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実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」の解説

月刊誌『会計情報』2023年5月号

公認会計士 早野 真史

1.はじめに

グローバル・ミニマム課税とは、2021年10月に経済協力開発機構(OECD)/G20の「BEPS包摂的枠組み」において国際的に合意された課税ルールであり、年間総収入金額が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業を対象に、一定の適用除外を除く所得について各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組みである。

2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)(以下「改正法人税法」という。また、改正法人税法が成立した2023年3月28日を、以下「改正法人税法の成立日」という。)において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税に係る規定(以下「グローバル・ミニマム課税制度」という。)が創設された。グローバル・ミニマム課税制度の適用は2024年4月1日以後開始する対象会計年度からとされている。企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)では、決算日において国会で成立している税法に規定されている方法に基づいて税効果会計を適用することとされているため(税効果適用指針第44項)、グローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれる企業は、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む。)において、税効果適用指針の定めに基づき、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用すべきか否かを検討する必要がある。しかしながら、グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計の適用については、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたことから、企業会計基準委員会(ASBJ)は、当面の間、必要と考えられる特例的な取扱いを示すこととし、実務対応報告第44号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した。

本稿では、本実務対応報告の概要について解説する。

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2.本実務対応報告の概要

① 範囲

本実務対応報告は、企業会計審議会が1998年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用される(本実務対応報告第2項)。

ASBJにおける審議の過程では、特例的な取扱いの対象は、決算日において、グローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれる企業とすることも考えられた。しかしながら、グローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断について、企業が適時にかつ適切に行えるか懸念があるとの意見が聞かれたため、本実務対応報告を適用する範囲については税効果会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとし、グローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれるか否かについての判断を企業に求めないこととされた。

② 会計処理

改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期連結決算及び四半期決算を含む。)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされた(本実務対応報告第3項)。

グローバル・ミニマム課税制度に基づいた基準税率(15%)までの上乗せ税額(以下「上乗せ税額」という。)は、多国籍企業グループを構成する事業体等について国別に算定された実効税率が基準税率を下回る場合、国別に集計された純所得に対する基準税率に至るまでの税額を、親会社等がその所在地国の税務当局に支払うものであるため、上乗せ税額の課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と、納税義務が生じる企業が相違することとなる。このような場合、企業会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に相違がある場合において、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という。)の額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益と法人税等を合理的に対応させることを目的とする税効果会計の現行の枠組みにおいて税効果会計を適用すべきか否かが、税効果会計基準及び税効果適用指針等において明らかではないと考えられる(本実務対応報告第10項)。

また、仮に税効果会計を適用する場合、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の会計処理については、次の点が明らかではないと考えられる(本実務対応報告第11項)。

(ⅰ) グローバル・ミニマム課税制度の適用によって、企業が、既存の税法の下で認識した繰延税金資産又は繰延税金負債を見直す必要があるかどうか

(ⅱ) 上乗せ税額を加味すると、税効果会計に使用する税率がどのような影響を受けるか

(ⅲ) グローバル・ミニマム課税制度に基づき、追加的な一時差異を認識すべきかどうか

このように、グローバル・ミニマム課税制度に基づく税効果会計の取扱いについては、その考え方が必ずしも明らかではないことに加え、実務上の負担も想定されることから、グローバル・ミニマム課税制度の適用を前提とした税効果会計を適用することは困難であると考えられるため、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととされた。

③ 開示

本実務対応報告において、開示についての定めはない。

国際会計基準審議会(IASB)が、2023年1月に公表したIASB公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」においては、OECDが公表した第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債の会計処理に関して、国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」の要求事項からの一時的な例外を設け、第2の柱モデルルールに関する法人所得税に係る繰延税金資産及び繰延税金負債についての認識及び情報開示の例外を適用したこと等の一定の事項の開示を提案しているが、本実務対応報告は主として2023年3月期決算に向けた短期的な対応をその目的としていることから、開示については求めないこととされた(本実務対応報告第7号)。

また、企業がグローバル・ミニマム課税制度の施行日以後その適用が見込まれるか否かの判断を適時にかつ適切に行うことについて懸念があるとの意見が聞かれているため、グローバル・ミニマム課税制度の影響が見込まれる企業において本実務対応報告を適用した旨の開示は求められていない(本実務対応報告第16項)。

④ 適用時期等

本実務対応報告は、公表日以後適用する(本実務対応報告第4項)。

また、本実務対応報告における特例的な取扱いは、グローバル・ミニマム課税制度の具体的な内容やグローバル・ミニマム課税制度の適用を前提として税効果会計を適用すべきかどうかが今後明らかになるまでの当面の取扱いであるため、特例的な取扱いを適用する期間は、ASBJが本実務対応報告の適用を終了するまでの間とされた。

 

3.おわりに

グローバル・ミニマム課税への対応にあたっては、令和5年度税制改正において上述した所得合算ルール(IIR)に係る法制化が行われた一方で、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)については、令和6年度改正以降の法制化が検討される。また、ASBJにおいては、今後、企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」及び税効果適用指針等の改正の要否が検討される予定であるため、今後の動向に留意が必要である。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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