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大学における在宅勤務の現状と対応策
大学における在宅勤務の導入について、現状の課題と対応策例を紹介する。
新型コロナウイルス感染症対策の働き方として、在宅勤務が注目されており、一部の大学では積極的に導入する取り組みを始めています。在宅勤務を導入する際に課題となるポイントと、対応方法について解説します。
新型コロナウィルス感染症対策として注目される在宅勤務
日本で新型コロナウイルス感染症の感染者が1月に初め確認されて以来、連日新型コロナウイルス感染症の感染者数が報道され、日本国内でも感染拡大に対して高い危機感を持つようになりました。感染拡大防止のために「密閉」「密集」「密接」の3密を避けることが重要とされ、働き方に対しても同様に求められています。
3密を避ける働き方として注目されているのが、在宅勤務(テレワーク)です。テレワークとは「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことを言います。従来からワークライフバランスの向上や働き方改革の一環でテレワークが導入される傾向にありましたが、新型コロナウイルス感染症を想定した「新しい生活様式」のひとつとして、富士通や日立、トヨタなど様々な企業でテレワークの導入が進みつつあります。
一部の大学では在宅勤務を積極的に活用しはじめており、実際に名古屋大学(http://www.nagoya-u.ac.jp/info/20200407_jimu.html)や追手門大学(https://www.otemon.ac.jp/whatsnew/pressrelease/_13816.html)では在宅勤務の推進をホームページで宣言しています。しかしながら、大半の大学は、教職員に在宅勤務を導入したいが、現在の事務体制や業務のやり方では完全に在宅勤務を達成するのが難しい、というようにハードルを感じているのではないでしょうか。本稿では、在宅勤務を導入する際に課題となるポイントと、対応方法について解説します。
大学事務への運用ポイント
セキュリティ
在宅勤務はオフィス環境と異なり、衆人環視が無い、資料がデータ化されている、どこでも仕事ができる、といった特徴により、特有のセキュリティリスクがあります。例えば、不正アクセスやマルウェアによる攻撃、在宅勤務用PCが盗難にあう等による端末の紛失、公共エリアで業務を行うことによる盗聴・のぞき見により、結果的に情報漏洩や作業停止の事故を引き起こすおそれがあります。
大学教職員の多くは、初めて在宅勤務という環境で勤務するというケースが多く、在宅勤務特有のセキュリティリスクについて理解する機会があまり無かったと考えられます。在宅勤務を始める前に、特有のセキュリティリスクに関する知識を修得する研修等を実施する必要があります。
押印手続(経理・総務・教務)
昨今の在宅勤務の取組みの中で、社会課題として顕在化した「書面、押印、対面」を原則とした制度・慣行・意識を転換すべく、内閣府、規制改革推進会議及び四経済団体から共同宣言が発出されました。その中で「民間の取引における見直しについて」として、企業での取り組みが挙げられています。
大学における事務においては、押印による承認手続は数多く存在しており、押印手続のために在宅勤務の導入が困難となるケースもあると考えられます。押印手続については、内閣府・法務省・経済産業省作成の「押印についてのQ&A」が発出されています。その中で、「特段の定めがある場合を除き、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない」ことが明示されるとともに、請求書、納品書、領収書等の文書の成立の真正を証明する手段を確保するために考えられるものとして以下、説明されています。これらを活用することで、押印手続、請求書の郵送等のための出社を簡略化することができると考えられます。
コミュニケーション
事務室等、一か所に集まって業務を行っている場合、コミュニケーションの中心は対面による方法となります。現在の事務組織においては、ピラミッド型組織を前提として、「報連相」と言われる密なコミュニケーションによって、円滑に業務を遂行してきました。
一方、在宅勤務では直接顔が見えず、コミュニケーションが取りづらい状況にあり、教職員同士の関係性が希薄となり、業務が円滑に進まなくなるおそれがあります。その対策として、電話やメールだけでなく、オンラインツール(Skype、Zoom、Teamsに代表されるウェブ会議アプリ等)を用いたコミュニケーションを図ることが有用です。それぞれチャット機能とビデオ会議機能を備えており、コミュニケーションの内容・目的によってはチャットでコミュニケーションを図るという使い分けも可能です。以下、使い分けの例を示します。
ただし、Web会議アプリを利用する際は、情報漏洩やいわゆるZoom爆撃等の対策のため、会議パスワードを設定する、参加者にのみURLを教える等、セキュリティ対策と運用ルールの整備・遵守が重要です。
業務フロー
従来、対面式を前提とした業務の流れが構築され、運用されてきました。これが、在宅勤務を中心とするオンラインを前提とした業務のやり方に転換されようとしています。
業務フローの転換方法として、たとえば今まで紙帳票を手渡しで回付していたものを、電子ファイルをメール送信する、というように、従来のやり方を前提にしてオンライン化する方法もあります。しかしながら、ケースによっては紙帳票での回付を前提とした対面式の業務方法に最適化されていることにより、単にオンライン化しただけでは逆に非効率となり、労働時間が増加するなど、不利益な結果となってしまう場合も起こり得ます。
そういった環境で重要なことは、業務の目的と手段を明確にし、その目的を達成するためにより効果的かつ効率的な手段を再構築することと考えます。例えばRPAの導入やシステムのクラウド化など、「より効果的かつ効率的に業務の目的を達成するために、テレワークも視野に入れて業務を再設計」することで、在宅勤務への転換をきっかけに、これまでの業務を抜本的に見直す機会にできる可能性があります。
また、大学特有の事象として、学生支援や教務等の学生が関与する事務があります。このような事務手続きの見直しにおいては、学生に不利益が無いように、学生目線での検討も重要です。
監査法人・公認会計士等の専門家に相談
在宅勤務への転換は、業務フローを見直したり、新しいシステムを導入したりといった対応が必要であり、検討中には専門的な知識が必要です。そのため、在宅勤務の導入過程で課題が出てくるかもしれません。この点、監査を通じて大学の業務フローの理解や、事業会社の事例に精通した、監査法人や公認会計士であれば解決できるかもしれません。なお、有限責任監査法人トーマツでは大学に対する会計監査等業務と事業会社の業務改革等のコンサルティング業務の経験を生かして、大学の業務改革の取組みを推進するご相談対応を受け付けております。ご興味、ご相談等、ご遠慮なくお寄せください。