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「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(令和4年12月27日)」の概要

月刊誌『会計情報』2023年3月号

公認会計士 遠藤 和人

1. はじめに

2022年12月27日に金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下「DWG」という)から「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下「本報告書」という)が公表された。本報告書では、四半期開示の見直し及びサステナビリティに関する企業の取組みの開示についての方向性が示されている。

本稿では、これらの概要及び主要な項目について解説する。

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2. 公表の経緯・目的

DWGでは、2022年6月に公表した「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(以下「2022年6月報告」という)において、中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向け、サステナビリティ情報等の非財務情報の開示充実の施策や四半期開示の見直しに係る施策を取りまとめていた。2022年6月報告では、四半期開示に関して四半期決算短信に一本化する方向性が示されたが、この具体化に向けた課題や、サステナビリティ開示に関して、我が国におけるサステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という)の役割の明確化やロードマップについて、引き続き検討することとされていた。

DWGでは、これらの事項について2022年10月から4回にわたって審議を行ってきており、本報告書はその検討結果を取りまとめたものとして公表されたものである1

3. 本報告書の内容

本報告書の構成は、図表1のとおりである。

【図表1】 本報告書の構成

【図表1】 本報告書の構成
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3.1 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング

2022年6月報告では、四半期開示について、コスト削減や開示の効率化の観点から金融商品取引法の四半期報告書(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」する方向性が示されていた。本報告書では、「一本化」の具体化にあたって、四半期開示を含めた期中開示全体を俯瞰した検討が重要とされ、取引所の適時開示の充実を図りながら、将来的に期中における情報開示のあり方について、信頼性を確保しつつ、投資判断における重要性が高まっている適時の情報開示に重点を置いた枠組みへと見直していくことも考えられるとして、これらの議論を踏まえ、「一本化」の具体化における各論点について次の通り検討が行われている。なお、本報告書における四半期開示の見直しの概要は図表2のとおりである。

【図表2】 四半期開示「一本化」の概要

【図表2】 四半期開示「一本化」の概要
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(1)四半期開示の見直し

現行の四半期開示は、速報性と、比較可能性及び信頼性を確保しながら、特定の期限までに、集約された財務情報が開示される枠組みであり、その情報を基に投資家が投資判断を行うという実務が形成されており、この四半期開示については、投資家及び企業双方にメリットがあるとされてきた。

一方、積極的な適時開示により期中において充実した情報が適時に提供される環境が確立できれば、必ずしも一律に四半期開示を求める必要はないとの考え方も聞かれている。

この四半期開示の任意化については、例えば図表3のような意見が聞かれているとされている。

【図表3】四半期開示の任意化に対する意見

任意化を求める意見

任意化に慎重な意見

●四半期開示は膨大な人的資源の投入を必要とし、企業に多大な事務負担をもたらしている。

●そもそも適時開示と、四半期開示のような定期開示とは性質が異なるため、必ずしも適時開示の充実により四半期開示を代替できるわけではない。

●「一本化」後の四半期決算短信の任意化への反対意見

 ▶現在、企業において適時開示が期待通りに行われていない状況を踏まえると、四半期決算短信の任意化は困難であり、企業の開示に対する意識やカルチャーの改善が必要

 ▶任意化により企業の情報発信が全体として低下し、グローバルな投資への影響が危惧され、任意化のメリットである企業負担の軽減よりもデメリットが上回るおそれ

 ▶四半期開示を任意化した欧州企業のように、株主総会前に十分な期間を空けて有価証券報告書を開示すべきであるところ、企業においてそのような姿勢が整っていないにも関わらず任意化することは開示の後退を招く

(出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.3-4をもとに筆者作成

本報告書では、上記の「任意化に反対する意見」に見られるように、日本企業の開示を巡る現状に照らすと、経営戦略の進捗状況の確認としての意義、平均的な企業の開示姿勢への懸念や、開示の後退と受け取られることで日本市場全体の評価が低下するおそれ等に鑑みて、当面は、四半期決算短信を一律に義務付けることが考えられる、としている。

そのうえで、将来的な四半期決算短信の任意化については、今後、適時開示の充実の達成状況や企業の開示姿勢の変化のほか、適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見等を踏まえたうえで、幅広い視点から継続的に検討していくことが考えられる、としている。
 

(2)適時開示の充実

本報告書では、企業環境の急速な変化や情報技術の進展等を背景に、投資家の投資判断において企業による適時の情報開示の重要性は高まっており、また、(1)に記載の四半期開示の任意化を検討する前提として、適時開示の充実は重要な考慮要素である、とされている。

本報告書では、企業の積極的な適時開示を促すために、取引所において継続的に検討を進めることが考えられる事項として次の点を挙げている2

●取引所における好事例の公表やエンフォースメントの強化

●適時開示ルールの見直し(細則主義から原則主義への見直し、包括条項における軽微基準の見直し)

●適時開示ルールの見直しについては、細則が定められている中でこれまで実務が行われてきた点や、インサイダー取引規則及びフェア・ディスクロージャー・ルールとの関係を考慮すべきとの意見があり、これらも踏まえた検討が必要である。

 

また、本報告書では、投資判断における適時開示情報の重要性が高まることを踏まえると、適時開示情報の信頼性を確保することが重要となるが、これに対しては、次の点を検討することが考えられるとしている2

●企業における一層の体制整備

●将来的に、重要な適時開示事項(例えば、企業が公表する重要な財務情報等)について臨時報告書の提出を求めることを検討すること

●ただし、重要な適時開示事項を臨時報告書の提出事由とすることについては、対象が過度に広がりすぎると企業負担の増加となることから、その対象範囲を明確化すべきとの意見があり、将来、具体化する際には、重要な適時開示事項の範囲や、将来情報が含まれる場合の取り扱いについて検討していることが考えられる。

 

(3)四半期決算短信の開示内容

本報告書では、「一本化」後の四半期決算短信の開示内容について聞かれた意見としては主に図表4に示したものがあったとされている。

【図表4】四半期決算短信の開示内容について聞かれた意見

開示内容の追加拡充は不要との意見

現行の開示内容のままでは、投資判断に必要な情報が十分に提供されなくなるおそれがあるとの意見

●四半期決算短信の速報性の確保や企業負担への配慮、四半期決算短信の発表と併せて行われる企業の自主的な開示の促進の観点から、開示内容の追加拡充は不要

●これまでの四半期決算短信は、その後に四半期報告書が開示されることを前提に、速報性の観点から開示内容が簡素化されてきた経緯がある。

●投資家においては、四半期報告書の注記情報等を投資判断に利用している実務がある。

(出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.5-6をもとに筆者作成

本報告書では、こうした意見や、現在の我が国の平均的な企業における開示姿勢等を踏まえると、今回の見直しが情報開示の後退と受け取られないようにする観点からは、原則として速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報等)について、四半期決算短信の開示内容を追加する方向で、取引所において具体的に検討を進めることが考えられる、としている。
 

(4)四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無

本報告書では、四半期報告書については、これまで、四半期連結財務諸表に対する信頼性を確保する観点から、監査人によるレビューが求められてきたところ、「一本化後」の四半期決算短信に対する監査人によるレビューの要否について聞かれた意見としては、主に図表5のとおりとしている。

【図表5】「一本化後」の四半期決算短信に対する監査人のレビューの要否に関する意見

監査人によるレビューの義務付けを求める意見

監査人によるレビューの義務付けを不要とする意見

●財務情報の信頼性の確保、虚偽記載の早期発見、虚偽記載の動機の抑止等の観点

●第1・第3四半期報告書廃止後に上場会社が提出することとなる半期報告書と年度の有価証券報告書に対して監査人によるレビューや監査を行うことで、財務情報の信頼性を確保していくことが考えられる。

●速報性の観点

(出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.7をもとに筆者作成

本報告書では、これらの意見を踏まえると、速報性の観点等から、四半期決算短信については監査人によるレビューを一律には義務付けないことが考えられる、としている。

他方、投資家から監査人によるレビューを求める意見が一定程度あることや、企業側にもレビューを受けるかどうかは企業側の判断に委ねるべきであるとの意見があることを踏まえ、企業においてレビューを受けるかどうかは任意とするとともに、投資家への情報提供の観点からレビューの有無を四半期決算短信において開示することが考えられる、としている。

あわせて、例えば、会計不正が起こった場合(これに伴い、法定開示書類の提出が遅延した場合を含む)や企業の内部統制の不備が判明した場合、信頼性確保の観点から、取引所規則により一定期間、監査人によるレビューを義務付けることが考えられる、としている。その際、 監査人によるレビューを義務付ける要件やその期間については、取引所において、不適正開示等に対する実効性確保措置との関係も踏まえつつ、具体的に検討を進めることが期待される、としている。
 

(5)四半期決算短信の虚偽表示に対するエンフォースメント

本報告書では、四半期決算短信の虚偽表示に対するエンフォースメントについては、次のような考えを示している3

●四半期決算短信は取引所における開示書類であるため、「一本化」後の四半期決算短信の虚偽表示に対しては、まず、取引所においてエンフォースメントをより適切に実施していく。

●法令上のエンフォースメントについて、四半期決算短信に関しても情報の信頼性・正確性を確保する観点から、虚偽記載について民刑事責任の責任や課徴金などの対象とすべきとの意見があったが、これまで四半期報告書のみを対象とした課徴金納付命令は極めて少ないことや、第1・第3四半期報告書廃止後の半期報告書及び有価証券報告書において法令上のエンフォースメントが維持されることを踏まえると、現時点では、これを不要とすることが考えられる。

●「(2)適時開示の充実」のとおり、将来的に、重要な適時開示事項(例えば、企業が公表する重要な財務情報等)を臨時報告書の提出事由とする場合には、四半期決算短信に含まれる情報も重要な適時開示事項に含め臨時報告書の提出事由とすることを検討していくことが考えられる。

 

(6)半期報告書及び中間監査のあり方

金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業は、開示義務が残る第2四半期報告書を、同法上の半期報告書として提出することとなるが、当該半期報告書の取扱いやこれに対する中間監査のあり方について、本報告書では次のような考えを示している4

●上場企業と投資家のこれまでの実務への配慮や、半期の財務諸表に対する保証に関する国際的な整合性の観点から、上場企業の半期報告書については、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求め、提出期限を決算後45日以内とすることが考えられる。

●非上場企業については、金融商品取引法上、任意で、上場企業に義務付けられている四半期報告書を提出することができる枠組みがある。この点、これまでの実務への配慮や、半期報告書に求められている保証の枠組みを中間監査から国際的に整合性が図られているレビューに変更することで、海外投資家からの理解が深まるとの意見を踏まえると、非上場企業は、今回の四半期開示に見直し後においても、上場企業に義務付けられている半期報告書の枠組み(現在の第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビュー、45日以内の提出)を選択可能とすることが考えられる。

●なお、これまで、上場企業である銀行や保険会社等(金融商品取引法における「特定事業会社」)については、第2四半期報告書において、連結ベースに加え、単体ベースの中間財務諸表の開示と中間監査が求められてきた。これらについては、金融商品取引法上の第1・第3四半期報告書廃止後に、上場企業と同様の制度(現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容と、監査人のレビュー)に見直すべきとの意見があった。しかしながら、本件については、金融監督上の観点から、引き続き検討していくことが必要である。

 

(7)その他の論点

①会計基準・監査基準の整備

現行の四半期報告書に記載される四半期財務諸表は、企業会計基準委員会が設定した四半期会計基準に基づいて作成され、これに対する監査人のレビューは企業会計審議会が策定した四半期レビュー基準に準拠して行われている。本報告書では、これらの基準については、「一本化」後の四半期決算短信や半期報告書へ適用できるようにすることが合理的であるとの意見が聞かれたことを踏まえ、当局、ASBJ、取引所、日本公認会計士協会などの関係者において、今回の見直しに伴う必要な対応を行うことが考えられる、としている。

②公衆縦覧期間の延長

現行の半期報告書及び臨時報告書について、金融商品取引法上の公衆縦覧期間がこれらの報告書の虚偽記載に対する課徴金の除斥期間より短いため、これらの報告書に対して、課徴金納付命令が行われる前に、公衆縦覧期間が終了している状態が生じかねない。本報告書ではこの点について、四半期報告書の廃止に伴い、半期報告書及び臨時報告書の法定開示上の重要性が高まることを踏まえると、これらの公衆縦覧期間については、金融商品取引法を改正し、有価証券報告書の公衆縦覧期間及び課徴金の除斥期間である5年間へ延長することを提案している(図表6)。

【図表6】半期報告書及び臨時報告書の公衆縦覧期間

【図表6】 半期報告書及び臨時報告書の公衆縦覧期間
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3.2 サステナビリティに関する企業の取組みの開示

(1)サステナビリティ開示を巡る国際的な動向と我が国における対応

本報告書では、サステナビリティ開示を巡る国内外の動きについて、図表7に示した内容を紹介している。そのうえで、我が国では、民間の取組みを基礎としながら、国際的な整合性を図りつつ、全体として充実したサステナビリティ開示を着実に進めていくことが重要であり、この観点から、国内の開示基準の検討や有価証券報告書への取込み、保証のあり方の議論、さらにこれらを支える人材育成等が必要となる、としている。特に人材育成については、中長期的な取組みが必要となり、例えば、サステナビリティ情報の作成や利用等に関する教育・訓練・研修を充実すること等により、社会全体として人材育成に取り組んでいくこととともに、企業において、サステナビリティ開示の充実に向けて積極的に対応できるようなリソース配分を適切に実施していくことも重要である、としている。

【図表7】サステナビリティ開示を巡る国内外の動き(2023年1月20日現在)

主体

議論されている主な内容

ISSB5

●IFRSサステナビリティ開示基準(S1及びS2)を2023年前半に最終化することを目指して、公開草案後の議論を行っている。

欧州

●2021年4月に公表された企業サステナビリティ報告指令(Corporate Sustainability Reporting Directive; CSRD)案が2022年11月に最終化された。

●2022年4月には、CSRDに基づく具体的な開示基準である欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standards; ESRS)案を欧州財務報告諮問グループ(European Financial Reporting Advisory Group; EFRAG)が公表し、市中協議を経て、2022年11月に欧州委員会(European Commission; EC)に送付され、更なる検討が進められている。

米国

●証券取引委員会(Securities and Exchange Commission; SEC)が2022年3月に気候関連開示を義務化する規則案を公表して市中協議を行い、検討が進められている。

日本

●2022年7月にサステナビリティ基準委員会(Sustainability Standards Board of Japan; SSBJ)が正式に設立された。

●有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」を新設すること等を内容とする「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を2023年3月期の有価証券報告書から適用することが提案されている。

(出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.12-13をもとに筆者作成
 

(2)サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の役割や開示基準の位置付け

本報告書では、今後、ISSBにおける基準開発の方向性を見据えながらサステナビリティ情報に関する我が国の開示基準を開発し、これを法定開示である有価証券報告書に取り込んでいく場合には、我が国の開示基準設定主体や当該開示基準設定主体が開発する開示基準を、法令の枠組みの中で位置付けることが重要である、としている。

その際に、我が国の会計基準設定主体や企業会計基準が金融商品取引法令上の枠組みの中で位置付けられていることが参考となる、としている。金融商品取引法では、会計基準設定主体について図表8の5つの要件を規定したうえで、この要件を満たす団体が開発する企業会計基準について、金融庁長官が「一般に公正妥当であると認められる企業会計の基準」として告示指定することとされていることを紹介している。

【図表8】会計基準設定主体に求められる要件6

①独立性

②偏りのない多数の者からの継続的な資金提供

③高い専門性を備えた者による合議制の機関の存在

④基準設定における公正かつ誠実な業務運営

⑤経営環境及び会社実務の変化への対応並びに国際的な収れんの観点からの継続的な検討

 

本報告書では、上記を参考に、サステナビリティ情報についてもその開示基準の設定主体と開示基準自体を金融商品取引法令の中で位置付けることが考えられるとしたうえで、SSBJについては、図表9の5つの要件を満たし得ると考えられる、としている。

【図表9】SSBJが満たし得る5つの要件7

①独立性

②偏りのない多数の者からの継続的な資金提供

③高い専門性を備えた者による合議制の機関の存在

④基準設定における公正かつ誠実な業務運営

⑤経営環境及び会社実務の変化への対応並びに国際的な整合性8の観点からの継続的な検討

 

今後、必要となる関係法令の整備を行うとともに、上記の条件を満たしたSSBJが開発する開示基準について、個別の告示指定により我が国の「サステナビリティ開示基準」として設定することで、サステナビリティ開示の比較可能性を確保し、投資家に有用な情報を提供していくことが重要である、としている。
 

(3)サステナビリティ情報に対する保証のあり方

本報告書では、サステナビリティ情報に対する第三者による保証についての現在の議論の状況について、次の内容が紹介されている9

●国際的には、欧州や米国において限定的保証から導入し、合理的保証に移行するアプローチが提案されている。

●監査・保証に関する国際的な基準設定主体である国際監査・保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board; IAASB)において、基準開発に向けた審議が開始されており、今後、2023年9月までに基準の公開草案を承認し、2024年12月から2025年3月の間に最終化することが予定されている。

●国際会計士倫理基準審議会(International Ethics Standards Board of Accountants; IESBA)においても、2022年12月にサステナビリティ情報に対する保証に係る倫理規則の開発プロジェクトを承認しており、2023年9月までに公開草案を承認し、2024年12月に最終化することが予定されている。

 

そのうえで、有価証券報告書において、我が国の開示基準に基づくサステナビリティ情報が記載された場合には、法定開示において高い信頼性を確保することに対する投資家のニーズや、国際的に保証を求める流れであることを踏まえ、将来的に、当該情報に対して保証を求めていくことが考えられる、としている。本報告書では、具体的に検討すべき内容として主に次の内容を示している10

●どの範囲に対して保証を求めるかについて検討する必要がある。

●有価証券報告書に記載されたサステナビリティ情報に対して保証を求める場合には、金融商品取引法において規定することが必要になる。

●保証の担い手については、ISSBが開発しているサステナビリティ開示基準において、財務情報との結合性(コネクティビティ)を前提としていることを踏まえると、財務情報の監査業務を行っている公認会計士・監査法人によって担われることが考えられる。
 なお、サステナビリティとういテーマが広範であり、多様な専門性を必要とする領域であることを踏まえると、保証の担い手を広く確保することも重要だと考えられる。

●担い手の要件については、独立性や高い専門性、品質管理体制の整備、当局による監督対象となっていることなどが考えられる。

●保証基準や保証水準については、我が国の開示基準が、国際的な開示基準と整合的なものとなることを目指していることを考えると、保証についても、国際的な保証基準と整合的な形で行われることが、比較可能性の確保に資すると考えられる。

 

(4)ロードマップ

本報告書では、サステナビリティ開示について、企業や投資家における予見可能性を高め、実務的な準備を確実に進める観点から、我が国におけるロードマップを示していくことが考えられるとして、図表10に示したロードマップを別添資料として公表している。これは、国際的な動向が流動的であることを踏まえ、将来の状況変化に応じた随時見直しをすることを前提としている、とされている。

【図表10】我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ

【図表10】 我が国におけるサステナビリティ開示のロードマップ
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4. おわりに

本報告書で示された四半期開示の見直しについては、今後、金融商品取引法をはじめとした関連法令の改正案の動向を注視するとともに、企業、投資家及び監査人等の利害関係者が十分に対話を行い、開示情報の位置付けを明確に理解しておく必要があろう。また、本報告書でも言及されていたとおり、長期的な観点からは、適時開示を強化していくことへの準備も必要であると考えられる。

サステナビリティ開示については、グローバルで議論が進んでいるが、我が国においては、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案が公表されており、2023年3月期の有価証券報告書から、サステナビリティに関する企業の取組みの開示を行うことが提案されており、まずはこれらへの対応が必要である11

以 上

1 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.1
2 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.5
3 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.8-9
4 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.9-10
5 International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)の略称である。
6 財務諸表等規則第1条第3項
7 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.14
8 本報告書では、会計基準設定主体の要件⑤は「国際的な収れん」とされているが、サステナビリティ開示に係る基準設定主体の場合には、国際的にサステナビリティ開示に係る基準開発が行われることとなった背景に国際的な比較可能性の確保があることを踏まえ、例えば「国際的な整合性」の観点を要件とすることが考えられる、とされている。
9 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.14-15
10 出所:金融庁「金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年12月27日)p.15-16
11 金融庁ウェブサイト「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案の公表について:金融庁(fsa.go.jp)

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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