米国における従業員Well-beingのトレンド

ナレッジ

米国における従業員Well-beingのトレンド

Global HR Journey~日本企業のグローバル人事を考える 第八回

「日本企業のグローバル人事化を考える」と題したGlobal HR Journey。第八回目となる今回は、近年日本でも注目度が高まっているWell-beingについて、米国でのトレンドをご紹介する。

近年、米国ではトータルリワードのひとつとして報酬、ベネフィットと並ぶWell-beingへの注目度が高まっている。日本でも健康経営への関心が高くなってきており、これは先進諸国で共通に見られる世界的な流れのようである。 66%の企業がWell-being関連のプログラムが雇用者ブランド と企業風土に大きな影響があると考えているという調査結果も報告されている。今回は米国でのWell-beingに関するトレンドについてご紹介したい。

図1:組織の66%がWell-beingプログラムが雇用ブランドと企業風土に影響を与えると回答している
画像をクリックまたはタップすると、拡大版をご覧になれます

Well-beingの目的と意義

Well-beingとは、フィジカル(身体)、精神、ファイナンシャル、ソーシャル面において健全である状態を指す。従業員が健全な状態であることでハピネス(幸せ)の度合が高まり、生産性をより向上させることができる。また、そのような環境を提供している企業と従業員との関係は強まり、ポジティブな企業風土の醸成ができる。さらに従業員のエンゲージメントやリテンションを高め、雇用者としてのブランド強化にもつながるので、多くのハイパフォーマンス企業がWell-beingに注目しているのである。

米国労働人口の半数以上を占めるミレニアル世代はWell-beingを重視し、そのような環境を提供する企業を魅力的に感じるという報告がされている。労働市場の流動性が高く、ソーシャルネットワークの発達によりトータルリワードに関する情報入手が容易である米国では、Well-beingを整えておかなければ人材獲得競争で優位な位置に立てなくなり、ビジネスに影響を及ぼすようになってしまう。

図2:従業員の健康からハピネスそして持続的パフォーマンス
画像をクリックまたはタップすると、拡大版をご覧になれます

より洗練されたWell-beingの提供

Well-beingの典型的な取り組みとしては、フレックスタイム制や在宅勤務、働きやすい勤務スペース、Well-being関連支出への補助などがあり、それらは今でもWell-beingを高めるものとして重要視されている。

これらの従来からある取り組みに加え、Well-beingを促進するためのプログラムをより洗練されたものとするために、デジタルテクノロジーやプラットフォームへの投資を強化する会社が増えている。Well-beingに関するコンテンツやWell-beingを高める行動の奨励、コミュニティの形成などを総合的につかさどるWell-beingプラットフォーム導入が進みつつある。プラットフォーム上で組み合わされたソリューションは、対処法より予防法、部分的なものではなく包括的なWell-beingを目指すべく組まれ、デジタルネイティブと言われるミレニアル世代を中心とした今の時代のワーカーのスタイルとの親和性も高い。

行動変化テクニックとして、ポジティブなフィードバックを日常的に織り込み、人々が少しずつ健康的に変容することを促す工夫もされている。従業員が着実に目標へ到達するのをサポートするため、従業員にアクションをとるよう通知機能を用いてリマインドし、目論んだ路線からはずれないよう促すということもテクノロジーによってできるようになってきている。

Well-beingコンテンツ

従来から、従業員やその家族が抱えるプライベートな問題に関する相談を電話で行う「従業員支援プログラム(EAP)」がベネフィットプログラムの一環としてあり、多くの企業はベンダーを通して社員へ提供してきている。  

インターネットの普及により、これらEAPベンダーは相談頻度の高いアイテム(ストレス対処法、子育て、高齢家族のケア、病気の予防・治療法など)に関するコンテンツをオンラインで掲示するようになった。さらにソーシャルメディアなどを通じてビデオ、ブログ、ポッドキャストなどを提供し、従業員だけでなくその家族もコンテンツにアクセスできるようにしてきた。

現在ではこのコンテンツシェアリングをさらに進化させ、モバイルを介してWell-beingに関するコンテンツをより柔軟に提供するモデルが普及し始めている。モバイルメディアは時間に追われて忙しい従業員がオンデマンドでいつでもアクセスできる一口サイズの情報、マイクロラーニングを可能にしてくれる。

多様なアクセスが可能となるカウンセリング・コーチング

EAPを通して従業員は、栄養士、ソーシャルワーカー、ヘルスコーチ、パーソナルトレーナー、医療分野の専門家、看護士へ電話や電子メールでコンタクト、コミュニケーションすることができる。最近ではチャットやバーチャルビデオ会議などにより、それらのリソースへアクセスする方法が増えている。さらに将来的にはAIを活用したチャットボット、バーチャルアシスタントコーチングのオプションが提供されるようになるだろうと考えられている。しかし、これには注意が必要である。人々は相談するにあたっては人間による直接の支援を希望することが考えられる。AIや認知テクノロジーは、人間との接する機会をファシリテーションするものであって完全に代替えするものとはならないであろう。

Well-beingコンペティション

競争の要素を取り入れ、社員のWell-beingに関するモチベーション向上を図る方法も増えている。エクササイズチャレンジ(例:歩行距離を競う)、マインドフルネス(例:連続で瞑想した日数を競う)、健康に関連した目標達成(例:メディカルスクリーニングやコーチングセッションの予約)などである。

個人による競争だけでなく、チームでの競争も取り入れると、みんなと楽しいポジティブな経験を共有出来る度合が高まり、従業員エンゲージメントも向上する。さらにその経験がどうであったかを参加者にレーティング評価してもらったり、写真を投稿・掲載してもらうといったやり方で関与をより一層深いものにする工夫もされている。また、参加や競争結果によるポイントやマイルストーンをトラッキングし、賞を授与したり、好まれる行動を示した従業員に褒章を与えたりすることで、より参加への動機を高めるための工夫もみられる。Well-beingコンペティションは、今後さらに広く普及するであろう。

Well-beingコミュニティ

社員エンゲージメントやチームビルディングを促進するために、広い地域に分散している社員や在宅勤務などリモートな働き方をしているワーカーがお互いに励まし合い、コミュニケートし、企業とそこで働く人々とコネクトしていると感じることができるようにするコミュニティ形成も注目されている。Well-beingプラットフォームを整え、そこでディスカッションするパブリックフォーラムや、企業のCSR関連イベント(ボランティアの日など)を促進したりしている。

Well-beingとエンプロイー・エクスペリエンス

Well-beingの提供を検討する際に従業員をカスタマーとしてとらえ、そのように扱わなければ、必要な人材が獲得できなくなってきていると認識する企業が増えてきている。ミレニアル世代は押し付けられるのではなく、自分たちに選択権があると感じられることやパーソナライゼーションにもとづいたWell-beingを求めている。

それらを実現するためのインフラとして、利便性、使いやすさ、よりシームレスなHRサービス提供とエンプロイー・エクスペリエンス向上を可能にしてくれるWell-beingプラットフォームの活用が今後進むであろう。

お役に立ちましたか?