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グローバル人事の新潮流-グローバル採用ブランディング

Global HR Journey ~ 日本企業のグローバル人事を考える 第十四回

日系企業におけるグローバル人事の必要性が叫ばれて10年以上が経過しているが、議論がほとんど進んでいない領域が存在する。それがグローバル採用ブランディングである。グローバル人事のホワイトスペースとして放置されてきた本領域について、先行企業の取り組みとアプローチをご紹介する。

グローバル人事の中で注目されているグローバル採用ブランディング

これまでグローバル人事プロジェクトにおいて“採用”に関する議論は先送りされてきた。ローカルの人材市場の特性や潮流は異なり、打ち出すべきメッセージや採用方法も各国市場によって異なるため、グローバルで統一的にできる領域は無いというのが主な理由である。実は、これは日本企業だけではなく、欧米グローバルカンパニーでも同様に考えられていた。

しかし、昨今ミレニアル世代やその次のGeneration Zの志向性の均質化、デジタルやAI等のテクノロジーの進展により、実はグローバルでシナジーが効きやすく、グローバル本社が取り組むべき領域として、各社が取り組みを始めている。

なぜグローバル採用ブランディングが必要か

毎年20万人以上の学生に対して働きたい企業ランキングを調査しているUniversamによると、グローバルトップ50社のうち、日系企業で入っているのはSONY・トヨタ・日産の3社のみで、日系大手グローバル企業であっても認知度/人気はかなり低い状況である*1

原因は日本を代表するグローバル企業であっても、各国での展開規模や拠点は小さく、採用機能も必要最低限のため、ローカル労働市場で「認知」に至っていないことと推測される。

今後の日系企業の成長のためには、世界からいかに優秀な人材を獲得・活用するかが重要だが、そもそも認知されていないという状況は打破すべき課題である。

採用ブランディングとは

そもそも採用ブランディングとはどのようなことを指すのだろう?

当社では、「自社が社員に提供可能な価値を可視化し、最適なチャネルを通じてその魅力を外部ターゲット層に伝える活動」と定義している。

日本国内においては、採用は人事の重要論点として歴史的に認識されており、多くの企業が採用ターゲットの明確化や魅力の可視化を広告代理店や採用支援会社等と行い、オンライン・オフライン施策を統合的に実施している。

一方、海外事業会社の採用ブランディングについては各国事業会社に任せきりで何のタッチもしていないケースが多い。一方、海外事業会社も各国ではいわゆる“中小企業”のため、そこまで各社で予算を取り実施する投資余力もなく、長らく放置されているというのが一般的な状況である。

そのような中、グローバル人事プラットフォームの一環として、グローバルとしてシナジーが効き、各国事業会社からもニーズがある採用ブランディングをグローバル人事として取り組む会社が増えている。

実際、当社が関与した案件においても、グローバル人事制度統合は各国がメリットを見出せないため頓挫しているものの、採用ブランディングは1年程度で完了したというケースも存在する。各国でニーズは存在するものの、実現できない未着手領域をグローバルとして肩代わりする本領域は人事ブルーオーシャンとして着手しやすい領域といえる。

採用ブランディングのアプローチ

では採用ブランディングはどのように推進していくべきか?

本稿では、当社のブランディング戦略策定コンサルティングでも活用しているWho・What・Howのフレームワークをご紹介したい。

① Who(誰に?): 採用ターゲットの特定
採用ターゲットの特徴・志向性を把握し、ペルソナとして可視化する。

② What(何を?):EVPの策定
自社“らしさ”を、現マネジメントや従業員の想いのみならず、経営理念・ミッション・バリューや創業からの歴史まで紐解き、Employee Value Proposition(EVP/従業員に対する提供価値)として定義する。加えて、競合他社と比べて本当にユニークなのか?を分析し、煎じ詰めていく。

③ How(どのように?): チャネル戦略・クリエイティブ
伝統的な企業説明会やリクルーターに加え、デジタルの台頭により複雑化したチャネルの機能と役割を整理した上で、統合的・効率的な活用方法を策定する。

①Who(誰に?): 採用ターゲットの特定

はじめに、これからの主要な採用ターゲットとなるミレニアル世代(1982年以降に生まれ、2000年以降に労働市場に参加した世代)で共通する全般的な傾向について紹介したい。デロイトが2016年に実施したミレニアルサーベイ*2によると、グローバルで5つの共通的な志向性を持つことがわかった。

  • 本物志向:短期的な目先の価値ではなく、“倫理・信頼・誠意・公正”、“顧客第一”、“品質”等、持続可能性を考慮した本物の価値を志向する
  • 自律・成長:目的意識を持ち、自身のスキル・専門性・リーダーシップの活用・開発を意識しながら、常に成果を追い求める
  • フラットな信頼関係:フラットな人間関係を好み、オープンで自由なコミュニケーションを通じて周囲の成長を支援すると共に、創造的(innovative)かつ協働的 (collaborative)に働く
  • 社会への価値提供:ビジネスが将来の社会に与える影響について考え、社会・環境へ配慮した倫理的な事業運営や、事業を通じた社会課題解決にコミットする
  • デジタルネイティブ:物心ついた時からスマートフォンやタブレットに親しみ、SNSやクラウド等を駆使する

上記のような特徴を並べてみると、シリコンバレー企業や日系ベンチャーに勤める人材像が目に浮かぶが、もはやこのような人材像は少数の企業だけがターゲットとするものではない。ミレニアル世代全体の特徴であるため、各社はこのような志向性を踏まえた採用ブランディングを検討しなければならない。

なお、本調査は世界29か国7,700名の調査結果に基づいたものだが、日本人と世界の傾向を比較したところ、それほど大きな乖離はなかった。この点でも世界はフラット化しているといえよう。

ペルソナの策定

このような全体の傾向を理解した上で、自社としてどのような人材像をターゲットのペルソナに落とし込むかが次の論点となる。ペルソナはもともとマーケティングにおいて開発・発達した手法で、特徴的な志向性・行動を定性的に捉えて可視化することで、求める提供価値の検討や具体的なコンセプトをリアルにイメージするための方法である。

ペルソナを採用においても活用することで、自社として求める人材像をより明確化できるため、どのような訴求内容や表現方法が望ましいかアイディアを膨らませやすい。図表1がペルソナの具体例となる。様々な項目でより具体的な人物像をあぶりだせるように工夫がされているが、より立体的にその人物を捉えるため、“ライフストーリー”の具体化・充実化を推奨している。

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②What(何を?):EVPの策定

次に、1で提示したペルソナを惹きつけるために、どのようなことをメッセージとして伝えていくべきか、構造的に考える。

まず、自社として社員に提供可能な価値をEmployee Value Proposition(EVP)として抽出する。図表2はフレームワークの例だが、従業員に対する価値を提供できる機会を軸にしているものが多い。

  • Rewards:金銭報酬・非金銭報酬全般
  • Opportunity:OJT・Off-JTや中長期的なキャリアも含めた成長機会
  • Work:仕事そのものや労働環境
  • Organization:会社としてのブランド・わかりやすい戦略や将来性、企業風土
  • People:共に働く社員や職場の関係性

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こういった観点を参考に、“自社らしさ”を伝えられる提供価値を特定する。検討のためのインプットは、自社の経営理念・ビジョン・ミッション・バリューや、過去の経営から発信されたメッセージ、自社の競争優位性、風土調査結果・人事方針・人事制度等となり、形式知・暗黙知等、広範囲にわたる。そのため、メッセージの紡ぎ方は一定のスキルが求められるが、売り手市場の中で自社らしさを的確かつ適切に伝えるためにはこういった作業が欠かせない。

EVPの要素が特定されたら、そのEVPとターゲットとなるペルソナの志向性が重複する交点を特定する。その交点を採用ブランディングとして訴求すべき要素と定義する(図表3)。

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③How(どのように?): チャネル戦略・クリエイティブ

採用ターゲットとしてのペルソナが特定され、自社として訴求すべき要素を紡ぎ出せたら、それらを魅力的なコンテンツに仕立て上げ、的確なチャネルでターゲットにメッセージを届けることが次のステップとなる。

多様なチャネルの整理と活用

近年、テクノロジーの進化を受けて、採用ブランディングとして活用すべきチャネルが飛躍的に増えている。特に、ミレニアル世代の情報収集の手段を踏まえると、かつてのオフライン型のチャネルに加え、デジタルチャネルの更なる有効活用が求められていることがわかる。

  • オフライン型チャネル:キャンパスリクルーティング・パンフレット・合同説明会・リクルーター等
  • オンライン型チャネル:採用サイト、SNS(Facebook・Twitter・YouTube・LinkedIn等)、オンライン広告、アプリ広告等

それぞれのチャネルには役割・目的が存在するため、各チャネルの役割を整理した上で、自社の課題を解決するために、どのチャネルをどのような優先順位で活用すべきかというチャネル戦略を策定する必要がある。

最先端のクリエイティブ(VideoとGamification)

採用ブランディングのクリエイティブは国内のみならず、グローバルでも注目されている領域である。ここでは、現在ベストプラクティスとして注目を浴びているハイネケンを紹介したい。

ハイネケンは、グローバル採用ブランディング向上の一環として、映画仕立ての動画にゲーム要素を組み込んだグローバルキャリアサイトをリリースした。応募者が“THE INTERVIEW”というサイトを訪れると、映画が始まるかのような動画が開始され、二者択一の12の質問に答える中で、ハイネケンの事業について理解しながら、最終的には自分のタイプ分類(性格診断結果)にたどり着く。その画面の右にはLinkedInで簡単に応募できるようになっている*3

1年間効果測定した結果、LinkedIn経由での応募は前年比300%以上、キャリアサイト滞在時間は5分以上(これはゲームを終える時間)と、想定以上の期待効果を得たという。さらに、欧州の広告アワードも複数受賞しており、コーポレートブランディングの向上にも寄与することとなった*4

最後に

世界的にTalent War(人材獲得競争)が続く中で、ターゲット人材を効率的かつ効果的に惹きつけ、内定・入社までこぎつけるのは非常に困難となっている。そのような中、自社としての魅力を最大限引き出し、表現することは厳しい採用市場で勝ち抜くための必須要件となっている。

採用ブランディングは、そもそものコーポレートブランディングの強さが直接的に影響する領域である。採用競争力に課題を抱えている企業は、コーポレートブランディングにも課題を抱えている可能性が高い。すでに先進企業では、採用ブランディング戦略策定・実行は人事部だけではなく、経営企画や広報部と連携しながら、施策検討、予算獲得まで行っている。採用ブランディングの実現は人事部の一課題ではなく、会社全体の経営課題として捉え、経営・広報・人事で連携しながら全社として進めていくことが重要である。

 

出所
*1. Universum, “World’s Most Attractive Employers 2018”(外部サイト・英語)https://universumglobal.com/wmae-2018/
*2. 2016年 デロイト ミレニアル年次調査
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/about-deloitte-japan/millennial-survey-2016.html
*3. Angela Natividad, “Heineken just made an HR campaign that’s as cool as any consumer ads it’s done,” AdWeek, September 15, 2016(外部サイト・英語)
https://www.adweek.com/creativity/heineken-just-made-hr-campaign-thats-cool-any-consumer-ads-its-done-173289/
*4. “Heineken Go Places: an interactive online job interview”, The Drum, December 22, 2017(外部サイト・英語)
http://www.thedrum.com/news/2017/12/22/heineken-go-places-interactive-online-job-interview

 

筆者紹介

澤田 修一
シニアマネジャー

組織・人材コンサルティング歴15年以上。直近では、グローバル人事構想策定、グローバル採用ブランディング戦略策定、海外現地法人における人事戦略策定・人事制度構築・人事業務改革等を手掛けている。

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