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実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」の解説

月刊誌『会計情報』2022年11月号

公認会計士 豊岳 光晴

1. はじめに

2022年8月26日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、実務対応報告第43号「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した。

2019年に成立した「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28号)により、金融商品取引法が改正され、いわゆる投資性ICO(Initial Coin Offering。企業等がトークン(電子的な記録・記号)を発行して、投資家から資金調達を行う行為の総称である。)は金融商品取引法の規制対象とされ、各種規定の整備が行われた。こうした状況を踏まえ、ASBJは、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)における電子記録移転有価証券表示権利等の発行・保有等に係る会計上の取扱いについて検討を行い、本実務対応報告を公表した。

本稿では、本実務対応報告の概要について解説する。

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2. 範囲

本実務対応報告は、株式会社が金商業等府令第1条第4項第17号に規定される「電子記録移転有価証券表示権利等」を発行又は保有する場合の会計処理及び開示を対象としている(本実務対応報告第2項)。

「電子記録移転有価証券表示権利等」とは、金商業等府令第1条第4項第17号に規定される権利をいい、金融商品取引法第2条第2項に規定される有価証券とみなされるもの(以下「みなし有価証券」という。)のうち、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものをいう(本実務対応報告第3項(1))。

金融商品取引法における有価証券と、本実務対応報告の対象となる電子記録移転有価証券表示権利等の関係の概要は【図表1】を参照されたい。

【図表1】金融商品取引法第2条と本実務対応報告の適用対象となる「電子記録移転有価証券表示権利等」の関係

3. 会計処理

(1) 会計処理の基本的な考え方

電子記録移転有価証券表示権利等は、金融商品取引法において、金融商品取引法第2条第2項に規定されるみなし有価証券のうち、当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情等を勘案し、内閣府令で定めるものに限るとされており、金商業等府令では、電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値に表示される場合に該当するものとされている。

電子記録移転有価証券表示権利等は、その定義上、その移転がいわゆるブロックチェーン技術等を用いて行われる点を除けば、従来のみなし有価証券(電子記録移転有価証券表示権利等に該当しないみなし有価証券を指す。以下同じ。)と権利の内容は同一と考えられるため、本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理は、基本的に従来のみなし有価証券を発行及び保有する場合の会計処理と同様に取り扱うこととしている(本実務対応報告第27項)。

(2) 電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理

電子記録移転有価証券表示権利等に該当する企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。また、金融商品会計基準及び金融商品実務指針を合わせて、以下「金融商品会計基準等」という。)上の有価証券を発行する場合は、従来のみなし有価証券を発行する場合と同様の会計処理を行うこととしている(本実務対応報告第28項)。

具体的には、電子記録移転有価証券表示権利等を発行する場合、【図表2】のとおり、その発行に伴う払込金額を負債、株主資本又は新株予約権として会計処理を行うこととしている(本実務対応報告第4項)。

【図表2】

払込金額が負債に区分される場合(本実務対応報告第5項)

金融負債として、金融商品会計基準第7項の定めに従って発生の認識を行い、その金額は金融商品会計基準第26項、又は第36項、第38項(1)及び企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下「複合金融商品適用指針」という。)の定めに従う。

払込金額が株主資本又は新株予約権に区分される場合(本実務対応報告第6項)

その内訳項目は企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(以下「純資産会計基準」という。)第5項から第7項の定めに従い、その金額は、会社法第445条及び第446条の規定、又は金融商品会計基準第36項、第38項(2)及び複合金融商品適用指針の定めに従う。

 

ここで、一部の信託受益権については、金融商品会計基準等上の有価証券として取り扱われていないため、電子記録移転有価証券表示権利等に該当するこれらの一部の信託受益権について、受託者による信託の会計処理が問題となるが、本実務対応報告では株式会社による会計処理のみを対象とすることとしたため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等の発行の会計処理は取り扱っていない(本実務対応報告第29項)。

(3) 電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理

金融商品取引法上の有価証券について、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われるものと有価証券として取り扱われないものがある(金融商品実務指針第8項及び第58項)。

電子記録移転有価証券表示権利等の保有においては、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない信託受益権のうち、電子記録移転有価証券表示権利等に該当するものを株式会社が保有する場合も想定される。そのため、上述の発行の場合とは異なり、電子記録移転有価証券表示権利等の保有の会計処理については、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合と該当しない場合に分けて定めることとしている(本実務対応報告 第7項及び第33項)。

① 金融商品会計基準等上の有価証券に該当する場合

本実務対応報告では、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理について【図表3】のとおり会計処理することとされている。

【図表3】

発生及び消滅の認識(本実務対応報告第8項)

金融商品会計基準第7項から第9項及び金融商品実務指針の定めに従って行う。ただし、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について、契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合は、金融商品実務指針第22項の定めにかかわらず、契約を締結した時点で買手は電子記録移転有価証券表示権利等の発生を認識し、売手は電子記録移転有価証券表示権利等の消滅を認識する。

貸借対照表価額の算定及び評価差額に係る会計処理(本実務対応報告第9項)

金融商品会計基準第15項から第22項及び金融商品実務指針の定めに従って行う。

 

金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の会計処理については、基本的には金融商品会計基準等における定めに従うこととされているが、発生及び消滅の認識に関する別途の定めとして、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間である場合に限り、売買契約を締結した時点において認識することとされている。

これは、電子記録移転有価証券表示権利等の売買に係る事例が限定的である現状を踏まえると、電子記録移転有価証券表示権利等の売買契約について金融商品実務指針第22項における約定日基準の定めに従うこととする場合、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられ、また、実務上、約定日から受渡日までの期間が市場の規則又は慣行に従った通常の期間であるかどうかの判断が困難である可能性があることに対応したものである(本実務対応報告第37項)。

ここで、約定日が明確である場合には、当該約定日が売買契約を締結した時点に該当すると考えられる。また、電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点は、個々の権利ごとの根拠法に基づき判断することが考えられるが、受渡日が明確である場合には、当該受渡日を電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点として取り扱うことが考えられる。さらに、売買契約を締結した時点から電子記録移転有価証券表示権利等が移転した時点までの期間が短期間かどうかは、我が国の上場株式における受渡しに係る通常の期間と概ね同期間かそれより短い期間であるかどうかに基づいて判断することが考えられるとされている(本実務対応報告第38項、第39項及び第42項)。

② 金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない場合

一部の信託受益権については、金融商品取引法上の有価証券に該当するものの、金融商品会計基準等上、有価証券として取り扱われない場合があり、これらの会計処理については、金融商品実務指針及び実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」(以下「信託報告」という。)に定めがある。ここで、電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容は、金融商品取引法上の従来のみなし有価証券と同一であると考えられることから、電子記録移転有価証券表示権利等に該当する前述の信託受益権を保有する場合の会計処理についても、金融商品実務指針及び信託報告の定めに従うこととしている(本実務対応報告第10項、第44項及び第45項)。

しかしながら、発生及び消滅の認識に関しては、従来の有価証券の売買契約とは異なり、約定日及び受渡日が明確ではない場合も生じ得ると考えられることから、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等について、従来の有価証券の定めとは異なる定めを置くこととしている。そのため、金融商品会計基準等上の有価証券に該当しない電子記録移転有価証券表示権利等のうち、金融商品実務指針及び信託報告の定めに基づき、結果的に有価証券として又は有価証券に準じて取り扱うこととされているものについての発生の認識(信託設定時を除く。)及び消滅の認識は、金融商品会計基準等上の有価証券に該当する電子記録移転有価証券表示権利等の発生及び消滅の認識の定めに従うこととしている(本実務対応報告第46項)。

 

4. 開示

電子記録移転有価証券表示権利等の権利の内容は、従来のみなし有価証券と同一であると考えられ、電子記録移転有価証券表示権利等の開示に関して、従来のみなし有価証券を発行又は保有する場合に適用される開示の定めに従うことにより、有用な情報が開示されるものと考えられる。そのため、電子記録移転有価証券表示権利等を発行又は保有する場合の表示方法及び注記事項は、みなし有価証券が電子記録移転有価証券表示権利等に該当しない場合に求められる表示方法及び注記事項と同様とすることとしている(本実務対応報告第11項、第12項及び第47項)。

 

5. 適用時期

本実務対応報告では、電子記録移転有価証券表示権利等を保有する場合の発生及び消滅の認識について、金融商品会計基準等とは別途の定めを置くこととしていることから、その適用にあたっては、一定の周知期間を設けることが有用と考えられる。そのため、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することとしている。

また、2019年に改正された金融商品取引法は既に2020年5月より施行されており、早期適用のニーズが想定されることから、本実務対応報告では、公表日以後終了する事業年度及び四半期会計期間から早期適用することを認めることとしている(本実務対応報告第13項及び第48項)。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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