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サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループでの検討概要(その2)

月刊誌『会計情報』2025年2月号

サステナビリティ開示基準の適用対象・適用時期等の検討状況

公認会計士 清水 恭子

1. はじめに

2023年3月期の有価証券報告書から、サステナビリティ情報の法定開示が始まっている1。サステナビリティ情報の開示については、具体的な開示基準が定められていないため、2023年3月期の有価証券報告書の作成においては、「各企業の取組に応じて記載していくことが考えられる」旨の考え方が金融庁より示されていた2

サステナビリティ情報の開示基準については、サステナビリティ基準委員会(以下「SSBJ」という)が、2025年3月末までに確定基準を公表とすることを目標として、2024年3月に公表したサステナビリティ開示基準(以下「SSBJ基準」という)の公開草案を現在再審議中である3

SSBJ基準は、金融庁による法令上の手当てがなされることを前提としているため、適用対象や適用時期等についての具体的な定めはない。SSBJ基準の適用対象や適用時期については、金融審議会により設置された「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(以下「WG」という)4において、現在検討中であり、本稿執筆時点(2024年12月13日)で既に5回のWGが開催されている(【図表1】WG開催実績参照)。

本誌2024年8月号では、WG設置の背景及び概要について解説するとともに、第3回WGまでに検討されたSSBJ基準のあり方、適用対象、適用時期、開示タイミング(二段階開示や同時開示の方法)等の議論の概要について解説した。本稿では、その後の議論の概要及び第4回及び第5回のWGで新たに議論された保証制度等の論点について解説する。

なお、WGにおける検討は現在も継続中であり、今後の検討状況については、本誌次号以降で解説予定である。

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2. サステナビリティ開示基準の導入における論点

これまでに開催されたWGでの議論を経て、WG事務局(以下「事務局」という)からの主な提案として、以下の方向性が示されている。

■有価証券報告書におけるSSBJ基準の適用対象と適用時期

時価総額53兆円以上のプライム市場上場企業(以下「プライム上場企業」という)から、時価総額に応じて段階的に適用する案が事務局から示されている。

  • 時価総額3兆円以上のプライム上場企業は、2027年3月期よりSSBJ基準の適用を義務化
  • 時価総額1兆円以上のプライム上場企業は、2028年3月期からSSBJ基準の適用を義務化
  • 時価総額5千億円以上のプライム上場企業は、2029年3月期からSSBJ基準の適用を義務化
  • 時価総額5千億円未満のプライム上場企業は、203X年3月期でのSSBJ基準の適用を義務化

 

■有価証券報告書のサステナビリティ情報の保証

サステナビリティ情報の保証については、SSBJ基準の適用義務化の翌年から保証を義務化する案が事務局から示されている。第5回WGでは、保証義務化から2年間は、温室効果ガス排出量のScope1・2、ガバナンス及びリスク管理を保証範囲とし、3年目以降は国際動向等を踏まえて継続して検討すること、保証水準は限定的保証とし、今後合理的保証への移行の可否について検討することが、事務局より示されている(詳細については、本稿「3.有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の保証について」を参照)。

以下、サステナビリティ開示基準の導入における論点ごとに、第4回及び5回WGでの議論の概要について解説する。

(1)有価証券報告書におけるSSBJ基準の適用対象と適用時期

① 第3回WGまでの議論の概要

有価証券報告書における、SSBJ基準の適用対象と適用時期については、前述のとおり時価総額に応じて段階的に導入する案(【図表2】参照)が事務局より「基本線」として示され、委員からも賛同を得た。

② 第4回WG及び第5回WGでの議論

第4回及び第5回WGでは、特記すべき追加的な議論はなかった。

(2)経過措置としての二段階開示

ISSB基準では、財務諸表とサステナビリティ情報は同時に開示することが求められており、SSBJ基準の公開草案でも、原則としてサステナビリティ情報と財務諸表の同時報告を求めている。

一方、現行の日本の開示実務では、サステナビリティ情報の詳細を含む統合報告書等は、有価証券報告書の提出から2~3ヶ月後に公表されて公表されている。また、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)によるGHG排出量の報告期限は、3月決算の有価証券報告書提出日よりも後の7月末となっているなど、同時開示の実現には一定のハードルがあることが認識されている。

有価証券報告書の開示タイミングが実務上の課題となっているため、WGにおいてもSSBJ基準に準拠した開示を行う場合に、半期報告書など有価証券報告書以外の書類も用いた二段階開示(サステナビリティ情報の開示を遅らせる)を可能とするかについて検討が行われた。

① 第3回WGまでの議論

第3回WGでは、ISSB基準で認められている経過措置を日本においても採用し、SSBJ基準の適用初年度は二段階開示を容認し、2年目以降は同時開示する案6が事務局から示された。具体的には、初年度は、①有価証券報告書で一段目の開示を行い、その後②有価証券報告書の訂正又は半期報告書により、サステナビリティ開示基準に準拠するために必要な事項を追加開示する案が示された。

委員からは、適用初年度における経過措置として二段階開示を認めるという事務局提案に概ね賛同する意見が示されたが、二段階開示の方法等について、詳細の明確化が必要との意見があった7

② 第4回WGでの議論

第4回WGでは、前回の提案を一部修正した以下のような案が事務局より示された8

  • 一段階目の開示は、有価証券報告書における現行開示規制に基づく開示事項とする
  • 二段階目の開示は、訂正報告書においてサステナビリティ開示基準に準拠した開示を一括で行う
  • 訂正報告書における二段階目の開示は、半期報告書の提出期限までに行う
  • 二段階開示の準拠表明の時点、後発事象の判断の時点はISSB基準に基づき(SSBJ基準の公開草案でも同様の定めあり)訂正報告書の時点とする

下線は、第3回事務局案からの修正箇所を筆者加筆

 

二段階目の開示について、第3回WGの事務局案では、有価証券報告書の訂正による方法と半期報告書による方法が考えられるとされていた。しかし、サステナビリティ情報が有価証券報告書の記載事項とされることに鑑み、二段階目の開示は訂正報告書で行う方が制度的な整合性を確保できることから、第4回事務局案では有価証券報告書の訂正によるとされた。また、訂正報告書とすることで、更新箇所が下線等で明示されること、半期報告書に比して早期開示が可能であり、その結果、後発事象の対象期間を短縮できる、というメリットがあることも事務局から示された。

委員からは、二段階開示を行うことについて基本的に賛同する意見が多く示された。

しかし、二段階目の開示を訂正報告書とすることに対しては、賛否両論の意見が示された。事務局案の訂正報告書での提出に賛成する意見としては、情報ユーザーの視点からは、開示媒体が複数並立するというのはあまり望ましくなく、また、変更箇所が分かりやすい点からも、有価証券報告書の訂正で良いのではないか、企業サイドの心理的ハードルが想像以上に高いようであるが、この辺りはルールで訂正できるということを明らかにしていくのが良いなどの意見が示された。

一方で、訂正というのは非常に企業にとって重たい意味があり、企業の選択によって半期報告書もしくは臨時報告書での報告を認めることを検討してはどうか、という意見や、海外向けの情報開示の本邦での開示が臨時報告書で良いのであれば、有価証券報告書のアップデートとしての位置づけとして二段階目も臨時報告で良いのではないか、という意見、訂正報告書で行う場合、虚偽記載の責任は発生しないことを明確にする必要がある、という意見など、様々な意見が示された9

また、適用初年度における経過措置として二段階開示を認めるという点についても、初年度だけでなく2年目以降も必要なのではないかという意見や、二段階開示の期間を少なくとも2、3年程度、できれば米国と同様に期限なしとすべき、といった意見も示されている9

なお、サステナビリティ開示基準に準拠した開示を二段階目の開示で一括して行うという点については、複数の委員から、既に自発的に有価証券報告書でScope3の速報値などを開示している企業もあり、現行の開示の後退につながる懸念が示された9。この点については、事務局より、サステナビリティ開示基準に準拠した開示を、有価証券報告書で行うことができる場合には、二段階目ではなく一段階目の開示とすることが可能である旨の考えが示された。

③ 第5回WGでの議論

第5回WGでは、特記すべき追加的な議論はなかった。

(3)海外に向けた情報開示の方法での開示方法

① 第3回WGまでの議論

第3回WGでは、欧州CSRD(サステナビリティ報告指令)等の海外制度に基づくサステナビリティ情報の開示を海外に向けて行った場合に、それを日本の開示に取り込む方法について検討が行われた。事務局からは、日本の投資家に対しても確実に情報提供されることを確保することが重要であるとの観点から当該開示を行った場合には、臨時報告書等の提出を行うことや、本邦のサステナビリティ開示基準に基づく開示を法定又は任意で行っている場合で、海外に向けた開示情報と差が無ければ、既に日本の投資家に対する情報提供は行われていることから適用除外とすることなどが提案された10

委員からは、事務局提案に対して賛否両論があった。開示に賛同する意見においても、臨時報告書による開示を求める点で共通していたが、その記載内容については、詳細な開示が必要であるという意見、アクセス情報の開示で足りるとする意見など様々であった10

② 第4回WGでの議論

第4回WGでは、前回の事務局案を一部修正した以下のような案が事務局より示された11。これは、本邦の企業がCSRD等の海外のサステナビリティ開示基準による開示を行った場合、国内投資家が海外投資家よりも情報入手が遅くなることなどがないようにすることが重要であり、暫定的に保証業務提供者のオーソライズを行う(下記「(4)欧州CSRD対応のための保証業務提供者のオーソリゼーション」参照)には、法定開示書類の裏付けが不可欠であることから、以下のような場合に限り、本邦の法定開示書類によって同等の情報が周知されるようにすることが適当であるとするものである。

  • 有価証券報告書において本邦のサステナビリティ開示基準に準拠した開示を行っていない企業
  • CSRD等の連結ベースでの開示を求める海外のサステナビリティ開示基準に基づく開示を行った場合に限り
  • 臨時報告書で、以下の事項を開示する

① 海外のサステナビリティ開示基準に基づいた開示を行った旨

② 開示を行っている場所(リンク先等)

③ 保証を受けている場合にはその旨

④ 保証業務提供者の名称

下線は、第3回事務局案からの修正箇所を筆者加筆

 

委員からは、事務局案に賛同する意見が複数示されたが、臨時報告書ではなく企業のホームページでの開示が妥当ではないかという意見や、本邦のサステナビリティ開示基準に準拠した開示を行っていない企業に限定するというのは不適切、という意見もあった12

③ 第5回WGでの議論

第5回WGでは、特記すべき追加的な議論はなかった。

■参考:CSRDについて

CSRDの概要

■2023年1月、非財務報告指令(NFRD)(注1)が刷新され、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)が発効

■CSRDは、2024会計年度(2024年1月1日以後開始事業年度)から段階的にサステナビリティ報告(開示及び保証)を要求

■EU規制市場に上場する零細企業を除くすべての企業及び、非上場企業のうち大会社(注2)の定義を満たす全ての企業が適用対象、さらに一定の要件を満たす場合、EU域外企業も実質的に適用対象となる

注1:NFRDは、大会社に該当し、かつ従業員500名以上の上場企業や銀行などに対して非財務情報開示を求めるものであり、2017会計年度より適用されている

注2:大会社は、従業員250人超、総資産残高2,500万ユーロ超、純売上高5,000万ユーロ超のうち2つ以上を満たすもの

注3:EU域内の純売上高が1億5,000万ユーロ超であり、かつ(a)または(b)を満たす企業が対象
(a)EU子会社が大会社または上場企業等(零細企業を除く)に該当
(b)EU支店のEU域内の純売上高が4,000 万ユーロ超

出所:第4回WG参考資料P.21を参考にトーマツ作成

 

 ■日本企業への影響(関連部分)

2025会計年度(2025年1月1日以後開始事業年度)より、大会社に該当する欧州子会社に対してCSRDに基づく開示が求められ(下記①)、2028会計年度(2028年1月1日以後開始事業年度)よりEU域外企業に係る要件を満たす場合に連結ベースでのCSRDに基づく開示が求められている(下記②)。

① 2025会計年度以降、NFRDでは適用外であった規模の「大会社」を対象に、サステナビリティ情報を開示し、保証(当初は、限定的保証)を受けること

② 2028年度以降、EU域外企業の連結グループを対象に、サステナビリティ情報を開示し、保証を受けること

 

■免除制度の概要

上記①の要求事項への対応として、連結グループを対象として、開示・保証の対応を行うことで、EUの対象会社ごとの開示・保証の対応を不要とする免除制度が設けられており、一部の日本企業から当該免除制度を利用したいとのニーズがある。当該免除要件の1つとして、親会社の所在する国の法律に基づきサステナビリティ報告の保証に関する意見を表明することができることとされた(オーソリゼーションを得た)個人又はファームによる、連結グループベースのサステナビリティ情報に関する保証意見が必要とされている。

(4)欧州CSRD対応のための保証業務提供者のオーソリゼーション

① 第4回WGでの議論

第4回WGでは、CSRDの免除要件を利用する場合や、2028年以降のCSRD域外適用の際に論点となる、EU域外の保証業務提供者のオーソリゼーションについて、暫定的な制度対応として、法令上、一定の保証業務提供者を金融庁が指定する案が、事務局から示された13

委員からは、企業側のニーズに応えるため暫定的な制度対応を行うことについては、概ね賛同の意見が示された14

② 第5回WGでの議論

第5回WGでは、特記すべき追加的な議論はなかった。

(5)セーフハーバーについて

① 第3回WGまでの議論

第3回WGでは、投資判断に有用なサステナビリティ情報を提供する観点からは、虚偽記載等の責任を問われることを懸念して企業の開示姿勢が萎縮することは好ましくないとして、セーフハーバーのあり方を検討することが事務局から示された15。委員からもセーフハーバーを設ける必要があるという点で、概ね賛同が得られた。

② 第4回WGでの議論

第4回WGでは、現行の将来情報に対するセーフハーバーに加え、企業の統制の及ばない第三者から取得した情報や見積りによる情報の開示が求められる温室効果ガス排出量のScope3に関する定量情報について、企業の積極的なサステナビリティ情報の開示を促すため、以下をセーフハーバーの対象に追加する案が事務局より示された16

  • 温室効果ガス排出量のScope3に関する定量情報が、事後的に誤りであることが発覚したとしても以下両方を満たす場合には虚偽記載等の責任を負わないことを、開示ガイドラインを改正し解釈を明確化する
    • 統制の及ばない第三者から取得した情報を利用することの適切性(含:情報の入手経路の適 切性)や、見積りの合理性について会社内部で適切な検討が行われたことが説明されている場合
    • その開示内容が一般に合理的と考えられる範囲のものである場合

 

また、上記の開示ガイドラインにおける解釈の明確化のほかに、虚偽記載等に対する企業の責任の範囲を明確にする観点から重要と考えられる開示事項が事務局から具体的に示された。このうち、「将来情報、統制の及ばない第三者から提供を受けた情報、見積りを含む記載箇所を特定した上で、当該情報を含む旨」や、「データ・プロバイダーから入手した情報を含む記載箇所を特定した上で、当該情報を含む旨、当該プロバイダーの名称」の情報の開示については、制度的な対応を検討することが事務局より示された17

委員からは、開示ガイドラインを改正し、一定の開示を前提に責任を負わないとの考え方を示す事務局案に、概ね賛同の意見を得られた18

③ 第5回WGでの議論

第5回WGでも、基本的には第4回WGで提案した開示ガイドラインによる対応を行うことを前提に、適用対象や適用要件について、法律改正の要否も含め、引き続き検討していく方向性が事務局より示された19(下線は第4回事務局案からの追加箇所を筆者加筆)。

委員からは、事務局の提案した方向性に賛同する意見が多く示されたが、開示ガイドラインでの対応にとどめずに法改正によりセーフハーバーを明確にするのが望ましいという意見や、米国SECの気候関連開示規則の水準まで適用要件等を緩和すべきなどの意見も示された。

(6)確認書について

① 第4回WGでの議論

第4回WGでは、虚偽記載等に対する会社の責任の範囲の明確化の観点から、情報の入手経路、見積り等の適切性を検討し、評価するための社内手続を有価証券報告書の記載事項とすることが示された。また、経営者による有価証券報告書の作成責任の明確化の観点から、金融商品取引法上の確認書の記載事項を追加することが事務局より示された20

委員からは、確認書の追加事項の具体的な内容が説明されていない、統制の及ばない第三者がサステナビリティ情報の開示に関与する場合の署名者の免責を明確にすべき、確認書の対象は既に有価証券報告書全体に及んでおり記載事項の追加は不要、などの意見が示された21

② 第5回WGでの議論

第5回WGでは、第4回WGでの議論を踏まえて、事務局より以下のような案が示された22

  • 虚偽記載等に対する会社の責任の範囲の明確化の観点から、情報の入手経路、見積り等の適切性を検討し、評価するための社内の手続を有価証券報告書の記載事項とする
  • 確認書による確認の範囲は、有価証券報告書の記載内容全体に及んでいるものの、記載事項が限定的であることから、
    例えば、以下のような代表者等の役割と責任に関する事項を、確認書の記載事項とすることで、情報開示に対する代表者等の責任の範囲の明確化を図る
    • 会社の代表者等が開示手続を整備していること
    • 開示手続の実効性を確認したこと

下線は、第4回事務局案からの修正箇所を筆者加筆

 

委員からは、経営者の情報開示に対する責任を明確化する観点から、確認書への記載は重要であり事務局案に賛同する、という意見や、サステナビリティ情報は財務情報と異なる性質の情報を多く含むため、将来情報の入手経路や見積り等の適切性を検討し評価するための社内手続やその体制構築を開示することで、信頼性の高い情報開示が進むなどの意見が複数示された。一方で、現状、確認書は有価証券報告書の記載内容全体に及んでいることから、個別の記載事項の追加は不要とする意見や、確認書への記載が形式的になることを懸念する意見なども複数示された。

 

3. 有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の保証について

(1)保証制度の導入について

保証制度の導入については、第4回WGから本格的に議論が始まったところである。以下、保証制度の導入における主要な論点ごとに、第4回及び5回WGでの議論の概要について解説する。

① 第3回WGまでの議論

第3回WGでは、開示と保証の一体的な適用よりも、早期に開示基準を導入することを優先すべきであるとして、SSBJ基準適用義務化の翌年に保証制度を導入する事務局案が示された。また、保証制度の導入における主要な論点として、以下5つが事務局より示された23

論点1

サステナビリティ保証の範囲・水準等

論点2

サステナビリティ保証業務の担い手

論点3

サステナビリティ保証業務に関する保証基準及び倫理・独立性基準

論点4

サステナビリティ保証業務実施者への検査・監督のあり方

論点5

自主規制機関の役割

 

 ② 第4回WGでの議論

第4回WGでは、サステナビリティ情報に対する保証制度の方向性として、保証の範囲・水準や、保証業務の担い手などについて、事務局から以下のような案が示され議論が行われた24

  • SSBJ基準の適用義務化の翌年から保証を義務化する
  • 保証の範囲については、保証義務から一定期間は温室効果ガス排出量のScope1、2のみを保証対象とする
  • 保証水準は、当初は限定的保証とし、今後実務の状況や海外の動向等を踏まえ、合理的保証への移行の可否について検討する
  • 保証業務の担い手は、新たな制度の下で登録を受けた監査法人又はその他の保証業務提供者(保証制度導入後一定期間は仮登録で運用)を想定する
  • 保証業務提供者が必要に応じて外部専門家を活用することも考えられる

 

事務局提案に対し、委員から以下のような様々な意見が示された25

●保証範囲をScope1、2に限定することについて

段階的な拡大はやむを得ないとしても、諸外国の制度と見劣りしない制度にすべきという意見や、一定期間とはいえScope1・2のみは範囲として狭く、ガバナンスやリスク管理なども保証の対象とすべきという意見、Scope3こそ保証が必要であるため、保証範囲は全てとすべきという意見などが示された。

●保証水準について

事務局案に賛同する意見が複数示された。また、最終的な保証範囲や時間軸を含めた制度導入のロードマップを示して企業の体制構築の準備を促していくべきという意見も複数示された。

●保証業務の担い手について

保証業務の担い手として公認会計士以外も含む制度(profession-agnostic)に賛同するが、法規制上の責任、品質管理、倫理規則などについては、担い手にかかわらず同等かつ高い水準を遵守して高い品質を確保すべきであるという意見や、公認会計士を軸にしてNon-PAを専門家として活用するなど協力体制が取れるとよいという意見、監査法人が最も品質管理、倫理、独立性のベースがあり、国際的な基準にも準拠し、財務情報とのつながりという部分でも望ましいが、Non-PAの活用が必要であり、クオリティの確保も必要どのような制度設計になるのか明確にした上で議論すべき、などの意見が示された。一方で、保証制度の全体的な基本設計がなされていないので、profession-agnosticには反対という意見も示された。

●登録制度、義務・責任について

仮登録には反対、簡易的な審査ではなく、十分な審査を経て保証業務実施者を登録すべきという意見や、国際監査・保証基準審議会(IAASB)や国際会計士倫理基準審議会(IESBA)で策定された国際的な保証基準や倫理、独立性と共通のルールを担い手に適用すべきという意見、Non-PAを担い手にするのであれば、立法化するために専門家で登録要件などを早急に議論すべき、保証に関する法制度の整備が間に合わないので、保証のスケジュールや範囲の適用を遅らせるというのは反対という意見、新たな制度について、実績や経験に応じて公平に評価・登録される制度が望ましいなどといった意見が示された。

●保証基準、検査監督、自主規制について

保証基準については、国際的に見て遜色ない高い保証の質を求めるのであれば、適切な保証基準に従って業務が実施されるべき、という意見や、国際的な保証基準を参考にしつつ、我が国独自の保証基準を作成すべきなどの意見が示された。

検査監督、自主規制については、Non-PAを含む全ての保証業務提供者が共通の制度によって担保される必要があるという意見、財務諸表監査の枠組みは、これまで人的、資金的にリソースをかけており参考になるという意見や、自主規制機関は既存団体の下部組織ではなく、独立した唯一のものとして、ガバナンスの仕組み、透明性を確保することが重要という意見、倫理や独立性については自主規制機関の方がふさわしく、監督機関もリソースを考えると自主規制機関に委ねるしかないなどといった意見が示された。

③ 第5回WGでの議論

第5回WGでは、第4回の議論を踏まえて、事務局から以下のような案が示され議論が行われた(【図表4】サステナビリティ保証制度の方向性(案)参照)26

第4回の提案では、サステナビリティ保証の範囲として、「保証適用義務から一定期間は、保証範囲をScope1・2とする」、とされていたが、「保証適用義務から2年間はScope1・2に加え、ガバナンスやリスク管理も保証対象に追加」(下線は第4回の提案からの修正箇所を筆者加筆、以下同じ)と、適用義務化時の保証範囲が拡大されている。今後の保証水準についても、「3年目以降は国際動向等を踏まえて、継続して検討する」など、提案が一部修正されている(【図表4】論点1参照)。なお、第5回WGにおいて本論点をロードマップとして示したものが、「サステナビリティ保証制度のロードマップ」として事務局より示されている(本稿「2.サステナビリティ開示基準の導入における論点」の【図表2】参照)。

サステナビリティ保証業務の担い手についても、一定の条件を追加した上で、公認会計士以外も含む制度(Profession-agnostic)とすることが、提案されている(【図表4】論点2参照)。

さらに、保証基準、検査監督、自主規制について、新たな提案が追加されている(【図表4】論点3参照)。

委員からは、事務局提案に賛同する意見が複数示されたが、保証業務の詳細(法定開示として財務諸表とのコネクティビティを踏まえ信頼性をどう担保すべきか、保証報告書の記載はどのようになるのか、保証基準や倫理基準をどうするのか)などについては、様々な意見が示された。

(2)保証制度の導入に関する議論の今後の進め方

① 質の高い保証業務が提供されるために必要な環境整備

第5回WGでは、有価証券報告書におけるサステナビリティ保証制度の今後の前提として、質の高い保証業務の提供が必要であり、そのためには当面の間、以下のような環境整備が必要との考えが事務局より示され27、委員から賛同を得た。

② サステナビリティ情報の保証に関する専門グループの設置

さらに、環境整備にあたって、将来の法改正の検討が必要な事項など詳細については、「サステナビリティ情報の保証に関する専門グループ(以下「保証に関する専門G」という)」を新たに設置して議論することが事務局より提案され28、委員からも賛同を得た。

具体的な今後の進め方として、サステナビリティ保証の範囲・水準等や、保証業務の担い手など、大きな方向性に係る事項は本WGで検討し、それ以外の事項については、保証に関する専門Gで検討する方向性が事務局より示された(【図表6】サステナビリティ情報に対する保証制度の今後の進め方 参照)。本稿執筆時点では、保証に関する専門Gの委員や検討スケジュールなどは公表されていないが、WGでの検討と並行して、保証制度に関する登録要件や保証基準、検査・監督のあり方など、第5回WGで示された委員の意見を踏まえて、具体的な議論が今後行われると思われる。

 

4. おわりに

これまでの5回のWGでの検討を経て、SSBJ基準の適用対象と適用時期についての「基本線」やサステナビリティ情報に対する保証制度のおおまかな方向性が示された。今後、保証制度の導入に関し、将来の法改正も見据えた具体的な検討が、保証に関する専門Gで実施される予定であり、引き続きこれらの議論の状況を注視していく必要があるだろう。

以上



1 2023年1月に有価証券報告書等の記載内容を定めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、有価証券報告書の第2【事業の状況】に、2【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設された。

2 出所:「『企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(金融庁2023年1月31日)No.79、80他

3 SSBJでは、2024年3月29日にSSBJ基準の公開草案を公表している。SSBJ基準は、国際サステナビリティ基準審議会(以下「ISSB」という)が公表している国際基準(以下「ISSB基準」という、2023年6月に最終化)と整合性のあるサステナビリティ開示基準を開発し、これを有価証券報告書に取り込んでいくことを想定している。SSBJ基準の詳細については、本誌Vol.575 2024年7月号及び同Vol.576 2024年8月号の解説「サステナビリティ基準委員会によるサステナビリティ開示基準公開草案の解説」を参照されたい。

4 2024年2月19日に開催された第52回金融審議会総会(以下「金融審議会」という)において、金融担当大臣からサステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する検討が諮問され、有識者による「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」が設置された。WGでは、SSBJが開発するSSBJ基準の適用対象や適用時期、サステナビリティ情報の保証のあり方等について検討を行うこととされている。

5 時価総額の算定方法については、第3回WGでSSBJ基準の適用となる期の直前までの5事業年度末の時価総額の平均値を用いることが事務局から示されている。詳細は、本誌Vol.576 2024年8月号の解説「サステナビリティ開示状況の適用対象・適用時期等の検討状況-サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループでの検討概要(その1)-」を参照されたい。

6 出所:第3回WG事務局説明資料P.6

7 出所:第4回WG事務局説明資料P.2

8 出所:第4回WG事務局説明資料P.3、4

9 出所:第5回WG事務局参考資料P.2、3

10 出所:第4回WG事務局説明資料P.8

11 出所:第4回WG事務局説明資料P.10

12 出所:第5回WG事務局参考資料P.4

13 出所:第4回WG事務局説明資料P.9

14 出所:第5回WG事務局参考資料P.5、6

15 出所:第3回WG事務局説明資料P.35

16 出所:第4回WG事務局説明資料P.14

17 出所:第4回WG事務局説明資料P.15

18 出所:第5回WG事務局参考資料P.6、7

19 出所:第5回WG事務局説明資料P.2

20 出所:第4回WG事務局説明資料P.15

21 出所:第5回WG事務局説明資料P.5

22 出所:第5回WG事務局説明資料P.7

23 出所:第3回WG事務局説明資料P.38

24 出所:第4回WG事務局説明資料P.32

25 出所:第5回WG事務局説明資料P.10、13、14、15

26 出所:第5回WG事務局説明資料P.13~15

27 出所:第5回WG事務局説明資料P.17

28 出所:第5回WG事務局説明資料P.22

本記事に関する留意事項

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