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会計制度委員会研究報告「環境価値取引の会計処理に関する研究報告-気候変動の課題解決に向けた新たな取引への対応-」(公開草案)の概要(第1回)

月刊誌『会計情報』2023年9月号

公認会計士 豐岳 光晴

1. はじめに

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、2023年6月26日に、会計制度委員会研究報告「環境価値取引の会計処理に関する研究報告-気候変動の課題解決に向けた新たな取引への対応-」(公開草案)(以下、「本公開草案」という。)を公表した。

本稿では、本公開草案の概要を2回に分けて紹介する。

第1回

  • 我が国の会計基準における排出量取引の取扱い
  • クレジットを用いた近年の環境価値取引

第2回

  • 非化石証書を用いた環境価値取引
  • 研究内容を踏まえた提言

 

本公開草案は、5つのパートから構成されている。

「Ⅰ.はじめに」では、検討の経緯として種々の環境関連取引が近年行われていることを挙げており、本公開草案の検討の対象として環境価値を直接取引対象とする環境関連取引に限定していることが記載されている。

「Ⅱ.我が国の会計基準における排出量取引の取扱い」では、排出量取引に関する会計処理の会計基準における取扱いとして実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、「実務対応報告第15号」という。)の概要を紹介したうえで、どのような取引が実務対応報告第15号の適用対象となるのかの判断ポイントについて考察が行われている。

「Ⅲ.クレジットを用いた近年の環境価値取引」では、J-クレジット制度、二国間クレジット制度、ボランタリークレジット制度の概要等が紹介されている。また、環境価値が組み込まれた財又はサービスが提供される取引の例として、カーボンニュートラルガスを取り上げ、検討が行われている。

「Ⅳ.非化石証書を用いた環境価値取引」では、非化石証書の制度の概要を紹介したうえで、非化石証書を用いた取引としてコーポレートPPA(Power Purchase Agreement(電力購入契約))に関する会計上の論点について分析が行われている。

「Ⅴ.全体のまとめ」では、これまでの検討を踏まえ、非化石証書の会計処理、バーチャルPPAの会計処理についての提言が行われている。
第1回の本稿では、上記のうち「Ⅰ.はじめに」、「Ⅱ.我が国の会計基準における排出量取引の取扱い」及び「Ⅲ.クレジットを用いた近年の環境価値取引」の内容について紹介する。

第2回では、「Ⅳ.非化石証書を用いた環境価値取引」、及び、「Ⅴ.全体のまとめ」について紹介することを予定している。

(1)検討の経緯

企業のESG課題に対する取り組みの重要性が高まるなか、世界的な脱炭素、低炭素化によるサステナブルな社会の実現に向けた動きを踏まえて、種々の環境関連取引が行われるようになってきている。我が国では、環境関連取引については、2004年に企業会計基準委員会(ASBJ)より公表された実務対応報告第15号において、環境関連取引のうち、京都議定書で定められた京都メカニズムにおけるクレジット等の会計上の取扱いが定められているものの、昨今、幅広い企業に広がりを見せる非化石証書といった新たな環境関連取引に関し、会計処理が明らかにされていないものがある。

このような状況を踏まえ、日本公認会計士協会は、環境関連取引に関する会計処理の考え方を整理し、本公開草案を公表することとした。

(2)検討の対象及び検討の概要

環境関連取引には、例えば温室効果ガス排出削減・吸収という環境の保全に関する付加価値(以下、「環境価値」という。)を直接取引対象とするもののほか、サステナビリティ・リンク・ボンド等、サステナビリティ関連指標が取引条件に組み込まれた資金調達取引も含まれると考えられる。全ての環境関連取引を本公開草案で取り扱うことは困難であると判断し、環境価値を直接取引対象とする環境関連取引(以下、「環境価値取引」という。)を本公開草案の検討の対象とすることとしたとされている。

本公開草案では、クレジットと、非化石証書の性格の相違に着目し、両者を区分して検討が行われている。本公開草案で行われている検討の概要は以下の通りである。

  • 実務対応報告第15号の公表又は改正時に適用対象とすることが想定されていた従来のクレジットと、その後に広まったクレジット又は非化石証書の性質の類似性
  • 新たなクレジット又は非化石証書に実務対応報告第15号を適用することの可否
  • 新たなクレジット又は非化石証書に実務対応報告第15号が適用されない場合、当該クレジット又は非化石証書の資産性の有無

また、クレジットを用いた環境価値取引としてカーボンニュートラルガス、非化石証書を用いた環境価値取引として再生可能エネルギー由来の電力を調達するコーポレートPPAの会計上の論点について、検討が行われている。

(3)本公開草案の位置付け

本公開草案の対象とされている環境価値取引に係る会計上の取扱い等について、これまでの日本公認会計士協会における調査・研究の結果及びこれを踏まえた現時点における考えを取りまとめたものである。
なお、本公開草案で示されている考察は、現時点における調査・研究の成果を踏まえた考察であり、あくまでも現時点における一つの考え方を示したにすぎないことから、実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものでもないとされている。

593KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

2. 我が国の会計基準における排出量取引の取扱い

(1)実務対応報告第15号の概要

我が国の会計基準における排出量取引の取扱いについては、2004年にASBJから実務対応報告第15号が公表されている。

実務対応報告第15号は、京都メカニズムにおけるクレジットを対象とし、京都メカニズム以外のクレジットについても、会計上、その性格が類似しているものについては、実務対応報告第15号を参考に会計処理を行うものとされている。

実務対応報告第15号では、京都メカニズムにおけるクレジットを専ら第三者に販売する目的で取得する場合と、将来の自社使用を見込んで取得する場合に分けて会計処理が定められている。

本公開草案で主に想定している、クレジット等を自社で利用する場合の会計処理は【図表1】の通りである。

【図表1】将来の自社使用を見込んで排出クレジットを取得する場合の会計処理の考え方
 

会計処理の概要

他者から購入する場合

「無形固定資産」又は「投資その他の資産」の購入として会計処理を行う。

減価償却は行わず、自社の排出量削減に充てられたときに、費用計上する。

出資を通じて取得する場合

個別財務諸表上、出資を企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」に従って会計処理し、京都メカニズムにおけるクレジットが分配された場合は、株主が現金以外の財産の分配(現物の分配)を受けた場合と同様に会計処理を行う。

出資先が子会社又は関連会社に該当する場合には、連結財務諸表上、連結又は持分法により会計処理する。

無償で取得する場合

排出枠の取得時には会計上取引を認識しない。

排出枠を第三者へ売却した場合、売却の対価は仮受金その他の未決算勘定として計上し、当該スキームに参加する複数年度を通算して目標達成が確実と見込まれた時点で利益に振り替える。

 

(2)京都メカニズム におけるクレジットとの類似性の評価に関する考察

本公開草案では、実務対応報告第15号が公表されて以降に見られる新たな環境価値取引について、実務対応報告第15号の適用可否の判断のポイントを整理することを目的として、実務対応報告第15号で排出クレジットの性格として挙げられている特徴の整理を行っている。

本公開草案で示されている整理は、【図表2】のとおりである。

【図表2】実務対応報告第15号で排出クレジットの性格として挙げられている特徴の考察

(1)京都議定書における国際的な約束を各締約国が履行するために用いられる数値であること

環境関連の取組に関連して、定量的な数値(二酸化炭素換算量等)で示されるものであるということが特徴の一つとして挙げられると考えられる。

必ずしも「京都議定書における国際的な約束を各締約国が履行するため」のものである必要はないと考えられるものの、排出削減に関する一定の削減目標又は義務を達成するために用いられるものであるかどうかは考慮する必要があるとも考えられる。

(2)国別登録簿においてのみ存在すること

類似性の検討に当たっては「国別登録簿」そのものによる管理である必要はないものと考えられる。

クレジットの信頼性が確保されている必要はあると考えられることから、クレジットの発行が適切に行われていること、発行後のクレジットの帰属主体が明確となるように保有、移転、取得、取消、償却等の管理が適切に行われていることは重要なことと考えられる。

(3)所有権の対象となる有体物ではなく、法定された無体財産権ではないということ

有体物である場合には会計上も有形の資産としての会計処理の検討が、法定された無体財産権である場合には無形資産としての会計処理の検討が、まず行われるものと考えられることから、それらのいずれにも該当しないことが特徴の一つとして挙げられる。

(4)取得及び売却した場合には有償で取引され、財産的価値を有していること

保有するクレジットについて資産計上を行うことから、類似性の検討に当たっては、有償で取引され、財産的価値を有している必要があるものと考えられる。

「第三者への売却可能性に基づく財産的価値を有していることに着目して資産計上」され、「第三者へ売却する可能性がないと見込まれる場合には費用とすることが適当である。」とされていることから、第三者への売却可能性も考慮すべきポイントになるものと考えられる。

 

3. クレジットを用いた近年の環境価値取引

(1)J-クレジット制度

J-クレジット制度1とは、省エネルギー設備導入及び再生可能エネルギー利用によるCO2等の排出削減量並びに、森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度であり、国(経済産業省、環境省、農林水産省)が制度管理者となって運営されている。

J-クレジットは、地球温暖化対策の推進に関する法律(以下、「温対法」という。)やエネルギーの使用の合理化等に関する法律(以下、「省エネ法」という。)といった国内の法制度への報告及び国際イニシアチブへの報告(CDP2、RE1003等)並びに企業の自主的な取組など様々な用途への活用が可能である。

本公開草案で示されたJ-クレジットと京都メカニズムにおけるクレジットの特徴を踏まえた類似性に関する検討は【図表3】のとおりである。

【図表3】京都メカニズムにおけるクレジットの特徴に照らした類似性の検討(J-クレジット)

(1)京都議定書における国際的な約束を各締約国が履行するために用いられる数値であること

省エネルギー設備導入及び再生可能エネルギー利用によるCO2等の排出削減量、並びに森林管理によるCO2等の吸収量が「クレジット」として認証されたものであり、環境の取組に関連して定量的な数値で示されるものであると言える。

J-クレジットはNDC(国が決定する貢献、Nationally Determined Contributions)達成に資する可能性のあるカーボン・クレジットと考えられており、国内の法制度への報告(温対法や省エネ法)にも活用されている。

(2)国別登録簿においてのみ存在すること

制度管理者(経済産業省・環境省・農林水産省)によって「J-クレジット登録簿システム」において認証発行されたクレジットの保有、移転、無効化等が電子的に記録されている。

(3)所有権の対象となる有体物ではなく、法定された無体財産権ではないということ

所有権の対象となる有体物ではなく、また、法律上の取扱いは明確ではないため、法定された無体財産権にも該当しないと考えられる。

(4)取得及び売却した場合には有償で取引され、財産的価値を有していること

J-クレジットは相対取引及び入札販売により有償で売買される。このため、J-クレジットは、取得及び売却した場合には有償で取引され、財産的価値を有していると考えられる。

 

本公開草案では、J-クレジットは京都メカニズムにおけるクレジットとの類似性を一定程度有していると考えられるため、実務対応報告第15号の考え方を斟酌して会計処理を行う対象として取り扱うことも考えられるとされている。

しかしながら、実務対応報告第15号では排出クレジットとの類似性の判断基準が示されていないため、実務上、実務対応報告第15号の適用可否の判断についてばらつきが生じている可能性があると考えられるとの課題が示されている。

また、J-クレジット制度については、2022年6月公表の「カーボン・クレジット・レポート」においても記載されているとおり、「カーボン・クレジット市場」の創設等、J-クレジットを取り巻く環境の整備が検討されているところである。このため、今後更にJ-クレジットの性格について変化が生じる可能性があり、会計処理の検討に影響を及ぼす可能性があるとの課題が示されている。

(2)二国間クレジット制度

二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism: JCM)4は、日本が途上国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度である。

具体的には、日本政府が支援する事業の下、日本企業による投資を通じてパートナー国において優れた脱炭素技術やインフラ等の普及を促進することにより、パートナー国の温室効果ガス(GHG)排出削減・吸収や持続可能な発展に貢献し、その日本の貢献を定量的に評価してクレジットを獲得するという仕組みである。

JCMクレジットは国家間の取り組みにより発行されるクレジットであるが、プロジェクト参加者に限らず、法人(内国法人・外国法人)はJCM登録簿に口座を開設し、JCM登録簿に開設された各法人保有口座間でJCMクレジットの移転を行うことが可能であるため、実質的にJCMクレジットの売買取引を行うことができる。

本公開草案で示されたJCMクレジットと京都メカニズムにおけるクレジットの特徴を踏まえた類似性に関する検討は【図表4】のとおりである。

【図表4】京都メカニズムにおけるクレジットの特徴に照らした類似性の検討(JCMクレジット)

(1)京都議定書における国際的な約束を各締約国が履行するために用いられる数値であること

JCMクレジットは、JCMプロジェクトにおける温室効果ガス排出削減・吸収量をクレジット化したものであり、環境の取組に関連して定量的な数値で示されるものであると言える。

二国間クレジット制度はNDCの達成に活用できる制度であることが明記されている。

(2)国別登録簿においてのみ存在すること

JCM登録簿担当省(環境省、経済産業省)が作成及び運用するJCM登録簿システムにおいて、発行されたクレジットの保有、移転、無効化等が電子的に記録されている。

(3)所有権の対象となる有体物ではなく、法定された無体財産権ではないということ

所有権の対象となる有体物ではなく、また、法律上の取扱いは明確ではないため、法定された無体財産権にも該当しないと考えられる。

(4)取得及び売却した場合には有償で取引され、財産的価値を有していること

JCMクレジットは相対取引及び入札販売により有償で売買される。このため、JCMクレジットは、取得及び売却した場合には有償で取引され、財産的価値を有していると考えられる。

 

本公開草案では、JCMクレジットは京都メカニズムにおけるクレジットとの類似性を一定程度有していると考えられるため、実務対応報告第15号の考え方を斟酌して会計処理を行う対象として取り扱うことも考えられるとされている。

しかしながら、実務対応報告第15号では排出クレジットとの類似性の判断基準が示されていないため、実務上、実務対応報告第15号の適用可否の判断についてばらつきが生じている可能性があると考えられるとの課題が示されている。

また、以下のような論点について、どのように実務対応報告第15号を適用すべきか明確な定めはないものと考えられるとの課題が示されている。

  • 出資に付随して取得するJCMクレジットの取引は、実務対応報告第15号で想定される「出資を通じて取得する場合」に該当するか。
  • JCMクレジットの全部又は一部を日本政府に引き渡す約束がある場合に、企業はJCMクレジットの全部を取得したと考えるべきか。
  • 日本政府からJCM制度に関して補助金を受ける場合に、当該補助金はJCMクレジットの会計処理に影響を及ぼすこととなるのか。
  • 出資のうち「これまで保有していた出資の帳簿価額のうち実質的に引き換えられたものとみなされる額」の算定について、どのような方法が合理的であると想定されているのか。

(3)ボランタリークレジット制度

政府が主導するクレジットであるJ-クレジット及びJCMクレジットのほか、民間セクターが運営するボランタリークレジットが国内外に存在しており、今後もこのような環境関連のクレジットの取引の増加が見込まれている。実務上の対応としては、実務対応報告第15号を参照して会計処理を検討している状況であると思われるが、様々なボランタリークレジット制度に京都メカニズムにおけるクレジットの特徴を当てはめて検討することは難しい可能性があるとの課題が示されている。

また、ボランタリークレジット制度は、政府主導の制度と比較すると規制や法的な拘束力がない場合や、取引価格や取引量が不透明である場合も考えられるため、制度自体の信頼性の程度が低い可能性がある。実務対応報告第15号を適用した場合は、「第三者への売却可能性に基づく財産的価値」を根拠に資産計上される可能性があるが、資産性の有無の判断にばらつきが生じる可能性もあるとの課題が示されている。

(4)環境価値が組み込まれた財又はサービスが提供される取引

実務対応報告第15号では、排出クレジットについて、専ら第三者に売却することを目的として取得するか、将来の自社使用を見込んで取得する場合を想定していた。近年では、電気やガスの供給事業者において、自社の排出量削減に加えて、環境価値を自社の商品の価値に組み込んで顧客に通常よりも高い価格で売却することを目的として排出クレジットを使用する取引が見受けられ、その際、環境価値の取引手段としてボランタリークレジットが用いられることがある。

本公開草案では、ボランタリークレジットを使用した取引の事例として、カーボンニュートラルガスを取り上げ、ガス製造会社の会計処理の検討が示されている。

カーボンニュートラルLNG(液化天然ガス)、カーボンニュートラルLPG(液化石油ガス)とは、ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスを、ボランタリークレジット5により相殺し、排出量を実質ゼロとしたガスであり、バリューチェーン全体での温室効果ガス削減を行ったものである。

ボランタリークレジットの活用に際しては、産ガス国においてボランタリークレジットの償却によるカーボンオフセット済みの原料を輸入するという方法のほか、国内のガス製造会社自身がクレジットを取得し、顧客への販売前の製造段階でクレジットの償却を行う、又は、顧客への販売後に事後的にクレジットの償却を行うことでカーボンオフセットが行われることがある。

産ガス国においてカーボンオフセットが行われる場合、国内の事業者は直接クレジット取引に関与しないことから、通常よりも高い単価の原料を仕入れているに過ぎず、会計処理の論点は特に生じないと考えられる。一方、国内のガス製造会社がボランタリークレジットを取得し、償却する場合、実務対応報告第15号の適用可否や、具体的な会計処理が明確でないとして、ボランタリークレジットについて実務対応報告第15号の適用対象となる場合とならない場合に分けて、検討が行われている。本公開草案で示された検討、及び、示された課題は次の通りである。

① 実務対応報告第15号の適用対象となる場合

取得したボランタリークレジットを資産に計上した上で、ボランタリークレジットを償却したときに費用処理することとなる。

実務対応報告第15号では、売上高に対応する商品等の仕入又は製造に要する原価については、売上原価又は製造原価になると考えられるとされていることから、排出クレジットの使用により環境価値を自社の商品に組み込んで顧客に通常よりも高い価格で売却することが期待できる場合、原価として処理を行い顧客に販売するまでは棚卸資産として計上することも考えられるとの検討が示されている。

また、顧客への販売後に事後的にカーボンオフセットを行った場合、特にクレジットを費用化するタイミングが問題となるが、実務対応報告第15号では、クレジットの償却が確実に見込まれる場合や第三者へ売却する可能性がないと見込まれる場合には費用とすることが適当であるとされていることから、各企業においてクレジットの使用見込み等を判断した上で、クレジットの実際の償却よりも早いタイミングで費用処理を行うことが適切な場合もあるものと考えられるとの検討が示されている。

② 実務対応報告第15号の適用対象とならない場合

取得したボランタリークレジットの資産計上の可否について検討を行ったうえで、クレジットを資産計上することが適切であると判断される場合には、その後の会計処理については実務対応報告第15号を参考に会計処理を行うことが考えられる。

一方で、資産計上することが適切でないと判断される場合には、クレジットの取得時に費用処理を行うこととなると考えられるが、その際の費用処理の方法として原価として処理を行い、顧客への販売までの期間について棚卸資産の原価に含める余地があるのか、検討を行う必要があるとの課題が示されている。

これらの検討を行う際の判断基準が明確でないことから、会計処理や開示にバラつきが生じている可能性があるとの課題が示されている。

以 上

 

1 J-クレジット制度の詳細については、J-クレジット制度ホームページ(https://japancredit.go.jp/)及び「J-クレジット制度について」(2023年7月J-クレジット制度事務局)(https://japancredit.go.jp/data/pdf/credit_001.pdf)を参照のこと

2 CDPは、2000年に発足した英国の慈善団体が管理する非政府組織(NGO)であり、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営している。CDPジャパンホームページ「CDPについて」(https://japan.cdp.net/

3 RE100とは、企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブである。環境省ホームページ「RE100の取組」(https://www.env.go.jp/earth/re100.html

4 環境省HP JCM(二国間クレジット制度)について(https://www.env.go.jp/earth/jcm/)及び「カーボン・クレジット・レポート」(2022年6月経済産業省)(https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_credit/pdf/20220627_1.pdf)13ページ及び25ページ参照

5 カーボンニュートラルガスについては、ボランタリークレジットを活用した事例のほか、J-クレジットを活用した事例も認められるが、本公開草案ではボランタリークレジットを活用した事例を前提に検討が行われている。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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