最新動向/市場予測

解説 コロナ禍の医療費の動向が判明 今後のお話

令和2年度の医療費の動向から、今後の医療ニーズの変化を考える

厚生労働省から2021年8月31日に令和2年度の医療費の動向調査の結果が公表されました。通年にわたり新型コロナウイルス感染症の影響が及んだ令和2年度の医療費の動向の解説を行ったうえで、ウィズ・コロナの病院経営環境の考え方について説明します。

令和2年度の医療費の動向調査の結果が公表される

厚生労働省から2021年8月31日に令和2年度医療費の動向~概算医療費の年度集計結果~(以下、「公表資料」という。)が公表された。

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、新型コロナウイルス感染症以外の通常の診療業務に影響が及んでいることは報道のとおりであるが、実際の影響については、これまで医療業界各団体の自主的な調査の公表はあるものの、国として行われた定期的な調査の結果はこれが初となる。

全体の医療費の推移は図1のとおりであり、令和2年度は42.2兆円と概算で試算された。医療費が40兆円を超えて久しいが、年々増加傾向にあった医療費であり、今回の試算では大幅なマイナスとなっている。公表資料によれば、ポイントは次の3点であった。

  • 概算医療費は42.2兆円であり、対前年比▲1.4兆円、伸び率▲3.2%で過去最大の減少を記録した。
  • 診療種類別では、いずれの診療科もマイナスであった。
  • 未就学者の患者数が減少しており、医科診療所の小児科・耳鼻咽喉科の減少が大きい。

 

図1 概算医療費の経年推移(兆円)

 

出所:厚生労働省 令和2年度医療費の動向

令和2年度の医療費の伸び率は過去最大の減少を記録したが、どのような要因によるものかの分析についても公表資料において言及されている。厚生労働省の分析結果は図2のとおりであるが、全体の伸び率▲3.2%のうち、人口増に伴う影響、診療報酬改定の影響、高齢化に伴う影響を除いた実質的な伸び率は▲3.6%であるとしている。

かかる伸び率の大幅な減少の背景には、新型コロナウイルス感染症への対策を十分に講じていることによる感染症対策力が高まっていることや、受診控えなどが要因として考えられるところである。

 

図2 R2概算医療費の伸び率の内訳(%)

出所:厚生労働省 令和2年度医療費の動向

医療費の伸び率の都道府県別での状況

日本全体では医療費が減少傾向にあったことは前述のとおりであるが、都道府県別にはどうであったか。公表資料においては、都道府県別の医療費の伸び率等の情報も報告されており、著しい変動のあった都道府県を図3に示している。

伸び率ランキングの上位(いずれもマイナス値であるため、減少幅の小さい都道府県を上位としている)は鳥取県、徳島県、佐賀県、岩手県、栃木県であった。一方で、伸び率ランキングの下位は最も伸び率が鈍化した東京都のほか、北陸の石川県と福井県も伸び率が鈍化している。その他福島県、沖縄県でも伸び率が他と比較して鈍化している。

都道府県別の伸び率と実際の新型コロナ感染者数の多さには、因果関係が認められるとは言い難い状況であった。新型コロナウイルス感染症の患者数が多く発生した都道府県では、受診控え傾向が強まる結果、受診控えなどの影響が顕著に表れるのではないかと想定していたところ、実際には東京都・沖縄県以外の新型コロナウイルス感染症の患者数が多い都道府県において、医療費の伸び率の鈍化が見られないことから、全体の傾向でいえば、直接的な因果関係にはないと考えられる。なお、公表資料によれば、主傷病がCOVID-19であるレセプトの医療費の集計結果は1200億円程度であったとのことであり、医療費全体の0.28%に過ぎない状況である。

つまり、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う、新型コロナウイルス感染症患者に係る診療報酬は1200億円にとどまっており、むしろ、医療費全体では1.4兆円の減少と、市場が縮小傾向にあるといえる。

 

図3 都道府県別概算医療費の伸び率の状況

 

出所:厚生労働省 令和2年度医療費の動向

医療費の伸び率の疾病分類別での状況

医療費の伸び率については、疾病分類別の状況も公表されており、図4に示している。入院医療で伸び率が著しく鈍化しているのは、眼科系疾患、耳鼻咽喉科系疾患、呼吸器系疾患であるが、令和元年度の医療費の構成割合から見たボリュームゾーンをさらに加えて考えると、医療費の伸び率に影響を及ぼしていたのは、呼吸器系疾患、新生物、循環器系疾患が大半であると考えられる。

また、外来医療では呼吸器系疾患の伸び率の鈍化が顕著であり、その他感染症、耳鼻咽喉科系疾患の鈍化も著しいと考えられる。医療費の構成割合を考慮しても、やはり呼吸器系疾患の減少の影響が外来医療においては最も影響を及ぼしているものと考えられる。

特筆したいこととして、新生物や循環器系疾患といった急性期病院で多く扱われる疾患分類の伸び率は2.5%程度のマイナス程度であり、マイナス傾向にはあるものの、命に係わる疾患については一定数発生していることが見てとれる。昨今の、急性期病院では新型コロナウイルス感染症患者の受入に伴い、通常の診療業務が圧迫されているという現場の医療従事者の意見を証する状況にあると考えられる。

図4 入院・外来別 疾病分類別 医療費の伸び率(%)

 

出所:厚生労働省 令和2年度医療費の動向

ウィズ・コロナのシナリオをどう読むか

新型コロナウイルス感染症の蔓延はいつまで続くのか、新しい変異株はどれだけ発生するのか、といった未知の領域の議論は尽きないところであるが、医療機関が、今後の医療提供はどうあるべきかを検討するにあたっては、いくつかシナリオをもって検討することを推奨する。

一つのシナリオは、新型コロナウイルス感染症の影響が生じる前まで医療需要が回復する、とするシナリオである。このシナリオは患者数が従前の水準まで戻ることを前提とした考え方であり、市場(医療ニーズ)を多く広めに捉える点に特徴があるため、今後の事業計画策定の際、医療ニーズを多めに見積もることで、収益も獲得できるシナリオとなる。

ただし、昨今の患者の受療行動の変化を考慮しないシナリオであるため、計画値を下ブレするリスクを抱えている。

もう一つのシナリオは、新型コロナウイルス感染症の影響がそのまま継続するとするシナリオである。つまり、令和2年度の医療費の発生状況こそが常態であるとしてウィズ・コロナの経営環境を捉えるシナリオである。このシナリオの場合、前述したような入院・外来それぞれの疾病分類ごとの医療費の落ち込みは戻らないと仮定するため、今後の事業計画策定にあたっては、より厳しい収益の獲得見込を想定していくこととなる。

いずれのシナリオがウィズ・コロナの考え方となるかは、医療機関のスタンスによるところが大きいが、下ブレリスクへの対応として、2つ目の新型コロナウイルス感染症の影響が続くシナリオを想定して事業計画にストレスをかけて、資金繰り等を検証することは重要であると考えている。

それでは、具体的にどの程度の影響があるかどうか、参考として任意の2次医療圏において筆者が試算を行った結果の一部を図5に示す。

 

図5 人口規模別 対2015年将来入院患者数伸び率

 

出所:厚生労働省 令和2年度医療費の動向 疾病分類別令和2年度伸び率を従来の当法人の将来推計に変数として追加し再算出

公表資料において示されていた令和2年度の疾病分類別医療費の伸び率を従来当法人で行う将来入院患者数の推計に変数として加え、再算出を行ったものである。

対象とした2次医療圏においては人口規模の異なる市が複数存在しており、特徴として人口規模が少ない方が高齢化率が高く、人口規模が大きいほど、高齢化率が低い傾向にある状況である。これら4つの市において従来の手法により入院患者数の将来推計を行った上で、さらに医療費抑制の変数として医療費伸び率を勘案し改めて将来の入院患者数を試算した。

試算した結果の見方であるが、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮する前後のグラフが離れているほど影響が大きいことを示す。試算した結果として言えることは、人口規模が小さく、高齢化率の高い市ほど影響(グラフの離れている幅の広さ)が比較的大きいということである。

ウィズ・コロナの事業計画の策定に向けて

今回の医療費の伸び率の変動の影響について、医療機関の診療圏の人口構成を勘案して将来の医療需要を予測し、事業計画を策定していくことが重要であり、その影響を十分に考慮しない場合、医療需要予測をミスリードすることになりかねず、ふたを開けてみれば計画値を達成することができずに経営が困難となるリスクも抱えている。

今回は参考として入院医療の将来患者数の予測への影響を示したが、厚生労働省では今後の外来医療の在り方も整理を進めていくことが予定されており、外来医療の将来患者数の予測においてもウィズ・コロナの影響を勘案することが重要である。

また、公立病院では、第3次の公立病院改革プランの策定が予定されており、公的病院においても2025プランのリバイスが今後想定されるなか、慎重に地域ごとの経営環境を捉えていくことは重要であると考える。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/9

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