TNFD企業戦略 ― ネイチャーポジティブとリスク・機会

持続可能性（サステナビリティ）への企業の道標となるTNFD最終提言を踏まえた本格的な解説書

デロイト トーマツ グループの専門家がそれぞれの専門性を踏まえて執筆した一冊

自然界は、地球上のすべての生物の基盤を提供し、現在および将来の人間社会と経済活動と密接な関係がある。自然は、その無数の形で、水や食料などの資源を私たちに提供し、私たちのコミュニティを自然災害から守り、気候の調節に中心的な役割を果たしている貴重な存在だ。しかし、現在は、自然の大きな衰退とともに、自然の回復力を損ない、私たちの存在を危うくする危険性がある状況に残念ながら陥っている。

そもそも、あらゆるビジネスは、自然と何らかのつながりを持っている。ある研究では、我々の経済が淡水の供給や受粉のような自然が提供する生態系サービスに大きく依存していることを示している。一方で、森林破壊や公害など、企業の活動が自然に与える影響もあり、自然と企業活動の相互関係を社会全体で認識する必要がある。かけがえのない自然界を維持することは、単に道徳的義務の問題ではなく、実態的に取り組むべき課題である。さらには、自らの業務のみならずバリューチェーン全体で自然を考慮する必要がある。

自然環境への負の影響を低減するためには、企業が実践的な方法で自然関連リスクを評価・開示し、最終的に管理するような市場主導のイニシアティブが機能することが望ましい。このため、自然関連のリスク管理と開示に関する複雑な課題を解決するため、市場主導の重要なイニシアティブであるTNFD（自然関連の財務開示に関するタスクフォース）が設立され、2023年9月に最終提言を公表した。

TNFDは、TCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）と同様に、リスク管理と開示に使用される重要なツールである。TNFDの導入により、企業は自然に関連する課題（依存関係、影響、リスク、機会）を評価・開示することで、事業活動における自然の価値を理解し、自然との関係を回復・保全するための戦略を立てることができる。これは、企業が投資家やその他の利害関係者の期待に応え、自らのレジリエンスを構築することに役立つ。さらには、自然のポジティブな未来の構築を共同で推進することに貢献するとともに、自然への取組みにより創出されるビジネスチャンスを活かしていくことも可能だ。

しかし、ほとんどの企業は、その経済的な重要性にもかかわらず、残念ながら自然を体系的に考慮していない。このため、自然をビジネスに統合するのは、未知の領域に船出するようなものとなっている。新しい知識と新しい調整の両方が必要であり、その点でTNFDの提言は大いに役立つ。

最終提言を踏まえ、本書ではTNFDの要求や企業実務での対応について解説している。大きなかつ長い取り組みとなる持続可能性（サステナビリティ）への道に企業が踏み出す第一歩に寄り添う最初の指標として、多くの読者の皆様・企業の皆様に本書をご活用いただければ幸甚である。

目次
第1章　TNFDの背景と目的
第2章　TNFD最終提言の概要
第3章　LEAPアプローチ
第4章　企業のとるべき対応
第5章　他フレームワークとの関係
第6章　ケーススタディ
第7章　自然に関するツール・データ
第8章　今後の展望