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気候変動とヘルスケア
気候変動がヘルスケア業界に与える影響
1990年代頃から気候変動が国際的に大きく取り上げられ、様々な活動が展開されてきました。人々の健康な生活に与える影響は、災害や高温等直接的なものから、食糧確保、感染症やメンタルヘルス等への影響等、間接的なものも懸念されています。今後、ヘルスケア業界としても気候変動、特に温室効果ガス削減の取組みが避けられなくなることが予想されます
気候変動問題の歴史
温暖化による気候変動への影響は、20世紀中頃から専門家により警鐘が鳴らされてきました。真鍋淑郎氏(米プリンストン大上席研究員)がノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しいですが、真鍋氏の受賞理由となったCO2の温室効果ガス効果の提唱と解明研究の論文は1960年代に発表されています。それ以降、特に1990年代頃からこの気候変動が国際的に大きく取り上げられ、様々な活動が展開されてきました。1992年に「国連気候変動枠組条約」が採択され、世界規模で地球温暖化対策に取り組んでいくことが合意されました。同条約に基づき、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)が1995年からほぼ毎年開催されています。執筆現在はCOP26および京都議定書第16回締約国会合(CMP16)、パリ協定第3回締約国会合(CMA3)がイギリスのグラスゴーで開催されています。今回は新興国への援助などが活発に話し合われているようですし、先日にはIFRS財団が2022年6月をめどに企業による気候変動リスクの情報開示で国際基準を作ると発表しました。
気候変動がヘルスケアに与える影響について
この気候変動が起きるとヘルスケアにどのような影響があるのでしょうか。今回は人々の健康そのものへの影響について述べたいと思います。
アメリカCDC(疾病対策予防センター)は主に次のような影響があるとまとめています。(図1)
・洪水、山火事等災害発生による身体への影響
・極端な高温による身体への影響
・食料確保困難による身体への影響
・大気汚染による呼吸器への影響
・生態系変化による感染症等の発生
・生態系変化による花粉症等アレルギー疾患等への影響
・メンタルヘルスへの影響
災害や高温による人体への直接的な影響については、既に身近なこととして捉えられているのではないでしょうか。今年も北米の洪水や熱波は数多く報道されましたし、日本においても近年、集中豪雨被害や勢力の強い台風の増加など異常気象と呼ばれる現象は誰もが感じていることかと思います。(図2)
一方で、生態系の変化の結果によって、これまで報告が少なかった地域への感染症の拡大(特に蚊やダニなどを媒介するベクター媒介性疾患)や、気候変動の影響で生じる住環境や食生活の変化がメンタルヘルスへ与える影響などは異常気象などに比べると認知度が低いかも知れませんが、これらが人々の健康な生活に与える影響は今後甚大なものになると警鐘を鳴らす専門家が増えています。
ヘルスケア業界ができることは
ヘルスケア業界としては、前述の気候変動の結果生じる人々の健康変化に対処しなくてはなりませんが、そもそも巨大産業であるヘルスケア業界自身が、気候変動の抑制、具体的には温室効果ガスの抑制に対して出来ることがないのか考えてみたいと思います。
既に、製薬企業や医療機器メーカーといった一般企業には取組みを開始しているところが多いです。特に巨大なグローバル企業等は各国の規制に応じて目標設定を行い、活動報告を行っているケースが大部分を占めています。一方で、医療・介護施設の取組みはまだ本格化しているとは言い難いのではないでしょうか。東京都でも2008(平成20)年7月に環境確保条例を改正し、「温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度」を導入しましたが、「主たる用途が、人の生命又は身体の安全確保に特に不可欠である病院その他の医療施設で構成されている事業所」については現在も制度適用の緩和措置が取られています。2008年と言えば、日本医師会、日本病院会、全日本病院協会、日本精神科病院協会、日本医療法人協会が「病院における地球温暖化対策自主行動計画」を作成した年でもあります。その後一部の私立病院を中心に先進的な取組みを行い、目標や活動報告を公表している施設などもありますが、本格的な取組みが求められるのは今後になると思われます。前述の東京都では、東京都地球温暖化防止活動推進センターが「病院の省エネルギー対策(改訂版)」※1を作成し、具体的な取組みを促していますので、今後求められる取組みの参考になると思います。
今後の状況
COVID-19では国境を越えたグローバルでの対応や取組みの重要性が一般市民にまで広く周知されましたが、気候変動はそれ以上にグローバルでの取組みが求められる領域となると思いますし、どのような産業にも等しく対応が求められることが予想されます。日本の環境省も「経済社会の再設計が必要」との方針を示しており、エネルギーマネジメントやサプライチェーン等、ヘルスケア業界としても直接的な影響を受けることが避けられない変革も始まり、その他にも多くのイノベーションが求められます。この世界的な流れを当然ながら無視することはできず、今後本格的な取組みが求められることになるでしょう。
参考文献
※1:東京都環境局 東京都地球温暖化防止活動推進センター 「病院の省エネルギー対策(改訂版)」
https://www.tokyo-co2down.jp/assets/company/seminar/type/text/byoin-02.pdf
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/11
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