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大学経営とESG

大学経営におけるESGの取り組みの重要性  

大学法人は自らの法人内でのSDGs、ESGの対応がさらに求められるとともに、社会から求められる存在として、存在意義をアピールできるチャンスに今直面している、といえます。

執筆者: 公認会計士 奥谷 恭子

 

1.ESGとは

企業が長期的に成長するためには、ESGへの取り組みが重要との見方が急速に広まっています。それに伴って、ESGに積極的に取り組む企業に投資する「ESG投資」が、大幅に拡大しています。ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」のことを指していますが、持続可能性に対する人々の意識が高まる中、各国の規制や顧客の選好の変化が、ESG投資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えています。

このESGと大学経営との関係について今回は触れたいと思います。

 

2.大学経営とESG

①大学経営におけるESGの対応

大学においてもSDGsへの対応の一環としてESG対応を進めつつあります。例えば、E(Environment 環境)においては、太陽光発電システムの導入による二酸化炭素の排出削減、ごみのリサイクル活動等を進めたり、S(Social 社会)においては、ワークライフバランスへの取組みや個人情報保護対応を進めたりしています。G(Governance ガバナンス)については、さらなる積極的な法人情報の開示や大学版ガバナンス・コードの策定を進めている法人も見られています。2020年4月に私立学校法が改正されていますが、改正の狙いの一つはガバナンス強化であり、ESG対応を後押しする流れにもなっているといえるでしょう。

 

【大学ガバナンスコード】

大学ガバナンスコード
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②大学資産運用方針としてのESG投資

大学が有する資金の運用方法としては様々な選択肢がありますが、近年は投資先選定としてESG企業を選定する考え方を持つ法人も現れてきています。経常費補助金などの税金を大部分の収入として運営していることから、ESG銘柄への投資を積極的に進めたり、興味のある銘柄として重視しつつある大学法人もあります。
 

③民間企業のSDGs、ESG取組みの受け皿としての大学法人の存在

大企業との産学連携という形でさらなる研究の推進、社会的課題の解決に取組む事例も増えつつあります。こうした産学連携の形は民間企業のSDGsやESG取組みの受け皿として、大学法人が重要視され、活躍しつつあることの現れ、ともいえるでしょう。
 

④民間企業のESG投資先としての大学法人の存在

2020年10月16日国立大学法人東京大学は第1回国立大学法人東京大学債券200億円をソーシャルボンドとして発行しました。国立大学法人第1号の大学法人債でしたが、当大学の投資表明投資家一覧には多くの企業等の名前が連ねています。今後、民間企業のESG投資先として大学法人が注目されつつある、といえるでしょう。国立大学法人に限らず、学校法人、公立大学法人における債券発行も見られてくると思われます。

なお、実際の授業の実施においては、必ずしもいずれかの方法に区分されるわけではなく、両者を組み合わせたものや、通常の授業だけではなく、実験や実習の授業を行ったり、映像教材を使用するなど、授業の質を高めるための知恵を絞る大学も増えてきているようです。

 

3.おわりに

投資判断において投資家が着目するのは、過去ではなく、将来の企業(法人)の価値です。SDGsやESGへの取組みの状況は長期的な企業価値を判断するための手がかりである、といえ、今後こうした領域に注目した事業活動、投資活動が増えることは明らかなことです。大学法人としては自らの法人内でのSDGs、ESGの対応がさらに求められるとともに、社会から求められる存在として、存在意義をアピールできるチャンスに今直面している、といえます。

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