ナレッジ

第2の柱(グローバル・ミニマム課税)の概要

月刊誌『会計情報』2024年1月号

デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士 山形 創一郎、デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士 秋田 二郎

1. はじめに

経済協力開発機構(OECD)では、経済のデジタル化の進展に伴う課税上の課題に対応した国際課税ルールの見直しの検討が進められている。2021年10月の最終合意以降、同年12月20日には、第2の柱のうちいわゆるグローバル税源浸食防止規則(「GloBEルール」)に関するモデルルールが、2022年3月14日にはモデルルールに関するコメンタリー及び計算例が公表された。その後も、納税者のコンプライアンス上の事務負担の軽減等の観点からセーフ・ハーバー等に関するルールを定めた「実施パッケージ(Implementation Package)」(2022年12月)、制度の明確化等の観点からコメンタリーを補足する「執行ガイダンス(Administrative Guidance)」(2023年2月及び7月)及び「GloBE 情報申告(GloBE Information Return)」(2023年7月)がそれぞれ公表されている。

本稿では、モデルルール、コメンタリー、実施パッケージ及び執行ガイダンスのうち、主要な事項についての解説を行う。

593KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

2. グローバル・ミニマム課税の構成

グローバル・ミニマム課税は、次の3つのルールから構成されている。

 

3. 対象会計年度

本税制の課税期間は「対象会計年度」とされている。ここでいう対象会計年度は、多国籍企業グループの最終親会社の連結等財務諸表の作成に係る期間をいう。
 

4. 適用範囲

GloBEルールの対象となるのは、直前4対象会計年度のうち少なくとも2対象会計年度において、連結等財務諸表を基準として連結総収入金額が7億5,000万ユーロ以上である特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等である。基本的には、当該連結等財務諸表において連結して記載された個々の事業体が構成会社等に該当するが、GloBEルールにおける事業体は、法人形態のものに限られず、例えば支店等を始めとした恒久的施設(PE)も、本店等から独立した別個の構成会社等として取り扱われる。

また、モデルルールでは、いわゆるジョイントベンチャー(「JV」)のうち一定のもの(最終親会社が50%以上の持分を有するJV)についても、本税制の対象とされている。JVについては、構成会社等に準じ、別のグループ(JVグループ)としてJVに係る実効税率及びトップアップ税額を国別で計算する。
 

5. GloBE所得

実効税率の分母となるGloBE所得又は損失の計算は、最終親会社の連結等財務諸表の作成に使用される各構成会社等の会計上の当期純損益金額(内部取引消去前)からスタートし、税金費用、一定の受取配当、株式譲渡損益及び政策的に否認される費用(例:賄賂、罰金等)等、モデルルールにおいて限定列挙された項目について調整が行われる。

また、GloBE所得の計算にあたり、以下の項目等について企業の選択が認められている。

 

6. 調整後対象租税額

(1)対象租税の調整

実効税率の分子となる税額(「調整後対象租税額」)は、連結等財務諸表の作成に使用される各構成会社等の会計上の当期純損益金額に係る法人税等の額(対象租税に係るものに限る)を基礎とし、構成会社等間の対象租税の配分等の一定の調整を行い、繰延対象租税額を加味して計算される。

対象租税には、構成会社等の所得に対する法人税の他、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税(源泉税等)や、利益剰余金その他の純資産に対して課される税(日本における法人事業税(資本割)等)等が含まれる。コメンタリーでは、第1の柱の下で構成会社等に課された税や、租税条約の特典否認ルール(STTR)の適用によって生じる税についても、対象租税として取り扱われることが記載されている。

(2)構成会社等間での対象租税の配分

次に掲げる対象租税は、構成会社等間で配分されることになる。

 

上記(c)又は(d)に掲げる対象租税のうち、一定の受動的所得に係るものについては、その配分額が次のいずれか小さい金額に制限される。

(a) 受動的所得に係る対象租税
(b) CFC税制等に基づき合算対象とされる受動的所得にトップアップ税率(配分される対象租税を考慮せずに計算された実効税率と基準税率との差分)を乗じた金額

(3)繰延対象租税額

繰延対象租税額は、会計上の法人税等調整額を出発点とし、繰延税金資産の評価・認識に係る調整や繰越税額控除に係る税効果の除外等の一定の調整を行って計算される。

また、会計上の法人税等調整額が15%超の適用税率で計算される場合には、15%の税率で再計算する必要がある。

さらに、繰延対象租税額の計算に含められた繰延税金負債(一定の例外項目を除く)が、5年以内に解消しなかった場合には、前5対象会計年度の実効税率及びトップアップ税額の計算上、その繰延税金負債を取り消すことが必要になる。
 

7. 国別実効税率

国別実効税率は、①の金額が②の金額のうちに占める割合をいう。

① 国別調整後対象租税額(その国のすべての構成会社等のその対象会計年度に係る調整後対象租税額の合計額をいう)

② 国別グループ純所得の金額((ア)の金額から(イ)の金額を控除した残額をいう)

(ア) その国のすべての構成会社等のその対象会計年度に係るGloBE所得の合計額

(イ) その国のすべての構成会社等のその対象会計年度に係るGloBE損失の合計額
 

8. トップアップ税額

(1)トップアップ税額の計算方法

トップアップ税額は、原則として同一国に所在するすべての構成会社等のGloBE所得及び調整後対象租税額をもとに、次のとおりに計算される。

 

(2)実質ベース所得除外額

実質ベース所得除外額の制度趣旨は、実体のある事業活動から生じるルーティン利益をトップアップ税額の計算から控除することである。実質ベース所得除外額は、次の2つの要素から構成される。

①給与等:

その所在地国において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するその構成会社等の一定の給与等の額の5%相当額

②有形固定資産等:

その所在地国にあるその構成会社等が有する一定の有形固定資産の帳簿価額の5%相当額

各国における実質ベース所得除外額は、その国に所在する各構成会社等(各種投資会社等を除く)に係る上記の金額の合計額となる。

なお、上記①及び②における「5%」の割合については、2024年中に開始する対象会計年度に係る①における割合は「9.8%」、②における割合は「7.8%」とされ、それぞれ9年間で5%に逓減する経過措置が設けられている。

(3)再計算トップアップ税額

事後の対象会計年度において、過去対象会計年度に係る調整後対象租税額が減少した場合(一定の場合に限る)には、その過去対象会計年度に係るトップアップ税額として算出されるべき金額があった可能性があるため、「再計算トップアップ税額」の計算において調整を行うこととされている。

(4)自国内最低課税額に係る税

いわゆる、モデルルールにおける適格国内ミニマム課税(QDMTT)により課することとされる税をいう。QDMTTとは、多国籍企業グループに属する会社等について、その所在地国における実効税率が基準税率を下回る場合に、当該所在地国において当該会社等に対して、その税負担が基準税率に至るまで課税する仕組みである。

QDMTTは、上記の計算式のとおり、国別トップアップ税額から控除することができる。したがって、QDMTTは、他国のIIRやUTPR課税について生じるべき税額を減殺する点において、他国のIIRやUTPR課税から自国に所在する会社等を防衛する機能を持つものといえる。

日本においては、国際的な議論も踏まえながら、令和6年度以降の法制化を検討していくこととされている。

(5)適用免除基準

仮に実効税率が15%未満であったとしても、構成会社等(各種投資会社等を除く)が各対象会計年度において次に掲げる要件のすべてを満たす場合には、その対象会計年度のその構成会社等の所在地国に係る当期国別トップアップ税額は、ゼロとする特例が設けられている。なお、無国籍構成会社等に対する本特例の適用は認められていない。

(a) 収入金額要件:

3年平均で計算される国別の一定の収入が、1,000万ユーロ未満であること

(b) 所得金額要件:

3年平均で計算される国別のGloBE所得が、100万ユーロ未満であること
 

9. 国際最低課税額

以上のプロセスにより算出されたトップアップ税額は、当該所在地国の各構成会社等に対して、そのGloBE所得の金額に応じて比例的に配分される。所在地国内の各構成会社等に配分されたトップアップ税額については、一義的にはグループの頂点に位置する最終親会社が、その所在地国において課税されるが、最終親会社の所在地国がIIRを導入していない場合などは、下位の中間親会社がその所在地国において課税される(トップダウン・アプローチ)。

親会社が負担すべきトップアップ税額(「国際最低課税額」)は、トップアップ税額を生じている構成会社等に対する持分を基礎に計算された帰属割合に応じて決定される。このとき、軽課税国に所在する構成会社等との間に、グループ外の者に20%超の持分を保有されている構成会社等(「被部分保有親会社(Partially-Owned Parent Entity)」)が介在している場合には、当該被部分保有親会社に対するその所在地国からのIIR課税が優先して適用されるものとされている(スプリット・オーナーシップ・ルール)。

被部分保有親会社とは、次の要件のすべてを満たす構成会社等で、最終親会社、PE及び各種投資会社等以外のものをいう。

(a) 同じ特定多国籍企業グループ等の他の構成会社等に対する所有持分を直接又は間接に所有すること

(b) 所有持分に係る権利(利益の配当を受ける権利に限る)の20%超がその特定多国籍企業グループ等の構成会社等以外の者(非関連者)に直接又は間接に所有されていること

最終親会社と軽課税国に所在する構成会社等との間に、被部分保有親会社が介在している場合には、その構成会社等のその対象会計年度に係る会社等別国際最低課税額に最終親会社に係る帰属割合を乗じて計算した金額から、その計算した金額のうち当該被部分保有親会社に帰せられる部分の金額を控除した残額が、最終親会社の国際最低課税額とされる。
 

10. GloBE情報申告

GloBE情報申告は、グローバル・ミニマム課税における構成会社等の租税債務の正確性を評価するために必要な情報を各国の税務当局に提供することを目的とした情報申告である。GloBE情報申告には、次に掲げる事項が含まれる。

(a) グループ構成等の基本的な事項

(b) セーフ・ハーバーや適用免除基準に関する事項

(c) 実効税率やトップアップ税額の計算に係る事項

GloBE情報申告の記載事項については国際的な議論が継続されているため、その内容について合意に至った後に、その合意を踏まえた細目が追加されることが予定されている。

GloBE情報申告は、原則として、各構成会社等がそれぞれその所在地国において行うこととされている。一方、その所在地国と最終親会社の所在地国の間の情報交換に係る一定の当局間合意がある場合には、各構成会社等の義務は免除され、当該最終親会社がその所在地国の当局にGloBE情報申告を行えば足りる。

日本においては、モデルルール及びその解釈を示したコメンタリーの内容を踏まえ、特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供制度が創設されている。特定多国籍企業グループ等の構成会社等である内国法人は、原則として、特定多国籍企業グループ等報告事項等を、各対象会計年度終了の日の翌日から15カ月以内(初年度の申告については18カ月以内)に、e‒Taxにより所轄税務署長に提供しなければならない。特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供義務のある内国法人が複数ある場合において、これらの内国法人のうちいずれか一の法人が、特定多国籍企業グループ等報告事項等を代表して提供する法人等に関する情報を所轄税務署長に提供したときは、その代表して提供するものとされた法人以外の法人は、特定多国籍企業グループ等報告事項等を提供する必要はない。
 

11. セーフ・ハーバー

(1)概要

モデルルールにおいて、実効税率が基準税率以上である可能性が高いと認められる国又は地域について、実効税率及びトップアップ税額の計算を不要とする仕組み(セーフ・ハーバー)が定められている。より具体的には、「恒久的セーフ・ハーバー」と制度導入後の一定期間のみ適用が認められる「移行期間CbCRセーフ・ハーバー」の2種類があるが、「恒久的セーフ・ハーバー」の詳細は明らかにされていない。そのため、令和5年度税制改正では「移行期間CbCRセーフ・ハーバー」についてのみ法制化が行われている。

この「移行期間CbCRセーフ・ハーバー」は、特定多国籍企業グループ等が提供を行う国別報告事項(Country by Country Report:CbCR)に記載された情報を用いてその計算を行うものである。なお、移行期間CbCRセーフ・ハーバーは、所在地国単位でその判定を行うこととされている。また、移行期間CbCRセーフ・ハーバーは、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等だけでなく、特定多国籍企業グループ等に係るJVについてもその適用が認められる。ただし、CbCRには、JVに関する情報の記載はないので、別途の簡素化されたセーフ・ハーバーが措置されている。

(2)構成会社等に係る移行期間CbCRセーフ・ハーバー

その特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等(対象外構成会社等を除く)が2024年4月1日から2026年12月31日までの間に開始する対象会計年度(2028年6月30日までに終了するものに限る)において、①から③までの要件のいずれかを満たすときは、その対象会計年度のその構成会社等の所在地国におけるその対象会計年度に係るトップアップ税額は、ゼロとすることとされている。

(注)対象外構成会社等とは、次に掲げる構成会社等をいう。
(a) 無国籍構成会社等
(b) 各種投資会社等である構成会社等のうち一定のもの

 

(3)適用要件

移行期間CbCRセーフ・ハーバーは、特定多国籍企業グループ等報告事項等において本セーフ・ハーバーを適用する選択を行った場合にのみ適用することができる。

また、一度本セーフ・ハーバーの適用を受けなかった対象会計年度があった場合には、その対象会計年度以後は、適用することができない。すなわち、過去の対象会計年度において、各要件を満たすことができないことにより本特例の適用を受けていない対象会計年度又は各要件のいずれかを満たしていたが本特例の適用を受けていない対象会計年度がある場合には、その後、上記(2)①から③までの要件のいずれかを満たす場合であっても本特例の適用を受けることはできない。
 

12. 今後

日本においては、モデルルールやコメンタリーの規定、その後の執行ガイダンスの内容等を踏まえながら、法制化の検討が行われてきた。こうした検討の結果、令和5年度の税制改正においては、制度の詳細に係る国際的な議論の進展や、諸外国における実施に向けた動向等を踏まえて、グローバル・ミニマム課税のうちIIRについて日本における法制化を行うこととされた。残されたUTPR及びQDMTTについては、国際的な議論も踏まえながら、令和6年度以降の法制化が検討されている。また、IIRについても、実施細目の詳細についてOECDにおける議論が継続していることから、令和6年度以降においても、制度の明確化等の観点も踏まえた更なる法制化が見込まれる。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?