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2022年IPO市場の動向

月刊誌『会計情報』2023年3月号

IPO戦略推進室・IPO監査専門チーム 公認会計士 鈴木 覚

1. はじめに

2022年における株式市場は、ロシア・ウクライナ情勢や資源高などの影響を受け、国内IPO企業数は112社(TOKYO PRO Marketへの上場21社を含む)と、2021年の138社(TOKYO PRO Marketへの上場13社を含む)から26社減少する結果となった。

2021年の国内IPO企業数は、前年比で減少トレンドとなっているものの、図表1のとおり長期トレンドで見ると2021年(138社)に次ぐ水準となっており、国内IPO市場は引き続き堅調といえる。

また、東証においては、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な市場を提供することを目的として、2022年4月に市場区分の見直しが行われている。以下、新・旧市場区分の移行期を含む2022年の国内IPO市場の動向と特徴を整理してみることとする。

686KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。
【図表1】国内IPO企業数の推移(単位:社)

2. 2022年のIPOの特徴

2022年のIPOの主な特徴を要約すると、以下のとおりである。各項目の詳細については後述する。

① 市場別…グロース市場へのIPOの割合は高く、新市場区分の84%を占めている。

② 業種別…情報通信業が全体の35%、サービス業が全体の33%を占めた。

③ 発行総額…ロシア・ウクライナ情勢や資源高などの影響を受けた株式市場の相場変動を背景に、発行総額100億円を超えるIPO企業は3社となり、中小型IPOが中心となった。また、海外での募集・売出しを実施したIPOは18社(前年30社)となり、海外オファリングも減少した。

④ IPOのタイミング…期越え上場数は39社となり、全体の42%を占める結果となった。

⑤ IFRS適用によるIPO…2021年は投資ファンドが主要株主となっている企業など10社がIFRS(国際財務報告基準)を適用した。一方、2022年は、IFRS適用IPO企業は無かった。

⑥ 時価総額…初値時価総額1,000億円以上の企業は3社となり、前年6社から減少した。

⑦ 赤字上場…上場直前期の当期純損失企業は25社あり、前年23社から増加した。

① 市場別

直近の市場別のIPO企業数は、図表2のとおりである。2022年のプライムへのIPO企業数は2社、スタンダードへのIPO企業数は9社となっている。グロースへのIPO企業数は61社であり、新市場区分全体のIPO企業数に占める割合は84%と高い水準となっている。なお、TOKYO PRO Marketでは21社の上場があり、前年の13社から増加している。

【図表2】市場別IPO企業数の推移(単位:社)

② 業種別

2022年にIPOした企業の業種別の内訳(TOKYO PRO Marketを除く)は図表3のとおりである。2022年では情報通信業32社、サービス業30社となり、2業種合計では62社と全体の68%(前年同期も同じ68%)を占めている。内訳を見ると、情報通信業は35%(前年同期42%)、サービス業は33%(前年同期26%)となっており、情報通信業の割合が減り、サービス業の割合が増える傾向値となった。

代表的な情報通信業では、VTuber グループ「にじさんじ」を手掛けるANYCOLOR㈱があり、代表的なサービス業では、一般・産業廃棄物の収集運搬、中間処理・再資源化および最終処分を中心とする環境関連事業および有価資源リサイクル事業を営む大栄環境㈱がある。後述する初値時価総額ではいずれも1,000億円を超えるIPOとなった。

【図表3】業種別IPO企業数(単位:社)

また、初値と公開価格の倍率が高かったIPO企業は図表4のとおりである。いずれも革新的な技術やサービスの提供が期待される企業や、人気のオンラインコンテンツを持つ企業など将来の成長が期待できるビジネス等に対する投資家の期待が高い傾向にあった。

一方で、初値が公開価格を下回った公開価格割れのIPO企業数の推移が図表5のとおりである。2022年においては、前述のとおり株式市場の相場変動を受け、初値が公開価格を下回った公開価格割れのIPO企業数は18社となり、2020年以降引き続き高い水準で推移している。

【図表4】公開価格比(初値と公開価格の比)が高かった企業
【図表5】初値が公開価格を下回ったIPO企業数の推移(単位:社)

③ 発行総額

公募金額及び売出し金額を合計した発行総額レンジ別のIPO企業数は、図表6のとおりである。2022年の特徴として、発行総額100億円以上のIPO企業数は3社となっており、過去5か年トレンドで最も低い水準となっている。一方、発行総額10億円未満のIPO企業数は38社となっており、2022年の発行総額レンジを見ると、比較的小規模のIPOが多い傾向が見受けられる。

【図表6】発行総額レンジ別のIPO企業数の推移(単位:社)

また、図表7のとおり、海外オファリングは減少傾向となった。2022年に海外での募集・売出しを実施したIPOは18社(前年30社)であり、グローバル・オファリングを実施した3社(㈱ティムス、大栄環境㈱、スカイマーク㈱)のほか、中型のIPOにおいて、臨時報告書方式により株式の一部を海外投資家へ販売するオファリング方法が中心となっている。

【図表7】グローバル・オファリング及び臨時報告書方式によるIPOの推移(単位:社)

④ IPOのタイミング

最近はIPOのタイミングが上場申請期の期初から長い企業が多い傾向にあるが、2022年も同様の傾向にある。図表8では、2020年、2021年及び2022年の上場申請期の期初からIPOするまでの月数別の企業数を示している。

【図表8】上場直前期末からIPOするまでの月数別企業数(単位:社)

過去より上場申請期の第3四半期期末月(=上場申請期の期初から数えて9か月目)以降に上場する企業数が、それ以前の月と比較して多い傾向があったが、2022年においても、引き続きこの傾向が見受けられる。また、上場申請期の期初から数えて13か月目から15か月目での上場、いわゆる「期越え上場」については、図表9で示すとおり、2022年は39社と全体の42%を占めており、直近3か年で最多の水準となっている。これは、業績予想の達成状況を慎重に見極めてから上場する会社が多いことに起因していると考えられるが、2020年から続く新型コロナウイルス感染症の影響に加え、前述のロシア・ウクライナ情勢や資源高などの影響を受け、その傾向が更に高まっているものと考えられる。

【図表9】期越え上場の件数と割合

⑤ IFRS適用によるIPO

最近のIFRSを適用して上場した企業は図表10のとおりであり、投資ファンドが主要株主となっているか若しくは資本上位会社がIFRSを適用している会社が中心となっている。IPOマーケットにおいては、投資ファンドが多くを出資するケースでは上場する際にIFRSを適用する傾向が見受けられる。

2021年にIFRSを適用して上場した企業は10社である。IFRSを適用した10社のうち、5社(ウイングアーク1st㈱、Appier Group ㈱、シンプレクス・ホールディングス㈱、PHCホールディングス㈱、㈱ネットプロテクションズホールディングス)は、初値時価総額500億円を超える企業であり、2021年のIPOの中でも、比較的規模の大きい企業がIFRSを適用している。一方、2022年においては、後述【図表12】のとおり、2022年は初値時価総額500億円を超えるようなIPO企業が前期比で減少しており、結果としてIFRS適用IPO企業は0社となった。

【図表10】IFRSを適用したIPO企業

⑥ 時価総額

初値時価総額1,000億円を超えるIPOは、2021年は6社(Appier Group ㈱、ビジョナル㈱、㈱プラスアルファ・コンサルティング、セーフィー㈱、PHCホールディングス㈱、㈱ネットプロテクションズホールディングス)であったが、2022年においては、ANYCOLOR㈱、㈱ソシオネクスト、大栄環境㈱の3社となっている。

ANYCOLOR㈱は、VTuber グループ「にじさんじ」の運営をしており、上場初値は4,810円(公募価格1,530円)をつけ、初値時価総額1,450億円は2022年上期で最大規模のIPOとなった。

2022年下期の初値時価総額1,000億を超えた企業の1社である㈱ソシオネクストはファブレス形態によりSoC(System on Chip)の設計・開発及び販売を行っている。上場前2事業年度の業績を見ると、図表11のとおり、売上高、利益共に増収増益となっている。なお、同社は、販売費及び一般管理費に占める研究開発費の割合を高めており、商談獲得に繋げる研究開発投資を事業戦略として推進していることが窺える。

【図表11】㈱ソシオネクストの業績推移(単位:百万円)

また、初値時価総額レンジ別のIPO企業数は、図表12のとおりであり、初値時価総額500億円を超えるIPOは、4社(前述の3社の他、スカイマーク㈱)となった。過去の水準と比較した場合、初値時価総額500億円を超えるIPO企業数は減少する結果となった。

なお、2022年における初値時価総額100億円以上のIPO企業の割合は全体の44%、500億円以上は全体の4%となっている。

【図表12】初値時価総額レンジ別のIPO企業数の推移	(単位:社)

⑦ 赤字上場

過去のIPO企業の業績を踏まえると、上場直前期に当期純損失を計上している企業や上場申請期に当期純損失を予想している企業が増加傾向にある。図表13のとおり、2022年においては、上場直前期の当期純損失を計上した企業は25社あり、過去の状況と比べると高い水準にある。また、上場申請期においても当期純損失の業績予想をしている企業は情報通信業、サービス業の業種を中心とする11社となっている。同じく図表13のとおり、上場直前期の当期純損失を計上したIPO企業数の割合は28%、上場申請期においても当期純損失の業績予想をしている企業数の割合は14%なっており、過去5年間の推移で見ると2022年のIPO市場の特徴としていわゆる赤字上場の割合は高水準となっている。

【図表13】当期純損失を上場直前期に計上、申請期に予想したIPO企業の推移(単位:社)

3 . おわりに

2022年は、株式市場はロシア・ウクライナ情勢や資源高などの影響を受け、IPO規模の面においてはかかる市況の影響を受けた結果、発行総額100億円を超えるIPO企業は3社と少なく、中小型IPOが中心となった。一方、IPO企業数の面では、前年比では減少トレンドとなっているものの、2022年において112社(TOKYO PRO Market含む)が新規上場を果たしており、国内IPO市場は引き続き堅調であるといえる。

東証においては、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な市場を提供することを目的として2022年4月に市場区分の見直しが行われた。2022年末時点でプライム1,838社、スタンダード1,451社、グロース516社、合計3,805社が上場をしており、2022年6月7日には㈱メルカリ、2022年11月28日には㈱メドレーなど、数社がグロースからプライムに市場区分を変更するなど、新興市場への上場を経てより上位の市場にステップアップしていく企業が登場している。プライム市場のコンセプトは「多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場」、グロース市場のコンセプトは「高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場」として位置づけられている。新市場区分においてもグロース市場へのIPO後、更なる企業価値の向上のためにプライム市場へとステップアップを志向する企業は引き続き進む傾向にあると思われる。

内閣府の成長戦略会議においては、2025年までにユニコーン50社創出を目標とし、2022年をスタートアップ創出元年として掲げるなど、改めて国を挙げて、スタートアップを支援し、新規産業創出を目指す方向が示されている。新型コロナウイルス感染症の再拡大、地政学リスクの高まりなどの不安要素を踏まえると、今後の株式市場は不確実性を伴う状況が継続していくものと考えられるが、かかる環境下においても、持続的に成長していくための手段の1つとしてIPOを目指すスタートアップ企業は底堅く増えていくことが期待される。IPOを目指す企業とそれを支える証券会社や監査法人等のIPO関係者は、新市場区分のコンセプトも踏まえ、IPOをゴールと考えるのではなく、上場後も新興企業等の持続的な成長を支える仕組みを引き続き考えていくことが重要であり、結果として日本経済の発展にも寄与すると考える。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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