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会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」の概要(第2回)

月刊誌『会計情報』2022年11月号

公認会計士 豊岳 光晴

1. はじめに

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、2022年6月30日に、会計制度委員会研究資料第7号「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」(以下、「本研究資料」という。)を公表した。

本稿では、本研究資料の概要を2回に分けて紹介する。

第1回(2022年10月号掲載)

  • ソフトウェア関連取引の概要
  • ソフトウェア等に関する会計処理の会計基準比較

第2回(本稿)

  • ソフトウェア等の会計処理(クラウドサービスのベンダー側、ユーザー側の会計処理、コンピューターゲームの会計処理)
  • 実務上の課題とそれを踏まえた提言

 

本研究資料は、3つのパートから構成されている。

「Ⅰ.はじめに」では、検討の経緯として多様なソフトウェアに関連する取引が近年生じていることを挙げており、ソフトウェア関連取引の概要として、本研究資料の主な検討対象の一つであるクラウド・コンピューティングの概要が紹介されている。

「Ⅱ.ソフトウェア等の会計処理」では、ソフトウェア等に関する会計処理の会計基準における取扱いとして日本基準、IFRS、米国会計基準の比較を行ったうえで、クラウドサービスのベンダー側の会計処理、ユーザー側の会計処理、コンピューターゲームの会計処理について個別の検討を行っている。

「Ⅲ.実務上の課題とそれを踏まえた提言」では、「Ⅱ.ソフトウェア等の会計処理」におけるクラウドサービスのベンダー側の会計処理、ユーザー側の会計処理、コンピューターゲームの会計処理の検討を通じて把握された実務上の課題を整理したうえで、それを踏まえた提言が行われている。

第1回では、上記のうち「Ⅰ.はじめに」の内容及び「Ⅱ.ソフトウェア等の会計処理」のうち、ソフトウェア等に関する会計処理の会計基準比較の内容について紹介した。

第2回の本稿では、「Ⅱ.ソフトウェア等の会計処理」のうち、クラウドサービスのベンダー側の会計処理、ユーザー側の会計処理、コンピューターゲームの会計処理の検討、及び、「Ⅲ.実務上の課題とそれを踏まえた提言」について紹介する。

573KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

2. ソフトウェア等の会計処理

(1) クラウドサービスのベンダー側の会計処理

無形資産の実務上の課題を調査するという趣旨を踏まえ、ベンダーの会計処理についてはソフトウェアの会計処理に焦点を当て、ソフトウェアの機能そのものをユーザーに提供するという、ソフトウェアの受注制作やソフトウェアを市場で販売するのとは異なるソフトウェアの提供形態であるSaaSを対象に会計処理の検討を行っている

※クラウドサービスのベンダーの収益認識については、顧客であるユーザーとの契約から生じる収益認識と考えられるため、通常、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という。)の対象となる取引である。収益認識会計基準の適用時期は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされており、クラウドサービスのベンダーの収益認識に関する実務上の課題については、今後の収益認識会計基準の適用の過程で把握されていくものと考えられることから、収益認識については本研究資料の検討の対象に含まれていない。

 

① 現行の実務の状況

現行の実務において、SaaSのベンダーがサービス提供のために利用するソフトウェアがどのように扱われているかを、監査人及び企業に対するアンケート等により調査した結果は次のとおり(以下のⅰ~ⅳは監査人に対する調査、ⅴは企業に対する調査の結果である。)。

ⅰ.サービス提供のために利用するソフトウェアの分類

ソフトウェアの分類については、自社利用のソフトウェアに分類するケースが多く見られたものの、市場販売目的のソフトウェアに分類するケースも認められた。

また、新規サービスについて将来の収益獲得が確実であることの立証が困難なことや、開発単位での収支管理を行っていないため将来の収益獲得が確実であることの立証が困難なことから、そもそもソフトウェアとして計上していないとの回答もあった。

 

ⅱ.研究開発費とソフトウェア制作原価の区分

自社利用のソフトウェアに分類したケースでは、すべて制作原価として処理しているとの回答が一部見られたものの、研究開発費と制作原価を区分しているケースが多く見られた。研究開発費と制作原価を区分しているケースにおいて、具体的にどの時点からソフトウェアとしての資産計上を行っているかについては、制作の意思決定を行った時点からとするものと、製品マスターに相当するような製品として提供できるための重要な機能が完成しており、かつ、重要な不具合も解消している程度のソフトウェアが完成した時点からとする回答が多く見られた。

 

ⅲ.資産計上されたソフトウェアの費用配分方法

自社利用のソフトウェアに分類したケースでは、見込販売収益等に基づく償却を行っているとの回答もあったものの、多くのケースで定額法による償却が行われている。具体的な償却期間については、3年とする回答又は5年とする回答が多く、ばらつきが生じていた。

 

ⅳ.その他の意見

SaaSモデルでのビジネスを行っている場合のソフトウェアの会計処理について、論点となっている事項や会計基準の規定が不明確であると考える事項について、以下のような意見が寄せられた。

  • 以下のようなケースにおいて、ソフトウェアの資産計上の判断が困難である。
    ‐ソフトウェアの機能増強を伴うものの、顧客への追加請求や利用料金の値上げを伴わないケース
    ‐アジャイル開発のように機能単位の小さなサイクルで、計画から設計・開発・テストまでの工程を繰り返すことにより開発を行うため、開発単位での収支を把握することが困難なケース
    ‐顧客の要望によりソフトウェアの開発を行うものの、ソフトウェアは顧客に移転せず、開発に要したコストの全部又は一部を対価として受領した上で、継続的な利用契約に基づき顧客が完成したソフトウェアを利用するケース
  • 将来の収益獲得が確実であることについての判断に幅があり、ソフトウェアの資産計上の可否についての判断が異なる結果、実態は同じであっても異なる会計処理方法が採用され、財務諸表の比較可能性を害している可能性がある。
  • SaaSのベンダーがサービス提供のために利用するソフトウェアについては自社利用ソフトウェアに分類しているものの、実態としては当該ソフトウェアを利用させることにより対価を得ているため、市場販売目的のソフトウェアに類似した性質を持っている。ビジネスモデルにより会計処理が異なる結果となることが実態を表すものであるか、疑問がある。(企業からの意見でも同様の意見あり)

 

ⅴ.企業の方からの意見

  • 従来、ライセンス販売を行っていたものを、その後SaaSでサービス展開するようなケースがあり、
    ‐販売方法の相違により会計処理が異なることは妥当ではないのではないか。
    ‐両者の境目が曖昧となっているため、自社利用のソフトウェアに統一してもよいのではないか。
  • 市場販売目的に分類されるものに何が含まれるかについて、例示が必要と考える。
  • アジャイル開発等、様々な開発手法があるので、開発手法に応じた会計処理のガイドラインがあるとよい。
  • クラウドを利用してサービスを提供するソフトウェアについては、自社利用のソフトウェアに分類するとしても、市場販売目的のソフトウェアに準じて最初に製品化された製品マスターに相当するような製品として提供できるための重要な機能が完成し重要な不具合も解消している程度のソフトウェアが完成する時点までは、研究開発費として発生時に費用処理することが妥当であると考える。
  • 複写して販売するソフトウェアも、ライセンス販売するソフトウェアも、SaaSのベンダーがサービス提供のために利用するソフトウェアも、ソフトウェアの機能を第三者が使用することにより対価を得るという意味において相違がないことから、いずれも市場販売目的のソフトウェアとして会計処理することが望ましい。
  • 「研究開発費等に係る会計基準」(1998年3月公表)(以下、「研究開発費等会計基準」という。)及び会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(1999年3月公表)(以下、「研究開発費等実務指針」という。)における市場販売目的のソフトウェアの減価償却の方法は、完成品を制作しそれを複写して販売する方法だけを前提としているため、見直しの検討が必要である。

 

② 現状の課題

SaaS取引のように、研究開発費等会計基準の開発時に想定されておらず、基準の設定後に新たに生じた取引については、現行の研究開発費等会計基準に従ってどのように会計処理すべきかが必ずしも明らかではないと考えられ、会計処理の判断に困難を伴う可能性がある。

特に、自社利用のソフトウェアと市場販売目的のソフトウェアというソフトウェアの分類や、収益獲得を目的とするソフトウェアを自社利用のソフトウェアとして分類した場合におけるソフトウェアの資産計上の開始時点の取扱いは、現行のソフトウェア実務に合わない可能性がある。

 

(2) クラウドサービスのユーザー側の会計処理

クラウドサービスの中でも、特に、実務的に論点となることが多いと考えられる一般事業会社がSaaSを利用するケースを中心に、ユーザー側の会計処理(サービスの提供を受けることに対して継続的に支払う費用及びユーザーが支払う初期設定費用やカスタマイズ費用の会計処理など)を検討している。

① 現行の実務における課題

クラウドサービスのユーザー側の会計処理について、現行の会計基準の体系の中では明確な規定は設けられていないが、SaaSのサービス利用料は、SaaSのユーザーが受けるサービス(ベンダーが保有するソフトウェアの利用など)に係る対価であって、ユーザーがソフトウェアを購入するための支出ではないため、サービス利用料は、その発生に応じて費用処理することになると考えられる。

SaaSのユーザーの会計処理については、以下の論点が考えられる。

ⅰ.初期設定費用、カスタマイズ費用の資産計上の可否

SaaSのユーザーにおいては、上記のサービス利用料に加えて、初期設定費用や自社向けのカスタマイズ費用を支払うケースがあり、ユーザーがソフトウェア自体を保有していないことから、その取扱いが論点となる。

ソフトウェアを自社で保有している場合には、ソフトウェアの取得価額に含めることとされている初期設定費用等であっても、SaaSの場合にはソフトウェアそれ自体がオフバランスとなっており、かつ、会計基準上の明示的な規定がないことから、これを自社のソフトウェアとして計上することは難しいと考えられる。したがって、この場合、契約当初に一時に支払った初期設定費用やカスタマイズ費用について、支払時に一時の費用として計上することも考えられる。

一方で、会計基準の明示的な規定はないものの、企業会計基準委員会(ASBJ)が2006年12月に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」では、「資産とは過去の取引又は事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源をいう。」とされており、この定義をSaaSにおける初期設定費用及びカスタマイズ費用に当てはめた場合、次のように資産性の要件を満たす可能性があると考えられる。

  • 当該費用がキャッシュの獲得に貢献する便益の源泉であるとすると、経済的資源に該当することになると考えられる。
  • 当該費用が経済的資源に該当することを前提とすると、他の費用削減や収益獲得に資するものであることから、そこから生み出される便益を享受できるため、支配が存在している可能性があると思われる。

 

ⅱ.リース取引への該当の有無

SaaSの利用に際して支払う利用料がリースに該当するか、すなわちSaaSそれ自体がリース取引に該当するか、という点が論点となる。

SaaSにおいては、あるベンダーが不特定多数のユーザーに対してサービス提供しているものであることが通例であり、SaaSに関しては借手、貸手の双方にとって使用する物件が「特定の物件」であると整理されるケースは少ないのではないかと考えられ、リースの定義を満たさないものと考えられる。

 

ⅲ.資産計上できると判断された場合の勘定科目

SaaSに係る契約に伴って契約当初に支払われた初期設定費用、カスタマイズ費用については、当該ソフトウェアをベンダーが有していることから、現行の会計基準の規定を前提にすると、ユーザーが自社利用のソフトウェアと同様に「ソフトウェア」として計上することは難しいのではないかと考えられる。

このとき、SaaSに係る契約に伴って契約当初に支払われた初期設定費用、カスタマイズ費用が、「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価」という前払費用の定義を満たすものであれば、(長期)前払費用として計上することが考えられる(企業会計原則注解(注5)(1))。ただし、ユーザーが負担した費用の性質の詳細が必ずしも判然としないことで、長期前払費用に該当するかどうかの判断が、実務上困難となるケースがあると思われるため、何に対する費用であるかの判断が今後の課題となってくるものと考えられる。

 

ⅳ.資産計上された場合の費用化の期間

初期設定費用等を長期前払費用として計上した場合、通常はその契約期間で償却するものと考えられる。ただし、SaaSに係る契約の更新が見込まれる場合に、当該契約更新も見越して費用化の期間を決定すべきかどうかについては、その実態を検討する必要があるものと思われる。

 

ⅴ.その他の論点

自社利用のソフトウェアについて、すべてを自社開発してソフトウェアを計上するのではなく、一部分はクラウドサービスを利用するケースも多くなっているものと思われる。そのようなケースでは、前述の論点が同様に課題となってくるほか、自社開発部分に関しては資産化の始期と終期の決定が必要となる。近年、いわゆるアジャイル型の開発手法が拡がりを見せており、ソフトウェアの利用による将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる時点の判断が困難なことにより、資産化されるべき費用とそうでない費用の峻別が一層困難となっている可能性もあるものと考えられる。

② 現状の課題

クラウドサービスのユーザーにおいては、自社で購入するソフトウェアの会計処理と比較して、資産化の可否を中心に、その会計処理が実務上しばしば論点となる。

この点、実務上は長期前払費用として計上しているケースがあると考えられるが、企業間によって処理が異なることがないよう、資産性の要件などを明確化していく必要があるものと考えられる。

 

(3) コンピューターゲームの制作費用の会計処理

ゲームを提供する媒体は業務用ゲーム機器、家庭用ゲーム機器、パソコン、スマートフォンと多様化しており、販売方法も多様化しているが、ここでは一般消費者向けのコンピューターゲームの開発会社を対象にゲーム制作費用の会計処理の検討を行っている。

① ゲーム業界における実態調査

我が国における現行の会計基準では、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」でゲームソフトの制作に言及した記述はあるものの、ゲーム業界固有の事象について詳細に定めた取扱いはない。コンピューターゲーム開発業を主要な事業としている企業におけるソフトウェア資産の取扱いについて、該当企業を担当している監査人に対するアンケート等により調査した結果は次のとおり。

ⅰ.貸借対照表上の計上科目

一般消費者向けコンピューターゲームに係る資産について、無形固定資産として計上している企業と、流動資産として計上している企業とが混在している状況である。それぞれの区分で計上している考え方として、以下の点が考えられる。

【無形固定資産として計上する考え方】

  • 無償でダウンロード可能なアプリにおいて使用できるアイテム等を販売するビジネスモデルを採用しているゲームの場合、ゲームをユーザーに利用させる言わばSaaSに相当するサービスの形態であるため、「自社利用のソフトウェア」として位置付けられると考えることができる。
  • 研究開発費等実務指針においても、自社開発のソフトウェアは無形固定資産として計上することとされている。

【流動資産(棚卸資産)として計上する考え方】

  • 一般にコンピューターゲームはプログラムとコンテンツが複合したものであるが、開発費用の内訳を見るとコンテンツのためのコストの比率が非常に高く、全体としてコンテンツとしての性格を有すると考えられる。
  • 過去パッケージ化されたゲームソフトを販売していた頃から棚卸資産として計上しており、オンラインゲームが主流となった今日においても、その考え方が引き継がれている。
  • 家庭用ゲーム機器用のコンピューターゲームは、通常有償で消費者に提供されており、パッケージ化された商品は、通常の棚卸資産と同種に扱われる。
  • 市場サイクルが短いジャンルのコンピューターゲームにおいては、1年以上一定程度の販売が持続するケースが少なく、流動資産としての性格を有すると考えられる。

 

ⅱ.費用配分の方法

各社がそれぞれのビジネスの実態に応じて費用配分方法を選択しているが、見込販売数量等に応じた償却よりも、一定期間にわたり按分する方法を採用しているケースがやや多い状況である。

費用配分の方法の検討においては、下記の事項を考慮している。

  • アイテムを販売することにより課金する形態においてはある一定期間にわたり利用者が使用し続けることが前提になる。
  • コンピューターゲームの販売においては不確実性が高く、販売数量を見積もることは一定の困難さが伴う。
  • コンピューターゲームのライフサイクルは短く、リリース後数か月である程度の売行きが予測できる。
  • 資産計上する範囲が狭いため、資産計上して費用収益を対応させることのメリットが小さい。

 

ⅲ.研究開発費とソフトウェア制作原価の区分

棚卸資産として計上している企業においては、すべて制作原価として処理する傾向がみられるが、無形固定資産として計上している企業においては、研究開発費との区分を行っているという傾向が見られる。ソフトウェア制作に係る資産計上の開始時期については各社の取扱いに幅があるものの、コンピューターゲーム市場の不確実性を反映して制作プロセスの後半から資産化する傾向がみられた。

 

ⅳ.実務上の課題として聞かれた意見

  • 最も議論があるのは資産計上のタイミングである。企業の開発プロセスに合わせて方針を明確にしているが、他社との比較可能性は余り確保できていない。
  • 企業は主体的に最も適切な会計処理を選択して適用しているが、他社と比較して一般的な処理なのかどうかを確かめる機会はない。
  • コンピューターゲームには、将来の販売について不確実性が多く伴うため、収益獲得能力を主張することが難しい傾向にある。
  • ゲームの形態が多様化する中で各社がそれぞれの実態に即した会計処理を選択している状況であり、実務で大きな問題にはなっていないのではないか。
② 現状の課題

コンピューターゲーム業界においてもゲームのプラットフォームやビジネスモデルが多様化しており、テクノロジーの進展に伴う既存の会計基準と実務とのギャップが生じているものと考えられるが、実務においては、現行の研究開発費等実務指針などの規定を基礎として各社が実態に応じた会計処理を選択して適用している状況である。

これにより、ゲーム開発費に関する資産計上の開始時期、償却開始時期、償却方法、貸借対照表上の表示科目等に多様性が見られるものの、幅のある会計基準の選択のうち、どのような会計処理を選択しているのかを推し量る注記開示等も十分ではなく、財務諸表を読み解くに当たって十分な情報が提供されているとは必ずしも言えないものと考えられる。

 

3. 実務上の課題とそれを踏まえた提言

これまで見てきた実務上の課題に対応するためには、研究開発費等会計基準と研究開発費等実務指針からソフトウェアに関する取扱いを切り出して、現状のDXの加速化に対応したソフトウェアに係る会計基準を開発することが望ましいものと考えられる。

具体的には、現在行われている取引実態に応じたソフトウェアの区分、その区分に応じた資産計上要件及び資産計上後の会計処理などを明確化し、会計処理に当たり一定の指針となる考え方を明確にすることが考えられる。さらに、財務諸表利用者の理解可能性の向上のために、会計基準の中でDXの加速化に対応したソフトウェアに関連する取引に関する基本的な考え方を整理しておくことが望ましいと考えられる。

今後、国際会計基準審議会によるIAS第38号を包括的に見直すリサーチ・プロジェクトにおいて、無形資産のそれぞれの性質や取引実態に応じた会計処理を検討することも考えられる。こうした将来の国際的な会計基準の検討の方向性や開発動向も踏まえた上で、我が国における現状のデジタル化に対応したソフトウェアに係る会計基準を開発することで、国際的な会計基準の動向と乖離することにもならないものと考えられる。

本研究資料において識別されている、具体的な実務上の課題とそれに係る提言の主な内容は次のとおりである。

(1) 市場販売目的のソフトウェアと自社利用のソフトウェアの区分

ライセンス販売のソフトウェアが市場販売目的のソフトウェアに分類され、クラウドを通じて不特定多数の利用者に向けてサービス提供を行うソフトウェアが自社利用のソフトウェアに分類される場合、契約形態が異なることによりソフトウェアの会計処理が大きく異なることとなり、実態が大きく異ならないサービス提供に係る制作費が異なる会計処理となる懸念がある。

市場販売目的のソフトウェアの会計処理が要請されるものは何か明確にすることにより、市場販売目的のソフトウェアとして区分すべきものについての考え方を明確にする必要があると考えられる。

 

(2) ソフトウェアの区分に基づく会計処理の相違による問題点

クラウドを通じてサービス提供を行うソフトウェアが自社利用のソフトウェアに区分される場合、実態としては、第三者から収益を獲得するためのソフトウェアであり、市場販売目的のソフトウェアに性格が近いものもあると考えられる。一方、ソフトウェアのライセンス販売は市場販売目的ソフトウェアに区分されるが、ソフトウェアのライセンスのみを供与し、ソフトウェア自体が移転するものではない点を捉えると、自社利用のソフトウェアに類似する性格も認められる。

ソフトウェアに係る収益認識との関係も考慮し、ソフトウェアの区分によるソフトウェアの制作費の会計処理の規定が実態に合っているか検討する必要があるものと考えられる。

 

(3) ソフトウェア制作費の資産計上要件

クラウドサービスを提供するソフトウェアの制作費が自社利用のソフトウェアとして区分される場合、自社利用ソフトウェアの資産計上要件(将来の収益獲得又は費用削減が確実であることとされているのみであり、詳細な要件は示されていない)に基づくことになるため、各社の判断に依拠する部分が大きくなり、同様の形態のサービスを提供するソフトウェアであった場合でも、資産計上の要否の判断が異なる可能性がある。特に、最近は、アジャイル型の開発手法が採用されることも多いため、資産計上要件を満たすと判断できる時点を設定することが難しく、資産計上要件を満たす時点の判断にばらつきが生じる可能性が高い。

同様のソフトウェアの開発を行う場合において資産計上の開始時点が各社で判断が大きく相違することが生じないように、資産計上の開始時点の判断に関するガイダンスが必要であるものと考えられる。

 

(4) クラウドを通じてソフトウェアを利用するサービスを受ける場合の処理

汎用的な第三者のソフトウェアを一定期間利用するサービスを受ける場合は、通常、利用料を費用処理するものと考えられる。一方、クラウドサービスを受けるに当たり、クラウドサービス契約時に支払う導入初期費用は、一定期間利用するサービス契約であることから一定期間で費用化するのか、又は導入時の一時の費用とするのか明確ではない。

同様の取引に同一の会計処理が行われるように導入時の支払額についての会計処理の考え方を明確にする必要があると考えられる。

 

(5) コンピューターゲーム・ソフトウェアの制作費

コンピューターゲームにおいては、プログラムと複合的に組み合わされるコンテンツ部分に重要性があるが、コンテンツに関する明示的な会計基準が存在しないため、各社の実態に応じて会計処理されているものと考えられる。

ソフトウェアとコンテンツは、原則として別個のものとして会計処理することとされていることから、別個のものとして会計処理する場合、コンピューターゲームの動作を制御するプログラム部分についてはソフトウェアとして処理することになる。このソフトウェアに関しては、オンラインアップデートを行わない従来のパッケージ販売と性質が同じであるオンラインを通じたダウンロード販売の場合、市場販売目的のソフトウェアに区分されるものと考えられる。一方、オンラインを通じてゲームサービスを提供するサービスの場合、クラウドサービスのベンダーと同様に、市場販売目的のソフトウェアと自社利用のソフトウェアのいずれに区分して処理するのが実態に合うのか、考え方を明確にする必要があるものと考えられる。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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