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環境変化を踏まえた次世代調剤薬局の姿

既存の発想に捉われずに薬局業務を自動化させ、効率化・高質化を図ることで、収益性悪化の世を勝ち抜く

超高齢化社会を迎えている我が国において、医療の在り方が見直されています。 その動きはコンビニ以上の店舗が存在すると言われる調剤薬局業においても例外ではなく、診療報酬の抑制・人手不足などと相まって、今、その新たな姿が求められています。

調剤薬局業を取り巻く環境の変化

超高齢化社会・人口減少トレンドを迎えつつある我が国では、社会保障費抑制の動きや労働者の人手不足の影響を受け、医療を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。

もちろん、調剤薬局業もその例に漏れず、厳しい環境変化を受けて、業態の在り方そのものの見直しが迫られており、具体的には、以下の4つの環境変化が起因しています。

1.地域に根差す「かかりつけ薬剤師」「健康サポート薬局」の推進

より地域の医療に薬局が関わっていくため、2016年度の診療報酬改定を契機に、「かかりつけ薬剤師指導料」の加算が可能になりました。いわば薬局は、これまでの「隣接するクリニックを中心とした処方」から、「特定の医療機関や診療科の処方に依らない、地域の処方」を応需し、必要に応じてカウンセリング等を行うことで、患者向けの健康サポートを強化することが求められています。一方でそうした変化は、ある意味では薬局単店の機能拡大が前提となっており、具体的には以下2つの機能の強化が必要になってくると考えられます。

(1) 単純な過去の処方だけでは予測しづらい医薬品の、必要十分な発注・在庫確保

(2)複数の医療機関の処方を踏まえた、患者(すなわち顧客)情報管理・指導強化

2.門前薬局」の調剤報酬の抑制
日本の調剤薬局業の店舗は全国に5万店舗以上存在していますが、多くが特定の医療機関の近隣に位置する、いわゆる「門前薬局」であり、これらの店舗は、日本の主要な調剤薬局チェーンにとって、大きな収益源となってきました。
しかしながら、社会保障費の抑制のために、特に「チェーン薬局企業の店舗で、かつ特定医療機関の門前薬局」であるような店舗へは、調剤報酬抑制の動きが強まりつつあります。
実際に、2020年の診療報酬改定に向けた骨子案においても、「門前薬局」に対して調剤基本料の見直しが検討されるなどしています。

3.処方箋枚数/一枚当たり診療報酬の伸びの鈍化
処方箋枚数自体は増えているものの、その増加幅には陰りが見えつつあります。
すなわち、単純な出店攻勢や既存の来店患者への応需だけでは、調剤薬局業が今後企業収益を維持・拡大していくことは難しく、地域の医療需要を分析し、そのニーズを汲み取った出店・改廃といった店舗ライフサイクルの検討や、新たな収益源の獲得が必要になります。
(図1)

4.十分なシフト組みを行うだけの薬剤師の人員数確保が困難
時短勤務などの働き方の多様化に加え、病院・ドラッグストアといった薬剤師雇用の競合となる企業が、よりフレキシブルな勤務体系や高い時給単価を用意して採用を強化しています。また、若手薬剤師の合格者数はピーク時より減少傾向にあるため、これまで通りの処遇では、店舗のシフトを組むにあたって、十分な人材を確保し続けることが困難になりつつあります。
収益源である調剤報酬も医療行政によって見直しが図られる中では、対競合優位な処遇の設定を行えるような投資も現実的ではなく、そうした状況下では、副次的に「より少人数で、スキル差を抱えた薬剤師による薬局運営」が要求されます。

 

図1
図1

こうした厳しい環境が続く中で、調剤薬局業においては、抜本的に効率化された業務の仕組みを作り、既存事業以外の新たな収益の基盤を創出しつつ、それらを支えるシステムやツールを整備していくことが求められます。

抜本的な効率化・均質化を目指すための将来像の検討

それでは、そうした環境も踏まえた薬局店舗の将来像とは、どのようなものなのでしょうか。

業務におけるボトルネックの所在

まず、業務におけるボトルネックについて考えます。資格による業務独占の観点では、薬剤師のみしか許可されていない業務は規制緩和が進みつつあります。2019年4月の薬生総発0402第一号では、『薬剤師の行う対人業務を充実させる観点から、 医薬品の品質の確保を前提として対物業務の効率化を図る必要があり、「調剤機器や情報技術の活用等も含めた業務効率化のために有効な取組の検討を進めるべき」とされたところです。』とあり、監査など一部の業務を除き、薬剤師の指示下において非薬剤師が行える薬局薬剤室内の業務は、非常に幅広くなりつつあります。

こうした業務分担の見直しは今後も続いていくと考えられ、薬局業務の中で「薬剤師に完全依存する業務」は、今後も一定の制約の下で減少していく傾向が窺えます。とするならば、「薬剤師間のスキルセットのバラつきによる意思決定の誤りや手戻り」や「患者数・在庫数・シフトのアンマッチによる、対応の遅れ」によって大幅な業務滞留が発生することが、最も懸念される業務上のボトルネックとなると考えられます。

今後、店舗の将来像を考えるために必要なソリューションとは

過去、薬剤室の業務の効率化に資するソリューションとしては、「自動分割・分包機」「検品システム」といった、単一作業の自動化を行うものが多く世に出ていますが、これらはあくまで熟練した職員が得意とする”コツ”や”慣れ”を含む定型作業を一部自動化しているに過ぎません。先述した、『より少人数で、スキル差を抱えた薬剤師による薬局運営』までをサポートできる仕組みではなく、業務全体で分析した際に大きな改善に資するものとしてはやや不足感が否めません。

そうした状況下で、ゆくゆくはフルオートに近い形で稼働する薬局が産み出されて行くものだと考えられますが、我が国の厳格な規制や、現在の調剤薬局の手作業の多さを踏まえると、現時点ではまだ飛躍していると見られます。ゆえにまずは、薬局業務の中で「機器で分断されてしまっている、業務横断での自動化」や「業務を一連の流れとして捉えた際に、意思決定レベルまで標準化・自動化するソリューション」から着手されるべきです。

「機器で分断されてしまっている、業務横断での自動化」に関しては、一つのソリューションの完成形として、”調剤ロボット”の導入が進みつつあります。海外では、例えば、シンガポールの大規模政府系高度急性期病院のタントクセン病院などで導入が始まりつつあり、日本でも少しずつ試験的に導入する店舗が増えつつあるものの、対応できる医薬品の数や導入にかかるコスト等、現状ではやや課題があると言わざるを得ません。

他方、「業務を一連の流れとして捉えた際に、意思決定レベルまで標準化・自動化するソリューション」についても、同様に少しずつ進展が見られるところであり、我が国の細やかな医療サービス、また健康サポート薬局機能にフィットした、提供すべき情報の選択や意思決定の自動化には、スキルのギャップを埋めるという観点で大きな期待が向けられています。例えば「薬歴管理・服薬指導」といった、患者に応じた指導内容の判断が求められるような業務においては、その入力を効率化もしくは一定のアルゴリズムによって自動化するツールとして、株式会社カケハシのMusubi、株式会社ソラミチシステムのSolamichiなどのクラウド薬歴管理システムが製品化されつつあります。

こうしたソリューションは、店舗の将来像を見据えつつ選定していくのみならず、調剤薬局業者自らが他社に先んじて投資を掛けて開発していくことも、今後必要になっていくと見られます。

 

効率化と併せて検討すべき、新たなサービス

薬局の店舗業務が効率化された際には、新たな収益源や健康サポートサービスの拡充が考えられます。(図2・3)

例えば、新たな収益源として、地域の在宅患者への応需があります。これまでは、人手不足の状況も踏まえると、地域の在宅患者への処方に対する応需については、それを専門とする店舗や企業でなければ、専従する薬剤師の工数が十分捻出できない、という状況がありましたが、先述の通り、業務を一気通貫しての効率化が為された暁には、十分検討の余地があります。地域包括ケアシステムの構築や在宅医療を推進する国の方針としても、調剤薬局や薬剤師の地域における「かかりつけ」としての機能の期待が高まり、チェーンかつ門前薬局への報酬は今後さらに抑えられていくとするならば、「地域の在宅患者への応需」は重要な収益源として期待できます。

さらに、薬局の店舗内においても、「健康サポート薬局」としての機能を拡充し、より患者の健康増進に寄与する、医療用医薬品・疾患に留まらない情報提供やカウンセリングを行うことで、「地域で選ばれる調剤薬局」となっていくことも期待できます。

これらに対応するためには、近隣マーケットの状況を踏まえた検討・具体化、および投資を、順序だてて行っていくことが肝要となります。

 

図2
図2
図3
図3

厚生省保険局 令和2年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)に関する参考資料

我が国の調剤薬局は、コンビニエンスストアと同数以上の店舗が存在すると言われ、医療サービスの提供者であることに加え、マーケット・雇用創出の主体として、非常に重要な意義を持っていました。しかし、超高齢化社会の進展に伴い、その在り方が見直されつつあります。

そうした状況下において、旧態依然とした薬局店舗は淘汰されてゆく可能性があり、既存のビジネスに捉われない、次世代の調剤薬局の業務構築が求められています。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の会社名・部署・内容は掲載時点のものとなります。

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