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サーキュラー時代の新・自動車リサイクル
リサイクル対象資源/エリアの変化を踏まえた新たな事業機会
昨今のサーキュラーエコノミー/カーボンニュートラルの風潮の高まりから、自動車産業におけるリサイクルに改めて注目が集まっている。現状日本国内のみで数千の関連業者が存在し、今後はサステナビリティを念頭においた業界全体としてのプロセス・技術革新、体制構築が不可欠になると想定される。本稿では、国内外における自動車リサイクルの現在地と今後の変化点を踏まえた注目すべき事業機会について解説する。
サーキュラー化のトレンドと自動車リサイクル
サーキュラーエコノミー(CE)という概念は欧州発で提唱され、最近はその重要性の認識が定着してきた。このCEの取り組みを効果的に進めていくにあたっては、資源消費量が多い分野に注力する必要がある。欧州のCE推進における指針となっている “サーキュラーエコノミーアクションプラン”においては、2020年段階での重点分野として「輸送」「建築」「消費財」などが設定されており、自動車産業は製造工程自体における資源使用量も多いことからその注目度が高く、CEの推進が求められている。現在、自動車のリサイクル率は日本国内で80%を超えており、自動車リサイクルという分野は成熟しているといえる。一方で、国内の自動車年間廃車台数(リサイクル対象となる台数)は、2021年度で300万台を超える水準であり、1%の改善によるインパクトが大きいことから、この自動車リサイクル率を引き上げていく取り組みは今もなお求められている。
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日本を含め、自動車リサイクルの高度化が一定進んでいるリサイクル先進国において、その進展は“国が主導する自動車リサイクル規制の普及”と“自動車OEMをはじめとした適正処理へのモチベーション”によるところが大きい。例えば日本では、2005年に施行された自動車リサイクル法を背景とした自動車リサイクルの登録・許可制度(正確には、廃車引取り/フロン回収/解体業/破砕業については自治体の許可が必要となる)が普及しており、標準的な解体手順なども含めて、適正処理に関する情報発信も進んでいる。
また欧州では、ELV指令によって、自動車リサイクルの適正処理が具体的なリサイクル目標値を以て推進されている。例えば、欧州で自動車リサイクル率がトップクラスに高いフランスでは、国内法により欧州委員会のELV指令におけるリサイクル率目標の達成をOEMに義務化させており、前述のELV指令におけるリサイクル目標の達成度も高い状態となっている。同じくドイツでも自動車リサイクル率は高い状態であり、フランスとならび欧州における自動車リサイクル先進国といえる。これらリサイクル率の高い国の特徴として、特にOEMのおひざ元として古くから“拡大生産者責任”という概念が浸透していることが特徴であり、OEMが適正処理を推進していくことが当たり前であるというスタンスが形成されていることから、今後も自動車リサイクルへの高いモチベーションが維持されるものと想定される。
一方、途上国においては、そのリサイクル率はきわめて低い水準であり、廃車解体推計台数(解体され再資源化される車体数)も先進国に比べて少ない。これは廃車処理のスキームやリサイクルに関する法整備がなされていないこと、所謂インフォーマルセクターが回収や解体の大部分を担っていること等により、自動車リサイクル産業が未成熟であるためと推測される。
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自動車リサイクルの全体像
自動車リサイクルは、廃車収集→解体→破砕→再資源化 という4つの工程を経て、廃車が資源へと戻っていくフローが一般的であり、このフローは先進国のものを標準として今後も大きくは変化しない。この4ステップにおいて、先進国と途上国ではその作業の効率性が大きく異なり、リサイクル率にも差が発生している。大まかには、先進国ではこれらのフローが整備されており、大量同時処理や機械を活用した自動処理により、効率の良い自動車リサイクルを実現しているという事である。
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(1) 廃車収集工程
廃車(エンドユーザーにて使用されなくなった車両)が買い付けられたのち、自動車解体工場の置き場(ヤード)までの運搬が行われる。先進国では、廃車を手放す主体(消費者など)においても「カーディーラーに廃車を持ち込む」形が定着しているが、近年では特にデジタルプラットフォーム上での取引比率も増加している。また、従来は収集ネットワークも公に発達していなかったため、様々な小口事業者が独自に生計を立て、全国各地で家族経営的な解体事業者が多く存在していた。しかし、現代においては、知名度の高い大手の自動車修理事業者やディーラーに廃車が持ち込まれるケースが増えており、前述のデジタル化も進展していることから、多くの解体事業者が“廃車の仕入れ競争”にさらされている。こうした中で、車をいかに効率よく集めることができるかが解体事業者の競争力の源泉となっており、家族経営的な解体事業者の数は減少傾向にあるといわれている。
(2) 解体工程
回収された廃車を解体し、「①自動車リサイクル法で指定されている有害物質や危険物を回収」のうえ、「②人手で直接取り外すことで売却益が見込まれる有価物を回収」する。前者については、エアコン冷媒となるフロンの回収や、作動時の危険性が高いエアバッグなどが該当する。また、後者の有価物回収においては、有価で売れる物品を回収することが目的となるため、解体事業者の解体作業ポリシーや車両の状態に応じて回収対象物が異なる。一般的には、内燃機関車(パワートレインがエンジン)であれば、リユースまたはベースメタル回収目的の「エンジン」や「ドア」などの大物パーツ、または高価な貴金属やレアメタルを含んでいる「排ガス触媒」などは、有価物としての取引価格が高いため必ず回収され、「内装材」や取り出しに工数がかかる小さな「電子基板」などは回収されないケースが多い。
(3) 破砕工程
解体工程で様々なモノが取り外された車両は、車両の原型をとどめているものの中身が少ない状態となるため、廃車ガラとよばれる。破砕工程では、この廃車ガラを大型の破砕機(シュレッダー機械)に投入してさらに細かく破砕し、そこから出てきた破砕くずを選別機械によって各資源の形で取り出していく。破砕後には複数の選別技術の組合せによって所望の資源が回収され、磁力選別による鉄鋼製品の回収や、風力選別による樹脂や非鉄金属の分別など、各事業者によって独自の工程が構成されている。また、各種選別工程後に残ったダスト成分は、ASR(Automobile Shredder Residue)とよばれる。このASRは、これ以上選別しても有用な資源が取り出しづらい “残りくず”であるため、日本ではASRを効率的に処理するべく、自動車OEMを中心とした専門組織が存在している(THチーム、ARTチーム)。破砕事業者は、発生したASRについてこの専門チームに引き取り/処理を依頼することができ、またその処理要請を自動車リサイクル促進センターがとりまとめて各組織にASR処理を振り分ける(実際には、これら組織が契約する“指定取引場所”として認定された各事業者が処理を実施)仕組みが成立している。
(4) 再資源化工程
当該工程は破砕選別により取り出された各種資源を再資源化する工程であるが、この工程は資源の種類によって、再生工程そのものならびに再生を行うプレイヤーは様々である。金属資源の代表である鉄鋼は、解体~破砕までの工程で出た鉄スクラップを鉄鋼資源リサイクラーが引き取り、再生を行っている。この場合、鉄スクラップから鉄鋼を作る「電炉」においてスクラップ品が原料として用いられるため、いわゆる電炉メーカー=鉄鋼資源リサイクラーである。一方で、樹脂のような資源については、大きくは「①単一樹脂種のフレークとして再生」または「②ASRとして燃料化」に処理が分かれる。有価物回収工程で樹脂製バンパーとしてPPが取り出されるような場合は前者に該当し、単一樹脂を破砕して樹脂フレーク状態に処理し、それらを樹脂リサイクラーが引取り、バージンの樹脂と混ぜて品質を一定以上に引き上げたうえで、再生樹脂として市中に販売されることとなる。後者のASRとして燃料化される樹脂については、単一の樹脂として取り出しきれずに破砕工程で処理された樹脂(ASR化した少量多種の樹脂)を指しており、直接燃焼あるいは固形燃料化のうえ熱源として再利用される。
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自動車リサイクルの未来
昨今の自動車リサイクル業界の動向を踏まえると、リサイクルの対象資源やエリアを中心に、4つの大きな変化点が存在する。これらの変化点は従来とは異なる対応を迫られるポイントであるとともに、裏を返せば各企業にとっての新たな事業機会ともなり得るだろう。
(1) 低価格資源のリサイクル対応進展
従来は、いわゆる樹脂や繊維、ガラスといった“価値が低い資源”はその大半がASRの状態で処理されており、再生資源として利用するような処理はできていなかった。しかし今後、欧州のルール形成を皮切りに、こうした低価格資源でも再生材活用の目標%がKPIとして設定されることとなるだろう。既に一部自動車OEMは「新車製造における再生材採用比率」を目標として掲げ始めており、これを満たすような取り組みを推進していくと想定される。
一方、現実的にはこれらの繊維やガラスといった材料は、樹脂よりも重量あたりの材料価格が低く、また材料再生の取り組みも現状限定的であることから、再生資源としての「市況価格にあった再利用推進」へのハードルは高い。よって、いわゆる低価格資源のリサイクルについてのマネタイズ/経済性改善が大きなニーズであり、資源回収/資源再生のいずれのステップにおいても、どのようにそれらを確立していくべきかが事業機会のカギとなっている。
(2) レアメタル等の新たなリサイクル領域確立
EVの増加により、本領域のリサイクルは今後重要性を増していくものと想定される。例えばEVのモーターには強力な磁石が必要で、その原材料として多量のネオジム/ジスプロシウムが使われる。内燃機関車と比較して、EVには両レアメタルが大まかに5~6倍使用されるため、このレアメタルの適切な回収・再生・利用は資源の有効活用の観点で重要となる。加えて、レアメタルの産出国に偏りがあることから、戦略的資源としても重要度が高く、これらのリサイクルが進むことは間違いない。
ネオジムやジスプロシウムのリサイクル技術確立は各国で急がれている状況であり、日本でも経済産業省を中心に既に取り組みが開始されている。当該領域においては、資源再生の技術開発に加えて、自治体や他産業と連携した地産地消ループの確立も重要論点である。レアメタルは高価であるが1製品に搭載される量は少量であるため、自動車製品のリサイクルのみによる資源循環は経済合理性の観点で限界が存在する。よって、電子機器産業などの他産業で発生する資源を束ねて、効率的なループを構築することが1つの全体最適となり得るだろう。
(3) 発展途上国における自動車リサイクル事業の発展
自動車リサイクルの発展途上国には、これから自動車リサイクル業界が高度化していく余白が十分にあるため、有望な事業機会が存在する。例えば、インドネシアでは、現在200万台程度の放置車両が存在し、さらに今後政府主導でガソリン車からEVへの置換が推し進められることで廃車が更に増加する見込みであるため、潜在的な資源量が大きい。加えて政府は廃車リサイクルの業界改善には手が回っておらず、現在静脈産業を寡占する一部の部族は技術的・規模的に未成熟であることから、増大する廃車のリサイクルを適切に実施できないことが想定される。東南アジアをはじめとして、こうした状況は多くの途上国においても見られることから、途上国をターゲットに日本の自動車リサイクル技術を輸出し、現地における高度な地産地消型の資源循環システム構築の一助とすることは、現地の需要にも合致し、事業機会として有望なのではないか、とDTCとしては考えている。
(4) 先進国における自動車リサイクルの高度化
今後も先進国では自動車リサイクルの更なる高度化が進んでいく。日本においては、自動車リサイクルセンターが管理する「自動車リサイクル情報システム」の刷新が2026年に予定されており、これを通じて、「解体事業者等の業務効率性向上」「将来のリサイクル環境変化を見据えた拡張性の担保」などの実現に取り組んでいく方向である。一方でフランスではよりドラスティックな変化が想定され、2025年を目途に全自動車リサイクラーが「自動車OEM系列リサイクラーグループ」または「エコ・オーガニズム(政府の認可を受けて適正処理を行う組織)」のいずれかへ加入を求められる。これらへ加入するには一定水準以上のリサイクル事業のスペックが必要とされるため、このスペックを満たすための設備投資が困難である小規模リサイクラーの多くが廃業することが想定される。
また、昨今欧州においては製品の製造元・使用材料・リサイクル性・解体方法等、サステナビリティ関連の情報を提供するDPP(デジタルプロダクトパスポート)の法制化が進められている。DPPが静脈産業において活用されるようになると、“再生材に関する様々な情報”がデータベース上で可視化され、消費者に対しては行動変容を促しつつ、動静脈企業の再生材利活用に向けた連携の支えとなるため、CE推進の鍵となる取組みとして注目されている。日本国内においても、このようなトレーサビリティを担保したDPP導入等による再生材品質データの蓄積/可視化と、これを共有するプラットフォームを整備することで、動静脈企業の需給マッチングを可能とし、より高度なCEシステムの実現を図っていくべきだろう。このように先進国では、高度なCEシステム構築に資する取組みが進展し始めているため、業界への新規参入という意味でも一定の事業機会が存在するといえるだろう。また、将来的に自動車OEM同士で再生材の取り合いになることは明らかであるため、先進国の自動車OEMによる再生材確保に向けた独自調達の動きなども加速していくものと想定される。
おわりに
社会が大きくサステイナビリティに舵を切りつつある中で、一定以上成熟した仕組みを有する自動車リサイクルは、サーキュラーエコノミーのモデルケースとなり得る興味深い領域である。日本は明らかに自動車リサイクル業界のトップランナーに分類され、丁寧に資源を回収していくことは日本企業の気質にも合致するものと考えられる。このようなノウハウや技術を武器に、国内における自動車資源の最適な循環体制の構築、他国に対する競争優位の確立、優れた再生技術やノウハウの海外への輸出を志向し、民間企業の枠組みを超えた日本としての全体最適の取り組みを検討することが必要だろう。
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