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IASBは、取得に関する報告を改善するための修正を提案

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2024年5月号

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター1をご参照下さい。

本iGAAP in Focusでは、2024年3月14日に国際会計基準審議会(IASB)が公表した公開草案(ED)「企業結合-開示、のれん及び減損」に示されたIFRS第3号「企業結合」及びIAS第36号「資産の減損」に対する修正案を解説する。

  • IFRS第3号の修正案の目的は、企業が企業結合の業績に関するより良い情報を合理的なコストで利用者に提供することを要求することである。
  • 戦略的企業結合について、企業は、企業結合の取得日の主要な目的及び関連する目標、及びこれらの主要な目的及び関連する目標が達成されているかどうかに関する情報を提供することが要求される。企業は、経営幹部によって検討された情報のみを開示する必要がある。
  • 企業は、その情報が商業上の機密である場合、又は企業が訴訟リスクにさらされる場合、情報の一部を開示することを免除される。
  • EDには、IFRS第3号の開示要求に対するいくつかの他の修正案が含まれており、その中には新たな開示目的も含まれている。
  • IAS第36号の修正案は、のれんの減損損失の適時性に関する懸念の2つの主な理由(経営者の過度な楽観性及びシールディング2)を軽減することを目的としている。
    • のれんを資金生成単位(CGU)にどのように配分するか関する追加のガイダンスを提供する。
    • どの報告対象セグメントに、のれんを含むCGUが含まれているかを開示することを企業に要求する。
  • 本修正により、企業が資産の使用価値をどのように計算するかも変更される。
  • EDは、本修正の発効日を規定していない。企業は、本修正を将来に向かって適用することが要求される。
  • EDのコメント期間は2024年7月15日に終了する。
536KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

2020年3月、IASBはディスカッション・ペーパー(DP)「企業結合―開示、のれん及び減損」3を公表した。DPにおいて、IASBは、企業が取得する事業について投資家に提供する情報を改善するために、強化された開示要求をどのように開発するかについての予備的な見解を記述している。DPには、取得年度の取得に関する経営者の目的と、その後の期間における取得の目的に対して取得がどのような業績を上げているかを開示するよう企業に要求する提案が含まれていた。また、IASBは、のれんの償却を再導入すべきではないと提案した。減損テストを簡素化するため、IASBはDPにおいて、のれんを含むCGUの年次の減損テストを免除し、使用価値をどのように見積もるかを簡素化する修正を提案すべきであると記述している。

DPに対する回答として受け取ったフィードバックを検討した後、IASBは、今回、DPにおける予備的見解に基づくIFRS第3号の開示要求及びIAS第36号の減損テストの修正を提案する。

見解

DPに関する利害関係者のフィードバックは、IASBが事後ののれんの会計処理において減損のみのアプローチを維持すべきか、それとものれんの償却を再導入すべきかについて、意見が分かれていることを明らかにした。結果、収集された証拠を考慮して、IASBは、のれんの償却の再導入を正当化する説得力のある根拠はないと結論付け、事後ののれんの会計処理については減損のみのモデルを維持することを決定した。

DPの回答者は、のれんを含むCGUの定量的な減損テストを毎年実施する要求事項を削除することにおおむね反対した。IASBは、表明された懸念に納得し、この要求事項を維持することを決定した。

 

IFRS第3号の修正案

戦略的企業結合

IASBは、企業結合の業績に関する情報を開示することを企業に要求するべきであり、戦略的企業結合に関して特定の情報を要求することを提案している。

EDで提案されているように、以下の閾値のいずれかを満たす企業結合は、戦略的企業結合とみなされる。

  • 取得日より前の直近の事業年度において、
    • 被取得企業の営業損益の絶対額が、取得企業の連結営業損益の絶対額の10%以上である。又は
    • 被取得企業の収益が、取得企業の連結収益の10%以上である。
  • 取得したすべての資産(のれんを含む)について取得日に認識した金額が、取得日以前の取得者の直近の報告期間日における取得者の連結財政状態計算書に認識された総資産の帳簿価額の10%以上である。
  • この企業結合により、取得企業は新しい主要事業分野又は営業地域に参入した。

戦略的企業結合の場合、企業は以下を開示することが要求される。

  • 取得年度における、取得日の主要な目的及び関連する目標(範囲又は単一の推定値)
  • 取得年度及びその後の各年度において、これらの主要な目的及び関連する目標がどの程度達成されているか(以下を含む)
    • 主要な目標及び関連する目標が達成されているかどうかを判断するために検討(review)されている実際の業績に関する情報
    • 実際の業績が、主要な目的及び関連する目標を満たしつつあるかどうか又は満たしているかどうかの記述

開示される情報は、企業の経営幹部によって検討された情報を反映する。

企業は、企業の経営幹部が企業結合の業績を検討する限り、この情報を開示することが要求される。

企業の経営幹部が、

  • 企業結合についての取得日の主要な目的及び関連する目標を満たしているかどうかの検討を開始しておらず、検討する計画がない場合、企業は検討しないという事実とその理由を開示することが要求される。
  • 企業結合についての取得日の主要な目的及び関連する目標が、取得年度後2期目の事業年度が終了する前に満たされたかどうかの検討を中止した場合、企業は中止したという事実とその理由を開示することが要求される。
  • 企業結合についての取得日の主要な目的及び関連する目標が満たされているかどうかの検討を中止したが、取得年度後2期目の事業年度が終了するまでの期間に、その主要な目的及び関連する目標が達成されているかを測定するために当初に使用された指標に関する情報を引き続き受け取っている場合、企業は、その情報を開示することが要求される。

また、IASBは、特定の状況において、EDの提案を適用するために必要となる情報の一部を開示することを企業に免除することを提案する。この免除は、商業上の機密及び訴訟リスクに関する作成者の懸念に対応するように設計されているが、適切な状況でのみ適用されるように、強制力及び監査可能性も備えている。

原則として、企業統合についての取得日の主要な目的の達成を著しく損なうと予想し得る場合、一部の情報の開示は免除される。EDには、企業、監査人、規制当局が、企業が免除を適用できる状況を特定するのに役立つ適用ガイダンスの提案も含まれている。

その他の提案

IASBは、IFRS第3号の開示要求について、以下の修正を提案している。

新たな開示目的

EDには、新たな開示目的の提案が含まれている。この提案では、取得者は、財務諸表の利用者が以下を評価できる情報を開示することが義務付けられている。

  • 事業を取得するための価格に合意した際に企業が企業結合から期待する便益
  • 戦略的企業結合の場合、企業が企業結合から期待する便益がどの程度得られているか。

企業結合の戦略的根拠

IASBは、企業結合の主な理由を開示するという現行の要求事項を、企業結合の戦略的根拠を開示する要求事項に置き換えることを提案している。

取得年度に期待されるシナジーに関する定量的な情報開示の要求事項

本提案において、企業は、

  • 期待されるシナジーをカテゴリー別に説明することが要求される(例えば、収益シナジー、コストシナジー及びその他の種類のそれぞれのシナジー)。
  • シナジーのそれぞれのカテゴリー別に以下を開示することが要求される。
    • 期待されるシナジーの金額又は金額の範囲の見積り
    • これらのシナジーを達成するためのコスト又はコストの範囲の見積り
    • シナジーから期待される便益がいつ開始するのか、それがどのくらい続くか
  • 特定の状況では、当該情報を開示することが免除される。

取得した事業の貢献度

取得した事業の貢献度を開示する現行の要求事項に変更を提案し、取得した事業の貢献度について利用者が受け取る情報を改善することを目的としている。特に、次のことが提案されている。

  • 要求事項で言及されている純損益の額が営業利益又は損失の金額であることを規定する(営業利益又は損失は、今度のIFRS第18号「財務諸表の表示及び開示」で定義される)。
  • 利用者が結合された企業の将来の業績を予測するのに役立つ情報を開示することにつながる情報を作成する会計方針を策定することが、企業に要求されることを規定する。

取得した資産及び引き受けた負債のクラス

IASBは、取得した資産及び引き受けた負債のクラスの記述から「主要な」という語を削除し、IFRS第3号に付随する設例に年金及び金融負債を追加することにより、企業結合において引き受けた年金及び金融負債について開示する企業の情報を改善することを提案する。

 

IAS第36号の修正案

シールディングによるのれんの減損損失の適時性に関する懸念に対処するため、IASBは、CGUにどのようにのれんを配分するかに関する追加ガイダンスを提案している。

EDは、のれんが配分されるそれぞれのCGU又はCGUのグループは、のれんに関連する事業が内部管理目的で監視している企業内の最小レベルを表し、集約前におけるIFRS第8号「事業セグメント」5項の事業セグメントよりも大きくてはならないという現行の要求事項を維持している。しかし、EDは、この要求事項を適用するために、企業が次のとおり行うという説明を追加している。

  • 結合のシナジーから便益を得ると見込まれるCGU又はCGUのグループを識別する。
  • 次に、のれんに関連する事業を監視するために経営者が定期的に使用するこれらのCGUに関する財務情報が存在する最小のレベルを決定する。当該財務情報は、結合のシナジーから見込まれる便益がどのように管理されているかを反映する。

企業は、どの報告セグメントにのれんが含まれるCGU又はCGUのグループが含まれているかを開示することが要求される。

さらに、IASBは、企業が資産の使用価値を計算する方法の修正を提案している。特に、修正案は以下の通りである。

  • 使用価値の計算に使用されるキャッシュ・フローの制約の削除-企業は、まだコミットしていない将来のリストラクチャリングから生じるキャッシュ・フロー、又は資産の性能の改善又は拡張から生じるキャッシュ・フローを含めることが禁止されることはなくなる。
  • 使用価値の計算に税引前キャッシュ・フローと税引前割引率を使用する要求事項を削除する。その代わり、企業はキャッシュ・フローと割引率について内部的に整合する仮定を使用し、適用したアプローチを開示することが要求される。

 

今度のIFRS第19号の修正案

IASBは、今度のIFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」を修正し、本基準を適用する適格子会社に以下の開示を要求することを提案する。

  • 企業結合の戦略的根拠に関する情報
  • 期待されるシナジーに関する定量的な情報(特定の状況下では免除される場合がある)
  • 取得した事業の貢献度に関する情報
  • 使用価額の計算に使用される割引率が税引前か税引後かに関する情報

 

経過措置、発効日及びコメント期間

IFRS第3号、IAS第36号及びIFRS第19号の修正は、比較情報を修正再表示せずに、発効日から将来に向かって適用する必要がある。初度適用企業に対する特定の救済措置の提案はない。

EDは発効日を提案していない。発効日は、IASBが本提案を再審議する際に決定される。

EDのコメント期間は2024年7月15日に終了する。

以上

 

1 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。
https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2024/acquisitions-and-goodwill

2 一部の利害関係者は、のれんは、例えば、取得された事業が統合される事業のヘッドルームによって減損から保護される可能性があるとIASBに通知した。ヘッドルームとは、事業の回収可能額が認識した純資産の帳簿価額を超える金額である。このヘッドルームは、企業が結合後の事業の減損をテストする際に、結合後の事業の回収可能額の減少が最初にそのヘッドルームに吸収されるため、取得したのれんの減損を覆い隠す可能性がある。

3 本誌2020年6月号(Vol.526)IFRS in Focus「IASBが、ディスカッション・ペーパー『企業結合−開示、のれん及び減損』を公表」(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/get-connected/pub/atc/202006/kaikeijyoho-202006-03.html)を参照いただきたい。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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