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企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等の概要(第2回)

月刊誌『会計情報』2023年7月号

公認会計士 神谷 陽一

1. はじめに

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)は、本年5月2日に以下の公開草案及び関連する他の会計基準等の公開草案を公表した1。コメント期限は本年8月4日である。

  • 企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下「会計基準案」という)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第73号「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「適用指針案」、また、両者をまとめて以下「会計基準等案」という)

また、会計基準等案の公表と同日に、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という)より会計基準等案の影響を受ける実務指針等の改正案等が公表されている2

会計基準等案では、原則として、借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上する等の変更が提案されている。

本稿では、会計基準等案の概要を2回に分けて説明する。

第1回(2023年6月号掲載)

第2回(本稿)

  • 適用範囲及び用語の定義
  • リースの定義及び識別
  • 借手の会計処理
  • 貸手の会計処理
  • サブリース取引
  • セール・アンド・リースバック取引
  • 表示及び開示
  • 経過措置等

 

本稿における「基準〇項」、「指針〇項」の記載は、特段の断りがない限り、それぞれ会計基準案と適用指針案の項番号を示している。

720KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

2. サブリース取引

(1) サブリース取引の定義

サブリース取引とは、原資産が借手から第三者にさらにリースされ、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引をいう(指針4項(12))。

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現行基準においては、転リース取引を「リース物件の所有者から当該物件のリースを受け、さらに同一物件を概ね同一の条件で第三者にリースする取引」として、転リース差益等を計上するといった会計処理を定めていた。しかし、このような転リース取引には該当しない一般的なサブリース取引に関する定めはなかった。

会計基準等案では、サブリース取引を上記のとおり定義の上で、原則的な取扱いとしてIFRS第16号「リース」(以下「IFRS第16号」という)と同様の定めを置くこととした。さらに、一定の要件を満たす場合に、独自の例外的な取扱いを認めている。

(2) 原則的な取扱い

当初の借手(中間的な貸手)は、ヘッドリースについて借手として使用権資産及びリース負債を認識する。また、サブリースについて次のとおり貸手の会計処理を行う(指針85項から87項)。

  • サブリースがファイナンス・リースとオペレーティング・リースのいずれに該当するかを判定する。その際に、現在価値基準及び経済的耐用年数基準の判定は、ヘッドリースにおける使用権資産を参照する。
  • サブリースがファイナンス・リースに該当する場合、サブリースのリース開始日に、次の会計処理を行う。

① サブリースした使用権資産の消滅を認識する。

② サブリースにおける貸手のリース料の現在価値と使用権資産の見積残存価額の現在価値の合計額でリース投資資産又はリース債権を計上する。

③ 計上されたリース投資資産又はリース債権と消滅を認識した使用権資産との差額は、損益に計上する。

  • サブリースがオペレーティング・リースに該当する場合
    サブリースにおける貸手のリース期間中に、サブリースから受け取る貸手のリース料について、オペレーティング・リースの会計処理を行う(基準46項)。

(3) 例外的な取扱い

① 転リース取引(指針89項)

現行基準における転リース取引の取扱いについては、主に機器等のリースについて仲介の役割を果たす中間的な貸手の会計処理として実務に浸透している。そのため、会計基準等案では、このような転リースをサブリース取引の一形態と位置付けた上で、当該取扱いを踏襲して認めている。

② 中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合(指針88項)

中間的な貸手は、次の要件をすべて満たす取引について、サブリースにおいて受け取るリース料の発生時又は当該リース料の受領時のいずれか遅い時点で、貸手として受け取るリース料と借手として支払うリース料の差額を損益に計上することができる。

(1) 中間的な貸手は、サブリースの借手からリース料の支払を受けない限り、ヘッドリースの貸手に対してリース料を支払う義務を負わない。

(2) 中間的な貸手のヘッドリースにおける支払額は、サブリースにおいて受け取る金額にあらかじめ定められた料率を乗じた金額である。

(3) 中間的な貸手は、次のいずれを決定する権利も有さない。

  ① サブリースの契約条件(サブリースにおける借手の決定を含む)

  ② サブリースの借手が存在しない期間における原資産の使用方法

わが国の不動産取引の中には、中間的な貸手は、次のような場合にはヘッドリースの貸手に対して賃料を支払う義務を負わないという条項が含まれている場合がある。

  • サブリースの契約が締結されていない場合(空室リスク)
  • サブリースの借手が賃料を支払わない場合(賃料不払いリスク)

ASBJにおける審議では、中間的な貸手がこのような取引に対してヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行うことは、取引の実態を反映しない場合があるとの意見が聞かれた。

このような意見等を踏まえて、会計基準等案では、以上の例外的な取扱いを認めている。

 

3. セール・アンド・リースバック取引

(1) セール・アンド・リースバック取引の定義及び範囲

セール・アンド・リースバック取引は、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(リースバック)する取引である(指針4項(11))。

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(セール・アンド・リースバック取引の範囲の明確化)

会計基準等案では、次の取引をセール・アンド・リースバック取引に該当しないと明記している。

① 売手である借手による資産の譲渡が次のいずれかである場合(指針50項)

(1) 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という)に従い、一定の期間にわたり充足される履行義務(収益認識会計基準36項)の充足によって行われるとき

(2) 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という)の95項を適用し、工事契約における収益を完全に履行義務を充足した時点で認識することを選択するとき

② 売手である借手が原資産を移転する前に原資産に対する支配を獲得しない場合(指針54項)

 

IFRS第16号においては、①のように資産の譲渡が一定期間にわたり充足される履行義務に該当する場合についてセール・アンド・リースバック取引に該当するか否かは明確でない。しかし、わが国の実務では、例えば建設工事請負契約と一括借上契約が同時に締結される取引において、本論点は重要であり、多様な解釈がなされる懸念があった。これを踏まえ、会計基準等案では、そのような取引について、セール・アンド・リースバック取引に該当しないことを明確にしている(指針BC73項からBC77項)。

②についてはIFRS第16号における取扱いと整合性を図ったものである。これには資産の製造業者、貸手、借手の三者間で事前に交渉の上で、借手が当該資産を製造業者から一旦購入し、貸手に売却した上でリースバックを受ける場合が該当する可能性がある。借手は当該購入において、資産に対する法的所有権は獲得していたとしても、資産に対する支配は獲得していないと判断される場合がある。その場合、当該取引はセール・アンド・リースバック取引には該当せず、借手と貸手の間のリースとして会計処理される。

(2) 売手である借手による会計処理

売手である借手は、資産の譲渡が売却に該当するか否かに応じて、次のように会計処理する(指針51項)。

資産の譲渡が売却に該当しない場合

資産の譲渡とリースバックを一体の取引とみて、金融取引として会計処理を行う。すなわち、対象資産の認識を継続の上で、譲渡対価を金融負債として認識する。

資産の譲渡が売却に該当する場合

資産の譲渡について収益認識会計基準など他の会計基準等に従って、対象資産の認識を中止した上で譲渡損益を認識する。また、リースバックについて会計基準等案に従って借手の会計処理を行う。

 

(資産の譲渡が売却に該当するかどうかの判定)

次のいずれか又は両方に該当する場合、資産の譲渡は売却に該当しない(指針51項(1))。

① 資産の譲渡が収益認識会計基準などの他の会計基準等により売却に該当しないと判断される場合

② リースバックにより、売手である借手が、資産からもたらされる経済的利益のほとんどすべてを享受することができ、かつ、資産の使用に伴って生じるコストのほとんどすべてを負担することとなる場合(フルペイアウト)

 

①については、例えば、売手である借手が譲渡された資産について買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合には、収益認識適用指針69項により売却に該当しないと判断されることから、これに当てはまると考えられる。

以上の会計処理は、IFRS第16号ではなく、米国会計基準のTopic842「リース」の定めを参考にしている。

(資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合等の取扱い)

資産の譲渡が売却に該当する場合(指針51項(2))に、資産の譲渡対価が明らかに時価ではないとき、又は借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないときには、次のとおり取り扱う。明らかに時価ではない又は明らかに市場のレートではないかどうかの判定は、資産の時価と市場のレートでのリース料のいずれか容易に算定できる方に基づく(指針52項)。

  • 資産の譲渡対価が明らかに時価ではないとき

譲渡対価<時価のとき

時価を用いて譲渡損益を認識し、両者の差額を使用権資産の取得価額に含める。

譲渡対価>時価のとき

時価を用いて譲渡損益を認識し、両者の差額を金融取引として会計処理する。

 

  • 借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないとき

借手のリース料<市場のレートでのリース料のとき

両者の差額について譲渡対価を増額した上で譲渡損益を認識し、同額を使用権資産の取得価額に含める。

借手のリース料>市場のレートでのリース料のとき

両者の差額について譲渡対価を減額した上で譲渡損益を認識し、同額を金融取引として会計処理する。

 

以上の取扱いは、セール・アンド・リースバック取引に該当しない指針50項(1)及び(2)の取引(本稿の「3.(1)セール・アンド・リースバック取引の定義及び範囲」を参照)にも適用する(指針53項)。

会計基準等案では、貸手におけるリースを構成する部分とリースを構成しない部分への対価の配分について独立販売価格に基づく配分を要求している(第1回「5.(2)契約の対価のリースを構成する部分とリースを構成しない部分への配分」を参照)。この取扱いと整合するように、資産の譲渡対価が明らかに時価ではない場合等においては、資産の時価等に基づき譲渡損益を認識することとしている(指針BC82項)。

(3) 買手である貸手による会計処理

買手である貸手は、リースバックが、ファイナンス・リースに該当するかどうかの貸手による判定を行う(指針55項から66項)。この判定において、経済的耐用年数については、リースバック時における原資産の性能、規格、陳腐化の状況等を考慮して見積った経済的使用可能予測期間を用いるとともに、当該原資産の借手の現金購入価額については、借手の実際売却価額を用いる(指針83項)。

買手である貸手は、以上の判定結果に応じて、ファイナンス・リース又はオペレーティング・リースの会計処理を行う(指針84項)。

 

4. 表示及び開示

(1) 借手の表示

会計基準等案においては、借手の会計処理についてIFRS第16号と整合的なものとしている(第1回「4.借手の会計処理」を参照)。そのため、表示についてもIFRS第16号と整合的なものとしている。

① 使用権資産の表示

使用権資産については、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(基準47項)。

方法

表示例

(1) 対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目に含める方法

有形固定資産
 建物及び構築物(※)
 工具器具備品(※)
 (※)各項目内に関連する使用権資産が含まれる

(2) 対応する原資産の表示区分(有形固定資産、無形固定資産又は投資その他の資産)において使用権資産として区分する方法

有形固定資産
 建物及び構築物
 工具器具備品
 使用権資産

 

② リース負債及び利息費用の表示

リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する。また、貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする(基準48項)。

リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(基準49項)。

③ キャッシュ・フローの表示

会計基準等案と同日にJICPAより公表された会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」の改正案において、次のとおり提案されている。

支払リース料の内容

表示区分

リース負債の元本返済額部分

財務活動

リース負債の利息相当額部分

企業が採用した支払利息の表示と同様(営業活動又は財務活動)

利息相当額部分を区分計算していない場合

財務活動

リース負債に含めていない変動リース料、短期リース料、少額リース料の支払部分

営業活動

 

(2) 借手の開示

① 開示目的

注記における開示目的は、借手又は貸手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と合わせて、リースが借手又は貸手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示することにある(基準52項)。この開示目的の内容は、IFRS第16号と整合的である。

このような開示目的を定めることで、企業に対してリースの開示の全体的な質と情報価値の十分性の評価を要求することとなり、より有用な情報が財務諸表利用者にもたらされると考えられる(基準BC58項)。

借手の注記事項は、以上の開示目的との関連を踏まえて、次のように分類される(基準53項(1))。

① 会計方針に関する情報

② リース特有の取引に関する情報

③ 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報

② 注記事項
(会計方針に関する情報)

次の会計処理を選択した場合、その旨及びその内容を注記する(指針93項)。

(1) リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行う選択(基準27項)

(2) 指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料に関する例外的な取扱いの選択(指針23項)

(3) 借地権の設定に係る権利金等に関する会計処理の選択(指針24項及び121項から123項)

 

(リース特有の取引に関する情報)

リースが借手の財政状態又は経営成績に与える影響を理解できるよう、次の項目を注記する(指針91項及び、95項から97項)。

注記事項

使用権資産の帳簿価額について、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合の表示科目ごとの金額

指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料に関する例外的な取扱い(指針23項)を選択したリースに係るリース負債が含まれる科目及び金額

借地権について、償却していない権利金等(指針24項但し書き又は121項)が含まれる科目及び金額

リース負債と使用権資産を認識しない処理をした短期リース(指針18項)に係る費用の発生額が含まれる科目及び当該発生額

リース負債に含めていない借手の変動リース料に係る費用の発生額が含まれる科目及び当該発生額

セール・アンド・リースバック取引について、

  • 関連する売却損益が含まれる科目及び金額
  • 資産の譲渡が売却に該当する(指針51項(2))取引について、その主要な条件

サブリース取引について、

  • 関連する収益が含まれる科目及び金額
  • 中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合のサブリース取引について計上した損益(指針88項)が含まれる科目及び金額
  • 転リースに係るリース債権又はリース投資資産とリース負債を利息相当額控除前の金額で計上する場合(指針89項なお書き)に、これらの金額が含まれる科目及び金額
  • 開示目的に照らして注記する情報として、例えば、次のようなもの

 (1) 借手のリース活動の性質

 (2) 借手が潜在的に晒されている将来キャッシュ・アウトフローのうちリース負債の測定に反映されていないもの(例えば、借手の変動リース料、延長オプション及び解約オプション、残価保証、契約しているがまだ開始していないリース)

 (3) 借手がリースにより課されている制限又は特約

 (4) 借手がセール・アンド・リースバック取引を行う理由及び取引の一般性

 

(当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報)

当期及び翌期以降のリースの金額を理解できるよう、次の項目を注記する(指針98項)。

注記事項

リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額(少額リースに係るものを除く)

使用権資産の増加額

対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとの使用権資産に係る減価償却の金額

 

以上の注記事項に加えて、リース負債については、会計基準等案と同日に公表された企業会計基準適用指針公開草案第77号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」において、次のとおり提案されている。

  • 現行基準におけるリース債務と同様に、返済予定額の合計額を一定の期間に区分した金額を注記する。
  • 現行基準におけるリース債務と異なり、時価の注記は要求されない。

(3) 貸手の表示

会計基準等案においては、貸手の会計処理については基本的に現行基準の定めを踏襲している(第1回「5.貸手の会計処理」を参照)。そのため、表示についても基本的に現行基準を踏襲している。

① リース債権及びリース投資資産の表示(基準50項)

それぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する。但し、リース債権の期末残高が、当該期末残高及びリース投資資産の期末残高の合計額に占める割合に重要性が乏しい場合、両者を合算して表示又は注記することができる。

また、次のいずれかの場合、流動資産に表示する。

  • 企業の主目的たる営業取引により発生したもの
  • 貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するもの
② 収益の表示(基準51項)

次の項目は、収益認識会計基準において収益の分解情報の注記を求めていること等を踏まえて、表示又は注記が求められることとなった。

ファイナンス・リースに係る収益

以下を損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する。

(1) 販売損益(売上高から売上原価を控除した純額)

(2) リース債権及びリース投資資産に対する受取利息相当額

オペレーティング・リースに係る収益

損益計算書において区分して表示する又はそれが含まれる科目及び金額を注記する。これには、貸手のリース料に含まれるもののみを含める。

 

③ キャッシュ・フローの表示

会計基準等案と同日にJICPAより公表された会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」の改正案において、次のとおり提案されている。

受取リース料の内容

表示区分

営業損益計算の対象となる場合

営業活動

それ以外の場合

元本返済額部分

投資活動

利息相当額部分

企業が採用した受取利息の表示と同様(営業活動又は投資活動)

利息相当額を区分していないもの

投資活動

 

(4) 貸手の開示

貸手の開示については、主に次の理由で、IFRS第16号と整合的な注記事項とされた(基準BC60項、BC61項)。

  • 国際的に貸手の注記事項が拡充する中で、IFRS第16号と同様の注記を求めるべきであるという財務諸表利用者からの意見がある。
  • リースに関する収益が企業が生み出す収益の一形態であることを考慮すれば、収益認識会計基準と同様の注記を求めることが有用である。
① 開示目的

注記における貸手の開示目的は、借手と同様である(本稿の「4.(2)①開示目的」を参照)。

貸手について注記される項目は、借手と同様に開示目的との関連を踏まえて、次のように分類される(基準53項(2))。

 ① リース特有の取引に関する情報

 ② 当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報

② 注記事項
(リース特有の取引に関する情報)

リースが貸手の財政状態又は経営成績に与える影響を理解できるよう、次の項目を注記する。

ファイナンス・リースに係る事項

オペレーティング・リースに係る事項

  • リース債権とリース投資資産について、リース料債権部分及び見積残存価額部分の金額(ともに利息相当額控除前)並びに受取利息相当額(指針100項)
  • リース債権及びリース投資資産に含まれない将来の業績等により変動する使用料等に係る収益が含まれる科目及び金額(指針101項)
  • 貸手のリース料に含まれない将来の業績等により変動する使用料等に係る収益が含まれる科目及び金額(指針104項)
  • 開示目的に照らした追加の注記として、例えば、次のようなもの(指針90項、92項)

 (1) 貸手のリース活動の性質

 (2) 貸手による原資産に関連したリスクの管理戦略や当該リスクを低減している手段(例えば、買戻契約、残価保証、所定の限度を超える使用に対する変動リース料)

 

(当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報)

当期及び翌期以降のリースの金額を理解できるよう、次の項目を注記する。

ファイナンス・リースに係る事項

オペレーティング・リースに係る事項

  • リース債権及びリース投資資産の残高に重要な変動がある場合のその内容(指針102項)
  • リース債権及びリース投資資産に係るリース料債権部分について、貸借対照表日後5年以内における1年ごとの回収予定額及び5年超の回収予定額。リース料債権は、利息相当額控除前の金額とする(指針102項)
  • 貸手のリース料について、貸借対照表日後5年以内における1年ごとの回収予定額及び5年超の回収予定額(指針105項)

 

5. 経過措置

現行基準を定めたときの経過措置については、新しい会計基準の適用後も継続して適用することができる(指針109項から113項)。

以下では、新しい会計基準を適用する際の経過措置について説明する。

(1) 遡及適用の方法

新しい会計基準の適用初年度においては、次のいずれかの取扱いを行う(指針114項)。

  • 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、新しい会計基準を過去の期間すべてに遡及適用する(原則的取扱い)。
  • 適用初年度の期首より前に新しい会計基準を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用する(以下「容認法」という)。

会計基準等案では、その定めと関連すると考えられるIFRS第16号の経過措置を取り入れるとともに、わが国特有の経過措置を設けている。

(2) 容認法を選択した企業に対する経過措置

以下の経過措置が定められている。

① 貸手借手共通―リースの識別

以下のいずれか又は両方を適用することができる(指針115項)。

現行基準を適用しているリース取引

新しい会計基準に基づき契約がリースを含むか否かを判断せずに、新しい会計基準を適用すること

現行基準を適用していない契約

適用初年度の期首時点で存在する事実及び状況に基づいて、新しい会計基準に基づき契約がリースを含むか否かを判断すること

 

② 借手の会計処理

以下の会計処理を行うことができる(指針116項から118項)。

現行基準でファイナンス・リースに分類していたリース

適用初年度の前事業年度の期末日におけるリース資産及びリース債務の帳簿残高を、適用初年度の期首におけるそれぞれ使用権資産及びリース負債の帳簿価額とする。

リース資産及びリース債務の残高に残価保証額が含まれる場合、適用初年度の期首時点における残価保証に係る借手による支払見込額に修正する。

現行基準でオペレーティング・リースに分類していたリース及び新しい会計基準に基づき新たに識別されたリース

(1) 適用初年度の期首時点における残りの借手のリース料を適用初年度の期首時点の借手の追加借入利子率を用いて割り引いた現在価値によりリース負債を計上する。

(2) リース1件ごとに、次のいずれかで算定するかを選択して使用権資産を計上する。

 ① 新しい会計基準がリース開始日から適用されていたかのような帳簿価額。但し、適用初年度の期首時点の借手の追加借入利子率を用いて割り引く。

 ② (1)で算定されたリース負債と同額。但し、適用初年度の前事業年度の期末日に貸借対照表に計上された前払又は未払リース料の金額の分だけ修正する。

(3) 適用初年度の期首時点の使用権資産に「固定資産の減損に係る会計基準」(平成14年8月 企業会計審議会)を適用する。

(4) 少額リースとして(指針20項)使用権資産及びリース負債を計上しないリースについては修正しない。

なお、以上の(1)から(4)に関連して、リース1件ごとに適用できる簡便法が複数定められている(具体的内容は指針118項参照)。

 

③ 借手の開示

企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」の10項では会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に関する注記が求められている。同項における(5)の「表示期間のうち過去の期間について、影響を受ける財務諸表の主な表示科目に対する影響額及び1株当たり情報に対する影響額」については、これに代えて、次の事項を注記する(指針119項)。

(1) 適用初年度の期首の貸借対照表に計上されているリース負債に適用している借手の追加借入利子率の加重平均

(2) 次の両者の差額の説明

 ① 適用初年度の前事業年度の末日において現行基準を適用して開示したオペレーティング・リースの未経過リース料((1)の追加借入利子率で割引後)

 ② 適用初年度の期首の貸借対照表に計上したリース負債

④ 建設協力金等の差入預託保証金

会計基準等案において、建設協力金等の差入保証金の取扱いは、その一部を使用権資産の取得価額に含めるように変更された(第1回「4.(4)⑤使用権資産の当初測定」を参照)。

但し、新しい会計基準の適用初年度における遡及適用の方法として容認法を選択する借手は、次の(1)及び(2)については、それぞれ現行基準において採用していた会計処理を継続することができる。また、(1)に係る長期前払家賃及び(2)について、適用初年度の前事業年度の期末日の帳簿価額を適用初年度の期首における使用権資産に含めて会計処理を行うこともできる(指針124項)。

 

現行基準において採用していた会計処理(※)

(1) 将来返還される建設協力金等の差入預託保証金(敷金を除く)

支払額と時価との差額を長期前払家賃として計上し、契約期間にわたって各期の純損益に合理的に配分する。

時価と返済金額との差額は契約期間にわたって配分し受取利息として計上する。

(2) 差入預託保証金(建設協力金等及び敷金)のうち、将来返還されない額

賃借予定期間にわたり定額法により償却する。

※JICPA会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」133項

⑤ 貸手の会計処理

以下の経過措置が定められている(指針125項、126項)。

現行基準でファイナンス・リースに分類していたリース

前事業年度の期末日におけるリース債権及びリース投資資産の帳簿価額のそれぞれを適用初年度の期首におけるリース債権及びリース投資資産の帳簿価額とする。

これらのリースについては、適用初年度の期首から新しい会計基準を適用してリース債権及びリース投資資産について会計処理を行う。

但し、現行基準において、販売益を割賦基準により処理している場合、適用初年度の前事業年度の期末日の繰延販売利益の帳簿価額は適用初年度の期首の利益剰余金に加算する(販売益を利息相当額に含めて処理している場合にも同様)。

現行基準でオペレーティング・リースに分類していたリース及び新しい会計基準に基づき新たに識別されたリース

適用初年度の期首に締結された新たなリースとして、新しい会計基準を適用することができる。

 

⑥ サブリース取引

サブリースの貸手は、サブリースについて、次の修正を行う(指針127項)。但し、サブリース取引における例外的な取扱い(本稿の「2.(3)例外的な取扱い」を参照)を適用する場合は除く。

(1) 現行基準でオペレーティング・リースに分類していたサブリース及び新しい会計基準に基づき新たに識別されたサブリースについて、適用初年度の期首時点におけるヘッドリース及びサブリースの残りの契約条件に基づいて、サブリースがファイナンス・リースとオペレーティング・リースのいずれに該当するかを決定する。

(2) 上記(1)においてファイナンス・リースに分類されたサブリースについて、当該サブリースを適用初年度の期首に締結された新たなファイナンス・リースとして会計処理を行う。

(3) その他の経過措置

① セール・アンド・リースバック取引に関する経過措置(指針120項)

売手である借手は、新しい会計基準の適用初年度の期首より前に締結されたセール・アンド・リースバック取引を次のとおり取り扱う。

(1) 資産の譲渡について、収益認識会計基準などの他の会計基準等に基づき売却に該当するかどうかの判断を見直すことは行わない。

(2) リースバックを適用初年度の期首に存在する他のリースと同様に会計処理を行う。

(3) 現行基準の定めにより、リースの対象となる資産の売却に伴う損益を長期前払費用又は長期前受収益等として繰延処理し、リース資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上する取扱いを適用している場合、新しい会計基準の適用後も当該取扱いを継続し、使用権資産の減価償却費の割合に応じ減価償却費に加減して損益に計上する。

② 借地権の設定に係る権利金等に関する経過措置(指針121項から123項)

会計基準等案において、借地権の設定に係る権利金等については、原則として使用権資産の取得価額に含め、借手のリース期間を耐用年数として減価償却される(第1回「4.(5)②使用権資産の減価償却」を参照)。この「原則的な取扱い」に対して、以下の経過措置が定められている。

原則的な取扱いを適用する借手が新しい会計基準の適用初年度の期首に計上されている旧借地権又は普通借地権の設定に係る権利金等を償却していなかった場合

当該権利金等を使用権資産の取得価額に含めた上で、当該権利金等のみ償却しないことができる。

借手が次の(1)又は(2)のいずれかの場合に遡及適用方法について容認法(指針114項但し書き)を選択するとき

(1) 新しい会計基準の適用前に定期借地権の設定に係る権利金等を償却していた場合

(2) 旧借地権又は普通借地権の設定に係る権利金等について原則的な取扱いを適用する借手が新しい会計基準の適用前に当該権利金等を償却していた場合

新しい会計基準の適用初年度の前事業年度の期末日における借地権の設定に係る権利金等の帳簿価額を適用初年度の期首における使用権資産の帳簿価額とすることができる。

この場合、当該帳簿価額を新しい会計基準の適用初年度の期首から借手のリース期間の終了までの期間で償却する。このとき、借手のリース期間の決定にあたりリース開始日より後に入手した情報を使用することができる。

原則的な取扱いを適用する借手が、新しい会計基準の適用前に旧借地権又は普通借地権の設定に係る権利金等について償却していなかった場合に遡及適用方法について容認法(指針114項但し書き)を選択するとき

新しい会計基準の適用初年度における使用権資産の期首残高に含まれる当該権利金等について、当該権利金等を計上した日から借手のリース期間の終了までの期間で償却するものとして、当該権利金等を計上した日から償却した帳簿価額で算定することができる。このとき、借手のリース期間の決定にあたりリース開始日より後に入手した情報を使用することができる。

 

(4) IFRSを適用している企業に対する経過措置(指針128項)

IFRSを連結財務諸表に適用している企業(又はその連結子会社)がその個別財務諸表に新しい会計基準を適用する場合には、適用初年度において、次のいずれかの定めを適用できる。

  • IFRS第16号の経過措置を適用していたときにはその経過措置の定め
  • IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」の免除規定を適用していたときにはその免除規定の定め

 

6. 適用時期

新しい会計基準が2024年3月末までに公表されたとした場合、その適用時期は次のようになる(基準56項)。

 

適用時期

早期適用可能となる時期

3月決算企業

2026年4月1日に開始する事業年度の期首から

2024年4月1日以後に開始する事業年度の期首から

12月決算企業

2027年1月1日に開始する事業年度の期首から

2025年1月1日以後に開始する事業年度の期首から

 

以上

 

1 リンク先のASBJのホームページを参照
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2023/2023-0502.html

2 リンク先のJICPAのホームページを参照(https://jicpa.or.jp/specialized_field/20230502qqv.html

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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