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新提案 受診行動モデルARECAで集患対策

医療業界における受診行動モデルを新しく提案する

医療業界においてもマーケティングは重視されて久しいが、これまでも地域において良好な関係を構築することは、病院の経営戦略上非常に重要な要素であると考えられる。そこで従来の消費者行動理論を医療業界にフィットするよう修正した独自の受診行動モデルとしてARECAを提案する。

従来のマーケティングモデルは医療業界に適用できるのか

マーケディングモデルと聞いて何を思い浮かべるだろうか。AIDMAやAISASなど、消費者行動理論において確立されたフレームワークモデルを思い浮かべる方も多いと思う。これらのマーケディングモデルは病院業界においても利用できるものとされ、活用されている事例も少なくないものと理解している。

ただし、医療業界のマーケティングにおいてこれらのモデルは必ずフィットするものかどうか、筆者は疑問を持っている。

<医療業界へのあてはめと考察>

まず、AIDMAは古典的なフレームワークモデルであり、今でも古いモデルではなく、業界によっては内部環境分析を行う場合に論点の整理を行うにあたり、適用することができるものである。

しかし、医療業界は通常の商品やサービスと異なり、特殊な状況(罹患または罹患を疑った段階)で初めて「どこの病院がいいだろうか」と悩むため、常日頃から興味を持たず、いつか受診したいと思い、受診するまで記憶することはあまり無いのではないかという点でフレームワークの適用には疑問がある。

つまり、AIDMAが前提とする消費者の行動は自発的に消費したいときに行動を引き起こす一方、医療業界ではそうはいかず、特有の状況になってはじめて消費者は行動の意思決定をするため、このフレームワークモデルは適用にあたっては留意が必要であると考えられる。

次に、AISASについて考察を行う。AISASはWebマーケティングのフレームワークとして進化しているものであり、商品や通常のサービスを前提とした場合は有効であり、昨今のWebマーケティングが主流となった状況を考えれば、有効なフレームワークモデルであると考えている。

医療業界もコロナウィルスが蔓延する前から、他の業界と同様にWebマーケティングが重視され、医療機関は積極的に情報を開示しており、消費者側も医療機関に関する情報を積極的に収集している。

AISASでポイントとなるのは、行動の結果を消費者はSNS等でシェアし、その結果が他の消費者の検索に引っ掛かり、消費する行動につながっていく、というところではある。しかし、このポイントは医療業界では効果が限定的であると考えている。つまり、患者が退院した後に病院での受診行動が良かったとSNSに投稿をすることは自由ではあるものの、商品や他のサービスのようには必ずしも投稿されない点にある。

医療サービスは非常に複雑であり、病気が治った場合は感謝されるが、必ず治るわけではなかったり、患者個人の消極的な病状の情報は全人がSNSでシェアするかといえば、シェアしないこともあると考えられる。

 

医療業界における受診行動に及ぼす要素

コロナウィルス蔓延による受診行動の抑制があるため、おそらく今後は新たな受診行動の特性が出てくると思われるが、以下に示すように厚生労働省が実施した受療行動調査によれば、一番の理由は、入院患者では医師による紹介で選んだと回答した患者が半数であり、一方で、外来患者は医師による紹介のほか、利便性や専門性の高さを評価して選んでいることがわかる。

仮に前述のAIDMAやAISASモデルがフィットしているのであれば、知人などの勧めや、専門性の高さを評価する傾向が出るはずであるが、実際の調査結果からはそのような傾向は見られない。これはAISASモデルで仮に情報が得られたとしても、医療に関する情報の非対称性から自身の置かれた病態や状況から自身で判断するよりも、診てもらった医師に紹介してもらう情報を信じることに起因するものと考える。

 

医療業界のマーケティングにフィットする受診行動フレームワークモデルARECA

消費者行動理論を医療業界に適用しようとする場合には、特殊な条件があることを前提に検討を行う必要があると考える。

具体的な特殊な条件は、①消費行動は治療を受けることであること、②患者と医療機関との間の情報の非対称性の高さ、③患者にとってのコストの算定過程は全国統一の基準がある の3点にあると考えられる。
上記の特殊な条件を前提に、一般的な患者の受診に至る行動は次のとおり整理される。
Attention:気づき、Research:調べる、Evaluation:査定、Consultation:受診、Assessment:評価のプロセスを患者の受診行動のモデルとして提案したい。

 

「Attention:気づき」は従来のモデルと同様、医療機関の存在について気づくことを意味しており、意味合いに差異はない。

「Research:調べる」はAISASにおける検索のみではなく、知人やかかりつけ医などに現状の病態についてどの医療機関がお勧めなのか聞くなどを通じて、病態を条件とした医療機関の情報を調べることを意味しており、Webのみならず対面的なコミュニケーションや口コミなどを重視する傾向を織り込んでいる。

「Evaluation:査定」は収集した情報をもとにどの医療機関に受診すべきかという点で査定し値踏みを行うことを意味している。なお、査定は特にかかりつけ医など医療に関する知見を有する情報筋からの評価を重視する傾向にあり、そのことは受療行動調査の結果においても表れているところである。

「Consultation:受診」は医療業界であるため、受診することを意味している。

「Assessment:評価」は受診した結果に関する個人的な感想を整理していくことを意味している。

なお、このAssessmentは他の同じ疾患を抱える患者の「Research:調べる」の貢献していくものである。

病院と診療所での受診行動モデルARECAの使い方

病院と診療所ではこの受診行動モデルのとらえ方が若干異なる点は留意が必要である。具体的には、病院で重視されるべき紹介患者は地域の診療所の医師から紹介を受けるものであり、患者の知人などの個人からの紹介を受けて受診するものではない。そのため、病院においては地域の診療所の医師の紹介行動モデルに転用することが有益である。

具体的には、次のように転用される。

「Attention:気づき」は従来のモデルと同様、病院の存在について診療所の医師が気づくことと整理される。

「Research:調べる」は診療所の医師が病院ホームページを検索するのみではなく、地域の医師会における評判を調べることを意味している。

「Evaluation:査定」は収集した情報をもとにどの医療機関に逆紹介すべきかという点で検討することを意味している。

「Consultation:受診」は紹介状を作成し逆紹介を行うことを意味している。

「Assessment:評価」は逆紹介した結果に関する病院からのフィードバックである返書の内容を個人的に整理し評価していくことを意味している。このAssessmentは他の同じ主訴のある別の患者が来院した際のResearchに貢献していくこととなる。

 

地域の連携をさらに推進していくために

診療所においては、地域住民や福祉施設などとの関連が強いことから、このARECAを用いて自施設の地域における浸透度を確認し、必要なアプローチを検討することが考えられる。

また、病院においては、地域の診療所の医師との連携関係を構築していくうえで、どのように評価されているのかを注視し、コミュニケーションの改善の糸口を見つけていくことにこのARECAの活用が期待されるところである。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/6

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