デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024 #8 境界のない人事 ブックマークが追加されました
Deloitte Insights
デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024 #8 境界のない人事
一機能から組織知へ: 境界のない人事の台頭
仕事の未来を見据えて、人事も進化することが必要です。サイロ化された機能としての人事から、人々・企業・コミュニティと統合された境界のない専門分野としての人事に移行することが求められます。
境界のない世界の新たな要求に応えるためには、人事における境界を無くすこと、すなわち労働者に関連するあらゆる責任を担う専門的機能から、関与する人々・企業・コミュニティと共に創り、統合された境界のない組織知としての人事へ移行する必要があります。人事に関する専門知識が人事部門だけで所有されるのではなく、組織内全員の責任と能力となり、ビジネス構造全体に織り込まれることで、ますます複雑化する問題に対して機能横断的なソリューションを生み出すことが可能になります。
成果を達成するために人間の潜在能力を引き出すことは、物理的資産を活用することと同じくらい、あるいはそれ以上に重要になっています。1 ビジネス、テクノロジー、世界の急激な変化に対して、前例のないアジリティ、責任、人間による成果の創出が求められることが多く、単一の部門だけでこれらに取り組むことはできません。人事の専門知識 (人事部内外問わず)と他分野の専門知識を掛け合わせることが重要です。
「人事の専門知識」 とは何か
人事の専門知識とは、人材ライフサイクル全体を通じてビジネスの成果(生産性等)と人間の成果(専門性の伸長等)の達成に求められる、労働者の能力開発、動機づけ、人材配置に関する知識や理解のことを指します。個人レベルでは、フィードバックの提供、能力開発機会の探索とサポート、組織文化の強化、より良いチームワーク構築に向けた取り組み、その他の行動を通じて、自分自身や他のチームメンバーのパフォーマンスを向上させる方法についての理解を指します。
人と機械の相互作用の急激な増加により、人事部門と情報技術の密接なコラボレーションがどのように求められるかを考えてみましょう。例えば、Rockwell Automationのチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)であるChris Nardecchiaは、最高人事責任者(CHRO)と密接に連携しています。「なぜなら、デジタル・トランスフォーメーションの成果を達成する上で、リーダーシップや文化やスキルと、行動との間には本質的な繋がりがあるからです。」このコラボレーションにより、ビジネスプロセスの改善を達成し、合計受注サイクル時間を75%削減できました。2 デジタル・トランスフォーメーション、特に生成AIは、全ての人の能力とスキルの価値を高めることに寄与しています。実際、世界経済フォーラムでは、全労働者にとって重要性が増しているスキルTop10のうちの1つが、タレント・マネジメントとなっています。3
また、仕事がよりダイナミックになるにつれて、人事の専門知識は、組織の末端、ニーズの発信源に近いところで必要とされるようになるでしょう。それは、何段階も人事機能から離れている場所というわけではありません。同様に、労働者データや AI を、責任を持って使用するためには、人事が情報技術、リスク、倫理分野と連携する必要があります。 環境、社会、ガバナンス、そして人間の持続可能性の重要性の高まりに対して責任あるビジネス・プラクティスを追求することは、人事部門がCSR、DEI、財務、オペレーション、マーケティング、広報等の他部門・グループと密接に連携することが求められていることを意味します。
人事の新しいマインドセット
これらは、実際に行われている境界のない人事のほんの一例です。境界のない人事とは、何よりもまず考え方の転換であり、これを支えるのが、一連の異なるプラクティス、スキルセット、指標、テクノロジー、そして場合によっては構造的な変化です。 境界のない人事は、次の境界を打ち破ることにより、人事分野をビジネス構造に組み込みます。
- 人事とその他の分野の境界。ビジネス上の問題を共同で解決するために人事に関する専門知識が機能領域全体に統合されるに従い、全ての機能領域 (人事を含む) は、共通のビジネスおよび人間の成果に向けて取り組み、それを評価する必要があります。これらの境界が崩壊すると、各機能分野が融合し始めるだけでなく、旧来の人事分野も、意思決定に関する科学理論、行動経済学等の関連する分野、そして心理学、社会学、人類学等学術的な分野と融合し始めます。
- 人事、労働者、リーダー、およびマネージャー間の境界。取締役から経営陣、個人貢献者に至るまで、組織内の全ての人は、人事の専門知識を必要とし、人間のパフォーマンスに対して相互に責任を負う必要があります。人事は、人材マネジメントを民主化し、自動化と AI を活用したプラットフォームとして機能し、リーダー、マネージャー、労働者が人事関連の業務を自ら実行するために必要なツール、情報、リアルタイムのデータを提供します。人事部門は人事という分野を独占するのでなく、共同で創造することによって、労働者を人事プラクティスの消費者から共同生産者に変えます。
- 「職務」 を仕事、 「従業員」 を労働者と同一視する境界。人事は、他の分野と連携して、雇用者、パートナー、拡張労働力、スマートマシン等、仕事を遂行する全てのリソースのスキルを流動的に調整します。人はますます 「職務」 に縛られて働くことから解放され、なおかつ進化する仕事のニーズに基づいて柔軟にスキルを活用することができます。
- 人事部門と他組織、顧客、その他の外部関係者との境界。人事は、リーダー、マネージャー、従業員という従来の社内の「顧客」を超えて、顧客、投資家、社会にも焦点を当てています。人事は、教育機関、政府、パートナー、コミュニティ等、組織を超えた幅広い関係を調整し、まとめています。
人事は既に、よりアジャイルで従業員中心の運用モデルを採用し、人事部門内の境界を解消することに取り組んできました。4現在、人事は次の進化を遂げようとしています。それは、人事機能そのものの境界を再考するための考え方の転換です(図2) 。 境界のない人事が実現した場合、人事の専門家は、従来の雇用管理者というよりも、オーケストレーター、コーチ、共同制作者のような役割を持つことになります。
境界のない人事は、人事の運用モデルの問題を再マッピングしたものではありません。重要なことは、人材関連の課題や問題に対処するために、組織内外のどこにいるかに関係なく、最も有能な人材をどのように活用するか、ということです。
「人事は誰もが持つべき能力であり、組織知です。 人事としては、マネージャーが優秀であることが自分たちの機能を損なうと考えることは、やめなければなりません。他人と共に働く人は全て、人事に長けていなければなりません。」 — Gabriel Sander, Cuervo
リーダーが人事の専門知識の重要性を認識するにつれて、この専門知識がどこに蓄積されているか、必要な時に組織全体でどのように運用するか、という問題がより重要になります。Cuervoの人事責任者であるGabriel Sanderは、 「人事は誰もが持つべき能力であり、組織知です」と言いました。 「人事としては、マネージャーが優秀であることが自分たちの機能を損なうと考えることは、やめなければなりません。他人と共に働く人は全て、人事に長けていなければなりません。」5
この変化は、デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2020の「Memo to HR(HRへのメッセージ)」に基づいています。6 その中では、人事の責任拡大、すなわちその影響範囲を企業とビジネスエコシステム全体にまで広げ、更にその焦点を従業員から組織、そして最終的には仕事と労働力そのものにまで広げるよう求めていました。境界のない人事こそが、その目標を達成する手段となります。その結果、人間のパフォーマンスを引き出すための専門知識を備えた人事専門家、ビジネスリーダー、労働者のエコシステムが生まれ、人間のパフォーマンスを引き出すことができるのです。
境界のない人事に移行すべきサイン
- 仕事がよりダイナミックになり、人間の成果を達成する必要がある中で、ビジネスリーダーが自らの人事関連の専門知識を開発する方法を模索している。
- 従業員フィードバックの結果から、従業員がマネージャーから十分なサポートを受けられておらず、人事プラクティスが従業員固有のニーズを満たせていないことが判明している。
- 労働力の構成割合が、社外人材、スマートマシン、および物理的に離れた労働者の割合が増えている。
- 人事領域の優秀な人材が、多様な仕事で経験を積むことを望んでいる。
- 人事の管掌範囲、および人事に対する期待が拡大・進化していると感じる。
境界のない人事によって組織が手に入れること
新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、人事が組織全体に幅広く関与することで実現される価値が注目されています。 パンデミック中、人事部門は以下に代表される事項を実施しました。
- IT部門との連携(リモートワークの技術的影響管理)、財務部門との連携(リモートワーク下における税金・給与の影響管理)、不動産および業務部門との連携(従業員の安全確保)
- 通常必要としない専門的な能力をもつ人材の採用(効果的な接触者追跡を実現するために必要な医療専門家等)
- 外部組織と新しいパートナーシップを確立し、医療提供者、保健部門、その他組織と協力して労働者を相互に共有・活用すること。パンデミック中に出現した企業間の人材交流により、仕事がなくなった業界(航空会社やホスピタリティ業界等)の労働者を、仕事が過剰な組織(医療や物流等)に一時的に転換させることを可能にした。7
人事が従来の機能の境界を超えて働くことで、事業運営を維持しながら人々の安全を確保し、デジタル技術を使った新しい働き方を生み出し、労働者の雇用を維持しながら人間の持続可能性を向上させることに成功しました。人事部門が将来の変化に対応できると確信している経営陣の割合は、2019年から2020年にかけて倍増しました。8
現在、人事が一時的に注目を集め、仕事の意思決定に関与していますが、反動が起こるリスクがあります。しかし、ビジネスリーダー達は、過去、人事の専門知識が継続的にもたらす価値を十分に認識していませんでした。それは、パンデミック以前の状況は今よりもシンプルだったからかもしれません。9 パンデミックが人事の重要性を認識させる加速要因となった可能性もありますが、実はパンデミック以前から人事の強い影響力のニーズは高まっていました。パンデミック後、以前の働き方に戻るだけでは、組織とそのエコシステム全体での協働の必要性が見落とされてしまいます。
同時に、変化スピードと期待は高まり続けており、これは、人事の目的を再定義する必要があることを示唆しています。 現在および過去のデロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンドが多く示してきたように、仕事の世界は変化しており、5つの大きな変革が必要です (図3) 境界のない人事へ移行すると、組織が反動から身を守り、変化に対応するのに十分な速さで進化できるようになります。 境界のない人事への移行は、人事、労働者、そして組織全体にとって、生み出す価値を向上させる道筋となることができます。人事は近年確実に進歩してきましたが、デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド 2024によると、「組織が人事の仕事を評価していることに強く同意している」と回答する経営陣はわずか15%のみです。
5つの大きな変革と、それらを実行するために境界のない人事が必要な理由は次の通りです。
- 生産性の向上から、人間のパフォーマンスの解放へ。仕事と生産性の指標が産業時代の概念から人間中心のものに移行するにつれて、人事は人間のパフォーマンスと潜在能力を測定し、解き放つために変化する必要があります。 リーダーの70%が、これが人事部の新しい役割であるべきであると同意しており、これは長年標準化に注力してきた機能からの大胆な脱却を意味します。10 しかし現在、人事が労働者のパフォーマンス向上に大いに貢献していると考える経営陣の割合はわずか20%です。人間のパフォーマンスを真に引き出すためには、組織全体に人事の専門知識が行き渡るように人事が取り組む必要があります。仕事や労働者データのデータ源をビジネスデータと統合し、データを提供する労働者や人事マネージャーの個々のニーズを満たす形で適応される必要があります。しかし現在、人事組織のプラクティスが個々のニーズや選好を大いに満たしていると考える経営陣はわずか10%です。
- 従業員エンゲージメントの向上から、人間の持続可能性の向上へ。何十年もの間、従業員エンゲージメントは人事における目標であり続けてきましたが、今後境界のない人事が人間の持続可能性を追求する上では不完全な目標となる可能性があります。人間の持続可能性の追求とは、組織が人間としての価値を創造し、健康およびウェルビーイングの向上、より高いスキルとエンプロイアビリティ、良い仕事、持続可能な賃金、昇進の機会、帰属意識、公平性、目標をもたらす度合として定義されます。経営陣の79%が、「人間あるいは社会の一員としての労働者に対して価値を創造する責任が組織にある」ということに同意しています。11
- 従業員管理から、労働の調整へ。スピードとリアルタイムの対応力が競争優位性を生み出すにつれて、仕事は職務に縛られなくなりつつあります。対して、人間とスマートマシンからなる分野を超えた混成チームのスキル12 や、社内外の人材で構成される労働力エコシステムに基づいて、13 仕事が流動的に組織化されることが多くなっています。14 この新しい労働力エコシステムは、アジリティの向上に加えて、慢性的なスキル不足、コストの最適化、イノベーションの需要等、ビジネスリーダーにとって最も差し迫った課題のいくつかを解決するのに役立ちます。 ビジネスおよび人事リーダーの大多数(72%)は、人事が従来の従業員管理から労働の調整に移行すると考えています。15 実際、リーダーの81% は、職務からスキルへの移行には、部門を超えたコラボレーションの強化が必要であると述べており、16 84% は、労働力エコシステム全体を調整するには、既に 2つ以上の部門間の密接なコラボレーションが必要であると述べています。17
- 人事プラクティスとビジネス戦略の統合から、ビジネス変革と共同成果創出の推進へ。今日のビジネス上の問題はますます複雑化しており、それらを解決するためには複数の分野が連携することが求められています。 このような環境の中で、人事はもはや単なる「ビジネスパートナー」として経営戦略をサポートするだけではありません。
むしろ、人事分野はビジネス戦略と主要なビジネス成果を共同で生み出していると言えます。企業経営者の81%は、ビジネス上の課題と人事課題はかつてないほど関連し合っていると述べています。18 イノベーション、顧客満足度、デジタル・トランスフォーメーション、組織のアジリティのいずれにとっても、人事分野は成果の鍵となる主要な要素であり、多くの場合において最も重要なドライバーとなります。
WalmartのCHRO Donna Morrisは、 「変化を主導しない限り、変化を効果的に実行することは困難です。戦略的に変化を主導したいのであれば、組織設計、働き方、新たな影響力の機会を描く役割について、検討する必要がある」 と述べています。
- 労働者のコンプライアンス順守から、労働力リスクの管理と軽減へ。人事は、これまで雇用関連のコンプライアンス順守に重点を置いてきましたが、従業員のリスクの管理および軽減というより広範な視点へと移りつつあります。しかし、この移行を遂げた組織はわずか35%です。19 事業運営リスクや財務リスクといった範囲を超え、環境、社会、技術、政治、経済問題等、増大する破壊的な外部リスクの中に人的影響を含めて対処していくことが組織に求められます。CHROは労働力のリスク管理を担当する経営幹部ですが、20 労働力のリスクに対処し軽減するためには部門を超えた協力が必要です。境界のない人事は、組織全体にわたる専門知識に基づいて、財務、法務、持続可能性、DEI、ESG、オペレーションを含む労働力のリスクを機能横断的に把握し、マネージャーから取締役に至るまで、共通の成果に対する相互の説明責任と責任を求めます。
「変化を主導しない限り、変化を効果的に実行することは困難です。戦略的に変化を主導したいのであれば、組織設計、働き方、新たな影響力の機会を描く役割について、検討する必要があります。」 — Donna Morris, chief people officer, Walmart
境界のない人事への移行のさなか
私たちの調査によると、回答者の72%が、人事はオペレーション機能から機能横断の専門分野へ移行することが非常に重要であると考えています。回答者の35%が、過去3年間で組織の人事機能の範囲が拡大したと答えており、一定の進展は見られます。また、経営陣の27%は、人事機能が他のビジネス機能のプラクティスとますます統合されていくと考えています。
この傾向は組織全体に波及しており、機能上の境界は全体的に意義が薄れてきています。実際、経営陣の81%は、仕事が機能的な境界を越えて行われることが増えていると回答しており、21 54%が、労働者レベルでの機能を超えたコラボレーションが頻繁にまたは常に行われていると述べています。これらの結果は、2018年のデロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査において、経営陣の中で「プロジェクトや戦略的取り組みで協力することはめったにない」と答えた回答者が73%であったことを踏まえると、大きく変化しています。22 Johnson & Johnsonの人事リーダーは、HR Decision Scienceチームの創設は機能上の境界を打ち破る機会と捉えました。このチームは、組織の膨大なデータリソースを活用して、労働者に関するエンドツーエンドの意思決定を改善し、組織と労働者の成果を向上させることを任務としています。このチームには組織全体からのエキスパートやスペシャリストが含まれており、Johnson & Johnsonの人材プラクティス全体にわたって、データ主導かつ科学に基づいた意思決定推進の強化に向けて協働しています(詳細は補足「Johnson & Johnson: A case study in cross-functional teaming」を参照)。23
境界のない人事への移行は、必ずしも人事が他部門の責任を負う必要があるということではありません。ですが、人事分野がますますビジネスに統合されるにつれて、人事リーダーが不動産や顧客エクスペリエンス等、従来の職務範囲外の責任を引き受ける可能性があることも事実です。一例として、Alexion Pharmaceuticalsが、チーフ・ペイシャント&エンプロイー・エクスペリエンス・オフィサーのポジションを導入し、どのように労働者と患者のエクスペリエンスを統合したのか、24 また、KION Group AGのCHROが、どのように自身の役割をチーフ・ヒューマンリソース&サステナビリティ・オフィサーに拡大したのか、を考えてみましょう。25 これらの例は、人事分野がビジネス全体に統合されることで、人事の役割が進化し拡大する可能性があることを示唆しています。
しかし、こうしたダイナミクスは、逆方向にも作用するでしょう。 より良い形で統合するために人事関連の活動が他のグループに組み込まれるにつれて、結果として人事が特定のタスクに対するオーナーシップを失う場合があります。例えば、マーケティング部門がエンプロイヤー・ブランディングを担う場合や、チーフ・ストラテジー・オフィサーが人的資本戦略を策定する場合、またはオペレーション管理グループがプロセスの卓越性に関連する人事責任の一部を引き受ける場合等が考えられます。Octopus Energyには人事部門が存在しない代わりに、マネージャーに対して労働者間の揉め事の解決や契約に関する主張の相違等の戦術的なタスクを担当する権限が与えられています。26 マネージャーもまた、自分たち自身の分析を行い、人員計画、パフォーマンス向上等、より多くの労働力管理に関する責任を引き受ける必要があります。Google Cloudのマネージャーは、人事部が提供する人事ダッシュボードを使用して、組織の健全性とパフォーマンスに関する分析情報を共有しており、将来的にはこれにAIを組み込んでチーム構造や役割等の変更をモデル化する予定です。27
しかし、人事部門をオペレーション機能から、労働を調整する境界のない分野へと完全に移行するには時期尚早であり、そのプロセスは困難と感じられています。私たちの調査では、経営陣の31%が、この変化は組織のリーダーにとって対処するのが最も困難な変化のトップ3に入るとしています。
更に、私たちの調査結果から、組織が内部制約による課題を抱えている可能性があることも明らかになっています。潜在的な制約には、人事の専門知見が優先されないこと、それをサポートする文化がないこと、および優先順位の競合等が考えられます。例えば、初めて部下を持つ人に対して人事関連の問題に関するトレーニングコースが提供されたり、中間管理職が人事観点で良いリーダーとなるようフィードバックやコーチングの機会が提供されたりすることがありますが、これらは時として優先順位が劣後し、十分な投資がなされず、日々の業務に活かされない場合があります。組織が、境界のない人事の実現により利益を得るためには、人事を組織の優先順位リストの上位に位置づけることが必要です。
境界のない人事の実践
境界が薄れているのは、人事だけではありません。アジリティ、イノベーション、人間の持続可能性を推進するために、IT、財務、その他の機能がますますビジネスに統合されています。他の部門と同様に、人事も組織全体の役割、プロセス、目標、チーム、指標、テクノロジー、システム全体のより良い統合を積極的に追求する必要があります。
人事を機能から境界のない組織知へと変革するため、組織が取りうる行動として次のようなものが挙げられます。
- マネージャーの役割を人事リーダーとして再定義する。Standard Chartered Bankは、マネージャーの役割に人事分野を組み込む必要性を認識したため、マネージャーの役割を人事リーダーとして再定義し、人事スキルのトレーニング・認定プロセスを策定しました。28 Telstraは、マネージャーの役割を人事リーダー (保有スキルが類似する労働者を対象に、現在・将来のニーズを満たすためのスキル・能力の獲得・保持に対して責任を持つ) と業務リーダー(業務計画の作成・実行に対して責任を持つ)の2つに分割しました。29 Ciscoは、マネージャーがより優れた人事リーダーとなるためのサポートこそが人事機能に求められる主要な役割であるとし、データとマネージャーの能力に関する仕組みを構築しました。30 組織が効果的に機能するためには、人間の成果とビジネスの成果は同様に重要なものであると位置付け、人事リーダーとしてのマネージャーの役割を測定し、認識する必要があります。例えば、とある組織においては、リーダーがその組織内で優秀な人材を生み出しているか、育成しているか、あるいは他組織に提供しているかによって、パフォーマンス管理評価および報酬決定を実施しています。
- 機能横断で共有される新しい指標・分析を作成する。人事分野は全ての人に対して責任を伴うものであるにも関わらず、これまでのところその責任への追求が欠けていることをデータが示唆しています。65%の組織が、ピープル・アナリティクスが過去1年間でビジネス観点での利益をもたらしていないと回答しました。31 また、「人事機能が他の業務機能と同じビジネス指標に基づいて測定される」と感じている経営陣は、わずか24%でした。境界のない人事は、アジリティ、顧客満足度、人間のパフォーマンス等の共有成果と、複数のデータソース(人事、財務、業務等)を組み合わせて、問題を明らかにし、解決策の分析に焦点を当てる必要があります。組織は、特に人事リーダーとしてのマネージャーが、パフォーマンス評価に必要なデータ・情報へのアクセスを可能にする必要があります。例えば、VW Australiaは、顧客と労働者のエクスペリエンスデータを統合し、現地のマネージャーがアクセスできるプラットフォームを作成しました。この変化により、ディーラー施設への投資が促進され、持続的な売上拡大、会社史上最高の労働者定着率およびエンプロイー・エクスペリエンススコアを達成しました。32
- AIやその他のデジタルツールを使用して人事プラクティスとデータを民主化し、パフォーマンスを引き出す科学的なプロセスを作成する。AI、特に生成AI の登場により、人事機能の境界が打ち破られようとしています。例えば、労働者が生成AIプラットフォーム上で簡単な質問をするだけで、あらゆるトピックに関する情報と実用的な提案を得ることができるようになった時、人事が提供するトレーニングの役割は何でしょうか。生成AIは、求人情報の原稿を作成したり、パフォーマンスのフィードバックを統合したり、労働者やマネージャー直属の部下にキャリアの選択肢を提案したり、労働者の感情や部門間のコラボレーションの程度に関してリアルタイムのパフォーマンスの洞察を提供したり、業務と両立して学習できるよう学習コンテンツや評価を自動的に組み立てたりすることができます。データの民主化も重要です。例えば、IBMでは、新しいAIツールにより退職リスク等の問題を特定できるようになったほか、時には報酬改定が提案されることもあり、人事に関してマネージャーがより良い意思決定を下すことをサポートしています。AIは、パフォーマンスとマーケットの賃金格差だけでなく、スキル別の労働者の離職データや、各労働者のスキルに対して現在および将来の外部需要の変化も示します。また、AIによって、マネージャーは、トレーニングプログラムの認定や指標に基づくパフォーマンス開発システムを活用して実施していた旧来の人材育成の責任から解放されました。33 ただし、組織は、このような労働関連のAIツールを導入する前に法務アドバイザーと相談し、責任あるデータプラクティスが確実に実施されることを確認する必要があります。
- ビジネス上の問題や人事課題に取り組むために、部門を超えたチームまたは「インテグレーター」の役割を設定する。手始めに、組織内で、他部門や他分野の人材を人事の役割やプロジェクトに参加させたり、その逆を行ったりすることで、専門知識の相互に交差させることを試みることができます。人事担当者が他の機能領域(財務やテクノロジー等)を理解できるようスキルアップを図ったり、他の領域のリーダーに人事の専門知識を習得させたりすることも有効です。更に、横断的なチームを作成することもできます。多くの組織では、既にIT、ファシリティ、人事からなるチームを作り、労働力の効果を向上させています。また、デジタル・トランスフォーメーションを実現するために、チーフ・デジタル/インフォメーション・オフィサー、CHRO、チーフ・マーケティング・オフィサー、CEOから構成されるチームを作り始めている組織も見られます。Johnson & JohnsonのHR Decision Scienceチームは、部門横断的なコラボレーションが組織と労働者の成果をいかに向上させるかを例証しています(ケーススタディ参照)。34
また、組織内で、ジョイントワーカー/カスタマー・エクスペリエンスリーダー、チーフ・コラボレーション・オフィサー、チーフ・トランスフォーメーションオフィサー等の人事関連分野を含むインテグレーターの役割を設けることも可能です。例えば、フィンテック企業であるConveraは、Western Unionからのスピンオフ後、事業戦略を推進するため統合的な変革を担う役割を設定し、変革目標毎にリーダーを指名しました。シニアリーダーは、変革を推進する能力とレジリエンスを、人事部門内のワークストリームやチームの1つとして個別に保有するのではなく、組織全体に根付かせることの重要性を認識していました。この変革能力を運用するために、各変革リーダーがチェンジマネジメントのトレーニングを受けると共に、各取り組みはビジネスケースの1つとして組織のチェンジマネジメント指標に照らして測定されました。35 また、変革の中で、個人と組織のレジリエンスを構築するために、マネージャーと労働者に対しても、チェンジマネジメントのトレーニングが展開されました。
Johnson & Johnson 機能横断的チーム編成に関するケーススタディ
Johnson & Johnsonのグローバル・タレント・マネジメント・チームは、労働者がより客観的かつデータに基づいた意思決定を実施する方法を探索しました。同チームは、組織内の様々な機能でサイロ化された膨大なデータを統合し、これらのデータから労働者に関するインサイトを収集し、成果促進に資する提言に繋げ組織全体に戦略的な付加価値を提供するために、HR Decision Scienceチームを立ち上げました。
このチームにとっては、機能横断的チームの編成とコラボレーションが非常に重要となるため、組織内の事業部門のスペシャリストの他、産業心理学者、組織心理学者、データサイエンティスト等の専門家を集めました。彼らは、テクノロジー・パートナーと密接に連携し、人事データとその他ビジネスデータ(財務、業務、顧客データ等)の統合を確実に行うだけでなく、事業部門自体とも連携し、人事課題へ戦略的に対応するための支援を行っています。このチームは、高品質のデータとサイエンスを融合させ、最終的にビジネスパートナーが情報に基づいて人事・組織に関する影響力のある意思決定が実施できるよう支援します。この機能横断的チームは、人材開発、パフォーマンス・エンゲージメント、人員計画に関する情報を提供し、組織にとって最善の意思決定を行うために不可欠な存在となっています。
HR Decision Scienceチームは、人事部門と他部門との垣根を取り払うだけでなく、「職務」と仕事を同一視する垣根を取り払うことにも取り組んでいます。このチームは、Johnson & Johnsonがスキルベースの組織となるため、そして最終形態としてスキルに基づいた採用、指導、育成、他機能領域への配置転換を実施するモデルを導入するため、変革を推進しています。
- 労働者を単なる消費者ではなく、人事プラクティスの生産者に変える。境界のない人事組織は労働者と共に働き、マイクロ・カルチャーやその他人事プラクティス等の設計、展開、反復に労働者を巻き込みます。しかし、組織のソリューションの検討に関して、「リーダーが労働者を頻繁に、または常に関与させている」と回答した経営陣はわずか30%でした。
効果的な共創を行うには、カスタマー・エクスペリエンスの分野で活用されているエンドツーエンドのジャーニーマッピング、ペルソナの開発、デザイン思考、アジャイルな方法論、感情分析やアナリティクス等を通じて、労働者からの収集できるインサイト以上のものを生み出す必要があります。しかし、労働者は顧客ではありません。実際に、労働者を顧客のように扱うことは逆効果です。本当の共創とは、仮想フォーカスグループ、インタラクティブ・ホワイトボード(インタラクティブに問題解決のアイデアや方法を視覚化していくこと)、多様な目的でのハッカソン実施、アイデア出しやコンセプト確認を実施するアイデア・ジャム等に労働者を直接巻き込み、労働者と人事部間の境界を取り払うことによって実現します。例えば、Allstate Insuranceは、新しいビジネス成果の評価指標のようなエンプロイー・エクスペリエンスに関連するものの設計・テストに、170人の労働者を参加させました。36 Converaは報酬プラットフォームの再設計のハッカソンに、全労働者を招待しました。37 - 外部団体とのコラボレーションやパートナーシップを追求する。組織では、教育機関、政府、規制当局、投資家、サプライヤー、パートナー、グローバルな社会運動等、より広範なコミュニティと関わるアンバサダー・チームを任命することから始めると良いでしょう。また、他の組織とコンソーシアムに参加して規制の在り方に影響を与えたり、教育機関とスキルに関する需要データを共有したり、より良いタレントパイプラインを開発するために高等教育のカリキュラムに対して提言したりすることも検討してみてください。
境界のない人事の未来
境界のない人事へのマインドセット・シフトは、多くの場合、人事がコンフォートゾーンから離れる必要があります。つまり、人事という分野を所有することから、互いに説明責任をもって共同の成果を生み出すために、労働者やビジネス部門と共同所有・創造することへと変化する必要があるということです。これは、双方向で実施されるものです。IT部門や財務部門がそうであったように、人事部門がビジネス部門に統合され、逆にビジネス部門が人事部門と一体化することを可能にします。
CHROはこの進化において重要な役割を担っており、新たなリーダーシップが求められています。 テクノロジーと人間の境界線がますます曖昧になる中、CHROという役職は、AI等のテクノロジーと協働する社内外の労働力に対して責任を持つチーフ・ワーク・オフィサーとすべきかどうか、見直す時期に来ているのかもしれません。Johnson & Johnsonのグローバル・タレント・マネジメント責任者、Michael Ehret博士は「人事の未来は、境界の消失について異なる視点で考え、それによってチーム構成をどのように変えるのかを考えるものです」とインタビューで語りました。「例えば、当社の採用チームの業務領域は、フルタイムまたはパートタイムの人材を雇用することだけでなくなったため、タレント・アクセスチームという名称に変わりました。フルタイム、パートタイム、派遣社員、あるいは人間がコア業務へ集中することを可能にしてくれるスマートマシン等、適切なスキルを備えた最高の労働力にアクセスする必要があります。当社のグローバル・タレント・マネジメントチームは「あらゆる未来に備える」という理念を掲げており、どのような未来に対しても組織、リーダー、労働者が対応できる状態にしたいと考えています。」38
組織全体の人事領域を統合し、人間の潜在能力を引き出し、人間のパフォーマンスを測定するための新たなアプローチを他の領域のリーダーと共に共同創造する中で、CHROは自らの役割も移行させる必要があるかもしれません。幸いなことに、多くのCHROはビジネスのあらゆる部門に関わる役割を担っているため、機能横断的な調整者としての立場を十分に獲得しています。例えば、CHROは、テクノロジー・データ・人間の繋がり、または顧客と労働者間の経験における繋がりを特定・調整することに適していることがよくあります。この役割の移行に伴い、CHROには、組織内外の繋がりを築きながら自らのスキルを成長させること、そして人事部門外で働くことが増える中でも、帰属意識と目的意識を通じて人事プロフェッショナルとして安定した居場所を作ることが求められるでしょう。
境界のない人事への移行には、人事の新しいビジョン、新しい考え方、新しいスキル、新しいリーダーシップ、そして潜在的には新しい役割と組織構造が必要になります。ですが、理解している状態から実践している状態へ移行することによって得られる利益は、莫大なものになる可能性があります。人事は、より魅力的な労働者価値の提案を生み出し、タレント・マネジメントをオペレーションあるいは事後対応的なものではなく、ビジネスの戦略的機能に近づけることができます。更に、人事の専門家の仕事は、より創造的で有意義なものになります。人間のパフォーマンスが解放され、測定されることで、組織は、そこで働く労働者、パートナー、コミュニティと共に繁栄していくことができます。
調査方法
デロイトのグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024は、世界95カ国の様々な業種・業界における14,000人のビジネス・人事リーダーを対象に実施されました。基礎データを形成する広範囲な調査に加えて、今年は労働者とリーダーそれぞれに特化した調査の視点を反映し、リーダーの認識と労働者の現実とのギャップを明らかにすることを目指しました。リーダー向けの調査は、最新の組織・人事課題に関するリーダーの考え方を理解するため、Oxford Economicsと共同で、世界中の経営者と役員1,000人を対象に実施されました。更に、これらの調査データは、複数の先進的な組織のリーダーとのインタビューによって補足されています。これらの洞察により、本レポートのトレンドが形作られました。
Endnotes
1 Frederico Belo, Vito D. Gala, Juliana Salomao, and Maria Ana Vitorino, “Decomposing firm value,” Journal of Financial Economics 143, no. 2, February 2022, pp. 619–639.
2 Bob Violino, “8 ways CIOs and CHROs can collaborate for business impact,” CIO, August 24, 2022.
3 World Economic Forum, The future of jobs report 2023, April 30, 2023.
4 Deloitte, Imagining HR for today’s worker, accessed December 2023; Harvard Business Review, “Why your organization’s future demands a new kind of HR,” February 21, 2019.
5 Online interview, Gabriel Sander, chief human resources officer, Cuervo, 2023.
6 Jeff Schwartz, Brad Denny, David Mallon, Yves Van Durme, Maren Hauptmann, Ramona Yan, and Shannon Poynton, A memo to HR, Deloitte Insights, May 15, 2020.
7 Ravin Jesuthasan, Tracey Malcolm, and Susan Cantrell, “How the coronavirus crisis is redefining jobs,” Harvard Business Review, April 22, 2020.
8 Deloitte, Deloitte 2021 Global Human Capital Trends report, press release, October 22, 2020.
9 Millicent Machell, “Are we returning to pre-pandemic ways of working?,” HR Magazine, April 6, 2023; John Dujay, “Is HR’s transformation here for the long run?,” HR Reporter, May 10, 2021.
10 Michael Griffiths and Robin Jones, “The skills-based organization: A new operating model for work and the workforce,” Deloitte, November 2, 2022.
11 Ibid.
12 Sue Cantrell, Karen Weisz, Michael Griffiths, Kraig Eaton, Shannon Poynton, Yves Van Durme, Nic Scoble-Williams, Lauren Kirby, and John Forsythe, Navigating the end of jobs, Deloitte Insights, January 9, 2023.
13 Steve Hatfield, Tara Mahoutchian, Nate Paynter, Nic Scoble-Williams, John Forsythe, Shannon Poynton, Martin Kamen, Lauren Kirby, Kraig Eaton, and Yves Van Durme, Powering human impact with technology, Deloitte Insights, January 9, 2023.
14 Sue Cantrell, Karen Weisz, Michael Griffiths, Kraig Eaton, Shannon Poynton, Yves Van Durme, Nic Scoble-Williams, John Forsythe, and Lauren Kirby, Unlocking the workforce ecosystem, Deloitte Insights, January 9, 2023.
15 Griffiths and Jones, “The skills-based organization.”
16 Ibid.
17 Cantrell, Weisz, Griffiths, Eaton, Poynton, Durme, Scoble-Williams, Forsythe, and Kirby, Unlocking the workforce ecosystem, Deloitte Insights, January 9, 2023.
18 Mercer, “2024 Global Talent Trends,” accessed December 2023.
19 Sue Cantrell, Zac Shaw, Michael Griffiths, Reem Janho, Kraig Eaton, David Mallon, Nic Scoble-Williams, Yves Van Durme, and Shannon Poynton, Elevating the focus on human risk, Deloitte Insights, January 9, 2023.
20 Joseph B. Fuller, Michael Griffiths, Reem Janho, Michael Stephan, Carey Oven, Keri Calagna, Robin Jones, Sue Cantrell, Zac Shaw, and George Fackler, Managing workforce risk in an era of unpredictability and disruption, Deloitte Insights, February 24, 2023.
21 Griffiths and Jones, “The skills-based organization.”
22 Gaurav Lahiri and Jeff Schwartz, The symphonic C-suite: Teams leading teams: 2018 Global Human Capital Trends, Deloitte Insights, 28 March 2018.
23 Online interview, Michel Ehret, head of global talent management, and Sarah Brock, head of HR decision science, Johnson & Johnson, 2023.
24 Wall Street Journal, “How marketers can inspire, empower talent,” March 9, 2020.
25 Modern Materials Handling, “KION Group appoints new CFO and new Chief People and Sustainability officer,” October 20, 2022.
26 Dougal Shaw, “CEO secrets: ‘My billion pound company has no HR department’,” BBC News, February 24, 2021.
27 Online interviews with Heather Riemer, chief of staff to the CEO; Monica Morrella, head of strategy and business operations; and Tracey Arnish, vice president and head of HR; Google Cloud, 2023.
28 Abbie Lundberg and George Westerman, “The transformer CLO,” Harvard Business Review, January– February 2020.
29 Diane Gherson and Lynda Gratton, “Managers can’t do it all,” Harvard Business Review, March–April 2022.
30 Mastufa Ahmed, “At Cisco, people come first: Ashley Goodall, SVP, Methods & Intelligence,” interview, People Matters, August 10, 2020.
31 Insight222, People Analytics Trends 2023 report key findings, accessed December 2023.
32 Wall Street Journal, “How marketers can inspire, empower talent”; Qualtrics, “Volkswagen,” website, accessed December 2023.
33 Diane Gherson and Lynda Gratton, “Managers can’t do it all”; Nicole Lewis, “IBM transforms its approach to human resources with AI,” Society of Human Resource Management, May 21, 2019
34 Online interview, Michel Ehret, head of global talent management, and Sarah Brock, head of HR decision science, Johnson & Johnson, 2023.
35 Online interview, Jodi Krause, chief people officer, Convera, 2023.
36 Christina Chateauvert, “Keeping people at the center of the people experience,” i4cp, March 7, 2023.
37 Online interview, Jodi Krause, chief people officer, Convera, 2023.
38 Online interview, Michel Ehret, head of global talent management, and Sarah Brock, head of HR decision science, Johnson & Johnson, 2023.
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