ナレッジ

働き方改革推進に向けた人材育成

中長期視点に基づく人材育成・活用の方向性

新型コロナウイルスへの対応によって看護師など医療従事者不足が改めて顕在化する一方で、医療従事者の養成は一朝一夕ではいかず医療業界全体で長期視点での人材確保・育成の課題が浮き彫りになっています。また、政府が推進する働き方改革における生産性の向上やタスクシフティングの実現にあたっては人材育成や専門性の向上が重要な鍵となります。そのため、ここでは働き方改革推進・ポストコロナにおける人材育成について考察します。

働き方改革推進に向けた人材育成

2024年4月から医師に対する時間外労働の上限規制が適用されますが、医師の時間外労働を削減させるための効果的な取り組みの一つとしてタスクシフティングが挙げられています。タスクシフティングを進めるにあたっては移管する業務の担い手を踏まえた検討が必要であり、医師からのタスクシフトでは医師事務作業補助者など新たなリソースの確保や特定行為に係る看護師の研修制度を修了した看護師を養成するなどの方法も考えられます。

医師のタスクシフティングに向けた人材確保・育成

政府が推進する特定行為に係る看護師の研修制度とは、医師の判断を待たずに手順書により一定の診療の補助を行う事が出来る看護師を養成する事を目的とした研修制度です。看護師が実施できる特定行為は21区分に限定されていますが、医師の業務負担の軽減に大きく寄与することが期待されています。しかし、特定研修は講義・演習・実習・試験を修了する必要があり、受講にあたっての負荷は小さくはありません。そのため、現状では特定研修研修了者数が政府の想定より伸び悩んでおり、政府の規制改革会議において研修修了者を増やす取り組みとして特定領域での研修パッケージ化や特定研修修了者の配置等に対する診療報酬上の評価を含めた促進策の検討が示されています。

 

看護師の専門性の更なる発揮に向けた取組
 

出所:内閣府「規制改革会議」資料より抜粋

この特定研修修了者を抱える病院では病院への定着を図る事が想定されるため、特定研修修了者を中途採用で確保する事は容易ではないと推察されます。自病院内で養成するためには、中長期視点での育成ビジョンとキャリア支援の整備とともに受講希望者の負担軽減や院内での理解・バックアップが必要です。

 

非正規職員の活用・育成

働き方改革によってワークライフバランスを意識する声も増え、短時間勤務や派遣職員など雇用の在り方が多様化し非正規職員の割合も増加傾向にあります。正規職員と非正規職員では労働時間の長短や雇用期間の有無等の違いはありますが、病院の医療品質の維持・向上にあたって育成や定着が必要である点は同じであるといえます。正規職員と非正規職員で教育体系や人事評価が異なるケースもありますが、品質維持・向上と必要な人員数を確保し続けるためには、職員の多様な働き方の意向に応じるフレキシブルな雇用・キャリアパス(正規職員⇔非正規職員がキャリア上のデメリットにならない仕組み)と一貫した教育・人事評価の仕組みが望まれます。

 

教育方法・管理のデジタル化

オンライン・オフライン型の研修

コロナ禍以前の医療現場における教育研修は対面での集合研修が一般的でしたが、新型コロナウィルスの院内感染対策として集合型研修は延期や中止など自粛傾向にあります。コロナ禍におけるデジタル手法の教育としてVRや仮想シミュレーションを活用した疑似診療体験教育などは徐々に進んでいますが、医療現場ではOJT以外の育成は停止状態になっている病院も少なくありません。
一方で、他産業の民間企業ではコロナ禍における教育の在り方としてオンライン研修やeラーニングが活発化しています。オンライン研修によって感染リスクを防止しつつ、場所や時間に捉われない効率的な研修が可能です。但し、オンライン研修は情報のインプットの点では効果的ですが、例えば新人職員の入社時研修やフォローアップなど受講者間のコミュニティ形成の目的も兼ねる研修では最適ではないかもしれません。オンライン・オフラインのどちらかに偏るのではなく研修の目的を踏まえた融合が重要です。

教育のデータ管理・活用

研修方法と同様に研修管理もアナログ的な手法を用いるケースは少なくありませんが、上記のオンライン研修によって受講履歴や受講後アンケート等もデジタル管理及び処理が出来るため、研修実績や研修内容の改善に向けた分析など研修マネジメントの効率化が図れます。
また、研修実績と人事評価結果や勤務実績との紐づけによって、研修によってパフォーマンスがどの様に向上したか、職員の能力課題は何か、研修の手段(オン・オフの組みあわせ)・内容の改善は必要か、を客観的に把握する事が可能です。

 

教育訓練のデータ管理による教育効果の把握

ポストコロナにおける病院の目指す育成ビジョンを基に必要な教育を整理し、目的を果たすための手段(オンライン・オフライン)をどの様にするか、教育の効果をどの様にモニタリング・活用していくかのプランニングが必要です。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/2

関連サービス

ライフサイエンス・ヘルスケアに関する最新情報、解説記事、ナレッジ、サービス紹介は以下からお進みください。

ライフサイエンス・ヘルスケア:トップページ

■ ライフサイエンス

■ ヘルスケア

ヘルスケアメールマガジン

ヘルスケア関連のトピックに関するコラムや最新事例の報告、各種調査結果など、コンサルタントの視点を通した生の情報をお届けします。医療機関や自治体の健康福祉医療政策に関わる職員様、ヘルスケア関連事業に関心のある企業の皆様の課題解決に是非ご活用ください。(原則、毎月発行)

記事一覧

メールマガジン配信、配信メールマガジンの変更をご希望の方は、下記よりお申し込みください。

配信のお申し込み、配信メールマガジンの変更

お申し込みの際はメールマガジン利用規約、プライバシーポリシーをご一読ください。

>メールマガジン利用規約
>プライバシーポリシー

お役に立ちましたか?