最新動向/市場予測

改善基準告示見直しに向けた動向

自動車運転者の労働条件の改善に向けた労働時間規制の検討

自動車運転者は改善基準告示において、拘束時間、運転時間、連続運転時間の上限等が定められています。自動車運転者の業務に関する時間外労働の上限規制が2024年に適用されることに伴い、この改善基準告示についても過労死防止の観点から業務の特性を踏まえ、労働時間改善を一層強力に推進するべく、見直しが始められています。

自動車運転者に関する労働時間規制の見直し

我が国では「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。

このような状況に対し、国は働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指し、働き方改革を進めてきました。

この働き方改革の一環として定められた時間外労働の上限規制においては、時間外労働時間の原則はこれまで同様、月45時間・年360時間までとしつつ、労使の合意があっても最大で年720時間までを上限とするといった内容が規定され、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から運用が開始されています。

自動車運転者の業務に対する上限規制

自動車運転者の業務においては、他業種の労働者と比較して長時間労働の実態にあり、他業種と同時期に上限規制を適用することが困難であったため、上限規制の適用は5年間猶予され、2024年4月に適用が開始される予定です。また、労使の合意がある場合は他業種と異なり、最大で年960時間までの時間外労働が認められます。

上限規制の適用は2024年からとなりますが、自動車運転者の業務については労働条件の改善を図るべく、別途、厚生労働大臣告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(以下、「改善基準告示」という)」において拘束時間、運転時間、連続運転時間の上限等が定められています。2024年の時間外労働の上限規制の適用に伴い、この改善基準告示についても平成30年6月28日付参議院厚生労働委員会附帯決議より、自動車運転者の業務については過労死防止の観点から業務の特性を踏まえ、勤務実態に応じた基準を定めることとされ、労働時間改善を一層強力に推進するべく、見直しが始められています。

 

現行の改善基準告示 ~業態別の規制~

改善基準告示は自動車運転者の労働条件の改善を図るため、自動車運転者の労働の実態を考慮し、拘束時間、休息期間等について基準を定めています。改善基準告示はトラック、バス、ハイヤー・タクシーという3つの業態別に分かれており、それぞれの業務の特性に応じた規定がなされています。

トラックに関する改善基準告示の概要

トラック輸送は顧客の荷物を預かり、指定の場所まで運送する仕事であるため、時として長時間の運転や待ち時間の発生、夜間の運行等が必要となる場合があること、また、長距離運行の場合は出庫から帰庫まで1週間かかる場合もあることなどが特徴として挙げられます。こうした特性を踏まえ、現状は以下のような規制がなされています。

  • 拘束時間:1日(原則)13時間まで(最大)16時間まで、1ヶ月293時間まで
  • 運転時間:1日9時間(2日平均)まで、週44時間(2週間平均)まで
  • 連続運転時間:4時間まで
  • 休息期間:継続8時間以上
  • 休日労働:2週間に1回以内
  • 特  例:休息期間分割の特例、2人乗務の特例、隔日勤務の特例、フェリー乗船の特例
バスに関する改善基準告示の概要

乗合バス(一般路線)は地域の公共交通機関として、必要不可欠な輸送機関ですが、朝と夜の通勤時間に需要が高まる傾向にあり、利用客の需要に応じるために長時間労働になりやすいという特徴を有しています。また、バスには乗合バス(一般路線)以外にも、乗合バス(高速路線)、貸切バス等の多様な種類があることも特徴として挙げられます。こうした特性を踏まえ、現状は以下のような規制がなされています。

  • 拘束時間:1日(原則)13時間まで(最大)16時間まで、週65時間(4週平均)まで
  • 運転時間:1日9時間(2日平均)まで、週40時間(4週平均)まで
  • 連続運転時間:4時間まで
  • 休息期間:継続8時間以上
  • 休日労働:2週間に1回以内
  • 特  例:休息期間分割の特例、2人乗務の特例、隔日勤務の特例、フェリー乗船の特例、(貸切バスのみ)拘束時間・運転時間の特例
ハイヤー・タクシーに関する改善基準告示の概要

タクシーの仕事は時間に関わらず利用客の輸送ニーズに応えるため、必然的に長い待機時間が発生し、長時間労働につながりやすいという特徴があります。また、利用客のニーズに応えるため、一般的な会社員と同様、朝から夕方までの業務を行う日勤勤務の他に、1日おきに勤務する隔日勤務(勤務時間は朝から翌日の朝まで)という勤務形態もあります。こうした特性を踏まえ、現状は以下のような規制がなされています。

  • 拘束時間:
    <日勤勤務の場合>1日(原則)13時間まで(最大)16時間まで、1ヶ月299時間まで
    <隔日勤務の場合>2暦日21時間まで、1ヶ月262時間まで
  • 休息期間:
    <日勤勤務の場合>継続8時間以上
    <隔日勤務の場合>継続20時間以上
  • 休日労働:2週間に1回以内
  • 特  例:車庫待ち等の特例

 

自動車運転者の労働時間等に係る実態調査の実施

令和元年12月19日に開催された第1回労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会(以下「専門委員会」という)にて、令和3年12月の改善基準告示改正に向け、自動車運転者の労働時間等の実態調査を実施することが決定され、その後、第4回専門委員会にて、アンケート調査項目及び調査スケジュール(令和2年10~12月に実施)が決定されました。

調査概要
  • アンケート調査対象:専門委員会の議論を踏まえつつ、すべての都道府県から無作為に選定した事業者及びその所属する自動車運転者
    <トラック>事業者数705件、自動車運転者数4,230件
    <バ  ス>事業者数400件、自動車運転者数1,600件
    <ハイヤー・タクシー>事業者数188件、自動車運転者数3,760件
調査項目概要
  • 事業者調査:
    <営業所の概要>
    主たる事業内容、従業員数(自動車運転者数)、車両数、労働組合の有無等
    <自動車運転者の拘束時間等>
    1日、1ヶ月、1年の拘束時間・連続運転時間・休憩時間・時間外労働時間別の自動車運転者数等
    <改善基準告示の特例等の利用状況>
    改善基準告示の特例等の利用頻度等
    <改善基準告示の内容>
    現行の改善基準告示の内容について問題があると感じる項目等(及び適切と思う時間と理由)
    <その他>
    改善基準告示の規制を強めた方がよいと考える項目、自由意見等
  • 自動車運転者調査
    <自動車運転者自身のこと>
    性別、年齢、雇用形態、勤務体系、勤務時間帯、給与体系、年収等
    <疲労度に影響のある事項>
    疲労度に影響を及ぼす要因、車両性能向上が疲労度の軽減に与える影響の程度等
    <休息期間の過ごし方>
    休息期間及びその内訳
    <改善基準告示に対する認識>
    改善基準告示の各基準の認識
    <拘束時間等の状況及び改善基準告示の内容>
    繁忙期における最長の拘束時間及びその内訳、改善基準告示に問題があると感じる項目(及び適切と思う時間)、拘束時間の規制があるために働きたくても働けない状況の経験の有無等
    <その他の事項>
    改善基準告示の規制を強めた方がよいと考える項目、自由意見等
調査結果

アンケート調査については各項目の単純集計及び専門委員会委員の助言を踏まえたクロス集計を実施し、報告書のとりまとめが行われました。当該報告書については令和3年4月23日の専門委員会の委員会資料として用いられる予定となっています。今後、改善基準告示の見直しに向けて、令和3年12月の改善基準告示改正に向け、多角的な視点で議論が行われていく予定です。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/4

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