ナレッジ

AI/Cognitive活用リーディングカンパニーにおける導入状況と成功要因

グローバル企業におけるAI/Cognitive導入事例に学ぶ

昨今の企業課題である「生産性向上」や「付加価値の向上」の手段としてAIを始めとするコグニティブテクノロジーが注目を集めている。グローバルの企業は何を目的として導入し、どのような成果が得られたのか、またその成功要因は何か。米国デロイトがAI/Cognitiveテクノロジー導入の先進企業を対象にグローバルで実施した調査結果を示す。我々日本国内の企業がグローバルに遅れを取ることの無いよう、AI/Cognitiveテクノロジー活用に向けた学びとしたい。

はじめに

労働人口の減少に、働き方改革。これらはどの企業も避けて通れない潮流であり、必然的に「生産性向上」が企業課題の大きなテーマとなる。但しここで狙うべき「生産性向上」は単なる「効率化」をゴールとするものではなく、競争力確保のための「高度化」、つまり今まで以上に価値が付加されたアウトプットを出すことを各企業は求めていかなくてはならないと思慮している。これを実現する1つの手段として注目されているのが、AI(人工知能)を始めとするコグニティブテクノロジーではないだろうか。しかしまだ日本において、これらコグニティブテクノロジーの注目度は高まっているものの、実際のビジネスにおいて導入や活用にまで至っている企業の数はまだまだ少なく、なかなか一歩を踏み出すことができないため、様子を見ているのが現状と推察される。

では、ニューテクノロジー活用の先進企業を多数輩出するアメリカではどうだろうか。各企業は何を目的としてAI/Cognitiveテクノロジーを導入し、どのような成果が得られたのか、またその成功要因は何なのか。2017年に米国デロイトにて行ったAI/Cognitive活用リーディングカンパニーへの調査結果よりそれらの中身を解き明かしていきたい。
 

当レポートの調査対象

当レポートでは、AI/Cognitiveの導入に早期に取り組む企業の中でも、特に当技術が自社にどのような影響を持つか深く理解している企業のリーダーにヒアリングを行った。アンケート回答者の企業は半数以上が従業員5000人以上で、業界は情報・通信、小売、製造、金融など多岐にわたっている。

当調査の「AI/Cognitive」には、機会学習、深層学習、自然言語処理・生成、ルールベースシステム、RPAやこれらの技術を複合した技術が含まれる。
 

AI/Cognitiveを導入する目的

調査の結果、AI/Cognitiveを導入する目的として最も多かった回答が51%で、「製品やサービスの付加価値を向上させるため」である。一つの例として音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、深層学習で検索機能・レコメンデーション機能を強化して、ユーザー個人に最適化されたプレイリストの最適化を行うことで、顧客の満足度を上昇させている。

次に多い導入目的は「内部の業務の最適化」である。当回答の中には経済的な流通経路を選択しサプライチェーンを最適化のためにAI/Cognitiveを活用する例や、マーケットの状況に即して最適なブロック取引を行うために機会学習を活用する証券会社の例などが含まれる。

また「マーケティングや営業など外部と接する業務を最適化する」を主要な目的としている企業は回答者全体の30%という結果となっている。

AI/Cognitive導入によるビジネスへの好影響

調査対象のリーディングカンパニーでさえAI/Cognitiveを導入してからまだ日は浅いにもかかわらず、すでに多くの回答者がAI/Cognitive技術による利益を享受している。83%と大半の回答者が「導入したことで、ある程度の、もしくは多大な利益を得ている」と回答した。下図に示されているように多くのAI/Cognitive技術を導入しているほど、より多くの利益を得ていると回答する傾向が見られた。

反対に、AI/Cognitiveは過度に期待されていると答えた回答者は全体の9%にとどまり、およそ90%は現在も今後も戦略的に優先度が高いと認識している。当技術に知見がある経営幹部は概ねAI/Cognitiveのビジネス活用に肯定的な感触を持っているといえる。
 

AI/Cognitive導入における主要な課題

導入企業はすでにAI/Cognitiveから利益を生んでいる一方で、課題も抱えている。回答者が挙げた導入における課題として最も多かったものは「既存の業務やシステムにAI/Cognitiveを組込むこと」である。当課題の解消のためには、BPR(業務プロセス改善)やテクノロジーインテグレーションなどの考え方に基づいて人とAI/Cognitiveとの関わりを設計することが効果的であると考えられる。

またAI/Cognitiveが技術的に発展途中のため、ベンダーが玉石混淆あったり当技術に精通している人材が不足したりと人材面での課題も重大といえる。

リーディングカンパニーから学ぶ成功要因

リーディングカンパニーは課題を乗り越えてAI/Cognitiveを導入し、当技術に価値があることを実感している。最後に、なぜ導入によって利益を得ることができたのか、彼らが当技術を活用する過程で得た知見を4つ紹介したい。

  1. 飛び込む:
    AI/Cognitive導入のメリットを理解するためには、技術がどのように動き、具体的に何ができて、どのようなデータが必要かなどについて精通する必要がある。それらは多くの経験を積むことによって習得される。
  2. ポートフォリオを組む:
    小規模かつ精力的な社内チームでAI/Cognitiveプロジェクトを複数推進することが重要である。そうすることで会社がどのAI/Cognitive技術を導入すべきか、必要なリソースや業務・技術の変革が何かを明確にし、導入に踏み出すことができる。
  3. 部分的にでも自社が開発・導入に関与する:
    利益を得ている企業は、少なくとも部分的には開発・導入に関与しており、ベンダーに全てを任せてはいない。そうすることでAI/Cognitiveに関するスキルが蓄積され、業務や製品に当技術を統合することが容易になり多くの投資リターンが期待できる。
  4. コストカットだけでなく変化に集中する:
    自動化によるコスト削減に注力しすぎることによって、業務や製品の改善の機会やAI/Cognitiveによるイノベーションを通じた売上の拡大機会を逃す可能性がある。
     

おわりに

欧米におけるAI/Cognitive技術を活用できている企業(リーディングカンパニー)では、新しい技術に対して自ら積極的に導入を試み、その開発にも携わり、同時にそれらを小規模で行うことで、リスクの最小化を図りながら改善機会・売上拡大の可能性を探り、競争優位の創出を狙っている。一方、実際の導入現場では「既存ビジネスとの統合」や「知見の提供」といった活用方法の課題、更にはこのチャレンジに対する「導入関連コストの妥当性」、さらには効果を見越してディシジョンする立場である「マネジメント層の理解」が課題となっていることが分かった。

一方で我々日本企業はどうであろうか。なかなか一歩を踏み出せない企業も多い中、グローバルで遅れをとらないために、日本企業においてはどのような課題があるのか、そしてそれらをどのように乗り越えていけばよいのだろうか。

次回はVol.2となる2018年版のグローバルAI/Cognitiveリーディングカンパニーの最新の調査結果に加え、日本独自で主に顧客接点プロセス(セールス、サービス、マーケティング)に強みを持つAI/Cognitiveベンダー数社に対するインタビューを実施し、日本企業に於いて顧客への価値提供プロセスにおけるAI/Cognitive活用状況と導入課題に関する調査結果をまとめる。これにより、前述の疑問を解きほぐしていきたい。

お役に立ちましたか?