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国の会計と関連制度(16回目)~2022年度(令和4年度)の国の連結財務書類(その2)~

月刊誌『会計情報』2025年2月号

公認会計士 長村 彌角

本誌2024年12月号(Vol.580)「国の会計と関連制度(15回目)」では、国の連結財務書類について、省庁間の事業費の規模などの比較や国の財務書類(省庁ベース)と国の連結財務書類(連結ベース)との比較分析を試みた(図表1の「分析1」)。マクロ的には省庁ベースに比べ連結ベースでは資産総額は222兆円増加し、その多くを現金預金と有価証券が占めている点、一方で業務費用は11兆円の増加に過ぎず国からの連結対象法人への補助金や運営費交付金等の多くが連結対象法人において事業に投入され費用となっている点などが分かった。

本稿では、国の財務書類と国の連結財務書類の差額について、より深く確認をしてみたい。そこで、各省庁別に、省庁別財務書類(一般会計+特別会計)と連結対象法人を加えた省庁別連結財務書類とを比較することで省庁固有の差額内容の確認を(図表1の「分析2」)、加えて、全ての省庁の省庁別財務書類の合算と国の財務書類を比較することで相殺消去等されている省庁間取引の主な内容の確認を(図表1の「分析3」)、さらに全ての省庁別連結財務書類の合算と国の連結財務書類との間の相殺消去等から連結対象法人における省庁を跨ぐ取引等の確認を(図表1の「分析4」)、国の財務書類等からわかる内容に加え、筆者の分析による推察を試みた。

 

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1. 省庁別財務書類と省庁別連結財務書類の比率(倍率)

企業では、親会社単独の決算数値と連結決算数値との比率(倍率)を算出し、連結子会社等が企業グループの業績などにどの程度貢献しているかなどを推察することがある。同様に、各省庁別に省庁別財務書類(省庁ベース)と省庁別連結財務書類(連結ベース)での資産額、業務費用額、財源額の比率(倍率)により、各省庁の事業規模の実態などがより見えてくる。ここでは、2022年度(令和4年度)の比率(倍率)から、各省庁とその連結対象法人の事業規模を確認する。

(1)資産額、業務費用額、財源額の比率(倍率)

① 資産額による比率(倍率)

 

資産額では、連結財務書類を作成している12省庁のうち7省庁(内閣府、総務省、外務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省)において倍率が1.5倍を超えている。

② 業務費用額による比率(倍率)

 

業務費用では、連結財務書類を作成している12省庁いずれにおいても1.5倍を超えていない。これは、各省庁から運営費交付金や補助金等として連結対象法人に交付等される資金(各省庁では業務費用に計上される)が、連結対象法人において収入(財源)となる一方で、その多くが各連結対象法人の事業において費用として計上されており、連結対象法人を通じて各省庁の事業が実施されていることが推察できる。

③ 財源額による比率(倍率)

 

財源額では、連結財務書類を作成している12省庁のうち2省庁(文部科学省、国土交通省)において倍率が1.5倍を超えている。この2省庁では、連結対象法人を所管する主務省庁を除く他省庁からの補助金等や独自の事業収入を多く得ていることが推察できる。

(2)比率(倍率)が1.5倍以上となる省庁の主な内容(図表1の「分析2」)

各省庁では、省庁別連結財務書類の概要として、省庁ベースと連結ベースでの比較情報を省庁別連結財務書類の概要などにより提供している。以下では、この情報をもとに各省庁の省庁ベースと連結ベースの比率(倍率)が1.5倍を超えるケースについて、その主な内容を見ていく。

① 内閣府

内閣府では、資産総額が4.94倍であり1.5倍を超えている。

 

内閣府の連結対象法人は独立行政法人4法人、特殊法人等3法人の合計7法人である。連結対象法人の資産合計額は10.4兆円であり、主には預金保険機構の資産額8.5兆円、沖縄振興開発金融公庫の資産額1.0兆円である。

 

② 総務省

総務省では、資産総額が1.95倍であり1.5倍を超えている。

 

総務省の連結対象法人は独立行政法人3法人である。連結対象法人の資産合計額は3.5兆円であり、主には(独)郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構の資産額3.2兆円である。

 

③ 外務省

外務省では、資産総額が1.51倍であり1.5倍を超えている。

 

外務省の連結対象法人は独立行政法人2法人である。連結対象法人の資産合計額は15.9兆円であり、主には(独)国際協力機構の資産額15.8兆円である。

 

④ 文部科学省

文部科学省では、資産総額及び財源額がそれぞれ2.91倍及び1.56倍であり1.5倍を超えている。なお、業務費用は1.5倍を超えていないが、以下で主な内容に触れる。

 

文部科学省の連結対象法人は独立行政法人22法人、国立大学法人等86法人、特殊法人1法人である。連結対象法人の資産合計額は44.0兆円、連結による相殺消去は11兆円である。主な連結対象法人の資産は、(国研)科学技術振興機構10.8兆円、(独)日本学生支援機構9.6兆円、(国)東京大学1.4兆円、日本私立学校振興・共済事業団7.6兆円である。

 

 

連結対象法人の業務費用合計額は7.1兆円であり、主には日本私立学校振興・共済事業団1.7兆円である。

 

 

連結対象法人の財源合計額は8.2兆円であり、主には日本私立学校振興・共済事業団1.9兆円を含む独立行政法人等収入4.6兆円及び国立大学法人等収入3.6兆円である。

 

⑤ 厚生労働省

厚生労働省では、資産総額が1.66倍であり1.5倍を超えている。

 

厚生労働省の連結対象法人は独立行政法人等17法人、特殊法人等3法人である。連結対象法人の資産合計額は222.8兆円であり、主には(独)福祉医療機構5.6兆円、(独)勤労者退職金共済機構6.6兆円、年金積立金管理運用(独)200.1兆円、全国健康保険協会6.5兆円である。

 

⑥ 経済産業省

経済産業省では、資産総額が3.45倍であり1.5倍を超えている。

 

経済産業省の連結対象法人は独立行政法人等9法人、特殊法人等3法人である。連結対象法人の資産合計額は44.3兆円であり、主には(株)日本政策金融公庫(中小企業者向け融資、証券化支援保証業務勘定)8.2兆円、(株)日本貿易保険1.8兆円、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(一般勘定)2.5兆円、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(その他の勘定)5.4兆円、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(石油天然ガス等勘定)1.7兆円、(独)中小企業基盤整備機構22.4兆円である。

 

⑦ 国土交通省

国土交通省では、資産総額及び財源がそれぞれ1.54倍及び1.53倍であり1.5倍を超えている。なお、業務費用は1.44倍であり1.5倍を超えていないが、以下で主な内容に触れる。

 

国土交通省の連結対象法人は独立行政法人15法人、特殊法人等8法人である。連結対象法人の資産合計額は108.7兆円であり、主には新関西国際空港(株)2.1兆円、成田国際空港(株)1.2兆円、東日本高速道路(株)1.7兆円、中日本高速道路(株)2.0兆円、西日本高速道路(株)2.0兆円、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構14.4兆円、(独)水資源機構3.2兆円、(独)都市再生機構11.8兆円、(独)日本高速道路保有・債務返済機構42.0兆円、(独)住宅金融支援機構26.9兆円である。

 

 

連結対象法人の業務費用合計額は7.3兆円であり、主には東日本高速道路(株)1.1兆円、中日本高速道路(株)1.1兆円、西日本高速道路(株)0.9兆円、(独)都市再生機構0.8兆円、(独)日本高速道路保有・債務返済機構1.4兆円である。

 

 

連結対象法人の財源合計額は8.0兆円であり、主には東日本高速道路(株)1.1兆円、中日本高速道路(株)1.1兆円、西日本高速道路(株)0.9兆円、(独)都市再生機構0.8兆円、(独)日本高速道路保有・債務返済機構1.9兆円である。

 

2. 全省庁別財務書類合計と国の財務書類(連結)の間の主な相殺消去等の内容(図表1の「分析3」及び「分析4」)

ここでは、2022年度(令和4年度)の全省庁の省庁ベース合算と国の財務書類との比較から1兆円以上の相殺消去等がされている項目について、また全省庁の連結ベース合算と国の連結財務書類との比較などから、連結対象法人の取引等で省庁を跨ぐ取引等について、その主な内容を確認する。

なお、会計的には省庁ベース合算と国の財務書類の差額(相殺消去等)の内容は連結対象法人を含めない範囲での省庁跨ぎの取引等(図表16から19の③)であり、連結ベースでの相殺消去等の内容は連結対象法人を含めた範囲での省庁跨ぎの取引等(図表16から19の⑥)であるため、この差額(図表16から19の⑦)は、理論的には連結対象法人の取引のうち省庁を跨ぐ取引等を示しているものと考えられる。

(1)貸借対照表

 

 

(2)業務費用計算書

 

業務費用では、連結対象法人の取引等のうち、省庁を跨ぐ取引等として相殺消去等された取引について1兆円を超える項目は見られなかった。

(3)資産・負債差額増減計算書

 

 

(4)区分別収支計算書

 

 

3. 最後に

本稿では、省庁ベースの相殺消去等及び連結ベースの相殺消去等の内容分析というアプローチから、省庁を跨ぐ取引等の実態が見えるものと考えた。国の財務書類や国の連結財務書類及びそれらの概要資料には企業が一般に開示する情報以上に情報が開示されている面があり、一定程度の内容分析ができることが分かった。

「省庁別財務書類の作成基準について(補論)」では、国の会計は歳入歳出予算に基づき予算執行が行われ執行結果は歳入歳出決算により現金収支の状況として明らかにされているとの考えから、例えば区分別収支計算書は歳入歳出決算の計数を並び替えて作成され、財政資金の流れを区分別に明らかにするための財務書類として位置付けられている。一方で、財務省の省庁別財務書類では、資金運用特別会計における業務の実質的な実態を表すために同一省庁内での取引を相殺消去せず歳入歳出予算外を含めた財政資金の総額を示し、国の財務書類の段階で原則通り歳入歳出決算ベースとし、特別会計財務書類で含められた預託金の受入及び払戻に係る取引を相殺消去する例もあった。

実質的な実態を開示することは重要である。このためには、区分別収支計算書に関して特別会計財務書類では歳入歳出決算外で計上しているもの(もしくは計上していないもの)を国の財務書類の段階になって消去する(もしくは復活計上する)というテクニカルな配慮だけではなく、歳入歳出決算外の実質的な実態を示す情報を、参考情報として別途開示することも考えられるのではないだろうか。

また、実態開示という面からは、国の財務書類及び国の連結財務書類作成時の省庁間取引等や連結対象法人との取引等の主な相殺消去等内容をより積極的に開示することで、省庁間や省庁と連結対象法人間、ないしは連結対象法人間の資金の流れ等が一層明瞭となり、企業における開示よりも高いレベルでの説明責任の履行や予算執行の効率化・適正化を果たしていく財務情報(もしくは非財務情報)提供に貢献するとも考えられる。

ところで、財政制度等審議会法制・公会計部会(2024年1月19日開催)では、国債の50%以上を保有する日本銀行の情報を国の貸借対照表との関係でどのように見せていくかについて意見が交わされている。国の財務書類の参考情報とするかパンフレットなどで補足説明するなどの方法は考えられるが、国として「実態」はどうであるのか、国の「連結」の考え方を会計面から再検討するかなど影響は小さくなく、筆者としても考えてみたい。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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