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半期報告書の開示に関する留意事項
月刊誌『会計情報』2024年11月号
公認会計士 村松 駿一
はじめに
2024年4月1日から施行されている「金融商品取引法等の一部を改正する法律」によって四半期開示制度の見直し1が行われた。
当該金融商品取引法(以下「金商法」という)の見直しにより、上場会社は事業年度が開始した日以後6カ月間を1つの会計期間とした中間財務諸表を作成し、半期報告書を提出することが求められることとなった。
また、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という)や「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「財規」という)、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財規」という)についても改正され、新たな枠組みでの開示が求められている。
本稿では、改正後の半期報告書の開示に関する留意事項について説明する。
なお、中間決算の会計処理に関する留意事項は、本誌2024年10月号(Vol.578)を参照いただきたい。
また、国際会計基準適用会社における留意事項は、本誌2024年6月号(Vol.574)を参照いただきたい。
1. 半期報告書の開示に関する留意事項
(1)記載内容
内国会社における半期報告書の記載様式は以下のとおりである。
金商法第24条の5第1項では半期報告書を提出しなければならない内国会社について、上表のとおり第1号(上場会社等のうち特定事業会社以外)、第2号(上場会社等のうち特定事業会社)、第3号(非上場会社)の3区分に分類している。以下、それぞれ第1号の会社、第2号の会社、第3号の会社という。
それぞれの会社で記載しなければならない事項は開示府令並びに財規及び連結財規で定められている。第1号の会社及び第2号の会社は、開示府令第四号の三様式を使用して半期報告書を作成し、第1号の会社は第一種中間連結財務諸表及び第一種中間財務諸表(以下「第一種中間財務諸表等」という)を、第2号の会社は第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表(以下「第二種中間財務諸表等」という)を含める。また、第3号の会社は開示府令第五号様式を使用して半期報告書を作成し、第二種中間財務諸表等を含める。
第一種中間財務諸表等及び第二種中間財務諸表等の構成は以下のとおりである。書類の名称は変わっているが、いずれも改正前の第2四半期における四半期財務諸表や中間財務諸表の構成から変更はない。
第一種中間財務諸表等は、2024年3月に企業会計基準委員会から公表された中間会計基準等に従って作成される2。一方で第二種中間財務諸表等は改正前の中間連結財務諸表及び中間財務諸表と同様に、企業会計審議会から公表されている中間作成基準等に従って作成される。
なお、改正前においては、四半期連結財務諸表や四半期財務諸表は「四半期連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」及び「四半期財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に様式等が定められており、中間連結財務諸表や中間財務諸表は「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」や「中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に様式等が定められていたが、これらは廃止され、連結財規や財規に第一種中間財務諸表等及び第二種中間財務諸表等に関する定めが追加されている。
(2)比較情報の取扱い
第一種中間財務諸表等を含む半期報告書を作成する場合、比較情報の取扱いが論点となる。
第一種中間財務諸表等は従来作成していなかった種類の財務諸表であるため、中間会計基準等を遡及適用し比較情報を作成することについて、情報の有用性と実務負担との関係を考慮して検討がなされた結果、適用初年度においては、開示対象期間の中間財務諸表等について中間会計基準を遡及適用し、比較情報を作成することとされた(中間会計基準第38項及びBC23項)3。
中間会計基準等は基本的に企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下「四半期会計基準等」という)の会計処理に関する定めを引き継いでおり、四半期会計基準等と差異が生じるものについては従来の四半期での実務が継続して適用可能となる取扱いを定めていることから、企業が自主的に前年度の四半期において適用していた会計方針と異なる会計方針を採用しない限り、前年度の第2四半期財務諸表と同様の会計処理により適用初年度においても開示対象期間の中間財務諸表を作成することが可能となると考えられる。
一方、中間会計基準等の適用初年度において従前の四半期決算とは異なる会計方針を採用した場合、会計方針の変更には該当しないと考えられる。これは、従来作成していた財務諸表(四半期財務諸表)と異なる種類の財務諸表(中間財務諸表)を新たに作成しているためである(中間会計基準BC24項)。この場合であっても、中間会計基準等は開示対象期間の中間財務諸表について遡及適用することとされている(中間会計基準第38項)ことから、比較情報は新しい会計方針に従って作成する必要があると考えられる。また、当中間連結会計期間への影響が大きい場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に関する注記に準じて税金等調整前中間純損益金額に対する前中間連結会計期間における影響額などを追加情報として記載することが考えられる4。なお、中間財務諸表等においても年度の会計方針との首尾一貫性が求められていること、四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表においても中間、年度の会計方針との継続性が求められていることから、中間会計基準等の適用初年度において従前の四半期決算とは異なる会計方針を採用する場合には慎重に検討する必要がある。
(3)新たな会計基準等を適用することに伴う半期報告書における記載
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「改正法人税等会計基準」という)及び企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「改正税効果適用指針」という。また、改正法人税等会計基準と合わせて「改正法人税等会計基準等」という)が当期より適用される。
この改正法人税等会計基準等の適用は、①主要な経営指標等の推移及び②会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記に影響する。
① 主要な経営指標等の推移
遡及適用を行った場合には、主要な経営指標等の推移において当該遡及適用等の内容を反映するとともに、その旨を注記する必要がある。
改正法人税等会計基準等を当中間連結会計期間の期首から適用している場合、例えば、脚注に以下を記載することが考えられる。
[「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日)等を適用している場合] 2.「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号2022年10月28日)等を当中間連結会計期間の期首から適用しており、前中間連結会計期間及び前連結会計年度に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を遡って適用した後の指標等となっている。 |
出所:公益財団法人 財務会計基準機構
「半期報告書の作成要領(2024年9月期提出用)」10ページ 記載事例
[「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日。以下「2022年改正会計基準」という。)等を適用し、2022年改正会計基準第20-3項ただし書き及び「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(2022年10月28日)第65-2項(2)ただし書きを適用している場合] 2.「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号2022年10月28日。以下「2022年改正会計基準」という。)等を当中間連結会計期間の期首から適用しており、前中間連結会計期間及び前連結会計年度に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を遡って適用した後の指標等となっている。なお、2022年改正会計基準については第20-3項ただし書きに定める経過的な取扱いを適用し、「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号2022年10月28日)については第65-2項(2)ただし書きに定める経過的な取扱いを適用している。この結果、当中間連結会計期間に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっている。 |
出所:公益財団法人 財務会計基準機構
「半期報告書の作成要領(2024年9月期提出用)」10ページ 記載事例
② 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記
改正法人税等会計基準等を以下の前提で適用する場合、会計方針の変更に関する注記の記載事例は下記のとおりである。
- 改正法人税等会計基準第20-3項ただし書きに定める経過的な取扱いを適用する。
- 改正税効果適用指針第65-2項(2)ただし書きに定める経過的な取扱いを適用する。
(会計方針の変更) 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号2022年10月28日。以下「2022年改正会計基準」という。)等を当中間連結会計期間の期首から適用している。・・・・・(会計方針の変更の具体的な内容)・・・・・。 法人税等の計上区分(その他の包括利益に対する課税)に関する改正については、2022年改正会計基準第20-3項ただし書きに定める経過的な取扱い及び「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号2022年10月28日。以下「2022年改正適用指針」という。)第65-2項(2)ただし書きに定める経過的な取扱いに従っており、・・・・・(経過措置の概要を記載)・・・・・。この結果、・・・・・(税金等調整前中間純損益金額に対する影響額及びその他の重要な項目に対する影響額を記載)・・・・・。 また、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱いの見直しに関連する改正については、2022年改正適用指針を当中間連結会計期間の期首から適用している。当該会計方針の変更は、遡及適用され、前中間連結会計期間及び前連結会計年度については遡及適用後の中間連結財務諸表及び連結財務諸表となっている。この結果、・・・・・(税金等調整前中間純損益金額に対する前中間連結会計期間における影響額及びその他の重要な項目に対する影響額(前連結会計年度の期首における純資産額に対する累積的影響額等)を記載)・・・・・。 |
出所:公益財団法人 財務会計基準機構
「半期報告書の作成要領(2024年9月期提出用)」122ページ 記載事例
(4)その他の留意事項
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(2022年12月公表)において「半期報告書について、上場企業は、現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容を求める」とされたことを踏まえ、半期報告書の記載様式である開示府令第四号の三様式は改正前の四半期報告書の記載様式であった旧第四号の三様式を基本的に踏襲している。
① 「主要な経営指標等の推移」における一株当たり利益
主要な経営指標等の推移における一株当たり利益について、改正前は、第2四半期報告書において、第2四半期累計期間に加えて、第2四半期会計期間(3か月間)の情報も記載することとされていた。この点、半期報告書は6カ月の中間会計期間を前提としているため、改正後は中間連結会計期間に係る情報を記載することとされている5。
② 「経理の状況」における冒頭の記載
半期報告書に含まれる中間財務諸表等について第一種中間財務諸表等と第二種中間財務諸表等の2種類が存在することとなったため、連結財規又は財規に定めるところにより中間財務諸表等を作成している場合には、経理の状況においてその旨を記載するとともに、第一種中間財務諸表等と第二種中間財務諸表等のどちらを作成しているのかを記載することとされた(開示府令第四号の三様式 記載上の注意(18)a)。
なお、非上場会社が半期報告書を作成する際に使用する開示府令第五号様式については、改正前から6カ月の中間会計期間を前提としていたため、上記①「主要な経営指標等の推移」における一株当たり利益は、中間連結会計期間に係る情報を記載することで変わりはない。また、上記②「経理の状況」における冒頭の記載については、連結財規又は財規に定めるところにより中間財務諸表等を作成している場合には、経理の状況においてその旨を記載するとともに、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表である旨を記載することとされた(開示府令第五号様式 記載上の注意(24)a)。
以上
- 詳細は本誌2024年6月号(Vol.574)を参照
- 詳細は本誌2024年10月号(Vol.578)を参照
- 2024年3月27日に金融庁が公表した「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」の別紙1「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」No.59から61では、「前中間(連結)会計期間と同一の会計処理を継続していれば、前中間(連結)会計期間の情報を修正することなく比較情報として掲載が可能であると考えられることから、比較情報を不要とする附則は設けないこととしました」とされている。
- 2024年3月27日に金融庁が公表した「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案等に対するパブリックコメントの結果等について」の別紙1「令和5年金融商品取引法等改正に係る政令・内閣府令案に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」No.59から61を参照。
- 改正前の開示府令第四号の三様式 記載上の注意(5)bでは、「提出会社が四半期連結財務諸表を作成している場合(当該提出会社が特定事業会社であって、当四半期連結会計期間が第2四半期連結会計期間である場合を除く。)には、当四半期連結会計期間及び前年同四半期連結会計期間に係る1株当たり四半期純利益金額または四半期純損失金額を記載する」こととされていたが、改正後の様式では当該記載が削除されている。
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。