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監査報告書における報酬関連情報の開示に関する概要と実務上の対応(改正倫理規則への対応)

月刊誌『会計情報』2024年2月号

公認会計士 片山 行央、公認会計士 岩船 大輔、公認会計士 本村 彩子

日本公認会計士協会(以下、「JICPA」という)は、2022年7月25日付で「報酬」のセクションを含む倫理規則の改正を行った。また、「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令(以下、「監査証明府令」という)の一部を改正する内閣府令」(2023年3月改正)に基づき、金融商品取引法(以下、「金商法」という)に基づく監査報告書において報酬関連情報の記載が求められることとなった。これらに対応して、JICPAが公表している監査報告書の文例において、報酬関連情報の記載例が追加されている。

本稿では、一連の改正を踏まえ、監査人の監査報告書における報酬関連情報の記載に関する概要と実務上の対応について解説する。

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1. 報酬関連情報の開示に関する改正の背景

監査業務の依頼人が社会的影響度の高い事業体(以下、「PIE」という)である場合、利害関係者は、会計事務所等の独立性に関して高い期待を持っている。このような期待を背景に、会計事務所等がPIEに対し監査業務を提供する場合、利害関係者が会計事務所等とPIEである被監査会社との業務上の関係について理解し、会計事務所等の独立性に関する判断の基礎となる情報を入手できるようにするため、監査報告書における報酬関連情報の記載が求められることとなった。

2. 報酬関連情報の開示に関する概要

(1)適用対象会社

報酬関連情報の開示が求められるPIE とは、公認会計士法における大会社等及び会計事務所等が追加的に社会的影響度の高い事業体として扱うこととした事業体をいう(倫理規則400.8)。公認会計士法上の大会社等には、上場会社の他、銀行、保険会社、独立行政法人、国立大学法人、資本金額等が一定規模以上の会計監査人設置会社である株式会社などが含まれる(公認会計士法第24条の2)。

(2)報酬関連情報の開示

①開示が求められる項目

JICPA倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」(以下、「倫理規則に関するQ&A」という。2023年9月改正)によれば、基本的には会計事務所等が監査報告書において報酬関連情報全体の記載を行うことが適切と考えられるとされており、記載が求められる項目は以下の通りである。

開示項目

具体的な内容

監査報酬

重要性にかかわらず、会計事務所等及びネットワーク・ファームに支払われた、又は支払われるべき監査報酬(倫理規則R410.31⑴)

非監査報酬

重要性にかかわらず、会計事務所等又はネットワーク・ファームが監査業務の依頼人及びその連結子会社(※)に提供する非監査業務に係る報酬(倫理規則R410.31⑵、⑶)
※ 独立性の評価に関連することを知っている場合又はそのように信じるに足る理由がある場合、非連結子会社を含む

報酬依存度

2年連続して報酬依存度が15%を超える場合又は超える可能性が高い場合、その事実及び当該状況が最初に生じた年(倫理規則R410.31⑷)

 

②報酬関連情報の開示を省略できる場合

倫理規則及び倫理規則に関するQ&Aによれば、以下のいずれかに該当する場合には報酬関連情報を開示しないことが認められている。

  • 連結財務諸表に係る監査報告書に報酬関連情報が記載される会社の個別財務諸表に係る監査報告書の場合
  • 完全親会社の連結財務諸表に係る監査報告書に報酬関連情報が記載される完全子会社の(連結・個別)財務諸表に係る監査報告書の場合1


上記に該当する場合、会社法に基づく監査報告書では、報酬関連情報に関する記載区分全体を削除することが認められている。

一方で、金商法に基づく監査を受けている場合、監査証明府令に基づき監査報告書では報酬関連情報が必須の記載事項となるため、記載区分を削除することはできない。そのため、報酬関連情報の区分を設けた上で連結財務諸表や完全親会社の監査報告書において報酬関連情報が記載されている旨の記載を行うことになる。

また、金商法に基づく監査と会社法に基づく監査の両方を受けている場合、報酬関連情報はいずれかの監査報告書に記載することで足りる。そのため、多くの上場会社の監査においては金商法の監査報告書で記載することとし、会社法の監査報告書では記載しないことが想定される。

③報酬関連情報の開示における会社の開示金額の参照

(ア)金商法に基づく監査の場合
報酬関連情報に関しては、従前より有価証券報告書等において法令等に基づく一定の開示が行われている。有価証券報告書の開示と倫理規則に基づく報酬関連情報の開示においては、両者が求める開示の範囲が異なり、報酬金額の集計結果に差が生じる場合がある2

それぞれの開示について、会計事務所等の独立性の評価に関連すると合理的に考えられる情報を整合的に提供する観点から、次のⅰ及びⅱを満たす場合には、会社の開示金額を、倫理規則に基づく報酬金額として取り扱うことができるものと考えられるとされている。すなわち、ⅰ及びⅱを満たす場合には監査報告書は会社の開示箇所を参照することができると考えられる。

ⅰ 会計事務所等が、依頼人による報酬の集計範囲や算定プロセスの合理性を理解する。

ⅱ 依頼人が算定した報酬に関する情報と倫理規則に基づく報酬関連情報との差分について分析し、依頼人と調整することにより双方の情報が一致する3

有価証券報告書の開示及び倫理規則に基づく開示に差が生じており、監査報告書に報酬金額が記載されることになる場合、有価証券報告書の中で2つの報酬関連情報が併存することになるが、両者の集計範囲の違い等について説明することは求められていない。このことは利害関係者の理解を複雑にし、会社が行っている報酬関連情報の集計の正確性に対する疑義を惹起させる、又は会計事務所等の独立性に関する理解の妨げになる可能性があると考えられるため、会計事務所等は会社と適切に協議を実施し、ⅰ及びⅱを満たしたうえで監査報告書では会社の開示を参照する方式を採用することが多くなるものと考えられる。

(イ)会社法に基づく監査の場合
(2)②に記載の通り、多くの上場会社の監査において会社法の監査報告書では報酬関連情報は記載されないことが想定されるため、会社法の監査報告書で報酬関連情報が記載されるのは非上場かつPIEの会社の監査が中心となる。

非上場かつPIEの会社の場合、法令等においては、事業報告における会計監査人の報酬開示が要求されていない、又は会計監査人に係る監査報酬額の開示のみが要求され、非監査報酬額やネットワーク・ファームに係る報酬額の開示は要求されていない。したがって、事業報告は有価証券報告書と比較し、限定的な開示にとどまっている事例が多い。そのような場合、事業報告に倫理規則に基づく報酬関連情報が追加されることによって、会社法の監査報告書において会社の開示を参照することが可能になると想定される(設例参照)。

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上記の通り、会社法施行規則上、会社が事業報告において倫理規則に基づく報酬関連情報の記載を行うことは、必ずしも求められていない。しかし、報酬関連情報の開示は、会計監査人の独立性に対する報酬の影響に関して財務諸表利用者の理解を向上させる可能性があり、会社の利害関係者にとって有益な情報であると考えられるため、会社と会計監査人は事業報告上で報酬関連情報の開示を行うことについて適切な協議を行うことが望まれる(なお、倫理規則R410.30によれば、会社が法令等の要請がないため報酬関連情報の開示を行わない場合、開示することによる会社の利害関係者にとっての有益性等一定の事項について、会計監査人は会社の監査役等と協議を行うことが必要とされている)。

④実際の監査報告書における記載
  • 金商法の監査報告書における記載
    連結財務諸表に係る監査報告書において会社の開示を参照する場合の文例は以下の通りである4

<報酬関連情報>
当監査法人及び当監査法人と同一のネットワークに属する者に対する、会社及び子会社の監査証明業務に基づく報酬及び非監査業務に基づく報酬の額は、「提出会社の状況」に含まれるコーポレート・ガバナンスの状況等 (X)【監査の状況】に記載されている。


連結財務諸表に係る監査報告書において直接金額を記載する場合の文例は以下の通りである5

<報酬関連情報>
当監査法人及び当監査法人と同一のネットワークに属する者に対する、当連結会計年度の会社及び子会社の監査証明業務に基づく報酬及び非監査業務に基づく報酬の額は、それぞれXX百万円及びXX百万円である。


(2)②に記載の通り、連結財務諸表に係る監査報告書に報酬関連情報が記載される場合、個別財務諸表に係る監査報告書は以下の記載をすることで足りる6

<報酬関連情報>
報酬関連情報は、連結財務諸表の監査報告書に記載されている。

 

  • 会社法の監査報告書における記載
    連結計算書類に係る監査報告書において会社の開示を参照する場合、以下の記載が想定される。

<報酬関連情報>
当監査法人及び当監査法人と同一のネットワークに属する者に対する、会社及び子会社の監査証明業務に基づく報酬及び非監査業務に基づく報酬の額は、事業報告に含まれる「(X)会計監査人に関する事項」の(X)【会計監査人の報酬等の額】に記載されている。

 

連結計算書類に係る監査報告書において直接金額を記載する場合の文例は金商法の連結財務諸表に係る監査報告書において直接金額を記載する場合の文例と同一である。
 

(3)報酬依存度(15%ルール)関係

会計事務所等全体の総収入に対する特定の監査業務の依頼人に対する報酬依存度が高い割合を占める場合、当該依頼人からの報酬を失うこと等への懸念は、自己利益という阻害要因の水準に影響を与え、不当なプレッシャーという阻害要因を生じさせる可能性がある。そのため、監査業務の依頼人がPIEである場合において、2年連続して報酬依存度が15%を超える場合又は超える可能性が高い場合、その事実及び当該状況が最初に生じた年を開示しなければならないとされている7

該当する場合、監査報告書の報酬関連情報区分に以下の文を追加する8

なお、日本公認会計士協会の倫理規則に定める報酬依存度は、×年×月×日に終了した連結会計年度より継続して15%を超えている。

 

3. 適用時期

監査報告書における報酬関連情報の記載は、改正倫理規則の適用時期である2023年4月1日以後に開始する事業年度又は連結会計年度に係る財務諸表等の監査証明から適用される。

ただし、当該記載は、改正倫理規則と併せて2023年4月1日以後に終了する事業年度又は連結会計年度に係る財務諸表等の監査証明から早期適用することも可能とされている。

以上

 

1 以下を条件として、事業体が別のPIEに完全に所有されている場合の開示の省略が認められている(倫理規則R410.32(2))。
(1) 事業体の財務諸表が、当該他のPIEのグループ財務諸表に連結されること。
(2) 会計事務所等又はネットワーク・ファームが、当該他のPIEのグループ財務諸表に対する意見を表明すること。

2 倫理規則に基づく開示では、重要性の有無に関わらずネットワーク・ファームが受け取る監査報酬、非監査報酬の開示が求められるが、有価証券報告書の開示では、重要性が乏しい報酬の開示を省略することが認められている。また、倫理規則では一定の場合に非連結子会社からの監査報酬、非監査報酬が開示対象となる(倫理規則に関するQ&AのQ410-13-1)。

3 倫理規則に関するQ&AのQ410-13-1参照

4 JICPA監査基準報告書(以下、「監基報」という)700実務指針第1号「監査報告書の文例」文例1(注14)参照

5 監基報700実務指針1号「監査報告書の文例」文例1本文参照

6 監基報700実務指針1号「監査報告書の文例」文例2(注15)参照

7 倫理規則R410.31⑷

8 監基報700実務指針1号「監査報告書の文例」文例1(注14)参照

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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