に影響を及ぼすが、当該見積工事原価総額は原価要素ごとに発生が見込まれる金額を積み上げて算定されている。そのうち、特に加工費(主として労務費、外注費)は見積工事原価総額のうち約40%を占めその見積りは、将来の原価低減施策の効果の発現や工程管理の良否、顧客からの追加要請等に依存することから重要な仮定をもとに算定される。

工事原価総額の見積りは、経営者の判断を伴う重要な仮定により影響を受け、不確実性を伴うものであるため、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に相当する事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、見積工事原価総額の合理性を評価するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。

(1)内部統制の評価
工事原価総額を見積もるプロセスに関し、主として以下の内部統制の整備・運用状況の有効性を評価した。
● 工数の予測及び不確定要素の反映を含む工事原価総額の見積りの合理性を担保するための統制
● 建造着手後の仕様を含む状況変化を識別して、見積工事原価総額を適切に見直し、決算時において反映するための統制

(2)工事原価総額の見積りに係る遡及的な検討
前連結会計年度末における見積工事原価総額と当連結会計年度における実績工事原価との比較及び変動事由を検討することにより、見積りの遡及的な検討を実施した。

(3)工事原価総額の見積りの合理性の評価
● 当連結会計年度末に見積もられた見積工事原価総額について、過去に建造した同形式又は類似した形式の新造船の実績原価と各原価要素単位で比較を行った。
● 工事原価総額の見積り及び予算実績の比較に係る会社の会議体の報告資料及び議事録を閲覧し、発生が見込まれる原価が見積工事原価総額に反映されているか評価した。
● 見積工事原価総額における各原価要素の算定根拠について基礎資料を閲覧するとともに原価の見積りに関わる各部門の責任者に質問した。
● 当連結会計年度末において、作業現場を視察し、工程計画表と実際の工事の進捗状況との整合性を確かめるとともに、工程計画表に基づく進捗度と算定された進捗度を比較した。

(出所 株式会社名村造船所 有価証券報告書-第122期)

② テルモ株式会社(IFRS基準、あずさ)

売上収益の期間帰属の適切性をKAMの対象としており、顧客への引渡しが未了であるにもかかわらず、不適切な会計期間に売上が計上される潜在的なリスクをいくつかの理由を挙げて説明している。

売上収益の期間帰属の適切性

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

テルモ株式会社及び連結子会社(以下「テルモグループ」という。)は、国内及び海外の顧客に対して主に医療機器及び医療品の販売を行っている。連結損益計算書に計上されている売上収益の金額は613,842百万円であり、このうちの大部分が製品の販売に係るものである。

連結財務諸表注記3.重要な会計方針(14)収益に記載のとおり、テルモグループの製品の販売については、製品の引渡時点において顧客が当該製品に対する支配を獲得することから、履行義務が充足されると判断しており、当該製品の引渡時点で収益を認識している。

このような収益認識基準の適用に当たっては、主に以下の理由から、顧客への引渡しが未了であるにもかかわらず、不適切な会計期間に売上が計上される潜在的なリスクが存在する。

・業績予想が外部投資家へ公表されているため、販売部門は当該業績予想達成の強いプレッシャーを感じる可能性があること
・顧客の所在地は様々であるため、製品倉庫を出庫してから引渡しまでの期間が、一定の日数とならない特徴を有すること
以上から、当監査法人は、テルモグループの売上収益の期間帰属の適切性が、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。

当監査法人は、テルモグループの売上収益の期間帰属の適切性を検討するため、主に以下の監査手続を実施した。なお、以下の監査手続は、重要な連結子会社の監査人が実施した監査手続を含んでいる。当監査法人は、同監査人に監査手続の実施を指示し、監査手続の実施結果について報告を受け、十分かつ適切な監査証拠が入手されているかどうかについて評価した。

(1)内部統制の評価
製品販売に関する売上収益の認識プロセスに関連する内部統制の整備及び運用状況の有効性を評価した。評価に当たっては、特に以下に焦点を当てて評価を実施した。

・売上計上データと注文書、請求書、物品受領書の内容の一致を確認する統制
・物流システムの在庫情報と外部倉庫のシステムの在庫情報に差異がある場合、その原因を調査する統制

(2)適切な期間に収益認識されているかどうかの検討
売上収益が適切な会計期間に認識されているかどうかを検討するため、以下を含む監査手続を実施した。

・売上収益について、顧客に対する売上金額及び売上計上日をもとにデータ分析を行い、通常の趨勢から外れた取引を期末月から抽出し、物品受領書等との照合により期間帰属の妥当性を検討した。
・期末日直前の売上収益について、物品受領書等との照合を実施し、期間帰属の妥当性を検討した。
・期末日後の売上収益のマイナス計上について多額な返品の有無の確認や趨勢分析等を含む多角的な分析を実施し、当初認識した売上収益の妥当性を検討した。
 

(出所 テルモ株式会社 有価証券報告書-第106期)

(4)棚卸資産の評価

総資産に占める棚卸資産の割合を示し、財務諸表における重要性が高いことを表している事例が目立った。

財務諸表の注記事項への参照については、半分近くの会社が重要な会計上の見積りの注記を、それ以外の会社でも会計方針を参照していた。

KAMを決定した理由として、保有期間が長期にわたることにより、将来の販売予測等に基づいて評価されることには不確実性や経営者による仮定の判断を伴うとしている事例が多く見受けられた。製造業においては、製品を長期に保有しても販売が見込めるケースがあることも要因の一つとして推察される。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、将来の需要動向への影響を踏まえた仮定に不確実性が伴うとしている事例もあった。

監査上の対応は、内部統制の評価として、販売データや在庫データに基づき処理されることにより、関連するITの全般統制及び業務処理統制の評価も含めて記載される事例もある。実証手続としては、将来の販売予測や外部環境の理解のための経営者への質問、評価方針に基づく算定資料の正確性や網羅性の検証、過去の販売予測とその後の実績の比較などの事例があった。

① アキレス株式会社(日本基準、トーマツ)

シューズ事業は、同じブランドでも品番・サイズ・色等の要素により、正味売却価額や今後の販売可能性に違いがあり、一定の基準により抽出された製品の評価は個別判断されているため、不確実性や複雑性が高いとしている。

シューズ事業の製品の評価の妥当性

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

アキレス株式会社の2021年3月期の連結財務諸表において、8,310百万円の「商品及び製品」が計上されている。注記事項(重要な会計上の見積り)1.たな卸資産の評価に記載のとおり、そのうち3,290百万円がシューズ事業の製品であり、評価損204百万円を計上している。

注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)4.(イ)③たな卸資産、及び(重要な会計上の見積り)1.たな卸資産の評価に記載のとおり、たな卸資産の貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定しており、正味売却価額を合理的に見積もった結果、収益性が低下し正味売却価額が帳簿価額を下回る場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額としている。また、保管期間が長期となっている場合には、品質及び販売可能性を考慮の上、正味売却価額をもって貸借対照表価額としている。

当社のシューズ事業の製品は、「瞬足」「アキレス・ソルボ」等の多数のブランドで構成されている。各ブランドの外部環境や商流・消費者・季節的変動等が異なることから、同じ在庫回転期間でも意味合いが異なることに加え、同じブランド内でも、品番・サイズ・色等の要素により正味売却価額や今後の販売可能性は影響を受ける。従って、当社のシューズ事業の製品の評価は規則的な方法はなじまず、基幹システムの在庫の出庫データに基づいて一定の基準により抽出された製品に関して、ブランドの特徴やサイズ・色・販売実績・店頭販売価格等を考慮して個別的に判断を行っている。

上記のとおり、会社のシューズ事業の製品の評価は不確実性及び複雑性が高く、経営者が「商品及び製品」の貸借対照表価額を判断するに当たり重要な影響を及ぼすと考えられることから、シューズ事業の製品の評価が「監査上の主要な検討事項」に該当すると判断した。

当監査法人は、シューズ事業の製品の評価の妥当性を検討するため、主に以下の監査手続を実施した。

・製品の評価に係る内部統制の有効性を評価した。具体的には、一定の基準により抽出された製品の評価替の要否の判断及び承認に係る内部統制について、整備運用状況の評価を行った。
・製品の評価に関する会社の方針の妥当性の検証を実施した。具体的には、会社の検討対象を抽出する条件(原価率・在庫回転期間)の適切性の検討を実施した。
・基幹システムから出力される製品の評価替の基礎データに関して、データの生成過程を把握するとともに、正確に出力されていること、及び網羅性を検証した。また、評価替候補が抽出条件通りに抽出されているかを再実施により確認した。更に、基幹システムに係るIT全般統制の検証において、ユーザーID等のアクセス管理及びシステム変更管理等の整備及び運用状況の評価を行った。
・直近の販売又は受注の実績がある製品について、正味売却価額を当該実績に基づく価額と照合した。直近の販売又は受注の実績がない製品について、過去の販売価額からの乖離度合いを質問により確認した。
・製品の店頭販売価格や将来の販売可能性について質問を実施した。将来の受注が決まっている場合には注文内容との照合を実施した。特に季節品で評価減不要と判断された製品については、保有期間が長期化している理由と定価での販売可能性を慎重に確認した。
・前期末に評価損計上を行った製品の当期の販売状況、及び前期末に評価損計上を行わなかった製品の当期の販売状況を確認し、過年度の会社の評価結果の適切性を検討した。また、会社が過去の評価に用いた正味売却価額及び販売見込みについて、実際の売価・数量と比較し、見積りの有効性の程度を評価した。

(出所 アキレス株式会社 有価証券報告書-第101期)

 

② 株式会社コーセー(日本基準、新日本)

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、消費者の行動範囲・機会が縮小したことで、たな卸資産の回転期間や返品実績に影響を与えており、今後の販売見込や返品予測といった仮定の不確実性が増すとしている。

コロナ禍における会計上の見積り(たな卸資産評価、返品調整引当金)

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由監査上の対応

監査上の対応

コーセーグループは、化粧品事業を営んでおり、(重要な会計上の見積り)1.たな卸資産の評価及び2.返品調整引当金に記載のとおり、2021年3月31日現在、商品及び製品を31,932百万円、原材料及び貯蔵品を22,603百万円、返品調整引当金を1,837百万円計上している。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、各国でのロックダウン、外出自粛要請、渡航規制などのウイルス封じ込め策により、消費者の行動範囲・機会が縮小し、事業活動が制約されている。こうした状況は、当社グループのたな卸資産の回転期間や返品実績に影響を与えている。

たな卸資産の評価基準及び評価方法として、主として総平均法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切り下げの方法により算定)を採用しており、収益性の低下をたな卸資産の回転期間、新製品導入やブランド改廃等の販売戦略に基づいて判断している。また、返品調整引当金の計上基準として、たな卸資産の返品による損失に備えるため、過去の実績等を基礎とした損失見込額を計上しており、想定される取引先の店頭在庫金額に一定期間の過去の返品実積率を乗じて損失見込額を算定している。

収益性の低下に係る判断や返品による損失見込額の見積りは、外部環境に応じて、常に再検討することが求められるが、新型コロナウイルス感染症の拡大は、今後の販売見込や返品予測といった重要な仮定の不確実性を増幅し、経営者の判断を必要とする。以上より、当監査法人は当該事項を監査上の主要な検討事項に相当する事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、たな卸資産の評価及び返品調整引当金の計上について、その見積りの妥当性を検討するため、主として以下の監査手続を実施した。

(1)たな卸資産の評価
・収益性の低下に係る判断基準が、コロナ禍の状況を踏まえ、販売戦略に整合していることを理解した。
・当該判断基準に照らして、網羅的かつ正確にたな卸資産評価がされていることを検証した。
・たな卸資産の滞留の有無を検証するとともにその理由を質問した。
・販売戦略に従った予想在庫金額と実際の在庫金額を比較することで、たな卸資産の収益性の低下に係る見積りの精度を評価した。

(2)返品調整引当金
・引当金計算の基礎となる想定される取引先の店頭在庫金額及び一定期間の過去の返品実績率の算定方法を理解した。
・想定される取引先の店頭在庫金額について、取引先の公開情報や会社の物流情報による推定額と比較した。
・採用した返品実積率について、最近の返品率に係る趨勢を分析し、これと比較した。
・過去に計上された返品調整引当金について、その後の返品状況に照らして、見積りの精度を評価した。

(出所 株式会社コーセー 有価証券報告書-第79期)

 

(5)繰延税金資産の評価

連結、個別ともに繰延税金資産の評価をKAMとしている事例は多く、連結のKAMと同一内容であるため、記載を省略している事例が40社あった。

財務諸表の注記事項への参照については、重要な会計上の見積りの注記もしくは税効果注記を参照している事例が大半である。

KAMを決定した理由として、将来の課税所得の見積りの基礎となる事業計画が経営者の主観的な判断に影響を受けることとしている事例は多い。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大による事業計画への影響を付け加えている事例もある。

監査上の対応としては、将来の課税所得の見積りの基礎となる事業計画と取締役会で承認された計画との整合、事業計画に関連する資料との整合、将来の市場予測との整合、新型コロナウイルス感染症による影響を含めた将来の見通しに関する経営者への質問、過年度の事業計画とその実績の比較による事業計画策定の精度の検討などの事例があった。

① 株式会社LIXIL(IFRS基準、トーマツ)

国内における住宅着工数の減少が予想される中での事業計画や新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を軽微とした仮定には経営者による主観的な判断が含まれているとしている。

繰延税金資産の回収可能性の評価

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

連結財務諸表注記19に記載されているとおり、会社は当連結会計年度末において、繰延税金資産を77,939百万円計上しており、当該金額は総資産の4%を占めている。そのうち税務上の繰越欠損金に対する繰延税金資産は54,817百万円であり、日本の連結納税グループにおける株式会社LIXILの計上額がその太宗を占めている。

会社は、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金について、それらを回収できる課税所得が生じると見込まれる範囲において繰延税金資産を認識している。

連結財務諸表注記19に記載されているとおり、会社は利用が長期間にわたる見込みである税務上の繰越欠損金を有しており、経営者によって承認された3か年分の事業計画を基礎とする将来の課税所得の発生時期及び金額の仮定に基づき、繰延税金資産の回収可能性を評価している。

主要な仮定である3か年分の課税所得は、日本国内における人口減少に伴う住宅着工数減少の予想される中、売上総利益率の改善や販売費及び一般管理費の削減による収益性向上を前提とした事業計画に基づいており、これらの施策の達成に影響を受けるため経営者による主観的な判断を含んでいる。
また、将来の課税所得は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が将来の業績に与える影響は軽微であるとの仮定を前提としており、経営者の判断を含んでいる。

以上より、経営者が用いた将来課税所得の仮定は経営者の主観的な判断により影響を受けるため、当監査法人は株式会社LIXILにおける繰延税金資産の回収可能性の評価を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、株式会社LIXILの繰延税金資産の回収可能性の評価を検証するに当たり、主として以下の監査手続を実施した。

・将来の課税所得の見積りの基礎となった事業計画の策定に係る内部統制を含め、繰延税金資産の回収可能性の見積りに関連する内部統制の整備・運用状況の有効性を検証した。
・税務の専門家を税務処理の妥当性の検討に利用して一時差異及び繰越欠損金の残高について検証するとともに、一時差異及び繰越欠損金の解消する期間に関する経営者の見積りの妥当性を評価した。
・経営者による将来の課税所得の見積りを評価するため、その基礎となる将来の事業計画の妥当性について検討した。将来の事業計画の検討に当たっては、経営者によって承認された事業計画との整合性を検討するとともに、過年度に策定された事業計画とその実績を比較することにより、将来計画の見積りの精度を評価した。
・将来の事業計画に含まれる収益力向上の見込みについては、経営者と議論するとともに、主要な施策ごとに過年度における施策の効果の見積りとその実績を比較することにより、将来の見積りの精度を評価した。また、過去からの趨勢分析及び利用可能な外部データとの比較を実施するとともに、売上収益や営業利益率などの主要な仮定について感応度分析を実施し、仮定の変動が見積りの結果に与える影響を評価した。
・経営者が見積りに含めた新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う影響の仮定に関し、経営者の仮定と他の監査手続により得られた外部及び内部の情報との矛盾の有無を検討した。

(出所 株式会社LIXIL 有価証券報告書-第79期)

(6)引当金

製品保証引当金、受注損失引当金、法規制に対応するための引当などをKAMとして記載しており、特に自動車関連では、製品保証引当金を対象としている事例が目立つ。

財務諸表の注記事項への参照は、IFRS適用会社が引当金注記、日本基準適用会社が重要な会計上の見積り、会計方針の他、引当金の金額の説明のみの事例もあった。

KAMを決定した理由としては、不確実性又は経営者の判断が伴うこととしている事例が大半である。

監査上の対応としては、仮定の合理性を検証するために、見積方法に関する質問や根拠資料の閲覧、インプット情報と過去データとの整合、網羅性の検討のために、関連する届出一覧や会議体議事録の閲覧などの記載があった。

① 株式会社デンソー(IFRS基準、トーマツ)

不具合対応に係る製品保証引当金の見積りをKAMとしているが、見積り金額の算定基礎となる諸要因を示した上で、見積りが経営者の判断を伴う重要な仮定に影響を受けるとしている。監査上の対応では、その諸要因ごとの手続についても記載されていることが特徴的である。

製品保証引当金の見積計上

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由

監査上の対応

会社は、2021年3月31日現在、連結財政状態計算書上、製品保証引当金を230,496百万円計上しており、連結財務諸表注記2.(4)、3.(14)及び17.に関連する開示を行っている。

製品保証引当金は、製品のアフターサービスの費用に備えるために、過去の実績を基礎にして製品保証費用、経済的便益の流出時期を見積り、認識されている。

製品保証費用には主にエンドユーザからの修理依頼に基づく修理費用と、客先が決定したリコールを含む不具合対応に基づく対象車両の修理費用がある。
このうち不具合対応に係る製品保証引当金は、過去に会社が製造した製品に関して客先が不具合の修理対応を行った場合などに、会社が負担すると合理的に見込まれる金額に基づき算定される。算定は、a. 対象となる車両台数、b. 1台当たりの修理単価、c. 不具合対応の実施率、d. 客先との負担金額の按分見込割合をそれぞれ掛け合わせて行われる。

これらはいずれも経営者の判断を伴う重要な仮定により影響を受けるものであり、特に、b.1台当たりの修理単価とd. 客先との負担金額の按分見込割合は、製品不具合の原因に照らして修理に係る工数の見積りや客先との交渉結果の見積りを行う必要があることから、相対的に不確実性が高い。a. 対象となる車両台数についても、車種、地域等で不具合の発生状況が異なる等、案件の状況によっては不確実性が高くなることもある。また、不具合発生の状況変化が続く場合には、会計上の見積りの不確実性が全般的に高くなることもある。さらに、部品の共通化の度合いによっては、製品不具合が発生した場合の製品保証費用総額は高額になる恐れもあることから、当監査法人は不具合対応に係る製品保証引当金の見積計上を監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。

当監査法人は、製品保証引当金のうち、残高の大半を占めるリコールを含む製品不具合に係る個別引当金の網羅性及び評価の妥当性を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。

・経理部が引当金の見積りに必要な全ての情報を入手するために、品質管理部門と適時に協議することを担保する内部統制の整備及び運用状況を評価した。
・国土交通省が公表しているリコール届出一覧、取締役会等の会議体議事録及び決裁書を査閲し、製品保証引当金の計上の網羅性を検討した。
・新規の不具合対応案件については、案件の概要、製品不具合の原因等、既存の不具合対応案件については、新たな最善の見積りに反映される必要がある状況変化の有無について会社の品質管理部門の責任者に質問を行った。
・a.対象となる車両台数について、利用可能な外部データと突合した。また、案件の状況によっては、見積りの前提となる基礎データ等の正確性及び網羅性に照らして、経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価した。
・c.不具合対応の実施率について、新規案件については、他の案件における実績に照らして、既存案件については、直近の実施率に照らして経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価した。
・b.1台当たりの修理単価及びd.客先との負担金額の按分割合について、新規案件については、製品不具合の原因、過去の他の案件における実績及び利用可能な外部データに照らして、既存案件については、最新の平均修理単価や最新の負担割合の交渉結果に照らして、経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価した。
・1台当たりの修理単価及び客先との負担金額の按分割合等の経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価するため、過去の案件における当初に見込んだ修理単価及び按分割合等とそれらの実績とを比較した。

(出所 株式会社デンソー 有価証券報告書-第98期)

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?