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国の会計と関連制度(12回目)~行政事業レビュー改革の概要~

月刊誌『会計情報』2024年9月号

公認会計士 長村 彌角

令和4年6月3日開催のデジタル臨時行政調査会1において、岸田総理大臣より、「我が国の経済成長には、デジタルの力を十分に生かすことのできる社会制度への転換が不可欠」である旨、「特に、財政支出を伴う事務事業で成果目標を定量的に立て、執行段階から成果を検証し、効果の低いものは見直していくことが重要」であり、「約5,000の事務事業のレビューの方法を順次見直し、EBPM2の手法の実践につなげていくことで、事業効果の検証を行」うことが指示された。また、令和4年6月7日閣議決定された「骨太の方針2022経済財政運営と改革の基本方針2022」3では、「EBPMの手法の実践に向け、行政事業レビューシートを順次見直し、予算編成プロセスでのプラットフォームとしての活用等を進める」とされた。

現在の行政事業レビューは、平成25年のスタートから約10年を経て、新たな活用ステージに入ってきている。本稿では、行政事業レビューと現在進んでいる改革の概要について触れる。

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1. 行政事業レビューとは

行政事業レビューとは、各府省庁自らが、その実施する全ての事業を対象に、行政事業レビューシートを活用して、エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の手法等により事業の進捗や効果を成果目標に照らして点検のうえ執行実態を明らかにし、さらに外部の視点も入れ点検の過程を「見える化」し、次年度の予算概算要求や執行改善等に反映させるようにPDCAを回すことで、国民への説明責任を果たすために実施される取組である。

(1)「行政事業レビューの実施等について(平成25年4月5日 閣議決定)」での目的

行政事業レビューを実施することとされた「行政事業レビューの実施等について(平成25年4月5日 閣議決定)」4(以下、平成25年閣議決定という)では、行政事業レビューの目的を、「各府省庁が所掌する事業のより効果的かつ効率的な実施並びに国の行政に関する国民への説明責任及び透明性の確保を図り、もって国民に信頼される質の高い行政の実現を図る」こととし、具体的な取組2点を挙げている。

① 各府省庁自らが、事業に係る予算の執行状況等について、個別の事業ごとに整理した上で、毎会計年度終了後速やかに必要性、効率性及び有効性等の観点から検証して当該事業の見直しを行い、その結果を予算の概算要求及び執行に反映するとともに、それらの結果を公表する。

② ①の検証を行うに当たっては、次に掲げる取組を行うこと。

ア) 事業に係る予算の執行状況等を分かりやすい形で公表すること。

イ) 外部性が確保され、客観的かつ具体的で、厳格な検証となるよう、事業に係る予算の執行その他行政運営に関して識見を有する者の意見を聴くこと。この場合、効果的かつ効率的に意見聴取を行うとともに、一部の事業については、公開性を確保した上で行うこと。

また、「平成25年度予算編成の基本方針(平成25年1月24日 閣議決定)」5では、予算に関し歳出分野の基本的な考え方として「各府省の責任の下、実効性の高いPDCAサイクルの確立に向けた取組みを進め、その成果を平成26年度予算編成に充分に活用していく」とされている。

(2)「行政事業レビューシート作成ガイドブック」における目的

内閣官房行政改革推進本部事務局は、令和6年4月22日に「行政事業レビューシート作成ガイドブック~EBPMの手法を用いた行政事業レビューの効果的な実施に向けて~Ver.1.0」6を公表した。ここでは、行政事業レビューの目的として、図表1にあるように、「全ての予算事業・基金事業で統一の様式を用いて、活動・成果実績、予算の支出先、使途等を記載し、全面公開することで、政策としての有効性を高め、国民への説明責任及び透明性の確保を図る」こととされており、平成25年閣議決定で示された目的と比較すると、データベース化を容易とするための「統一の様式」、EBPMを推進する点からの「政策としての有効性を高め」ることがより鮮明に打ち出されている。また、副題にあるように、EBPMを活用した事業の改善、見直しを行い、予算が最終的にどのように使用されたかの実態を把握することとされている。

当ガイドブックは、「Ⅰ前提」、「Ⅱ総論」、「Ⅲ実践」の3部から構成され、そのうち「Ⅱ総論」は担当管理者必読、「Ⅲ実践」は作成担当者必読となっている。国は、行政事業レビューシート作成要領や行政事業レビュー実施要領をワードで作成しているが、当ガイドブックはパワーポイントで作成され、図表が多用されており、行政事業レビューに直接携わっていない者にとっても、分かり易い資料となっている。

(3)行政事業レビューの4つの特徴

図表2のとおり、行政事業レビューには、自律性、透明性、外部性、公開性の4つの特徴がある。

各府省庁は前年度に実施した全事業について、予算執行実績を踏まえて事業の必要性、効率性、有効性の視点から自ら点検を行い(自律性)、その結果を「行政事業レビューシート」に記載して公表し(透明性)、さらに全事業のなかから抽出した事業について外部有識者による点検を受け(外部性)、各府省庁が点検する「公開プロセス」や、行政改革推進会議の下で各府省庁の点検結果を検証する「秋のレビュー」を通じて国民へ公開している。

(4)行政事業レビューのスケジュール

行政事業レビューは、毎年度、図表3のスケジュールで実施される。令和6年9月には、これまで各府省庁がエクセルで公表してきた行政レビューシート、基金シートが、レビューシートシステム(RSシステム)において一元的に公表され、一般にも活用しやすくなる。

 

(5)公開プロセス(各府省庁による公開点検)9

国のおよそ5,000を超える全事業について、各府省庁が自ら点検するにあたって、各府省庁から3名、行政改革推進会議から3名の計6名の外部有識者を交えて、オープンな場で、事業担当部局の担当者らと議論し、その様子はインターネットなどを活用し生中継等で公開される。議論の結果は、外部有識者の共通意見として「とりまとめコメント」としてまとめられた後、外部有識者から発表され、その内容は各府省庁が次年度予算概算要求に反映し、反映内容が記載された行政事業レビューシートが最終公表される。

令和6年度の実施期間は、令和6年6月4日から7月24日で、対象事業は19府省61事業である。

(6)秋のレビュー(秋の年次公開検証)10

行政改革推進本部事務局は、各府省庁が公表した行政事業レビューシートを用い、9月から10月に各府省庁の点検内容や点検結果を精査する。この結果、さらに見直し余地があると思われる事業については、行政改革推進会議の下、「秋のレビュー」として公開検証が実施される。これは、行政改革推進会議が検証テーマごとに選定した外部有識者により各府省庁の事業見直しや概算要求への反映状況を検証するもので、上記の「公開プロセス」と同様にインターネットなどを活用し生中継等で公開される。

秋のレビューは、その充実のために、「行政改革推進会議による検証の強化について(平成27年3月31日 行政改革推進会議決定)」11において、定例化、公開・広報の強化、政策評価に係るデータ等を積極活用することが強化策として示されている。

 

2. 行政事業レビューの抜本的改革

(1)行政改革推進会議(第51回)12

上記の岸田総理大臣発言や骨太の方針2022を受け、令和4年12月21日開催の第51回行政改革推進会議において、社会環境の複雑化が加速するなかで政府が課題に対して機動的に対応していくために、データ、エビデンスに基づいて機動的・柔軟に政策を見直し、未知の課題に対しては試行錯誤しつつも果敢に取り組み、政策をブラッシュアップしていく文化を「霞が関」に根付かせる必要性があるとされ、その上で、次の3つの基本的方向性が示された。

① 政策立案・改善や予算編成プロセスでの活用を前提に、横断的に見直す

② 明確な役割分担の下、令和6年度のシステム化を念頭におきながら、計画的に取り組む

③ 実質的な議論に集中できる環境を整える(作業負担の軽減)

これにより、行政事業レビューをEBPM普及の起点とするべく、プロセス全体の抜本的な見直しが進められることになった。

また、同推進会議では、岸田総理大臣から、「行政事業レビューシートについて、レビュー単位を予算単位で標準化した上で、政策が効果を発揮するまでの発現経路など、EBPMに関する記述を充実し、予算編成プロセスにおいて積極的に活用して」いくこと、「基金については、適正な執行が図られるよう、執行チェックを徹底するとともに、再点検を実施し、余剰資金について国庫返納を行う」との発言があった。

(2)行政改革推進会議(第52回)13

第51回行政改革推進会議での総理大臣の発言を受け、令和5年3月31日開催の第52回行政改革推進会議では、次の2点を今後の改革の柱として、具体的な方針を決定し、令和5年度から実施することとされた。

また、「EBPM推進委員会の開催について(令和5年3月31日行政改革推進会議決定)」により、EBPM推進委員会が設置され、行政事業レビューにおけるEBPMの実践を進めるため、各府省庁の行政事業レビュー推進チームに対してEBPM推進の方針を示しつつ取組を進めることとされた。

① 行政事業レビューへのEBPM導入と予算編成過程での積極的活用

全ての予算事業(約5,000事業、約60兆円)にEBPMの手法を導入し、時代の変化等により十分な効果があがっていない事業の廃止や改善等を実施し、未知の課題に対しても、まずは最善と考える政策を打ち出し、その後データを踏まえて柔軟に軌道修正を図ることで、限られた資源を有効活用し、時代の変化に機動的・柔軟に対応する行政を実現する。

具体的には、令和6年度予算から新たな行政事業レビューシートを予算編成過程で積極的に活用するとともに、レビュープロセスにおいては、政策効果測定のためのデータを示したうえで、具体的な成果目標を段階的に設定し、データに基づき政策効果の把握と見直しを徹底し、外部有識者点検もメリハリをつけて行うこととされた。

② 基金事業についての点検強化

「中長期的な視点から柔軟な執行が可能」という基金事業のメリットを最大限生かして課題解決に高い成果をあげていくとともに、基金事業は「基金法人を通じた間接的な事業実施であり、執行管理が困難」というデメリットの指摘に対応し、執行状況の点検強化を通じて、効率的な資金利用、余剰資金の国庫返納などを進める。

具体的には、基金シートにもEBPMの手法を取り入れ、基金事業の効果の見える化や最大化を進め、デメリットに対しては、今後の事業見込みと保有資金規模、事業の終期の設定、管理費についての記載を充実し、これらの適切性について外部有識者による点検を導入する。

(3)EBPM推進委員会(第1回)14

令和5年4月13日に開催された第1回EBPM推進委員会では、委員会内の共通認識を得るために、行政事業レビューの見直しの趣旨が説明された。

また、行政事業レビューを通じて政府の活動にEBPMを導入するために、EBPM推進委員会が政府全体の品質管理を担い、各府省庁行政事業レビュー推進チームは自府省の個別レビューシートの品質管理を担うこととされ、各府省庁の政策立案総括審議官等には、EBPM推進委員会と各府省庁推進チームの結節点として、EBPM推進委員会で示された方針等を各府省庁内で周知・徹底・実践させ、政府全体の品質管理の向上に資する取組を共有・提案することが期待されるとした。

意見交換では、財務省主計局から、予算編成過程での行政事業レビューシートの活用等について、総務省行政評価局から、EBPM推進に係る取組について説明された。総務省説明資料では、次の点が記載されている。

① 総務省行政評価局資料「政策評価制度の見直しについて」15

「政策評価」は政策立案過程で自然に実施されるものであるが、現実には意思決定過程から遊離した「作業」になっていないか、との問題意識から、各府省庁の設計の自由度を高め「意思決定に使える評価」に変えるという、見直しの基本的考え方が示された。そのために、政策効果の把握・分析機能の強化と意思決定過程での活用の促進のサイクルが重要とされ、特に、政策効果の把握、分析の基礎として、行政改革推進本部事務局から示された「行政レビューシートの作成・点検のポイント」を実践していくとした。

② 総務省資料「新たな政策評価の取組について」16

現状の政策評価が、評価のための評価になっている、すなわち、政策評価が政策改善に生かされていない点や政策評価の硬直化が生じている現状があるため、意思決定過程で活用し政策推進のための評価へ見直していく方向性が示された。政策評価の活用局面の見直しでは、政策推進のために行う行政事業レビューや審議会等での検討、白書等を政策評価として活用していくこととされた。

(4)デジタル行財政改革会議(第1回)17

令和5年10月6日閣議決定「デジタル行財政改革会議の開催について」18において、急激な人口減少社会への対応として、利用者起点で我が国の行財政の在り方を見直し、デジタルを最大限に活用して公共サービス等の維持・強化と地域経済の活性化を図り、社会変革を実現するため、デジタル行財政改革会議を開催することが決まった。これを受け、令和5年10月11日に、デジタル改革や行政改革などの司令塔として、第1回目のデジタル行財政改革会議が開催された。

同会議では、今後の取組方針のひとつとしてEBPMや見える化による予算事業の政策効果向上が掲げられ、行政事業レビューに関しては、次の方向性が示された。

① 行政事業レビューシートにIDを付すことでデータベース化やダッシュボード化を推進する

② 不十分なKPI設定や期限設定の改善を通じて、コロナ以降に拡大した事業・基金を見直し、政策効果を向上する

(5)行政改革推進会議(第55回)19

令和5年12月20日に開催された第55回行政改革推進会議では、「基金の点検・見直しの横断的な方針について」20が決定された。そこでは、基金の予算措置においては、各年度の所要額がおおむね予測可能な場合は基金によらない通常の予算措置によるものとすること、執行状況を踏まえた合理的な事業見込みを算定し保有資金規模の適正性について点検を行うこと、担当府省庁及び基金を設置する法人において、補助金交付の基準策定や補助金審査がしっかりできる体制を構築し、こうした根幹的な業務を民間に実質的に外注しないことなど6点が示された。

(6)デジタル行財政改革会議(第3回)21

令和5年12月20日に開催された第3回デジタル行財政改革会議では、「デジタル行財政改革中間とりまとめ」22が決定され、行政事業レビューに関して、次の2点が示された。

① 行政事業レビューシートの「見える化」によるEBPMの推進

行政事業レビューシートは、当初予算、補正予算含めて約5,000事業に分けて作成・公表され、190の基金についても基金シートが作成・公表されている。現在、これらは各省庁のホームページにエクセル形式で掲載されているが、令和6年度から「レビューシートシステム」を導入し、次の取組を行う。

  • 個々の事業の概要、KPI、支出先など、エクセルシート上の全ての情報をデータベース化することで、検索や分析を容易にする(令和6年4月に入力機能、令和6年9月に公開機能(一般公開)が稼働予定)。
  • 個々の行政事業レビューシートや基金シートに「予算事業ID」を附番し、シート上の情報と一体的に管理することで、予算事業の経年比較を可能にする。
② コロナで拡大した事業・基金の見直し

行政事業レビューシート、基金シートに掲載された成果目標、予算執行状況、基金の期限設定、支出先などの記載に基づいて、令和5年11月に有識者が公開で討論を行い(いわゆる「秋のレビュー」)、各事業・基金についてとりまとめを行った。特に基金については、コロナ以前は各年度数千億円の予算措置だったものが、コロナ後には主に補正予算において規模が拡大し、令和4年度は10兆円を超える規模となっている。これに関し、令和5年12月20日の第55回行政改革推進会議で決定した「基金の点検・見直しの横断的な方針について」の内容が盛り込まれた。

(7)EBPM推進委員会(第3回)23

令和6年1月18日に開催された第3回EBPM推進委員会では、総務省行政評価局から、「行政事業レビューシート 政策効果の測定のポイント」24が説明された。当資料では、検討されている新たな行政事業レビューシートを、「政策立案や予算要求という将来に向けての意思決定」の一環として位置付け、「政策効果の発現経路と目標をロジカルに説明し、データに基づいて見直す」ことにつながるものと整理した。また、当資料を試行版レビューシートを作成した128事業の実例等の観察から得られた知見を整理し、各政策担当者が政策を検討するうえでの一助となる具体的な方法や考え方の参考となる実践集としている。

(8)デジタル行財政改革会議(第7回)

令和6年6月18日に開催された第7回デジタル行財政改革会議では、「デジタル行財政改革 取りまとめ2024」25が決定された。行政事業レビューに関する点は次のとおり。

① デジタル基盤の構築

(各府省庁の情報システム経費の「見える化」による効率化)

新たに整備を行う情報システムや経費が一定規模以上の情報システムについては、透明性をもってEBPMを機能させるため、本年から順次、個々に、プロジェクト計画書等に基づき行政事業レビューシートを作成して、成果目標、更改時期・見込み額、ガバメントクラウド等の政府の共通機能や民間サービス等の利用の有無などを記載し、費用対効果や効率化努力が不十分な場合には見直しを行うことができるようにする。

② EBPM・予算ID・基金等

(予算関連情報の「見える化」)

約5,000事業に分けて作成・公表されている行政事業レビューシート、200の基金事業について作成・公表されている基金シートは、EBPMを実現するため、短期・中期・長期の具体的な重要業績評価指標(KPI)を記載しているが、デジタル技術等を活用し、成果を測ることが可能な情報を取れるよう、事前に体制を構築することが求められる。2024年度から、「RSシステム(レビューシートシステム)」を導入し、次の取組を行う。

  • 個々の事業の概要、KPI、支出先などシート上の全ての情報をデータベース化することにより、検索や分析を容易にする(2024年4月に入力機能が稼働済み。2024年9月に公開機能(一般公開)も稼働予定)。
  • 個々の行政事業レビューシート、基金シートに「予算事業ID」を附番し、シート上の情報と一体的に管理することで、予算事業の経年比較を可能にする。

(9)行政改革推進会議(第57回)26

令和6年6月27日に開催された同会議では、行政事業レビューを通じたEBPMの推進について協議され、行政事業レビューシートシステムについても説明された。

 

3. 行政事業レビュー実施要領

行政事業レビュー実施要領(以下、「実施要領」という。)は、行政改革推進会議により平成25年4月2日に策定されて以降、毎年度改正されている。実施要領には、行政事業レビューの枠組みの下、国からの資金交付により新設又は積み増し(以下、「造成」という。)された基金(以下、「基金」という。)についても適正かつ効果的、効率的に国費を活用する観点から、基金を用いて実施する事業(以下、「基金事業」という。)について厳格に検証し、使用見込みの低い資金は返納するというPDCAを回す取組を実施するとされている。

ポイントは次のとおりである。

(1)総論

各府省庁は、官房長(官房長の配置のない省庁では総括審議官等)を統括責任者とした「行政事業レビュー推進チーム」(以下、「チーム」という。)を組成し、EBPM的観点からの議論促進や政策評価との連携など、地方支分部局等を含め幹部や管理職職員等の関係者との連携を取ることとされている。

また、チームは、行政事業レビューと基金事業レビューとで若干の違いはあるものの、EBPM推進委員会との連携により、レビューシートや基金シートの品質管理、外部有識者の点検を受ける事業もしくは基金事業の選定と点検結果の聴取、点検結果の取りまとめ、改善状況の点検などを実施し、各省庁は、政策評価の取組との連携等を図るため、チームと政策評価担当部局との連携によるレビューと政策評価の一体的推進を図るとされている。

(2)行政事業の点検等

① レビューシートの作成

各府省庁は対象外とされている事業を除く全事業についてレビューシートシステム(以下、「RSシステム」という。)を用いてレビューシートを作成する。

レビューシート作成単位である事業単位は、予算編成過程での活用や国民への分かりやすさ、成果検証可能性に配意して設定し、「1事業1シート」原則に則り作成される。レビューシートは、対象事業の予算計上府省庁の事業所管部局が作成し、独立行政法人に対する運営費交付金に係る事業については、運営費交付金に係るレビューシートに加え、勘定単位財務諸表におけるセグメント単位にもRSシステムでセグメントシートを作成する。

② 外部有識者による点検

外部有識者は、利益相反の生じることのないよう選任する。外部有識者は、EBPMを実践する観点を踏まえ、アウトカムの適切性、成果目標に照らした点検、事業の効率性や経済性、国費投入の要否などの観点から外部性を確保しレビューを実施する。

対象事業は、前年度に新規開始した事業、現年度が事業最終実施年度の事業、行政改革推進会議による意見対象の事業、新たな定性的アウトカム設定事業等から選定される。また、全レビュー対象事業が少なくとも5年に一度は外部有識者の点検対象となることとし、特に、現年度の政策評価での実績評価対象事業、前年度に事業内容が大幅に見直され実施された事業、入札等において一者応札・一者応募や競争性のない随意契約で一者当たり10億円以上の支出を行った支出先を含む事業、会計検査院や総務省行政評価局、マスコミなどから問題点を指摘された事業など外部視点による事業点検の必要性の高いと判断される事業を重点的に選定することとしている。

外部有識者による所見は、各府省庁の概算要求に向けての事業の検討に活用するとともに、異なる対応をする場合には、各府省庁は十分に説明責任を果たすことになる。また、各府省庁は、翌年度予算概算要求提出前を目途に、外部有識者が大臣、副大臣等に対して行政事業レビューの取組全般を講評する機会を設ける。

③ 公開プロセスの実施

公開プロセスは、国の行政の透明性を高め、国民への説明責任を果たすために、各府省庁が、外部有識者4名以上を含めて、6月中を目途に1~2日程度の期間、公開の場(インターネット生中継を原則とし、傍聴も可能)で事業点検を行う取組である。公開プロセスでは、論点が専門的・技術的に過ぎ国民の関心を惹起しがたい事業や公開の場で議論するにふさわしくない事業、事業単位で予算規模が1億円未満の事業は対象としないことができる。

④ チームによる点検(サマーレビュー)及び概算要求への反映

チームによる点検(サマーレビュー)は、外部有識者による点検結果を踏まえつつ、EBPMの手法等を活用し、事業所管部局の指導を行い、事業の必要性、有効性、効率性の観点から事業全体についての点検・改善につなげるものである。チームの点検結果は所見としてレビューシートに記載され、各府省庁は翌年度の予算の概算要求や予算執行等に的確に反映することとされている。

⑤ 点検結果等の公表

各府省庁は、レビューシートを翌年度予算概算要求提出期限の翌日までにRSシステム上で公表する。その際には、チームの所見の各事業への反映状況や反映額の総額等の取りまとめも合わせてRSシステムで公表される。

(3)基金の点検等

各府省庁は、基金事業の進捗や効果等の検証を踏まえ、執行の改善や余剰資金の国庫返納につなげる厳格な点検を行う。基金の点検に用いられた基金シートを9月中旬までにRSシステム上で公表する。

① 基金シートの作成対象となる基金

基金シート作成対象は、次の4点のすべてに該当するものとされている。

<造成の原資>

国から交付された資金(補助金・交付金・貸付金・拠出金等)の名称や資金の交付方法(直接交付・間接交付)の別を問わず、国から交付された資金(地方交付税交付金を除く。)の全部又は一部を原資として造成したもの。

<資金の保有期間等>

次のア~ウのいずれかに該当。

ア) 国から資金交付を受けた年度内に全額支出せず、次年度以降にも支出することを目的として保有(独立行政法人、国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「独立行政法人等」という。)に係る運営費交付金債務を除く。)

イ) 2年を超えて資金を保有(アの目的にかかわらない)

ウ) 資金保有の有無にかかわらず、貸付等(出資を含む。)の事業を実施するもののうち、返済等を原資として複数年度にわたり再度又は繰り返して貸付等を行うもの

<基金残高>

次のア~ウのいずれかに該当。

ア) 前年度末に基金残高を有するもの(既に廃止が決定されたが国庫返納をせず残高を有しているものを含む。)

イ) 基金事業の終了や国庫返納等に伴い前年度中に基金残高が無くなったもの(新規募集の終了後、補助事業者の成果報告や財産処分等の完了後の事務処理など後年度において費用が発生する事務のみを実施するもの等を含む。)

ウ) 前年度末に基金残高はないが、基金を原資とする貸付等の残高を有するもの

<基金の造成法人等>

国からの直接・間接交付された資金により、独立行政法人等、特別民間法人、公益法人、一般法人、特殊法人、認可法人、特定非営利活動法人、株式会社、法人格のない組合等に造成したもの。

② 基金シートの作成

基金造成に充てられた資金の予算計上府省庁が、基金事業別に基金シートを作成する。その際、「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準(平成18年8月15日閣議決定)」27(以下、「基金基準」という。)に基づく見直しの状況等について、基金シートに明示する。

③ 基金所管部局による点検

基金の所管部局は、「基金基準」及び「基金の点検・見直しの横断的な方針について(令和5年12月20日行政改革推進会議)」28を踏まえ、以下の視点から厳格に点検を実施し、その結果を基金シートに分かりやすく入力し、執行の改善や余剰資金の国庫返納を行う。

<基金方式の必要性>

各年度所要額が概ね予測可能な場合には、基金ではなく通常の予算措置とする。特に、不確実な事故等の発生に応じて資金を交付する事業、資金の回収を見込んで貸付等を行う事業、事業の進捗が他の事業の進捗に依存する事業については、基金方式によらずに実施できないかを真摯に検討する。

<具体的な成果目標、成果の達成状況の検証>

基金事業の定量的な成果目標や短期(3年程度)・中長期の成果目標を達成するためのロジックモデルを基金シートで明らかにし、事業効果を検証するためのデータ収集・分析体制構築の状況、事業目的達成に向けて効果的・効率的に基金事業が実施されているか検証する。

<事業見込み・保有規模>

基金事業の終了予定時期に照らし、基金事業に必要な費用に対する保有基金額の割合(保有割合)が1を上回る場合には、その上回る部分に必要性があるか点検する。将来発生しうる損失への備えを目的とした事業の場合は、備えるべき損失範囲を明確にし、合理性ある事業見込みと保有割合を算定する。需要の大幅な減少等により低調な執行が継続する事業は、廃止を検討する。執行促進を目的として行う条件緩和や制度拡充には厳格に対応し、原則として余剰資金を国庫返納させ、終了期限の延長についても厳格に対応する。

<事業費支出のない基金事業>

支出が管理費のみの事業は廃止を検討し、そのうち事業終了している場合には廃止を原則とする。将来発生しうる損失への備えを目的とした事業で3年連続して事業費支出のない基金事業は、事業終了し国庫返納を検討する。

④ 外部有識者及びチームによる点検

チームは、原則としてすべての基金事業について行政事業レビューで選任した外部有識者に点検を求める。チームによる点検は外部有識者による点検結果も踏まえ、基金所轄部局の指導を行い、基金事業全体の見直し・改善につなげる。

⑤ 地方公共団体等保有基金執行状況表

各府省庁は、地方公共団体等に造成された基金について、RSシステムを用い、「基金の点検・見直しの横断的な方針について(令和5年12月20日行政改革推進会議)」を踏まえて、地方公共団体等保有基金執行状況表(以下「執行状況表」という。)を作成する。

執行状況表の作成対象となる基金は、国から資金交付を受けた地方公共団体から間接交付された資金を原資として基金を造成した独立行政法人等、特別民間法人、公益法人、一般法人、特殊法人、認可法人、特定非営利活動法人、株式会社、法人格のない組合等について、上述した基金の造成の原資、資金の保有期間等、基金残高の視点を満たす場合である。

担当府省庁は、執行状況表を9月中旬までにRSシステム上で公表し、余剰資金があれば地方公共団体に国庫納付を促す。

⑥ 出資状況表の作成・公表

国から出資を受けた法人等を所管する府省庁は、RSシステムを用いて出資状況表を作成し、9月中旬までに公表を行う。

(4)行政改革推進会議による検証等

行政改革推進会議は、各府省庁の点検や公表内容の十分性、点検結果が的確に概算要求に反映されているか等について検証を行い、必要に応じ、検証の結果が予算編成過程、制度改正等で活用されるよう意見を提出することとされている。また、秋の年次公開検証(秋のレビュー)を実施し、公開性の担保や国民の関心を高め、秋のレビューにおける指摘事項を、各府省庁は以後の予算等に適切に反映することともされている。

 

4. 行政事業レビューシート作成要領 *29

行政事業レビューシート作成要領は、毎年度更新作成されている。令和6年度の作成要領は、令和5年度と比較して次の点が大きく見直されている。

  • 行政事業レビューシート作成による基礎的なEBPMを実践するための考え方や具体的な方法をまとめた「行政事業レビューシート作成ガイドブック」を参照して作成する。
  • RSシステムによるレビューシートの作成に当たり、RSシステム利用にあたっての注意事項が記載されている。

 

5. 行政事業レビューシート作成ガイドブック *30

内閣官房行政改革推進本部事務局は、令和6年4月22日に「行政事業レビューシート作成ガイドブック」を公表した。「Ⅰ前提」、「Ⅱ総論」、「Ⅲ実践」の3部で構成され、そのうち「Ⅱ総論」は担当管理者必読、「Ⅲ実践」は作成担当者必読となっている。

当ガイドブックは、行政事業レビューシートを政策立案や予算要求という将来に向けた「意思決定」の一環として積極的に活用し、基礎的なEBPMを実践するための考え方・具体的な方法を示す位置づけとして作成されている。

 

6. レビューシートシステム(RSシステム)

行政事業レビューシート(RS)は、各府省庁が原則としてすべての予算事業に関して、事業の目的や概要、予算額、執行状況、資金の流れ、事業の進捗や効果に関する成果目標とその実績等を整理し、自己点検や外部有識者による点検等を通じて、事業の効果的・効率的な実施に繋げていくために作成するものである。

行政改革推進本部事務局の資料31によれば、RSシステムは、2023年4月から開発に着手され、2024年4月に各府省庁の入力機能が稼働、今後2024年9月に2024年度のレビューシートを含めて一般に公開される。RSシステムにより、例えば、次のような変化が期待されている。

 

これまで

RSシステム
(令和6年9月一般公開)

作成形式

表計算ソフトで作成し、各府省庁のHPで、シート単位で公表。

RSシステム上で入力。各府省庁の作業負担軽減と効率化。

改善される課題例

手作業入力のため、法人名や金額などに誤入力が発生。

プルダウンや法人番号公表サイト等との連携による入力作業の軽減と情報の正確性が向上。

メールベースで確認されるため、確認やファイル管理等に手間がかかる。

メールベースの作業を無くし、RSシステムにおいてデータ一元管理とリアルタイム共有が可能。

各府省庁のHPで年度別シート単位別に公表されており、関心ある事業の検索が困難。

RSシステムに全レビューシート等が集約した形で、HPで一元管理。

同じ事業を経年で確認したくとも、年度別で公表されており検索に手間がかかる。

予算事業IDで過去のシートとの紐付けがされ、経年推移比較などの利便性向上。

 

RSシステムは、各府省庁が利用するガバメントクラウド(AWS:アマゾン ウェブ サービス)上で構築され、GSSネットワーク(ガバメント ソリューションサービス ネットワーク)を介して各府省庁と連携される。RSシステムには、2021年度以降の行政事業レビューシート情報及び独立行政法人の運営費交付金事業に関するセグメントシート情報、2023年度以降の基金シート情報が格納され、国民は各府省庁のHPに個別にアクセスせずとも、インターネットを介してRSシステムからこれらの情報に直接アクセスでき、利活用できる。

 

7. 最後に

国は、行政事業レビューをEBPMの手法等により活性化させ、政策評価との連携も図り、予算策定過程や政策立案過程に生かしていくことを決定した。EBPMの手法をこれらに生かしていくことの重要性は以前から主張が見られたところであるが、数年掛かっても良いので当取組を着実に根付かせていくことに加え、参考とされるエビデンス内容も常に変化していくため、新鮮で確かなエビデンスを収集し活用していくことが、期待される。

また、これまでの行政事業レビューシートの内容は、各府省庁のホームページから検索する必要があり、データ活用するにも必ずしも使いやすい形でエクセル化されているとは言い難かった。今後のRSシステムによるデータ公表により、国民も参加した行政事業に対する分析等が一層進み、益々、効果的でアカウンタビリティを果たせるような予算編成に繋がることも期待される。

今般作成された行政事業レビューシート作成ガイドブックはパワーポイントで作成され図表が多用されており、過去のデジタル行財政改革会議や行政改革推進会議などの議論やその結果がサマライズされており、今後の行政事業レビューの在り方を理解するには、非常にわかりやすい。行政事業レビューの一層の理解を進め、行政事業レビューが政策立案や予算策定過程という将来の意思決定に一層貢献した仕組み・制度となるよう国民としてサポートしていくためにも、ご一読を薦めたい。

以上

 

1 https://www.digital.go.jp/councils/administrative-research/cb5865d2-8031-4595-8930-8761fb6bbe10

2 Evidence Based Policy Making:EBPM(エビデンスに基づく政策立案)は、①政策目的を明確化させ、②その目的達成のため本当に効果が上がる政策手段は何かなど、政策手段と目的の論理的なつながり(ロジック)を明確にし、③このつながりの裏付けとなるようなデータ等のエビデンス(根拠)を可能な限り求めることで、「政策の基本的な枠組み」を明確にする取組(図表1を参照)。

3 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

4 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gyoukakusuisin/dai2/siryou01.pdf

5 https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2012/2013_yosanhensei.pdf

6 https://www.gyoukaku.go.jp/review/img/R06sakusei-guidebook.pdf

7 https://www.gyoukaku.go.jp/review/review.html

8 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai57/siryou1.pdf

9 https://www.gyoukaku.go.jp/review/kokai/index.html

10 https://www.gyoukaku.go.jp/review/aki/index.html

11 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai16/siryou1-3.pdf

12 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai51/gijisidai.html

13 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai52/gijisidai.html

14 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai1/gijisidai.html

15 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai1/siryou2.pdf

16 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai1/siryou3.pdf

17 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi1/gijishidai1.html

18 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi1/kaigi1_siryou1.pdf

19 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai55/gijisidai.html

20 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai55/siryou1.pdf

21 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi3/gijishidai3.html

22 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/pdf/chukan_honbun.pdf

23 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai3/gijisidai.html

24 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/ebpm/dai3/siryou2.pdf

25 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/pdf/torimatome_honbun.pdf

26 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai57/gijisidai.html

27 https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/shocho/koeki/pdfs/hk_kijyun01.pdf

28 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai55/siryou1.pdf

29 https://www.gyoukaku.go.jp/review/img/R06sakuseiyouryou.pdf

30 https://www.gyoukaku.go.jp/review/img/R06sakusei-guidebook.pdf

31 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai54/siryou4.pdf

32 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gskaigi/dai57/siryou3.pdf

本記事に関する留意事項

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