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令和6年3月決算における税務上の留意事項
月刊誌『会計情報』2024年4月号
デロイト トーマツ税理士法人 税理士 鈴木 健一
令和6年3月決算においては、主に令和5年度税制改正の内容が初めての適用を迎える。
令和5年度税制改正においては、「マーケット」、「産業」、「人材」への成長投資を一体的に強化し、「成長と分配の好循環」の連鎖を生み出していくこととされ、そのために、研究開発税制やオープンイノベーション促進税制等について改正が行われた。
国際課税の分野では、国際課税制度の見直しに係る国際合意に沿って、法人税の引下げ競争に歯止めをかけ、企業間の公平な競争環境の整備に資するグローバル・ミニマム課税が創設され、令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から導入される。
令和5年度税制改正のうち、法人課税にとって主要な項目は、以下のとおりである。
法人課税
1. 試験研究を行った場合の税額控除制度(研究開発税制)の見直し
研究開発税制については、研究開発投資を増額するインセンティブが働くような控除率カーブの見直しや控除上限の引上げに加え、特別試験研究費の額に係る税額控除の対象となる試験研究費の範囲の見直し等が行われた(所得税についても同様)。
(1)一般試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し
一般試験研究費の額に係る税額控除制度における税額控除率の算式について、よりインセンティブが働くよう、控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げが行われた。また、控除税額の上限についても、一律に設定されている控除税額の上限を試験研究費の増減に応じて変動させる仕組みが導入された。
改正後の概要は下表のとおりであり、改正項目①~④については以下の説明を参照されたい。
(2)中小企業技術基盤強化税制に係る税額控除制度の見直し
中小企業者等に対して適用される、中小企業技術基盤強化税制に係る税額控除制度についても、上記(1)と同様の趣旨により、次のとおり控除率カーブの見直しが行われた。改正後の概要は下表のとおりであり、改正項目①~③については以下の説明を参照されたい。
(3)特別試験研究費の範囲の見直し
特別試験研究費の額に係る税額控除制度の対象となる試験研究費について、以下の見直しが行われた。
項目 |
改正後 |
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対象となる特別試験研究費の額の追加 |
特定新事業開拓事業者(※1)との共同研究(※2)及び特定新事業開拓事業者への委託研究(※2)に係る試験研究費の額が特掲され、税額控除率を25%とすることとされた(措令27の4㉔三、十) (※1) 特定新事業開拓事業者とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち同法の特定事業活動に資する事業を行う一定の会社(※3)で、自らの経営資源以外の経営資源を活用し、高い生産性が見込まれる事業を行うこと又は新たな事業の開拓を行うことに資するものであることその他の基準を満たすことにつき経済産業大臣の証明があるものをいう |
次の要件の全てを満たす試験研究に係る、新規高度研究業務従事者(※1)に対する人件費の額が追加され(措令27の4㉔十五)、税額控除率を20%とすることとされた ■ その法人の役員又は使用人である新規高度研究業務従事者(※1)に対して人件費を支出して行う試験研究であること (※1)新規高度研究業務従事者とは、その法人の役員又は使用人である次の者をいう |
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対象となる特別試験研究費からの除外 |
研究開発型ベンチャー企業との共同研究及び研究開発型ベンチャー企業への委託研究に係る試験研究費が、特別試験研究費の範囲から除外された |
対象となる特別研究機関等の追加 |
特別試験研究費の対象となる特別研究機関等との共同研究及び特別研究機関等への委託研究について、特別研究機関等の範囲に福島国際研究教育機構が追加された(措令27の4㉔一) |
(4)その他
その他、以下の見直しが行われた。
項目 |
改正後 |
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対象となる試験研究費の額の範囲等 |
■ 試験研究費のうち対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究のために要する一定の費用について、既に有する大量の情報を用いる場合についても対象とされた(措令27の4⑥) ■ 試験研究費の範囲から、性能向上を目的としないことが明らかな開発業務の一部として考案されるデザインに基づき行う設計及び試作に要する費用が除外された(措通42の4(1)-2) |
分割等があった場合の調整計算 |
■ 分割等があった場合の調整計算の特例の適用を受けるための手続が見直され、税務署長の認定及び当事者全てによる届出が不要とされ、特例の適用を受ける法人がその適用を受ける事業年度の確定申告書等に所定の事項を記載した以下の付表を添付することにより適用を受けることができることとされた(措令27の4⑭㉚) 付表: |
2. 特別新事業開拓事業者に対し特定事業活動として出資をした場合の課税の特例(オープンイノベーション促進税制)
青色申告書を提出する法人が、令和6年3月31日までの期間内にスタートアップ企業(特別新事業開拓事業者)とのオープンイノベーションに向け、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得する場合、取得株式の取得価額の25%相当額を課税所得から控除できる課税の特例(オープンイノベーション促進税制)について、次の見直しが行われた。
(1)課税の特例の対象となる特定株式の追加及び払込みにより取得した特定株式の取得価額上限の引下げ
課税の特例の対象となる特定株式について、次の見直しが行われた。
取得方法 |
改正前 |
払込み |
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払込み(出資)による取得 |
■ 対象
|
■ 対象
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購入による取得 |
対象外 |
■ 発行法人以外の者からの購入により取得した特別新事業開拓事業者の株式で、その取得により総株主の議決権の過半数を有することとなるものが追加される(措法66の13①)
■ 令和5年度以降に本税制の適用を受けて払い込みによる出資を行った特別新事業開拓事業者の株式の取得は対象外(措規22の13③) |
このように、スタートアップ企業の出口戦略としてIPO以外の選択肢を拡充するために、ニューマネー(払込み)を伴わない既存株式(発行法人以外の者からの購入)の取得も対象とされた。また、スタートアップの成長に真につながるよう、M&Aから5年以内に成長率や投資規模等の要件を満たした場合にはその後も減税メリットを継続させる仕組みが設けられた。これらにより、スタートアップの成長を強力に促すものとする改正内容となっている。
(2)その他
次の除外・限定が行われた。
① 既にその総株主の議決権の過半数を有している特別新事業開拓事業者に対する出資を対象から除外(措規22の13③)
② 既に本特例の適用を受けてその総株主の議決権の過半数に満たない株式を有している特別新事業開拓事業者に対する出資について、その対象を総株主の議決権の過半数を有することとなる場合に限定(措規22の13③)
3. デジタルトランスフォーメーション投資促進税制(DX投資促進税制)の見直しと適用期限の延長
青色申告書を提出する法人が、認定事業適応計画に従って情報技術事業適応設備の取得等を行った場合、当該設備等の取得価額等の30%相当額の特別償却又は3%若しくは5%相当額の税額控除を適用できる課税の特例(DX投資促進税制)について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長(令和7年3月31日までの期間内)された(所得税についても同様)。
項目 |
改正前 |
改正後 |
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デジタル(D)要件 |
「DX認定」取得の要件 |
■ 情報処理推進機構が審査する「DX認定」の取得 |
■ DX認定制度において、人材育成・確保等に関連する事項の要件が追加(DX認定基準「デジタルガバナンス・コード2.0」(令和4年9月13日改訂)) ■ 令和4年12月1日以降に取得した認定であること(産業競争力強化法第21条の28の規定に基づく生産性の向上又は需要の開拓に特に資するものとして主務大臣が定める基準(以下「基準」という)5) |
その他の要件 |
■ データ連携 ■ クラウド技術の活用 |
改正なし |
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企業変革(X)要件 |
生産性の向上又は新需要の開拓に関する要件 |
■ 生産性向上又は売上上昇が見込まれること
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■ 計画に係る事業により、おおよそコロナ前5事業年度の平均売上高の10%以上の新規売上高を獲得すること(基準1) |
取組類型に関する要件 |
■ 情報技術事業適応の内容が、次のいずれかの類型に該当すること
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■ 上記により増加した売上高のうち25-50%分が海外売上高によるものとなること(基準2) |
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その他の要件 |
■ 全社の意思決定に基づくもの |
改正なし |
なお、計画の実施期間は最長で10年とされた(従前は5年間)(産業競争力強化法施行規則11の2⑤)。
また、令和5年4月1日前に認定の申請をした事業適応計画に従って同日以後に取得等する資産については、本制度は適用されない(措法42の12の7⑨)。
4. 指定寄附金
企業の経営資源を活用して学校教育に積極的に関与し、人材への投資を後押しすることを目的に、学校法人の設立費用としての寄附金について、個別の審査を受けなくても損金算入可能とするため、以下が指定寄附金に追加された(令和5年財務省告示第96号)。
項目 |
改正内容 |
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指定寄附金の追加 |
法人が大学、高等専門学校又は一定の専門学校を設置する学校法人又は準学校法人の設立を目的とする法人(学校法人設立準備法人)に対して支出する寄附金のうち一定のもので、その学校法人設立準備法人から財務大臣に対して届出があった日から令和10年3月31日までの間に支出されるもの。 |
5. 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(地域未来投資促進税制)の拡充及び適用期限の延長
青色申告書を提出する法人が、承認地域経済牽引事業計画に従って、特定事業用機械等を取得した場合、機械装置・器具備品につき取得価額等の40%相当額の特別償却又は4%相当額の税額控除(上乗せ要件を満たす場合は、50%相当額の特別償却又は5%相当額の税額控除)、また、建物・附属設備・構築物につき20%相当額の特別償却又は2%相当額の税額控除を適用できる課税の特例(地域未来投資促進税制)について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長(令和7年3月31日までの期間内)された(所得税についても同様)。
(1)要件等の見直し及び追加
次の見直しが行われた。
(2)主務大臣の確認要件に関する運用の改善
課税特例の要件に関する運用については、次の2つの改善が行われた。
① 要件の判定において売上高を計算する場合には、需要の変動等による影響を勘案した計算方法が用いられた(ガイドライン第5・1⑴イ①ⅰ)。
② 先進性に係る要件について、評価委員の評価精度の向上に向けた措置がとられた(ガイドライン第5・1⑴イ)。
6. 中小企業者関連等
(1)中小企業者等の法人税の軽減税率の特例の適用期限の2年延長
中小企業者等の法人税の軽減税率として、所得年800万円以下の部分について19%とされているが、改正前においては、時限立法として、租税特別措置法によりさらに15%に引き下げられている。その適用期限が2年延長された(措法42の3の2)。
(2)中小企業投資促進税制の見直しと適用期限の2年延長
中小企業投資促進税制について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長された(所得税についても同様)(措法42の6)。
a) 対象資産から、コインランドリー業(主要な事業であるものを除く)の用に供する機械装置でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものが除外された。
b) 対象資産について、総トン数500トン以上の船舶にあっては、環境への負荷の低減に資する設備の設置状況等を国土交通大臣に届け出た船舶に限定された。
(3)中小企業経営強化税制の見直しと適用期限の2年延長
中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)について、関係法令の改正を前提に特定経営力向上設備等の対象から、コインランドリー業又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く)の用に供する資産でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものが除外された上、その適用期限が2年延長された(所得税についても同様)(措法42の12の4)。
項目 |
改正前 |
改正後 |
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対象法人 |
青色申告書を提出する中小企業者等(適用除外事業者(前3期の平均所得が年15億円超の中小企業者)を除く)の中で、中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画の認定を受けたもの |
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適用要件 |
■ 生産等設備を構成する設備で、特定経営力向上設備等に該当する以下の資産のうち、一定の規模以上のものの取得等をして、 ■ その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合 |
■ 変更なし ただし、以下の設備が除外される ▼コインランドリー業又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く)の用に供する資産でその管理のおおむね全部を他の者に委託するもの ■ 変更なし |
措置内容 |
以下の選択適用 ■ その特定経営力向上設備等の普通償却限度額との合計でその取得価額までの特別償却 ■ その取得価額の7%(特定中小企業者等にあっては10%)の税額控除(税額控除における控除税額は当期の法人税額の20%を上限とし、控除限度超過額は1年間の繰越し可) |
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適用期限 |
令和5年3月31日までに取得・事業供用について適用 |
2年延長 |
(4)特定の資産の買換えの場合等の課税の特例の見直しと期限延長
特定の資産の買換えの場合等の課税の特例について、次の表のとおり見直しが行われた上で、適用期限が3年延長された。主な見直しの内容は次のとおりである。
項目 |
改正内容 |
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既成市街地等の内から外への買換え |
■ 適用対象から除外 |
長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換え |
■ 東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合が90%(現行:80%)に引き上げられた ■ 同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合が60%(現行:70%)に引き下げられた |
適用要件の追加 |
■ 先行取得の場合、特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例及び特定の資産を交換した場合の課税の特例を除き、譲渡資産を譲渡した日又は買換資産を取得した日のいずれか早い日の属する3月期間※1の末日の翌日以後2月以内に、以下の項目を記載した届出書の提出が適用要件に加えられた
■ 先行取得の場合の届出書について、その記載事項が上記と同様とされた ■ 令和6年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をして、同日以後に買換資産の取得をする場合の届出について適用される (※1)上記の「3月期間」とは、その事業年度をその開始の日以後3月ごとに区分した各期間をいう。 |
(5)その他の特別措置等
その他の特別措置等について、次のとおり適用期限の延長・廃止及び内容見直し等が行われた。
項目 |
延長・廃止及び見直し等の内容 |
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特定船舶の特別償却制度(外航船舶) |
■ 適用期限3年延長 ■ 海上運送法の改正を前提に、同法の認定外航船舶確保等計画に従って取得等をした同法の特定外航船舶の特別償却率が次のとおりとされた (イ) 特定先進船舶である特定船舶に該当する船舶(現行:18%(日本船舶については、20%)) a 海上運送法の本邦対外船舶運航事業者等の対外船舶運航事業の用に供される船舶30%(日本船舶については、32% (ロ) 特定先進船舶以外の特定船舶に該当する船舶(現行:15%(日本船舶については、17%)) a 上記(イ)aの船舶27%(日本船舶については、29%) (注) 上記の改正は、海上運送法の改正法の施行の日以後に取得等をする船舶(同日前に締結した契約に基づいて取得する船舶を除く)について適用される ■ 特定先進船舶について、液化天然ガスを燃料とする船舶が加えられ、耐食鋼を用いた船舶が除外された ■ 対象船舶から匿名組合契約等の目的である船舶貸渡業の用に供される船舶(海上運送法の認定先進船舶導入等計画に従って取得等をした同法の先進船舶を除く)が除外された ■ 事業の経営の合理化及び環境への負荷の低減に係る要件の見直しが行われた |
特定船舶の特別償却制度(内航船舶) |
■ 適用期限3年延長 ■ 対象が総トン数500トン以上(現行:300トン以上)の船舶に限定された |
特定事業継続力強化設備等の特別償却制度 |
■ 適用期限2年延長 ■ 対象資産に耐震装置が加えられた ■ 令和7年4月1日以後に取得等をする資産の特別償却率が16%(現行:20%(令和5年4月1日以後は、18%))に引き下げられた |
特定都市再生建築物の割増償却制度 |
■ 適用期限3年延長 ■ 対象となる民間都市再生事業計画のうち特定都市再生緊急整備地域以外の都市再生緊急整備地域における民間都市再生事業計画の認定要件について、次の見直しが行われた
■ 特定都市再生緊急整備地域内において行われる都市再生事業の要件のうちその都市再生事業の施行される土地の区域内に整備される建築物の延べ面積要件が75,000㎡以上(現行:50,000㎡以上)に引き上げられた |
特定原子力施設炉心等除去準備金制度 |
■ 適用期限3年延長 |
短期の土地譲渡益に対する追加課税制度の適用停止措置 |
■ 適用期限3年延長 |
退職年金等積立金に対する法人税の課税の停止措置 |
■ 適用期限3年延長 |
港湾隣接地域における技術基準適合施設の特別償却制度 |
■ 適用期限到来により廃止(経過措置あり) |
関西文化学術研究都市の文化学術研究地区における文化学術研究施設の特別償却制度 |
■ 適用期限2年延長 ■ 施設規模要件が4億円以上に引き上げられた |
共同利用施設の特別償却制度 |
■ 適用期限2年延長 ■ 建物の取得価額要件が600万円以上に引き上げられた |
特定地域における工業用機械等の特別償却制度 |
■ 半島振興対策実施地域に係る措置については、対象地区から過疎地域に係る措置の対象地区が除外された上、その適用期限が2年延長された ■ 離島振興対策実施地域に係る措置については、離島振興法の一部を改正する法律による改正後の離島振興法の離島振興計画(離島振興法の離島振興基本方針に適合している旨の通知を受けたものに限る)において産業振興促進事項に記載されている地区(過疎地域に係る措置の対象地区を除く)及び事業に係る措置に改組された上、その適用期限が2年延長された ■ 奄美群島に係る措置については、対象地区から過疎地域に係る措置の対象地区が除外された上、その適用期限が1年延長された |
医療用機器等の特別償却制度 |
■ 医療用機器に係る措置の対象機器の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長された |
事業再編計画の認定を受けた場合の事業再編促進機械等の割増償却制度 |
■ 適用期限2年延長 ■ 対象となる認定事業再編計画から、その認定事業再編計画に係る事業再編がその法人の保有する施設の相当程度の撤去又は設備の相当程度の廃棄のみを行うものである場合における当該認定事業再編計画が除外された ■ 割増償却率が、機械装置については35%(現行:40%)に、建物等及び構築物については40%(現行:45%)に、それぞれ引き下げられた |
対外船舶運航事業を営む法人の日本船舶による収入金額の課税の特例 |
■ 関係法令の改正を前提に、次の措置が講じられた上、令和7年3月31日までに日本船舶・船員確保計画について認定を受けた対外船舶運航事業を営む法人に対して適用できることとされた
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農業経営基盤強化準備金制度 |
■ 適用期限2年延長 ■ 対象となる特定農業用機械等から取得価額が30万円未満の資産が除外された |
法人の一般の土地譲渡益に対する追加課税制度 |
■ 適用除外措置(優良住宅地の造成等のための譲渡等に係る適用除外)について、次の見直しが行われた上、その適用期限が3年延長された
■ 適用停止措置期限3年延長 |
震災特例法に係る被災代替資産等の特別償却制度 |
■ 適用期限3年延長 ■ 対象資産が漁船に限定された(経過措置あり) |
7. 通算子法人の残余財産が確定した場合の確定申告書の提出期限
改正前においては、グループ通算制度を適用している場合において、通算子法人の残余財産が確定した場合の確定申告書の提出期限については特別な取扱いはなく、通常どおり、残余財産の確定の日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内(当該翌日から1月以内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)とされていた。
しかし、通算子法人の残余財産の確定の日が通算親法人の事業年度終了の日である場合においては、その通算子法人の残余財産の確定の日の属する事業年度について、グループ通算制度による損益通算等の規定が適用される。そのため、現行法における確定申告書の提出期限までに確定申告を行うことは困難であることが予想される。
このような状況を改善するため、このような場合には、残余財産が確定した通算子法人の確定申告書の提出期限について、通算グループ全体の提出期限と同じとする改正が行われた(法法74②、75の2⑪)。
この改正は、令和5年4月1日以後に現行の提出期限が到来する確定申告書について適用される。
改正の内容は、次のとおりである。
項目 |
改正前 |
改正後 |
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通算子法人の残余財産の確定の日が通算親法人の事業年度終了の日である場合の法人税及び地方法人税の確定申告書の提出期限 |
通算子法人であっても特例はなく、通常どおり、残余財産の確定の日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内(当該翌日から1月以内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)(法法74②)。 |
残余財産の確定の日の属する事業年度終了の日の翌日から2月以内とされる。 |
通算親法人が確定申告書の提出期限の延長特例の適用を受けている場合には、通算子法人についても延長特例の処分があったものとされる(法法75⑧二)が、残余財産の確定の日の属する事業年度については、上の規定が優先し、残余財産の確定の日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内(当該翌日から1月以内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)が提出期限となる。 |
通算親法人が確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受けている場合には、その通算子法人の残余財産の確定の日の属する事業年度についても特例の適用があることとされる。 |
例えば、通算親法人の事業年度終了の日=通算子法人の残余財産の確定の日=3月31日の場合には、改正案においては、原則として、当該通算子法人の確定申告書の提出期限は2月以内の5月31日となるが、通算親法人が2月の延長特例を受けて確定申告書の提出期限が7月31日となっている場合、当該通算子法人の確定申告書の提出期限も7月31日となる。
なお、通算子法人の残余財産の確定の日が通算親法人の事業年度終了の日でない場合には、当該通算子法人の残余財産の確定の日の属する事業年度にはグループ通算制度における損益通算等の規定が適用されないため、今回の改正案の対象外であり、従来どおり、その確定申告書の提出期限は、残余財産の確定の日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内(当該翌日から1月以内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)(法法74②)になる。
8. 暗号資産の評価方法等の見直し
暗号資産の評価方法等について、次の見直しが行われ、その他所要の措置が講じられた。
項目 |
内容 |
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期末時価評価の対象とする暗号資産の範囲の変更 |
法人が事業年度末において有する暗号資産のうち時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、次の要件に該当する暗号資産(特定自己発行暗号資産)が除外された(法法61②~④)。 ■ 自己が発行した暗号資産でその発行の時から継続して保有しているものであること ■ その暗号資産の発行の時から継続して次のいずれかにより譲渡制限が行われているものであること(法令118の7②)
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自己発行暗号資産の取得価額 |
自己が発行した暗号資産について、その取得価額が発行に要した費用の額とされた(法令118の5二)。 |
特定自己発行暗号資産に該当しないこととなった場合の取扱い |
法人が特定自己発行暗号資産に該当する暗号資産を自己の計算において有する場合において、その暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなったときは、その該当しないこととなった時において、その暗号資産をその時の直前の帳簿価額により譲渡し、かつ、その暗号資産をその帳簿価額により取得したものとみなして計算した損益相当額を計上することとされた(法法61⑦、法令118の11)。 |
暗号資産信用取引の範囲 |
暗号資産信用取引の範囲について、他の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買をいうこととされた(法法61⑧)。改正後は、暗号資産交換業を行う者以外の者から信用の供与を受けて行う暗号資産の売買も暗号資産信用取引に該当することとされた。 |
組織再編
1. スピンオフ税制の拡充(パーシャルスピンオフ)
(1)概要
改正前においては、株式を現物分配する形でのスピンオフのうち、法人に持分の一部を残すもの(いわゆるパーシャルスピンオフ)については、「株式分配」に該当せず、課税の繰延べが認められていなかった。
改正後においては、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けた法人が同法の特定剰余金配当として行う現物分配で完全子法人の株式が移転するものは、株式分配に該当することとされ、次の要件に該当するものは、適格株式分配に該当することとされた(措法68の2の2、措令39の34の3①、令和5年3月30日経済産業省告示第50号、事業再編の実施に関する指針)。
■ その法人の株主の持株数に応じて完全子法人の株式のみを交付するものであること
■ その現物分配の直後にその法人(現物分配法人)が有する完全子法人の株式の数が発行済株式の総数の20%未満となること
■ 完全子法人の従業者のおおむね90%以上がその業務に引き続き従事することが見込まれていること
■ 適格株式分配と同様の非支配要件、主要事業継続要件及び特定役員継続要件を満たすこと
■ 以下のいずれかの要件を満たすこと
- 完全子法人の特定役員に対し、ストックオプション(新株予約権)が付与されている又は付与される見込みがあること
- 完全子法人の主要な事業が、事業開始から事業計画認定の申請の日までの期間が10年以内であること
- 完全子法人の主要な事業が、成長発展が見込まれることについて金融商品取引業者が確認したこと
(2)改正による効果
本改正により、いわゆるパーシャルスピンオフであっても、一定の要件を満たす場合には、適格株式分配に該当するものとして現物分配法人において譲渡損益課税が繰り延べられることとなった。また、株主側にあっても、配当課税が行われないとともに、株式の(部分)譲渡損益については課税が繰り延べられる。
2. 株式交付についての特例の見直し
(1)概要
会社法の株式交付のうち一定のものにより子会社化した場合、株主における譲渡損益は、令和3年度税制改正により課税を繰り延べられることとされている(株式等を対価とする株式の譲渡に係る所得の計算の特例)。株式交付制度の創設後、当該措置の制度趣旨(株式対価M&Aの促進)とは必ずしもそぐわない活用事例が確認されていたことを背景として、今般の改正において課税繰延べ要件について一定の厳格化が行われ、当該措置の対象から、株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合が除外されている(措法66の2①、措令39の10の2④)(所得税についても同様)。例えば、次の図のように、株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く)に該当する場合には、株式交付による課税の繰延べから除外されることになる。
(2)適用関係
上記の改正は、令和5年10月1日以後に行われる株式交付について適用される(改正法附則47、改正措令附則11)。
国際課税(デジタル課税等)
1. グローバル・ミニマム課税への対応
(1)納税義務者
内国法人(公共法人を除く)は、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税を納める義務があることとされる(法法4、6の2、82の2①)。
(2)課税の範囲
特定多国籍企業グループ等(下記(3)参照)に属する内国法人に対して、各対象会計年度の国際最低課税額について、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税を課することとされる(法法6の2、82の4)。
(3)特定多国籍企業グループ等の範囲
特定多国籍企業グループ等は、企業グループ等(次に掲げるものをいい、多国籍企業グループ等※1に該当するものに限る)のうち、各対象会計年度の直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度の総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額以上であるものとされる(法法82四)。
① |
連結財務諸表等に財産及び損益の状況が連結して記載される会社等及び連結の範囲から除外される一定の会社等に係る企業集団のうち、最終親会社※2に係るもの |
---|---|
➁ |
会社等(上記①に掲げる企業集団に属する会社等を除く)のうち、その会社等の恒久的施設等の所在地国がその会社等の所在地国以外の国又は地域であるもの |
(※1) 「多国籍企業グループ等」とは、上記①に掲げる企業グループ等に属する会社等の所在地国(その会社等の恒久的施設等がある場合には、その恒久的施設等の所在地国を含む)が2以上ある場合のその企業グループ等その他これに準ずるもの及び上記②に掲げる企業グループ等をいう。
(※2) 「最終親会社」とは、他の会社等の支配持分を直接又は間接に有する会社等(他の会社等がその支配持分を直接又は間接に有しないものに限る)をいう。
(4)所在地国の判定
所在地国は、次に掲げるものの区分に応じそれぞれ次に定める国又は地域とされる(法法82七)。
区分 |
国又は地域 |
---|---|
①会社等(導管会社等を除く) |
次に掲げる会社等の区分に応じそれぞれ次に定める国又は地域 (i) 国又は地域の法人税又は法人税に相当する税に関する法令において課税上の居住者とされる会社等・・・その国又は地域 (ii) (i)に掲げる会社等以外の会社等・・・その会社等が設立された国又は地域 |
②導管会社等※ |
その設立された国又は地域 |
③恒久的施設等 |
恒久的施設等の類型に応じて定める他方の国 |
※ 最終親会社等(上記(3)①の最終親会社及び上記(3)②に掲げる会社等をいう)であるもの又は国若しくは地域の租税に関する法令において国際最低課税額に対する法人税に相当するものを課することとされるものに限られる。これらの導管会社等以外の導管会社等については、その所在地国はないものとされ、その結果、無国籍会社等に該当することになる。
(5)構成会社等の範囲
構成会社等は、次に掲げるものとされる(法法82十三)。
① |
上記(3)の①に掲げる企業グループ等に属する会社等(政府関係機関、国際機関その他の一定の会社等を除く) |
---|---|
➁ |
①に掲げる会社等の恒久的施設等 |
③ |
上記(3)の②に掲げる会社等(政府関係機関、国際機関その他の一定の会社等を除く) |
④ |
③に掲げる会社等の恒久的施設等 |
(6)対象会計年度
対象会計年度は、多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結等財務諸表の作成に係る期間とされる(法法15の2)。
(7)税額の計算
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税の額は、各対象会計年度の国際最低課税額(課税標準)に100分の90.7の税率を乗じて計算した金額とされる(法法82の5)。
(8)申告及び納付等
特定多国籍企業グループ等に属する内国法人の各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税の申告及び納付は、各対象会計年度終了の日の翌日から1年3月(一定の場合には、1年6月)以内に行うものとされる(法法82の6)。
ただし、当該対象会計年度の国際最低課税額(課税標準)がない場合は、当該申告を要しないこととされる。
なお、電子申告の特例等については、各事業年度の所得に対する法人税と同様とされ、その他所要の措置が講じられる。
(9)その他
質問検査、罰則等については、各事業年度の所得に対する法人税と同様とされ、その他所要の措置が講じられる(法法160)。
(10)適用関係
内国法人の令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から適用される。
2. 外国子会社合算税制等の見直し
(1)概要
グローバル・ミニマム課税への対応に伴い導入される各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税による企業の追加的な事務負担の軽減を図るため、内国法人に係る外国子会社合算税制について、次の改正が行われたほか、所要の措置が講じられた。
項目 |
改正内容 |
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特定外国関係会社に対する会社単位の合算課税適用判定に係る租税負担割合(措法66の6⑤一) |
特定外国関係会社の各事業年度の租税負担割合が27%以上(現行:30%以上)である場合には、会社単位の合算課税を適用しないこととされた。 |
申告書添付要件(措法66の6⑪、⑫) |
■ 申告書に添付することとされている外国関係会社に関する書類の範囲から、次に掲げる部分対象外国関係会社に関する書類を除外するとともに、その書類につき保存義務を課すこととされた
■ 申告書に添付することとされている外国関係会社に関する書類(株主等に関する事項を記載するものに限る)の記載事項について、その書類に代えてその外国関係会社と株主等との関係を系統的に示した図にその記載事項の全部又は一部を記載することができることとされた |
(2)適用関係
上記の改正は、内国法人の令和6年4月1日以後に開始する事業年度について適用される。
以上
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。