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コーポレートの仕組み改革(3) 専門機能の付加価値化

コーポレート専門機能を付加価値化させる仕組みを通じ企業変革を加速させることができる

コーポレート専門機能には、グループ全体に対する新たな付加価値提供と、自己増殖的に活動を活発化させる2つの役割が求められる。「DMP」・「M&A推進」・「顧客理解」・「ナレッジ共有」・「イノベーション」等の領域で、データやノウハウを集約・一元化し価値を高める仕組みが重要となる。変革の推進は、本社・事業部門とは独立した企業体/事業体を設立し、新たな仕組み作りを機動的に行う方が、変革を進める上では効果的だ。

コーポレートの仕組み改革を推進し変革を具体的なアクションにつなげていくために、(1)企業・組織間連携の最大化(2)共有アセットの価値最大化、(3)専門機能の付加価値化の三つの柱がある。第四回は、(3)専門機能の付加価値化と、コーポレート仕組み改革全体の進め方について、重要となるポイントに触れていきたい。

付加価値を生み出す専門機能への転換

昨今のコーポレート機能に関する議論は、事業をサポートする間接部門から事業に直接貢献するプロフィットセンターへの転換が中心テーマだ。企業変革の視点で捉え直すと、コーポレートはグループ全体に行動変革をもたらすような価値提供ができるかが問われている。具体的には、(1)グループ全体に対する新たな付加価値提供と、(2)グループ全体の活動を自己増殖的に活発化させる、二つの役割が、コーポレート機能に求められている。 

統括から新たな付加価値提供へ

集約・一元化することで規模や学習によるコスト削減・効率化が直接見込めるシェアード機能と同様に、専門機能も単なる集約や統括に留まらず、明確な付加価値を提供していく必要がある。従来のコーポレート機能では、財務部門におけるトレジャリー強化などが挙げられるが、事業環境が変化する中、これまでのコーポレート機能の枠に捉われない、変革を導く新たな付加価値が求められる。 

機能提供から自己増殖的な仕組み提供へ

とはいえ、コーポレート機能単独で新たな付加価値を出し続けることは難しい。コーポレート機能を基点に、グループ全体を巻き込む仕組み・仕掛けを作ることで、機能が自己増殖する仕組みを構築することが、きわめて重要となる。 

ナレッジ共有の例を挙げると、グループ全体のナレッジを集約・一元化し各社に提供するのが従来の機能提供である。しかし、共有されたナレッジを基に情報の出し手と受け手の間のコミュニケーションが活発に起こる仕組みができれば、新たなアクションが生まれる。より深いナレッジの共有や直接的な支援につながるだろう。これは単に機能を提供しているのではなく、自己増殖的な仕組みを提供していることになる。

付加価値部門への転嫁のカギとなる機能/プラットフォーム

第二回でも触れたように、コーポレート機能は溜まったデータ・ノウハウを集約・一元化し付加価値を高める仕組みを持つべきだ、具体的な機能としては、以下に挙げる領域が有望だ。繰り返すが、使われる仕組み、アクションにつながる仕組み構築がポイントとなる。  

データマネジメントプラットフォーム(DMP) 

DMPの一番の価値は、データを基に新しい分析・検討が行われ、それにより新しい施策・打ち手を試せることである。このPDCAサイクルを高回転で回す仕組みを機能させることが最も重要となる。DMPの議論は、どのデータを集めるか、どのように集約するか、誰が管理するか、といった責任権限論に陥りがちだ。しかしアクションにつなげるために、集約する情報はグループ全体にとって明らかに付加価値があるデータにまずはフォーカスすべきだ。 

グループ全体で集約・一元化し、全体で分析・活用したいデータは、それほど多くないはずだ。その代わり、重要なデータについては、誰もがそれらの情報を分析・活用できる状態に整備することが重要となる。  

M&A推進 

M&Aは今や企業変革に不可欠な要素となっている。これに伴い、M&Aに関する専門的知見を社内で一元化させる動きはかなり進んできている。今後はM&Aの実務に精通した人材を集約するだけでなく、M&Aを通じた企業変革にも精通した人材を集約し、改革効果につなげていくことが重要だ。具体的には、 

・M&Aを通じた新たなケイパビリティ(スキル)の取り込み
・M&Aを基点とした保有アセットの再構成
・M&Aを通じたマインドシフト、チェンジマネジメント  

といった企業変革を主導し、変革活動のノウハウを集約・蓄積していくことが差別化できる価値となる。  

顧客理解 

これからは、顧客を一番理解していることが企業の最大の競争優位/差別化要素となる。 

・IoT等のテクノロジーをどのように活用するか
・顧客の嗜好や行動をどのように把握するか
・顧客課題に対し、どのようにソリューションを組み上げるか  

という顧客理解・課題解決のプロセスを確立し高度化していくことは、特定の事業に閉じない、コーポレート機能の横断的な付加価値となる。この点に早くから取り組んでいるのがコンサルティング業界だが、こうした仕組みは、今はすべての企業にとって不可欠な機能となりつつある。顧客理解から課題解決までのプロセスを仕組み化することは、展開するソリューション自体の価値を高めることにもつながる。  

ナレッジ共有 

ナレッジ共有についてはこれまで文中で何度か触れてきたが、コーポレート機能に専門組織を作り機能を集約しただけでは、ナレッジ共有の仕組みは機能しない。このことは、これまで様々な企業の中でも実証されている。価値のある情報を主体的に提供した人は、社内で数少ないエキスパートの称号や特別な役割を与えられるなど、提供を促す仕組みが必要だ。また、他部署の先進成功事例を実際に転用する/したメンバーが一堂に会するリアル/オンラインでの場作り等、情報を自己増殖的に高度化させながら打ち手につなげる仕掛け作りが重要となる。ノウハウをためて結果につなげることも踏まえ、仕組みを立ち上げることが重要だ。  

イノベーション 

コーポレート機能における研究開発機能は、これまで常に事業部門との研究領域の切り分け・責任権限範囲が議論となってきた。事業部門が扱わない中長期的テーマを中心に据えると、事業や収益への貢献が曖昧になり、事業貢献に重きを置くと、事業部門とのバッティングが起こり、存在自体の見直し議論が生じる。 

コーポレート機能に集約・一元化し新たな価値として保有すべきは、イノベーションを創出するためのプロセス・場や、その際のカギとなる仕組みである。具体的には、 

・最新のテクノロジーやベンチャーの動向を定期的に捕捉する仕組み
・社内や外部のプレイヤーを巻き込んで新しい商品・サービスを試す場
・顧客向けのソリューションを実際に試作し効果検証する仕組み  

といった価値創出の仕組み構築に、コーポレート機能は取り組むべきである。

変革推進体制の構築

これまでアクションにつながる企業の仕組み改革の三つの柱について論じてきたが、最後に変革の推進体制について触れておきたい。 

これまで取り上げた企業の仕組みは、個々に関連し補完しあっている。仕組みは単独でも機能するが、個々の仕組みがバラバラでは、結果的に効果を打ち消しあうこともある。企業変革を進めるに際し、できる限り仕組み改革の全体像を描くことが重要だ。また推進に際しては、変化や行動を阻害している一番のボトルネックを特定していくことが必要となる。ボトルネックとなる要因を具体的にアクションで変革できる仕組みこそが、今の日本企業に最も求められている。筆者は、人材開発の仕組み、データ活用の仕組み、新たなガバナンス・意思決定の仕組みを早急に整備していくことが特に重要だと考えている。 

改革を始めるスコープと推進体制については、機動性を重視すべきだ。新たな仕組みを全社で大々的に変えようとすれば、調整に時間を取られてなかなか前に進まなくなるのは明白だろう。具体的には、新事業・サービスの立ち上げを責務とした、本社・事業部門とは切り離された企業/組織体を作るアプローチが有効だ。この企業/組織体の中で新たな仕組み作りを実施し、そこでの成功を全体に拡大していく形だ。もちろん、強いリーダーシップの下で一気に仕組みを変えられるのであればそれも有効だ。 

重要なのは、新たな仕組みが実際にアクションや行動変革につながることであり、そのための手段は柔軟に設定すべきである。三つの仕組み改革が一体となることで会社全体のアクション・オペレーションが変革し、新しい企業体へと生まれ変わることができる。

 

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