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株主間契約
ビジネスキーワード:ファイナンシャルアドバイザリー
ファイナンシャルアドバイザリーに関する用語を分かり易く解説する「ビジネスキーワード」。本稿では「株主間契約」について概説します。
株主間契約の概要
株主間契約は、複数の株主が存在するM&Aでは一般的に株式譲渡契約と平行して準備される契約書で、各株主が契約当事者となり締結される。株式譲渡に至る交渉での合意事項など、クロージング後から有効となる株主間での取り決めを契約として文書化したものである。
上場会社を対象企業としたM&Aの場合は、一般少数株主が存在するため、少数株主保護の観点から一部の主要株主のみでの株主間契約には実務上制約が多い。一方、そもそも限られた株主のみで構成される非上場会社においては、関連法規制に則れば、自由に株主間の合意に基づいて契約を締結することができる。
投資実行当初は、さほど気にならない「細かいルールの文書化」とも思えるが、有事の際の備えとなるのが株主間契約である。ここでは、株式一部譲渡や第三者割当増資引受によって2、3社程度の株主で構成される非上場会社を対象会社とするケースを想定し、株主間契約の主要な条項について解説する。
なお、契約当事者の法人形態、国籍、事業内容や契約の準拠法などによって適用される法規制が異なる。よって本文中の見解に関わる部分はいずれも筆者の私見であることをお断りし、具体的な事例における各条項の実効性については別途専門家と協議願いたい。
株主間契約の主要な条項と解説
非上場会社における株主間契約は、主に対象会社(被買収会社)の各株主(買い手である新規株主と既存株主)によって合意・締結されるものである。これらの合意は原則として各株主を拘束するものであるが、対象会社を拘束するために対象会社を契約の主体に含めたり、定款に同様の規定を設ける等の対応をすることもある。以下では株主間契約で定められる一般的な項目を(1)株式の取り扱い、(2)会社運営、(3)その他に分類し条項や論点を簡単に解説する。
(1) 株式の取り扱い
• 株式譲渡制限:各株主が持分を自己都合で自由に売却できないよう制限するもの。譲渡があってから1年間売却できないなど期間を設けたり、定款に定める方法がある。被買収会社にとっては、安定株主確保から安定した経営へとつなげるべく長期化を要求する。一方、買い手が将来の転売やIPOによるキャピタルゲイン目的の投資家であれば、早期にキャピタルゲインを実現すべく期限の短縮化を要求することが通常である。一般的には期限内でも他株主の合意を条件に売却できる、など例外を設ける。
•売却方法と価格:売却方法として、売却の意思があれば先ず既存株主へ優先的に売却する優先交渉権や、被買収会社や譲渡人に買い戻させるプットオプションなどがある。価格についても簿価での売却や一定の計算式に基づくプレミアムを乗じるなど交渉によってその内容が設計される。
•希薄化防止:将来の資金ニーズに応じ増資が必要となるケースがある。その場合、第三者に新株発行されれば既存株主の持分は希薄化する。このような希薄化防止のため、増資の場合は一定比率のもと優先的に既存株主へ割り当てられる、などの対応策を予め盛り込む。
(2) 会社運営
•株主総会決議事項:他に大株主が存在する場合のマイノリティー投資においては、事業運営に一定の影響力を確保できるよう、重要な決議事項への拒否権を要求する。例えば、会社法上の特別決議事項である定款の変更は株主の3分の2以上の賛成で決議されることとなるが、株主間契約によって90%以上の賛成が必要と定めることにより、11%の株式を保有するマイノリティー投資家でも重要決議事項について拒否権を保有できることとなる。
•取締役の選任:各株主から何名の取締役を派遣するか定める。同時に取締役会の開催時期や定足数、議決割合、決議事項なども定める。
•取締役会決議事項:必要に応じ、一定金額超の支払から予算の決議まで、細かい会社運営について決議事項に盛り込み、拒否権を確保することで一定の影響力を確保できる。具体的には、自社から選任する取締役の賛成がなければ決議できない割合に必要賛成数を設定する。
(3) その他
•デッドロック条項:各株主間で意見の相違があり、会社としての決議がなされない場合の決着方法を定める。
•競合禁止条項:株主が対象会社と同じ事業を営まないとし、利害の衝突を避ける。
•契約解除条項:一定の事象が発生した場合、自動的に株主間契約が解消されることとする。主要株主の倒産や変更、会社運営に重大な支障を与える場合等を想定しその事象を盛り込む。
最後に
M&Aは、サイクル初期の戦略立案からターゲットの決定、ストラクチャリングの設計、自社インパクト測定から、各種デューデリジェンスを通じ多額の時間とコストを費やした上で株式譲渡契約の締結、クロージングと進む。クロージング直後は、当初の目的達成に向け、みなが前のみを見て走り出す。一方、予期せぬ何かによって“失敗”となりうるのがM&Aの世界である。失敗を防ぐためにも、デューデリジェンス等を通じて発見した対象会社の留意点や、それを手当てする合意事項などは、確実に株主間契約に盛り込む必要がある。経営陣が互いに交渉を重ね、時には譲りあうことで合意に至った数々の事項を、契約という手段を用いて文書に記す株主間契約が重要であることは言うまでもないであろう。