最新動向/市場予測

電子処方箋の最新動向

各種検討会等での議論の状況と今後の動き

電子処方箋は、データヘルス改革に関する閣議決定(令和2年7月17日)の様々な取組みの一環として、令和4年夏を目途に全国的な仕組みとして運用を開始することが決定されています。この電子処方箋の仕組みは、オンライン資格確認等システムやマイナンバー制度等、既存インフラを最大限に活用することが目標に掲げられ、現在本格運用に向けた整備が始まっています。今回は電子処方箋の概要と最新動向について紹介します。

検討の経緯

データヘルス改革は、国民の健康寿命のさらなる延伸及び効果的・効率的な医療・介護サービスの提供に向け、ICTを活用して健康・医療・介護領域のビッグデータを集約し、利活用するためのプラットフォーム構築を目標としており、2025年度に向けた推進計画工程表が公表されています。

令和2年7月のデータヘルス改革の閣議決定を受け、その取組を進めるために示されたのが「データヘルス集中改革プラン」です。この計画では2022年夏までに、(1)全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大、(2)電子処方箋の仕組みの構築、(3)自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大、の3つのアクションについて、オンライン資格確認等システムやマイナンバー制度等の既存インフラを最大限活用しつつ、 令和3年に必要な法制上の対応等を行った上で 令和4年度中に運用開始を目指し、効率的かつ迅速にデータヘルス改革を進め、新たな日常にも対応するデジタル化を通じた強靱な社会保障を構築することとしています。

 

仕組みの概要

電子処方箋では下記の図のような仕組みが想定されています。
電子処方箋には個人情報が含まれるともに、処方・調剤という国民の健康あるいは生命に重大な影響を与え得る情報を含むことから、問題発生時にも速やかに対応できるよう、設計や保守が容易で効率性が高く、かつセキュリティが担保されるクラウド型システムが採用される予定です。

医療機関では、診察の際、従来の紙の処方箋を発行する代わりに電子処方箋を登録します。また、この処方時には、患者が過去に他の医療機関や薬局で処方・調剤された薬の情報を閲覧することが可能となるため、重複投薬やポリファーマシー等の削減が期待されます。

診察後、薬局では患者のオンライン資格確認情報に基づき、該当する医療機関で登録された電子処方箋をサーバーから取得することになるので、患者は処方箋を持参することなく調剤を受けることができます。この薬局での調剤時にも、医療機関と同様、処方・調剤情報の閲覧が可能となることから、重複投与等に関わるWチェック機能が果たされると考えられます。

 

出所:厚生労働省「令和2年度全国薬務関係主管課長会議説明資料 (令和3年3月12日)」より抜粋

また、電子処方箋導入のメリットとしては、偽造防止や印刷コストの削減といった「紙の処方箋が無くなることによるメリット」、システム連携による業務効率化等の「処方内容を電子化することによるメリット」、医療機関・薬局間での情報連携の促進による適切な薬学的管理や重複投薬防止等の「電子化した処方情報を共有することによるメリット」が期待されています。

出所:厚生労働省「第6回 健康・医療・介護情報利活用検討会(令和2年12月9日)資料1」より抜粋

電子処方箋の最新動向

健康・医療・介護情報利活用検討会や社会保障審議会医療保険部会等では、電子処方箋に関して今日までに複数の議論が行われてきました。その中で特に論点となっていた下記4点についてご紹介します。

(1) 電子処方箋管理サービスの運営主体

電子処方箋管理システムの構築に当たっては、オンライン資格確認等システムと連動し運用することにより様々な点で効率化を図ることが可能であることから、オンライン資格確認等システムを運営する社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)及び国民健康保険中央会(以下、国保中央会)が運営主体となる方針です。健康・医療・介護情報利活用検討会では、妥当との意見の一方で支払基金や国保中央会の本来業務への影響や運営体制に対する懸念等が挙げられています。

(2)保守運用費及びランニングコスト

令和3年年1月13日の社会保障審議会医療保険部会において、すべての機能が稼働する令和5年度以降における電子処方箋の運用・保守費用は、9.8億円との見込み額が試算されています。この費用負担について、同部会では「被保険者に負担を求めるのであれば、負担に見合うメリットが明らかになることが前提」と、電子処方箋の導入がもたらす業務の効率化や重複投与・ポリファーマシー等の防止による医療費適正化効果額との比較を求める声が挙げられています。他にも健康・医療・介護情報利活用検討会では、ランニングコストの負担先を懸念する声が挙げられています。

(3)真正性の確保

電子処方箋の真正性は「電子処方箋の運用ガイドライン」に基づき、HPKIカードを利用した医師・薬剤師の電子署名により担保することとされてきたものの、規制改革推進会議 医療介護WGにおいて、普及率の観点から現実的ではないとの意見が挙げられていました。令和2年度の検討状況では、HPKI の活用を前提にカードの普及促進の取組みを進めることとされていますが、カードの紛失等の対応を鑑み、他の手段による対応方法は引き続き検討課題とされています。また、令和6年の施行予定で国会審議中の「デジタル関連法案」の中では、マイナンバーカードによる国家資格の管理も計画されていることから、HPKIカードに代わる資格認証の手段の一つとして今後活用されていくことが想定されます。

(4)リアルタイムの情報共有

電子処方箋においては処方情報を単に電子化するのではなく、重複投与等を防止するために情報を突き合わせ、リアルタイムで情報共有を行う機能が必要との意見が挙げられています。これを受け、今後のシステムの方針として、処方・調剤情報の閲覧に関する患者本人の同意を取得することで医療機関での処方・調剤情報の閲覧が可能となる仕組みが想定されています。また、重複投薬や相互作用等をシステムで自動的にチェックしアラートを発する機能等も付加される予定であることから、より患者にとって適切な薬学的管理が行われることが期待されます。

おわりに

データヘルス集中改革プランの工程表では、令和4年の本格運用に向け、今年度はシステム開発や医療機関・薬局でのシステム改修が行われる計画です。

電子処方箋の仕組みはオンライン資格確認等システムの基盤を活用していることから、医療機関・薬局におけるオンライン資格確認の普及やマイナンバーカードの保険証利用の普及と合わせて、引き続き今後の動向に注目していく必要があります。

▼参考資料
厚生労働省
・社会保障審議会(医療保険部会)(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126706.html
・健康・医療・介護情報利活用検討会(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09958.html
・電子処方箋(https://www.mhlw.go.jp/stf/denshishohousen.html

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/5

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