ナレッジ

世界のM&A事情 ~マレーシア~

マレーシアにおけるM&Aの動向およびインダストリー4.0

過去10年の間、マレーシアの経済とM&Aマーケットは緩やかな成長を実現してきました。当国はさらなる経済発展と活性化を実現するために多様な施策を講じています。本稿では、マレーシアのM&Aマーケット動向について解説するとともに、政府が積極的に推進しているインダストリー4.0を紹介します。

I.マレーシアのマクロ環境およびM&Aマーケットの動向

マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)の発表によると、2010年から2018年にかけて、マレーシアの実質GDP平均成長率は4.2%に達し、ASEAN諸国の平均と同じ水準で成長してきた。主要産業である製造業は安定的に成長を見せているものの、通信、物流、卸売・小売業などの業種が国の成長の後押しになっている。また、2019年に入っても、その勢いが継続し、1月~9月の実質GDP平均成長率は前年同期比4.6%で増加している。

M&Aマーケットについては、2010年から2018年までの年間M&A件数が穏やかな増加傾向を見せており、2016年~2018年の3年間における国内年間M&A件数が約140件~150件と落ち着いた水準で推移していた。しかし、2019年に入ってM&A活動が減速し、同年11月までのM&A件数は96件と年間全体の案件数見通しでは過去数年の平均を下回ると予想される。M&A活動の減速は、米中貿易戦争や世界経済の見通しの不確実性等の国外要因もあるが、2018年に93歳で2度目の首相就任となったマハティール首相から今後の政権交代による政策路線がどう変わっていくのか等国内の政治経済に関わる不透明要素によるものもあると考えられる。

図表1:マレーシアにおけるM&A件数と取引額
※クリックして画像を拡大表示できます

産業別でみると、マレーシアで最もM&A活動が活発なインダストリーはコンシューマービジネスとエネルギー&リソースである。一方、TMT(通信・メディア・テクノロジー)インダストリーの成長も注目すべきである。2017年にはTMTインダストリーのM&A案件が急増し、2018年以降も年間20件以上で推移している。特に近年のトレンドとして、ソフトウェア開発やITソリューション、eコマース等に関わるビジネスの買収案件が増えてきている。IT技術やIP(知的財産権)確保を目的とした買収もあるが、ASEAN地域において幅広い顧客ネットワークを持つ会社を傘下に入れることで、成長しているASEAN市場における事業展開を早期に実現させることを目的とした買収もある。

図表2:インダストリー別M&A件数
※クリックして画像を拡大表示できます

外資企業によるマレーシア企業への投資という観点から見ると、同盟国であり、地理的にも経済的にもマレーシアと密接な関係にあるシンガポール企業による投資件数が過去10年間において常に上位にある。一方、日系企業によるマレーシア企業への投資も増加傾向にあり、2018年および2019年のM&A件数ではシンガポールを上回っている。日系企業が投資している分野として、ITソリューションやソフトウェア開発等テクノロジー分野のほかに、消費者向け事業やエネルギー・リソース分野の事業に対する投資も増えてきている。

図表3:インバウンド投資の国別M&A件数
※クリックして画像を拡大表示できます

II.「インダストリー 4WRD」:海外による投資の基盤構築

技術関連の投資が増加しているなか、2018年10月にマレーシア政府による中長期の経済発展政策として「インダストリー 4WRD」(マレーシア版インダストリー4.0)の導入とその概要が発表された。さらに、2020年度国家予算である「Budget 2020」でも、デジタルインフラ構築への投資やインセンティブ等の重点な施策が発表されている。

デジタルインフラの構築については、国内海外のハイテク企業にとってマレーシアをより魅力的な投資対象国にするため、政府は2020年度国家予算の中で、National Fiberisation & Connectivity Planという50億米ドル規模のインフラ投資を織り込んでおり、今後5年間で衛星ブロードバンド接続等の技術を活用して全国に高速ネットワーク接続を提供すると発表した。さらに、工業団地や公共施設など特定のエリアにおいてデジタルインフラの展開を加速するために、追加予算を割り当てる予定になっている。国主導で各産業のデジタル化を支えるインフラ整備の早期実現を目標としている。 

特定業種についてもインダストリー4.0を推進するために、多くの投資項目に予算を割り当てている。一例として、グリーンかつエネルギー効率の高いテクノロジーの促進に関わる投資である。再生可能エネルギーを生成するために屋上のソーラーパネルの使用を促進し、民間部門の潜在的なビジネス機会を創造するネットエネルギーメータリング(NEM)メカニズムの導入、また、2025年までに再生可能エネルギー生産の20%という目標を達成するための取り組みとして、民間投資の誘致もしつつ約5億米ドル相当の再生可能エネルギー/エネルギー効率化プロジェクトを推進している。

インフラ投資に加え、グローバル企業による投資および中小企業のデジタル化を促進させる施策として、各種インセンティブも導入されている。例えば、投資金額や雇用等に関わる特定の基準を満たしたフォーチュン500企業とグローバルユニコーン企業によるテクノロジーや製造業分野への投資に対してインセンティブを与え、国の経済を支えている中小企業のデジタル化を支援するために、特定投資項目に対して補助金を与えている。また、インダストリー4.0の重点取り組みセクターであるマレーシアの製造業を東南アジア地域の生産技術ハブに転換する方針も打ち出しており、製造業企業の自動化・生産性向上等に関わる投資にインセンティブや税務上の優遇を与えている。

インダストリー4.0の経済効果はすぐに実現できるものではなく、チャレンジも予想されるが、国の重点政策の一つとして積極的に推進され、民間投資も行われており、今後多業種にわたる技術力向上と経済発展の過程の中で、マレーシアにおける投資機会が増えていくと期待される。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
マレーシア駐在員 Kent Lui

(2020.1.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。


関連リンク
マレーシアでの日系企業向けサービス

記事全文[PDF]


こちらから記事全文[PDF]のダウンロードができます。
 
Download PDF: 466KB

関連サービス

M&A:トップページ
 ・ M&Aアドバイザリー
 ・ 海外ビジネス支援
 ・ マレーシアでの日系企業向けサービス


シリーズ記事一覧

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の駐在員が、現地のM&Aの状況・トレンド、M&A交渉の際の留意点などをご紹介します。

 ・ 世界のM&A事情

記事、サービスに関するお問合せ

>> 問い合わせはこちら(オンラインフォーム)から

※ 担当者よりメールにて順次回答致しますので、お待ち頂けますようお願い申し上げます。

お役に立ちましたか?