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デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #2 “ジョブ”の終焉への先導 

労働者と仕事をマッチングさせるための焦点は、ジョブからスキルに取って代わる

「ジョブ」という概念はこれまで、組織の運営方法と深く根付いていましたが、今日の世界では「スキル」に基づいて仕事や労働力の意思決定を行うことが重要視されつつある。スキルベースへの組織に変革を遂げていくためには、「必要なスキルに基づいて職務を定義」し、「労働者のスキルに関するデータを収集・分析」することに加え、スキルに基づいて人材に関する意思決定を進めていくことが求められている。

産業化時代の幕開け以来、ジョブは組織構造を決定し、かつ仕事のあらゆる側面を管理するものでした。こうしたアプローチは、ビジネスの変化が遅く、労働者が産業機械の一部のような活動をしていた場合には理にかなうものでした。しかし今後は、正式な職務範囲を超えて仕事を遂行させることで、仕事と労働者を管理し、ビジネスのアジリティと労働者の自律性を実現するスキルベースのアプローチになっていくでしょう。

“ジョブ (特定の労働者に割り当てられた、あらかじめ定義された一連の機能的責任) ”という概念は、組織の運営方法に深く根付いているため、他の方法で仕事や労働者を管理することは考えづらいでしょう。しかし、多くの人は、この伝統的な構造は、境界を見出しにくくなった今の世界では役立っていないと認識しています。スキルをベースとした組織での調査にて、「仕事は、ジョブによって構造化されるのが最善である」と答えているのは、経営者では19%、労働者では23%だけだったことが判明しています。ここからわかるように、ジョブ以外の概念で仕事を考え始めている組織が増えており、正式な職務定義や肩書き、学位ではなく、スキルに基づいて仕事や労働力の意思決定を行うような、労働力管理の方向性が変わりつつあります。

この変化は、いくつかの関連要因によって引き起こされています。

パフォーマンスに対するプレッシャー:スキルをベースとした組織での調査回答者のうち30%は、自組織が仕事に適した人材をマッチングさせることに効果がないと回答しています。 1  スキルベースのアプローチは、技術的スキル、ソフトまたはヒューマンスキル、関連分野に関する将来の潜在的スキルなど、労働者のスキルと能力に合った仕事との連携を改善することで、生産性、効率性、有効性を高めます。スキルベースのアプローチを効果的に行う組織は、労働者の潜在能力を解き放ちより大きな価値を生み出すことができ、組織のうち52%が、自らがイノベーティブな組織であると回答しています。 2

アジリティの必要性:経営陣の63%は、従業員が現在の職務内容から外れたチームやプロジェクトの仕事に集中していると回答しています。更に、経営陣の81%は、業務が機能の枠を超えて行われることが増えていると述べています。スキルベースのアプローチでは、職位や機能領域に関係なく、作業者のスキルと必要な作業のみに基づき、作業者を迅速に配置 (または再配置) できるようにすることで、組織のアジリティを向上させます。スキルベースのアプローチを採用している組織の57%が、アジリティを向上させていると回答しています。 3

人材不足:スキルに焦点を当てることにより、人材プールで特定の経歴や職歴を持つ人々に限定するのではなく、人々のできる仕事をより広範にとらえるようになるため、人材不足を緩和することができます。よって、組織は外部から雇用する代わりに、内部のリソースでギャップを埋めて人材不足を緩和することもできるのです。スキルベースのアプローチを採用している組織のうち、107%が人材を効果的に配置できると回答しており、98%がハイパフォーマーをつなぎとめることができ、成長と発展に最適な場所として評判を得ています。 4

公平な結果の重視:スキルベースのアプローチは、職場の多様性と公平性を促進するのにも役立ちます。スキルベースの組織調査では、経営幹部の75%が、スキル(対在職期間、職歴、ネットワーク)に基づいて人材を雇用、昇進、配置することは、機会へのアクセスの民主化と改善に寄与すると述べています。例えば、メルクとIBMは、OneTenと呼ばれる連合に参加しており、スキル優先のアプローチに移行することで、4年学位を持たない100万人の黒人を雇用し、スキルアップや、新しいスキル獲得の促進、積極的な昇進をさせるとコミットしています。5

トレンドに当てはまるシグナル

  • 組織は、ジョブの変更に対応するために職務内容の調整に時間をかけすぎている
  • 関連スキルを成長させるための開発機会が不十分であった結果、トップの人材を失っている
  • 新たなビジネスの優先事項に沿ったスキルや可能性よりも、学位や以前の職歴に過度に依存しているため、人材へのアクセスが困難になっている
  • 有望で多様な候補者が、不十分な職歴のために人材パイプラインから排除されている
  • 従業員はサイロ化された事業部門以外で新たな機会を見つけるのに苦労している

レディネス・ギャップ

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では、回答者の93%が、ジョブに焦点を当てる概念から離れることは、組織の成功にとって非常に重要または重要であると答えました。しかし、組織がこの課題に取り組む準備が十分に整っていると考えている回答者は僅か20%であり、調査された全ての傾向の中で最大の準備不足を示しています (図1) 。

図1 スキルベースのアプローチのレディネス・ギャップ

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組織の足かせとなっているものは何でしょうか。スキルベースの組織調査によると、課題/障害のトップは伝統的なマインドセットと現場実務であり、ビジネスおよび人事担当幹部の46%が、スキルベース組織に変革する上での上位3つの障害の1つとして挙げています。テクノロジーは問題ではないとも出ています。有効なスキル関連技術の欠如を課題/障害のトップ3に挙げたのは僅か18%で、10項目あるリストのうち最下位でした。 6

 

新しいあり姿とは

必要なスキルに基づいて職務を定義する:職務を特定のタスクと責任のセット(すなわちジョブ)として定義するのではなく、主に必要なスキルに基づいて職務を定義します。組織は、まず戦略目標や望ましい成果を検討し、それを達成するために必要な作業と、その作業を行うために必要なスキルを特定する必要があります。

労働者のスキルに関するデータを収集し、分析する:スキル評価、スキル推論、人工知能 (AI) を活用した分析および、「tryouts(採用希望者にオンライン上で実務と類似した業務をさせ、評価する採用方法)」 といった、最近のテクノロジーの進歩により、組織は様々なレベルのワークスキルデータにアクセスできるようになりました。同様のテクノロジーは、労働者の興味、価値観、仕事の好みなどより総合的なデータを加えて所属する労働者のスキルの棚卸しに活用することができます。

「労働者データの交渉」 の章で説明しているように、労働者に関するデータの収集には議論の余地があります。しかし、私たちの研究によると、スキルの文脈では、労働者はデータを収集することに対してより寛容的であるようです。労働者の10人に8人は実証されたスキルと能力に関するデータの収集に前向きであり、10人に7人は潜在的な能力に関するデータの収集に前向きであることがわかりました。これは、作業中にAIを使用して労働者のデータを受動的にマイニングすることにまで及び、作業者の53%はマイニングを肯定的に捉えています。 7

職位ではなくスキルに基づいて作業者を認識する:労働者を事前に定義されたタスクを実行するジョブホルダーとして狭く見るのではなく、提供するスキルのポートフォリオを持つユニークな個人として全体的に見て、それらのスキルに合った仕事とマッチングさせます。作業は、個人、チーム、またはそれに類するリソース単位で実行され、各個人は適切なスキル (現在のスキルを向上させ、新しいスキルを開発しながら)でもって貢献し、特定のスキルが不要になった時に別の作業に移ります。配置プロセスの一環として、自分のスキルだけでなく、独自の興味、価値観、情熱、開発目標、場所の好み等に合った仕事と労働者を一致させることが理想的です。人は、自分がどのような人間で、何を大事にしているかというような自分の特性に合った仕事をする時に最も幸せで生産性が高くなるからです。そうすることで、労働者の個人的な貢献と成長を最大化することができます。また、より公平で人間中心の労働者体験を創出し、労働者と社会全体に価値を生み出すのにも役立つでしょう。

スキルに基づいて人材に関する決定をする:組織はスキルに基づいて労働者を仕事に引き合わせるだけにとどまらず、雇用からキャリア、業績管理、報酬に至るまで、人材のライフサイクルを通じて、スキルに重点を置いてすべての労働慣行の中心に据え、ジョブには重点を置かなくなるでしょう。例えば、採用において、学位や資格ではなく、スキルや能力に基づいて候補者を評価することを意味します。デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では、回答者の3人に1人以上が、従業員がその潜在能力を最大限に発揮できるようなスキルを活用できていないと述べており、人材のライフサイクル全体でスキルを組み込む必要があることを強調しています。

「スキルは、非常に客観的で定量化可能な能力と熟練度の尺度となりえます。スキルデータを労働力計画の決定のインプットとして使用することができ、様々なデータセットを取得し、それをビジネス戦略に合わせることができます。シスコは大規模で複雑なグローバル組織であるため、この戦略により、迅速かつ意図的に従業員計画の決定を行うことができます。」

Kate Driscoll、Cisco 要員戦略および組織設計リーダー 8

先進的企業による取り組み

  • 米国陸軍では、契約や兵站の専門家になるためのキャリアパスを導入しており、変化していく任務のニーズに合致するように柔軟性を高めることに加え、労働力調整機関が従業員のキャリアをより良く、陸軍内に長く勤められるような状況を作りながら、スキルベースへの組織へと向かっています。キャリアパスアプローチにより、陸軍のリーダーシップは、現在の人材のポジションだけでなく、スキルと好みを可視化し、将来の国家の役割に適合した整合性を示し、人材データを活用して、より回復力のある持続可能な将来の労働力をサポートできるようにしています。 9
  • ある金融サービス組織が開発した仮想キャリアアシスタントは、AIを使って従業員のスキルや興味を掘り起こし、最適な仕事を決定したり、トレーニングによって新しい機会を追求したりできます。
  • モーニングスター(トマト加工会社)には、経営層が2層しかありません。戦略的な意思決定を行う社長と、それ以外の全員です。職位の代わりに、労働者は、創造されたスキル、専門知識、価値に基づく権限と賃金によって、解決すべき問題と成果のリストを独自に作成しています。10 例えば、ある労働者の個人的な使命は、非常に効率的で環境に配慮した方法でトマトをジュースに変えることです。

進むべき道

図2 生き残る、成長する、率先する。

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生き残る

市場での存続可能性の維持

  • 業務を最低レベルに分解し、業務の優先順位に合わせて業務成果を定義する
  • 重要な労働力セグメントにおける現在のスキルの棚卸をする
  • 仕事とスキルを仕事にマッピングしてワークアーキテクチャを作成する
  • トレンドとなっているスキルをプライオリティーの高いジョブとみなして報酬を支払う
  • スキルを学習に結びつけることで労働力の可能性を切り開く
  • 職歴よりもスキルを重視した選考基準により、人材へのアクセスを向上させる

成長する

差別化による競争優位の獲得

  • 将来のスキルニーズにより重点を置いて、スキルの一覧表を拡張する
  • 解決すべき成果や課題に基づいて、広範なワーククラスターを定義する
  • 従業員の仕事と学習をマッチングする社内タレントマーケットプレイスを確立
  • リーダーは、仕事に基づくタスクではなく、成果を管理することに集中する

率先する

根本的な革新と変革による市場のリード

  • 人材市場を拡張して、従業員のエコシステム全体 (社内および社外の従業員) を対象とする
  • 独自のカスタマイズされたワークエクスペリエンスの共同作成に労働者を関与させる
  • スキルの隣接性とAIを活用して、新たな仕事、再スキル化の機会、キャリアアップを実現する
  • 労働者のスキルと達成された成果に基づいて報酬を設定する
  • すべてのプラクティスがスキルに基づくように人材管理を変革する

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今後の展望

スキルベースのアプローチは、これまでのような狭いスキルの定義に基づき、小さな仕事に割り当てることによって、人々が何をするかコントロールすることを促すものではありません。例えば、タレントマーケットプレイスは、人々に仕事の選択と仕事への影響力を与えるのではなく、人々の仕事を指示するシステムへと進化する危険性があり、モチベーションを低下させ、労働者の成長を損なう可能性もはらんでいます。

成功するためには、組織は労働者が過去の資格や職歴だけでなく、スキル、興味、可能性に基づいて成果を出せるということを信じるべきです。また、組織は労働者の現在のスキルだけでなく、関連するスキルに基づいて仕事を割り当てる姿勢も必要になります。これにより、労働者は既に持っているスキルを基に関連領域で成長する機会を得ることができ、それは労働者にとっても組織にとっても非常に有益であるのです。

スキルベースの思考を取り入れる取り組みは、控えめなものから極端なものまで様々です。スキルの分類から始める取り組みもあれば、ジョブという概念を完全に廃止する取り組みもあります。M&T BankのChief Talent OfficerであるNeil Walker-Neveras氏は、「パンデミックの最中に給与保護プログラム (PPP) が導入された時、私たちは仕事について考えるのをやめ、スキルについて考え始めなければなりませんでした。中小企業局の貸し手としては全米6位、アメリカ北東部の多くの地域では1位だったので、中小企業の存続を支援する責任がありました。スキルベースのジョブに焦点を当て、迅速かつ機敏な方法で人材を動員することで、第1ラウンドでは適格な応募者ローンの96%、第2ラウンドでは100%を調達し、同業他社を凌駕しました。これに対し、より高度なテクノロジーを持つ同業他社は第1ラウンドで50%以上の資金調達に苦労しました。」と述べています。11

スキルベースの組織となるためにどのようなアプローチを取るかにかかわらず、明白なことが1つあります。それは、達成すべき重要な成果が、組織と労働者の双方にとってあるかということです。


図3 労働者と仕事を効果的にマッチングすることによるメリット

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脚注

  1. Sue Cantrell et al., The skills-based organization: A new operating model for work and the workforce, Deloitte Insights, September 8, 2022. The article features data from Deloitte’s skills-based organization survey, which polled 1,021 workers and 225 business and HR executives across a range of industries and in 10 countries: Australia, Brazil, Canada, Germany, India, Japan, Singapore, South Africa, United Kingdom, and the United States.
  2. Ibid.
  3. Ibid.
  4. Ibid. スキルベース組織の比率は、人事領域の責任者向けの調査項目に対する回答と、労働者向けの調査項目に対する回答の合計の加重比率を示している
  5. PRNewswire, “OneTen launches technology platform to create and enable one million career opportunities for black talent over the next 10 years,” June 29, 2021
  6. Cantrell et al., The skills-based organization.
  7. Ibid.
  8. Interview with authors.
  9. Based on work done by Deloitte with this client
  10. Gary Hamel, “First, let’s fire all the managers,” Harvard Business Review, December 2011.
  11. Interview with authors.

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