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【連載企画】医師の働き方改革の進め方

第1回:デロイト トーマツ ヘルスケアが考える医師の働き方改革の進め方

医療機関において、医師の働き方改革は避けて通れない重要なテーマです。2024年4月から36協定で定める医師の時間外労働時間に上限が設けられます。しかし、無理な施策の導入や他院の模倣では医師からの反発や患者家族への悪影響が生じかねません。そこで、デロイト トーマツ ヘルスケアが考える効率的・効果的な医師の働き方改革の進め方をご紹介させて頂きます。

デロイト トーマツ ヘルスケアが考える医師の働き方改革の進め方

まだ先の話であると思われがちな2024年まで、気が付けばあと少しとなりましたが、皆さまの職場では医師の働き方改革の取組みは進んでいるでしょうか。「医師の働き方改革の推進に関する検討会」での議論も回を追うごとにより具体的になっており、現時点(2021年11月現在)ではC-2水準の詳細内容の検討が進んでいます。

数年前までは、医師の労働時間を記録すらしていない医療機関が多かったと記憶していますが、最近ではようやく医師にもタイムカード等が導入され、出退勤の記録がなされるようになってきました。一方、労働時間の詳細を把握・記録できているかというと、自己研鑽の時間や、宿日直時の働き方の実態など、医師の働き方を詳細に把握できていない領域も残されているものと思われます。医師の働き方改革を実際に進めていく上で解決しなければならない問題は山積しています。

公表資料や各種の事例集などを確認すると、医師の働き方改革を進める上での効果的な手段はいくつかに絞り込まれているようにも見えます。しかしながら、他院がやっているからウチもやるという単なるコピペでは、自院の各科での働き方の実態に合ったものにはならず、必ずしも上手くいかないケースもあるようです。

今回、デロイト トーマツ ヘルスケアでは、医師の働き方改革にスポットを当て、複数回にわたって連載を行うことになりました。初回では、まずデロイト トーマツ ヘルスケアが考える医師の働き方改革に関するアプローチについて述べていきます。次回以降は、医師の働き方改革の変遷や全体像などに触れ、具体的な事例や考え方についても触れていきます。

 

診療活動を変えずに、仕組みの変更による時間外労働時間の減少を目指す

医療機関にお伺いすると、しばしば現場の医師やシフト管理を担っている部長から「患者等への影響を考えると診療活動の縮小や変更等はせず、法的対応だけしたい」というお話を聞くことがあります。外来の縮小や主治医制度の見直し、他職種へのタスク・シフティングは、超過勤務時間の減少に一定の効果をもたらすとは思いますが、医師や患者家族への影響、労力に係る効果を考えると、これらの施策はファーストチョイスではないかもしれません。

では、何から取り組むべきかというと、所定勤務時間帯の変更や休日の割り振りの見直し…つまり、変形労働時間制の導入であると考えます。変形労働時間制とは、簡単に言うと、一週間の平均労働時間が法定労働時間である40時間を超えない範囲で、一日の所定労働時間の始業・終業時刻や労働時間の長さを柔軟にできる仕組みです。この仕組みを導入できれば、一日の何時から何時までを所定勤務時間とし、何時からを超過勤務時間とするか、という始業・終業時刻の変更だけで済み、実際の業務量を特に変えることなく、時間外労働時間の縮小が可能となる可能性があります。

例えば、労働基準監督署からの宿日直許可が得られない医療機関では、そのままでは当直時間が全て超過勤務時間になってしまいますが、変形労働時間制を導入して日勤帯以外に新たに夜勤帯の所定勤務時間を設け、超過勤務時間を縮小するようなケースが考えられます。

このように、変形労働時間制を導入すれば、日々の業務量を変えずに時間外労働時間を見直すことができるというわけです。ただし、導入にあたっては画一的なルールではなく、各科の実情に応じた労働時間制度とする必要があるほか、シフト管理を担う部長や事務の協力が必要になります。デロイト トーマツ ヘルスケアでは各科の事情に応じた勤務制度の助言を行っており、具体的な考え方や事例については、今後の連載で紹介していきたいと思います。

 

業務改善・変革には現状把握による意識改革と情報共有化がカギとなる

変形労働時間制の導入は、本来働いている時間(働くべき時間)に沿って労務管理方法を見直すことにより、時間外労働の上限規制に対応しようという手法です。夜間の業務は少なく常に忙しい診療科や昼間だけでも人手が足りない診療科等に変形労働時間制を適用しても、時間外労働の上限規制をクリアできないケースもあるでしょう。本来の働き方改革の基本的な考え方である「労働時間の見直しを魅力ある職場づくり、更には業績の向上へつなげていく」ためには、患者中心の医療提供に向けて、業務の方法や場所、何に時間をかけるのか、業務改善・業務変革の視点からのアプローチステップが重要であることはいうまでもありません。

医師の本来業務である診察や治療に集中するため、事務作業を事務職員へタスク・シフティングすることや、検査や処置等を他のメディカルスタッフへタスク・シフティングすることも考えていく必要があります。その業務内容は多岐にわたり、タスクシフトの受け皿となる職種との調整や教育に時間を要することも度々見受けられます。そのため、優先順位付けをしたうえで、より効果が高いと考えられる業務に注力して取り組んでいくことが望まれます。また、患者視点や経営視点も忘れるべきではありません。

業務をシェアする観点も重要であり、主治医制から複数主治医制やチーム制、病棟医制等への変更も有用とされています。しかし、これらを実行するためには、休日夜間の不在時や手術後の管理などの対応を他の医師へ任せなければならないという医師の意識変革や情報共有のハードルがあり、更には患者さんの理解を得なければならないなど、トップマネジメント層の関与が必須となる機会が多く生じることになります。

そして、タスク・シフティングやタスク・シェアリングの際に最も重要なことは、情報の共有化です。それゆえ、他のメディカルスタッフへ包括的指示を出せるようにするための業務の標準化や、ICTを用いた情報共有ツールの導入が有益なケースが増えています。

タスク・シフティングやタスクシェアリングも含め業務改善・業務変革を進めるステップとして、まず現状においてどの業務にどの程度時間がかかっているのか、その業務で付加価値は生み出せているのか、業務の棚卸や業務時間の調査、業務フローの可視化などの一連の作業を通じた意識改革をしていく必要があるでしょう。そして、地道な業務改善に加え、AIやICT等の活用による業務変革を図っていくことが重要であると考えています。コストはかかりますが、費用対効果が高いAIやICTの活用による業務の効率化の事例が多数見受けられます。具体的な事例については、別号で紹介したいと思います。

 

機能再編と病院間ネットワークの促進を図る

最後のアプローチとして、労働時間制度を見直し、業務改善を推し進めても、医師数の絶対的不足により、厚生労働省が示す基準をクリアできない場合には、病院機能の再編を考えていかなければなりません。関連大学の医局へ医師の増員を要請しても、大学側も兼業医師の労働時間管理に慎重となり、以前より医師の派遣のハードルが高くなっているという話を聞くことがあります。

いわゆる団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向け、都道府県により策定された地域医療構想が推し進められつつあります。そのため、公立病院をはじめ病院機能の再編及びネットワーク化が進んでいます。特に、病床機能における急性期機能から回復期機能への転換や、複数病院の統合による急性期機能の集約化・病床のダウンサイジングなどです。これらの機能再編を検討するきっかけとして、経営状況の悪化や医療需要の低下、施設建物の老朽化に加え、医師不足が要因となっていることが数多くあります。

急性期機能、特に救急機能を有している病院が回復期機能への機能転換を考える場合は、救急対応の廃止にまで至らずとも、深夜帯等の夜間救急の制限や広域での救急の輪番制を導入し、部分的にでも日当直許可を得ることによる時間外労働時間の削減を考えていかなければなりません。また、外来診療に時間がかかり、病棟業務や手術、検査で時間外労働時間が過剰になっている場合などは、まず病診連携による逆紹介の推進、それでも対応できなければ、外来などの診療活動の制限や縮小も視野に入れていかなければなりません。患者・地域や収益への影響を考慮すると、短絡的な診療制限はなるべく避けるべき選択肢であると考えます。

こうした病院機能の再編を考える際には、外部環境を的確に踏まえた上で地域における自病院のポジショニングをどう考えるか、いわゆる戦略論が重要となり、更にはこれまでの病診連携に加え、地域内における病院間ネットワークをいかに構築するかがポイントとなります。そして、病院間での役割分担や他医療機関等における医師及び他の職種との診療連携のあり方など、これらについても地域での情報の共有や標準化がカギとなると考えられます。

 

次回掲載予定

次回は、医師の働き方改革を進めなければならない理由や変遷についてお伝えする予定です。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/11

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