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IASB、年次改善プロセスの一環としてIFRS会計基準の修正を提案する

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2023年11月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター*をご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本iGAAP in Focusでは、2023年9月に国際会計基準審議会(IASB)から公表された公開草案「IFRS会計基準の年次改善(第11集)」(ED)を解説する。

  • IASBは、年次改善プロセスの一環として、IFRS会計基準の修正案のEDを公表した。
  • 以下の修正が提案されている。
     –IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」
      » 初度適用企業によるヘッジ会計
     –IFRS第7号「金融商品:開示」
      » 認識の中止に係る利得又は損失
      » 公正価値と取引価格との間の繰延差額の開示
      » 信用リスクの開示
     –IFRS第9号「金融商品」
      » リース負債の認識の中止
      » 取引価格
     –IFRS第10号「連結財務諸表」
      » 「事実上の代理人」の判定
     –IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」
      » 原価法
  • EDには発効日は含まれていない。本修正の早期適用は、認められることが提案されている。企業が本修正を早期適用する場合、その旨を開示しなければならない。
  • EDのコメント期間は、2023年12月11日に終了する。
517KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

IASBは、年次改善プロセスの一環としてIFRS会計基準の修正を提案するEDを公表した。これらの年次改善案は、十分に軽微であるか又は範囲が狭いため、それらの修正が関連していなくても、一緒にまとめて1つの文書で公開された。年次改善は、IFRS会計基準の文言を明確化するか、又は比較的軽微な意図せざる帰結、見落としもしくは基準の要求事項間の矛盾を訂正又は修正する変更に限定される。

 

修正案

初度適用企業によるヘッジ会計(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」の修正案)

利害関係者はIASBに、IFRS第1号B6項の文言とIFRS第9号「金融商品」におけるヘッジ会計の要求事項との間の不整合から生じる混乱の可能性について報告した。IFRS第1号B6項はヘッジ会計の「条件」に言及しているが、IFRS第9号のセクション6.4はヘッジ会計の「適格要件」を定めている。IFRS第1号B6項は当初、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」のヘッジ会計の要求事項と整合するように書かれていた。 

この問題に対処するため、IASBは、IFRS第9号の要求事項との整合性を向上させるようにIFRS第1号B5項及びB6項を修正し、IFRS第1号のアクセスのしやすさ及び理解可能性を向上させるようにIFRS第9号6.4.1項への相互参照を追加することを提案する。 

認識の中止に係る利得又は損失(IFRS第7号「金融商品:開示」の修正案) 

2011年5月、IASBはIFRS第13号「公正価値測定」を公表し、いくつかのIFRS会計基準に結果的修正が行われた。当該修正には、 IFRS第7号27項から27B項の削除が含まれていた。しかし、IFRS第7号B38項において、IASBは、IFRS第13号の公表後に使用されないIFRS第7号27A項へ参照を削除することを省略した。 

したがってIASBは、IFRS第7号B38項において使用されない相互参照を更新することを提案する。 

公正価値と取引価格との間の繰延差額の開示(IFRS第7号の適用ガイダンスの修正案) 

IASBは、IFRS第13号を公表した際、IFRS第7号28項の文言をIFRS第13号で使用されている概念及び用語に合わせるために修正した。しかし、IASBは、IFRS第7号28項の開示要求の一部を例示するIFRS第7号IG14項の修正を省略した。その結果、IFRS第7号IG14項の文言の一部は、 IFRS第7号28項の文言と整合しない。 

この問題に対処するため、IASBは、IFRS第7号28項との整合性を向上させるように、IFRS第7号IG14項を修正することを提案する。 

「はじめに」及び信用リスクの開示(IFRS第7号の適用ガイダンスの修正案) 

利害関係者はIASBに、IFRS第7号IG20C項がIFRS第7号35M項のすべての要求事項を例示していないことを記載していないため、明確性が欠如している可能性があると報告した。さらに、IFRS第7号35H項と35I項の要求事項の適用を例示するIFRS第7号IG20B項は、「この例は、購入また組成した信用減損金融資産に関する要求事項は示していない」と記述している。利害関係者はIASBに、この記述により、IFRS第7号IG20C項においてもIFRS第7号 35M項の特定の要求事項を例示していないと記述することを、読者が期待する可能性があると報告した。 

これらの問題に対処するため、IASBは、IFRS第7号IG1項を修正し、本ガイダンスがIFRS第7号のすべての要求事項を例示しているわけではないことを明確にする記述を追加することを提案している。IASBはまた、IFRS第7号IG20B項の文言を簡素化するために修正することも提案している。 

リース負債の認識の中止(IFRS第9号の修正案) 

利害関係者はIASBに、リース負債の認識の中止に関する借手の会計処理に関する明確性の欠如について報告した。IFRS第9号2.1項(b)(ii)には、 IFRS9号3.3.1項への相互参照が含まれているが、IFRS9号3.3.3項への相互参照は含まれていない。IFRS第9号3.3.3項への相互参照がないことは、借手のリース負債が消滅し、借手が当該負債を財政状態計算書から除去したときに行う対応する修正に影響を与える可能性がある。 一部の利害関係者は、借手がIFRS第9号3.3.3項に従って純損益にリース負債の消滅による利得又は損失を認識しているかどうか、又はIFRS第16号「リース」に従って認識した使用権資産に対応する修正を行うなどの別の方法で認識するかどうかが明確ではないとIASBに報告した。 

この問題に対処するため、IASBは、IFRS第9号2.1項(b)(ii)を修正し、IFRS第9号3.3.3項への相互参照を追加することを提案する。 

取引価格(IFRS第9号の修正案)

利害関係者は、IFRS第9号付録Aにおいて、IFRS第15号「顧客との契約からの収益」における「取引価格」の定義への参照から生じる混乱の可能性についてIASBに報告した。「取引価格」という用語は、IFRS第9号の一部の項で使用されているが、その意味は IFRS第15号における当該用語の定義と必ずしも整合しない。 

したがってIASBは、基準における「取引価格」という用語の使用を明確にするために、IFRS第9号5.1.3項及びIFRS第9号付録Aを修正することを提案する。 

「事実上の代理人」の判定(IFRS第10号「連結財務諸表」の修正案)

利害関係者はIASBに、IFRS第10号B73項とB74項の要求事項は、状況によっては矛盾する可能性があると報告した。IFRS第10号B73項は、「事実上の代理人」を投資者のために行動する当事者として言及し、他の当事者が事実上の代理人として行動しているかどうかの判断には判断が必要であると規定している。しかし、IFRS第10号B74項の第2文には、より決定的な文言が含まれており、投資者の活動を指図する人々が当事者に対して投資者のために行動するよう指図する能力を有する場合、当該当事者は事実上の代理人であると規定している。 

この問題に対処するため、IASBは、IFRS第10号B74項を、より決定的でない表現を用いるように修正し、IFRS第10号B73項と整合させることを提案する。 

原価法(IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の修正案) 

2008年5月、IASBは、「子会社、共同支配企業又は関連会社に対する投資の原価」を公表することにより、IFRS会計基準を修正した。これらの 修正の一環として、IASBはIFRS会計基準から「原価法」の定義を削除した。しかしIASBは、IAS第7号37項から「原価法」という用語への参照を削除しておらず、これは見落としであった。 

したがってIASBは、IAS第7号37項を修正し、「原価法」という用語を「取得原価で」に置き換えることを提案する。 

 

発効日及びコメント期間

EDには発効日は含まれていない。改正の早期適用が認められることが提案されている。企業が本修正を早期適用する場合、その旨を開示しなければならない。 

EDのコメント期間は、2023年12月11日に終了する。 

以上

* 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2023/aip-11

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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