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新型コロナウィルス感染症が大学経営に与える影響

国公私大へのアンケート調査を通じて判明した今後の課題  

新型コロナウィルス感染症が大学経営に与える影響をアンケート調査したところ、「オンライン教育」「在宅勤務」への対応が進む一方、「教職員の働き方」や「中期計画の見直し」等、中長期的な課題に対する議論は未だ深まっていないという事実が判明しました。

新型コロナウィルス感染症に関する国公私大へのアンケート調査結果

 

新型コロナウィルス感染症による影響は、大学経営においても例外なく押し寄せており、各大学では様々な取り組みが進められているところです。
た。有限責任監査法人トーマツPSHC事業部では、2020年6月に国公私大監査クライアントの監査責任者等を通じてアンケート調査を実施し、各大学が認識する経営上のリスクを集計・分析しました。

 

 

法人にとって特に課題を感じた領域

アンケートの結果から、多くの大学が「オンライン授業」「在宅勤務」を経営上のリスクとして捉えていることが明らかとなりました。
次に、これらのリスクへの対応方針に関するアンケート結果を概観します。

リスクの対応方針に関するアンケート結果

国公私大いずれにおいても、ICT推進領域のうち、「オンライン教育」「在宅勤務」に関連する対応が全体の3/4以上を占めており、非常に強い関心があることが読み取れます。
一方で、「教職員の働き方を見直すか否か」「内部統制を見直すか否か」という点については、「まだわからない」ないし「見直さない」、という回答が多くみられました。
 

教職員の働き方・内部統制を見直すか否か

また、「リスクの優先順位」や「中期計画」の見直しといった領域にまで踏み込んで検討している大学は、まだ少数にとどまっているという実態が明らかになりました。

リスクの優先順位・中期計画の改定を見直すか否か

対面/オンライン教育が標準となる大学教育

私立大学協会が公表した「新型コロナウィルス感染症に伴う大学経営管理上の対応に関する調査」では、秋学期以降も対面授業とオンライン授業を併用して実施する、と回答した大学は6割を超えています。

秋学期以降どのように授業を実施する予定ですか

また、文部科学省の「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議」の中でも、ポストコロナ時代は、リアル(対面)/オンライン教育が標準化されること、オンラインを活用することで、「(キャンパスへの)留学生」という概念も変わること、さらには、(ハードとしてのキャンパスを前提とした)大学設置基準は大学通信教育設置基準とセットで大幅な見直しが必要である等の提言がなされています。

在宅勤務を行う意義の見直し

NTTデータ経営研究所が公表した「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言前後におけるテレワークの実施状況に関する調査」では、緊急事態宣言の前後で働き方に大きな変化があった、との調査結果が出ています。

2020/3~7における勤務状況

調査結果を踏まえると、緊急事態宣言という外圧の下、(良くも悪くも)在宅勤務が進んだ一方で、緊急対応的に在宅勤務を進めた反動として、緊急事態宣言解除後は再び出社が中心の勤務へ戻ったものと考えられます。
在宅勤務は、通勤に伴う時間・コストを縮減し、場所を問わない多様な働き方が実現できる施策であるとともに、『時間』から『成果』による労務管理へのパラダイムシフトを行うための一手段と位置づけられ、在宅勤務を契機とした業務の見直しによって労働生産性を高めようとするところに特徴があります。
そのため、(形の上では)いったん出社が中心の勤務へ戻った各大学においても、多様な働き方ないし労働生産性の向上を実現するために、「在宅勤務」を行う意義をもう一度検討する、という作業が今後、必要になるものと考えられます。

中長期的なリスクへの対応の必要性

各大学とも、「オンライン教育」や「在宅勤務」の導入に不可欠なICTへの投資は積極的に進める一方、本来これに付随するはずの「教職員の働き方の見直し」「内部統制の見直し」については手付かず、ないし道半ばといったところにあります。
また、中長期的な観点での「リスクの優先順位」や「中期計画」についても、見直しの要否を慎重に検討する必要があります(例えば、リアル/オンライン教育が標準化され、教職員の在宅勤務が進んだX年後においては、大講義教室を持つ意義がどこまであるのか、仮にそのような施設を含む新校舎建設計画等がある場合には、これまでの前提ではなく、新たな教育環境を前提とする投資計画を踏まえて、中期計画の見直しを行う必要があると考えられます)

結びになりますが、「オンライン教育」や「在宅勤務」の普及等、大学経営を取り巻く環境は激しく変化しています。不確実性が著しく増す「今」だからこそ、新型コロナウィルス感染症を一つの契機と捉えて、大学経営の在り方を積極的に見直す必要があると考えられます。

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