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病院複合化による整備を考える

病院施設の複合化による整備という考え方について説明します

近年、病院経営を取り巻く環境はますます厳しくなっています。特に、病院再整備・建替えにおいては多額の投資が必要となりますが、近年は建築費の高騰が大きな課題となっています。この厳しい状況に対処するための一つの方法として、病院単体ではなく施設の複合化による整備という考え方について説明します。

1. 病院経営の厳しさと建築費の高騰

人口構造の変化や、診療報酬のマイナス改定、医療従事者の確保困難などにより、病院経営を取り巻く環境はますます厳しさを増しています。その中でも特に病院再整備・建替えに関しては、近年の建築需要の増加・建築従事者不足等の影響から、建築費の高騰が深刻な問題となっています。計画段階から大幅に建築単価が上昇したことで、予算の見直しを迫られることや入札不調に陥ってしまう事例、工事費の試算段階で多額の投資額が必要であることが判明し、建替え計画自体を取りやめざるを得ない状況も見られるようになりました。

2. 病院複合化の選択肢

病院単体での建替えが厳しい状況下で、病院整備の一つの考え方として施設の複合化があります。これは、他の事業者と連携し、異なる施設を一つの建物にまとめる、あるいは同一敷地内に異なる施設を建設するというアプローチです。

病院の複合化は、高齢化社会や医療・介護人材不足などの課題に対応するために、病院が医療だけでなく、介護や福祉、保健などの機能を併せ持つことで、患者・利用者のニーズに応じて医療・介護・保健などサービスを包括的に提供するという考えから実施しているものですが、施設整備の視点では会議室や駐車場などスペースの有効利用や、より魅力ある建物となり病院単体での整備に比べ予算の確保がしやすくなるという効果が期待できます。

また、上記とは別の視点で、病院と住居(マンション)・商業施設を同じ敷地内に建設し、一部または全体を共有することで、地域の医療や住民のニーズに応えることを目的とした例もあります。住居との複合化では、病院の収益力を高めることができ経営の安定化につながること、商業施設との複合化では、商業施設の中や隣接する形で配置することで、利用者の待ち時間の有効活用や商業施設を利用することによるリフレッシュ効果、商業施設との駐車場等の施設共用化による効率化が期待されます。

 

3. 健康・医療・介護の連携推進に向けた病院複合化

病院複合化の考え方は、建築費高騰への対策という面もありますが、医療・介護・保健などサービスを総合的に提供することを目指す上での施策としても価値があります。

令和4年(2022年)度の「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針(総合確保方針)」の見直しでは、「『地域完結型』の医療・介護提供体制の構築や、健康・医療・介護等における多様なサービスについて、気軽に相談できる環境を構築し専門家がマネジメントすることの必要性」が示されました※1。また、令和6年(2024年)度に予定される診療報酬・介護報酬同時改定に向けた意見交換では、今後直面すると考えられる課題として「地域包括ケアのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携」が掲げられています※2

病院複合化により、多種多様な機能を物理的に集約することで、各機能の連携を促進し、住民目線では利便性の向上などの効果が期待でき、今後の病院のあり方を検討する上で重要な点であると考えられます。
 

※1:第19回医療介護総合確保促進会議「総合確保方針の見直しについて(案)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/index_00035.html

※2:中央社会保険医療協議会 総会(第546回)「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会における主なご意見について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00190.html

4. まとめ

病院複合化は、病院単体の建替えが困難な状況でも、単体整備に比べて効率的な利用が可能となることでの整備費用の抑制だけではなく、異なる分野との連携により、包括的で効率的な医療・福祉サービスの提供や魅力向上による収益向上も期待されるため、厳しい経営状況や建築費の高騰に対する病院整備の一つの選択肢として考えられ、実際に複合化の検討を相談いただくことも多くなりました。

実際に複合化を実現するためには、行政機関や他事業者との連携、場合によってはまちづくりの視点からの検討など、従来の病院単体の整備事業とは異なるアプローチが必要となります。

デロイト トーマツ グループでは、病院の再整備全般に関する知見に加えて、医療・健康・介護・福祉領域の連携やまちづくりの視点からの検討を支援してきた実績を有しており、複合的な視点からの病院再整備の実現に貢献していきます。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/12

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