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地方自治体による医療等ビッグデータ活用に向けて

データ駆動型社会への変革が健康寿命延伸のカギとなる

国はデータヘルス改革において、超高齢社会の問題解決の分析や効果的な政策立案に向けて、健康・医療・介護のビッグデータ活用を推進している状況の中、住民と直接接点を持つ地方自治体の方が喫緊の問題として早期対応が迫られているのではないでしょうか。ここでは地方自治体が膨大な健康・医療・介護データの収集・活用に向けたポイントについて解説します。

今、データ駆動型社会への転換期を迎えている

ビッグデータと言って真っ先に浮かぶのは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)ではないでしょうか。GAFAは、プラットフォーマ―としてインターネット上のビッグデータを収集・蓄積・活用し、急成長した企業として広く知られています。
最近では、インターネットビジネスの世界だけに留まらず、第四次産業革命下で、ウェアラブル端末やIoT(Internet of Things)デバイス等の情報通信技術の発展に加え、人工知能(AI)、ロボット等の技術革新も相まって、これまで収集することが難しかったデータを容易に、かつ大量に収集・活用し、経済発展や社会構造の変革へ対応するための取組が進められる環境が整ってきている状況です。つまり、これまで経験と勘に頼っていたアナログ型の社会から、データがあらゆる物事のベースとなるデータ駆動型の社会の時代が目前に迫っていると言えます。
これは健康・医療・介護分野においても同様です。健康寿命の更なる延伸や効果的・効率的な医療・介護サービスの提供(生産性の向上)を目的として、国は「データヘルス改革」を推進しています。データヘルス改革では、データや技術革新を積極的に活用し、行政・保険者・研究者・民間等が、健康・医療・介護のビッグデータを個人のヒストリーとして連結・分析できる基盤の構築を進め、当該データを活用することで、医療機関や介護事業所による個人に最適なサービス提供や、保険者や個人による予防・健康づくりを目指しています。

 

ビッグデータ活用が医療等を取り巻く問題を解決するか

では、ビッグデータを活用することは健康・医療・介護を取り巻く問題を解決する一助となり得るのでしょうか。

日本は世界に先駆けて、超高齢社会に直面する中で、「医療費・介護給付費の増加」、「医師・専門医の地域偏在」、「医療従事者の長時間労働」、「介護従事者の不足」等、様々な問題が複合的に絡み合っている状況です。

これら問題解決に向けては、これまでの医療・介護サービスを提供する供給者側の視点だけでなく、需要者側である国民・患者の視点からの対応も必要不可欠となります。つまり、“一人ひとりの健康寿命をどう伸ばすか”に着目することで、諸所の問題解決の一助になると考えられます。そのカギとなるのが、過去の疾病の発症や治療成績のエビデンスである個人を軸とした健康・医療・介護のライフコースデータです。

個人を軸としたライフコースデータが整備されることで、これまでの生活習慣、健康状態の変化、治療前後の経過に基づいた一人ひとりに最適な健康・治療・ケアの実現やAI等を活用したデータ解析による疾病発生の原因究明、新たな治療法(創薬、診断機器等)の開発等の促進が期待できます。

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ビッグデータ活用に向けて取り組むべきこととは

高齢化の進展には地域差があるため、医療・介護需要のピーク時期は異なりますが、問題が顕在化した後に施策を打ち出すのでは遅く、先制して対応することが重要となります。前述の通り、その手段の一つがビッグデータ活用であり、今後データを活用する環境を整備していくことが必要不可欠になってくることが想定されます。

そこで、以下に地方自治体がビッグデータを活用した取組を実現するためのポイント(抜粋)をデータ活用サイクル(収集⇒管理⇒活用)の観点から整理します(下表)。

 

ビッグデータ活用に向けたポイント(抜粋)

地方自治体におけるデータ収集・活用の取組事例を紹介すると、新潟県では「県民の健康寿命を伸ばし、いつまでも自分らしく暮らせる社会の構築」を目指し、個人情報保護に配慮しながら健康・医療・介護分野のデータの一体的な活用ができる環境を段階的に整備する構想を打ち出しています。まずは、2019年度に「取組① 健診・保険請求データの集約」に係るデータプラットフォームの整備を予定しています。

「にいがた新世代ヘルスケア情報基盤」の具体的な実現イメージ全体像

出所:「にいがた新世代ヘルスケア情報基盤」構想

今後の期待

地方自治体が健康・医療・介護データを収集・蓄積・活用することを政策の一つとして推進するためには、例えば、糖尿病重症化予備群に対する保健指導の取組を行い、新規透析患者数の減少(医療費の削減)を目指すなど、目的・目標を求められることが想定されます。しかしながら、ビッグデータは目的を指定して収集すると、逆に隠れた因果関係や相関関係等が見つけ出せなくなり、ビッグデータの強みを殺してしまうことになってしまいます。

ビッグデータ活用の推進にあたっては、周囲から反対意見がでることも予想されますが、どんな状況下であっても、強い意思と覚悟を持ったリーダーシップを発揮できる人材(組織)を配置することが実現の第一歩であり、最も重要な成功要因だと考えます。

今後、各地域においてデータ活用が推進され、病気や格差があっても誰も取り残さず、一人ひとりが自分らしく暮らせる社会の実現に繋がることを期待しています。

 

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